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特集

モビリティを中心とした街のデジタルトランスフォーメーション

「街づくりDTC」によるデータ駆動・連鎖型のスマートシティ

近年の街区開発においては、ICTを活用した取り組みが注目されています。その中でもデータ活用のさらなる推進、およびウィズコロナ時代の変化速度、多様化への先取りした対応がますます必要とされています。本稿では、NTTのIOWNを活用した「街づくりDTC」による新たな価値実現と技術開発の取り組みについて紹介します。

山本 千尋(やまもと ちひろ)†1†2/社家 一平(しゃけ いっぺい)†1†2
深田 聡(ふかだ さとし)†3/上野 晋一郎(うえの しんいちろう)†4

NTTスマートデータサイエンスセンタ†1
NTTサービスエボリューション研究所†2
NTT研究企画部門†3
NTTアーバンソリューションズ†4

はじめに

ICTを活用したスマートシティ実現に向けた取り組みが世界各地で数多く行われています。スマートシティ実現に向けての取り組みは、エネルギーマネジメントシステムを中心としたインフラ型や、街中にセンサを設置しデータの見える化とサービスとの連携を図るセンシング型などがあります。さらに、2018年に閣議決定された「Society 5.0」「データ駆動型社会」では、人間中心の社会において経済発展と社会的課題の解決を両立しながら、ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間を融合させることにより「超スマート社会」を実現していくことが求められています(1)。
一方、ウィズコロナ時代において生活様式が変化し、ユーザニーズの多様化に合わせたサービス提供が求められています。各産業ドメインにおける提供価値が、個別分野におけるサービス提供から、分野横断でのサービス提供により提供価値そのものを多様化していくと考えられます。
NTTグループは、街で提供されるサービス単位で環境・モノ・人をとらえ、DT(Digital Twin:デジタルツイン)と、それらを分野横断で連鎖させる機能であるDTC(Digital Twin Computing:デジタルツインコンピューティング)(2)を実現することで、街全体で最適化される新たな価値提供をめざした、「街づくりDTC」を推進します。この「街づくりDTC」を、別途取り組んでいる4Dデジタル基盤™と組み合わせて用いることで、街区サービス事業者のサービス提供価値を高め、サービスを享受するユーザに比類なき体験を提供するデータ駆動・連鎖型のスマートシティを実現します。

「街づくりDTC」で実現するデータ駆動・連鎖型スマートシティ

「街づくりDTC」は、NTTグループがかかわる実際の都市再開発の中での実現を進めています。未来の街づくりを考えているさまざまな事業者とのディスカッションを参考に、未来の生活スタイル・ワークスタイルに沿った価値提供サービス〔実現したいUX(User eXperience:ユーザエクスペリエンス)〕の具現化と、それを起点とした技術開発に取り組んでいます。
例えば、商業・オフィス機能における価値提供サービス(実現したいUX)は、街区管理(ビルオーナ)観点、店舗運営観点、テナント管理観点、SDGs(持続可能な開発目標)に基づく観点、街区共通の移動手段観点で分類することができます(図1)。
・ 街区管理観点では、街区管理・テナント運営の効率化とコスト削減を実現するエネルギー制御最適化、移動設備運転最適化、清掃・警備・保全最適化と、街区利用者に快適さや過ごしやすさを提供するための機能として、適切な環境を提供する環境最適化。
・ 店舗運営観点では、店舗のオペレーション最適化や顧客満足度の向上を実現する顧客体験最適化、さらに店舗での顧客サービスにおいてこれまで以上に細やかな個人単位サービス提供を実現するために個人単位での健康状態推定や購買・嗜好傾向推定、行動傾向予測。
・ テナント運営管理観点では、リモートワークが浸透する昨今の事情から、必要なエリアを必要なタイミングで利用するエリア最適化と、物品、設備も含めたオフィスサブスクリプションを実現するための物品供給・配置最適化。
・ SDGsに基づく観点として、フードロスゼロを実現するための需給最適化やそのためのプライシング最適化、さらに食べ残し削減までめざした、個人の健康状態・嗜好を考慮した配膳最適化。
・ 街区共通の移動手段観点では、街区内移動支援モビリティ最適化や街区MaaS(Mobility as a Service)。
これらの仕組みを実現するためには、街の各機能の状態、人の動きの状態をリアルタイムに把握したうえで、周りの状況を含めてとらえ未来の状態を予測する必要があります。
現在、特定のエリアにおける人の動きの状態を集団(マクロ)でとらえ、予測する技術の確立は進んでいますが、より個人単位(ミクロ)でとらえることができれば、街の各機能についてより精緻にとらえることができます(3)。さらに街区では、複数のサービス事業者が影響を及ぼしながら存在しているため、街の各機能どうしを連携・連鎖させることで価値を拡張することが可能です。
この仕組みを、以下のようなSTEPで実現します。
・STEP1:街や人々の動きをマクロにサイバー空間上にモデル化して再現し、さまざまな予測や最適化のシミュレーション(DT)の実現
・STEP2:個人DTを再現し、ミクロな人の動きを街のDTに反映することで、予測・最適化の精緻化を実現
・STEP3:個別サービスのDTどうしを連携・連鎖させることで、相互の精緻化と街区全体としての最適化を実現

図1 街づくりOTC

「街づくりDTC」のアーキテクチャ

街や人のDTを連鎖する機能が、「街づくりDTC」です。「街づくりDTC」のアーキテクチャは図2のように表すことができます。
データ収集では、街区に敷設されたセンサや個人が身につけているセンサから街や人のデータを収集します。また、街区内のさまざまなシステムデータや、外部のオープンデータも収集します。
データ交流プラットフォームでは、収集された各データを蓄積し、必要なかたちへの変換を行います。ここでは、個別のDTで必要とされるデータ以外に、DTにおいて共通的に必要となる地図・人流・交通等の都市のデータセットも収集され、必要に応じてDTに展開されます。
DTでは、現実世界の具体的な目的(UX)を実現するために必要な要素(人・モノ・環境)を、サイバー空間上にモデル化して再現します。そこでは、AI(人工知能)やシミュレーションを用いたさまざまな予測や最適化を行います。
DTCでは、それぞれ独立した価値提供サービスにおいて機能するDTに対して、街全体を考えた際に必要な機能を提供します。DT間の連鎖による新たな価値創出に向けて、全体最適化を行います。
価値提供サービスでは、DT・DTCによって最適化された結果を実世界にフィードバックするための制御を行います。
DTCホワイトペーパのアーキテクチャとの関係でいうと、データ交流プラットフォームとDTが「デジタルツイン層」に、DTCが「デジタルワールドプレゼンテーション層」に相当します。

図2 街づくりOTCのアーキテクチャ

「街づくりDTC」の特徴1 連鎖による価値の向上

街区サービスのDTどうしが連鎖することによって可能になるサービスユースケースを、図3を使って紹介します。
① あるワーカに対して個人向け健康管理サービスDTが、街区ワーカのバイタル情報やスケジュールから、食事をとるべきであることを予測します。
② 店舗DTと健康DTの連携によってワーカの健康状態に沿った食事メニューを店舗メニューから選択します。店舗の混雑状態および今後の来店予測状況から、店舗内利用よりは街区の他のエリアでの食事が最適であることをDTCが導き出し、ワーカの状態にあった街区内エリアの確保をテナント運営管理DT、街区内エリアへの食事の運搬をモビリティDTにリクエストします。ここでDTCは、ユーザの快適性、現状の店舗内の快適性、店舗運営のオペレーションといった複数のDTにかかわる全体最適化を行っています。
③ 健康管理DTで取得されるバイタルデータを活用し個人の健康状態の予測を行い、個人の状態にとって最適でかつ、街区全体としても最適なエリアを確保します。
④ モビリティDTが店舗と配達場所へのランチ輸送を想定し、現状の配車位置、利用予定から最適な配車割り当てを行い、指定されたモビリティが店舗に向かいます。
⑤ 指定したエリアへの利用者の移動サジェストのため、移動手段であるエレベータの運行状態を取得し、今後の混雑度合いからユーザが移動するために最適なタイミングを予測します。
⑥ 街区の警備・清掃の運用状況から、ユーザが数分以内に移動することで、街区清掃がさらに効率的になることが分かるため、ユーザに対して数分以内の移動誘導を行います。ここでは、このユーザに対して、適切なタイミングで食事へ向かうことを提案し、ユーザがエレベータ前に向かうと、待たずにエレベータに乗ることができ、さらに目的地に着いたタイミングでユーザの体調・状況に合った食事をユーザの状態に合った場所に配送することができます。
このように、複数のDTがかかわる街区内のユーザ行動において、DTCによる連鎖を繰り返すことで、単一のDTだけでは得られない一段上のユーザ体験を実現することが可能になります。

図3 サービスユースケース(街区ワーカ)

「街づくりDTC」の特徴2 予測の精緻化(フードロスゼロ事例)

飲食フードロスDTを例に、「街づくりDTC」への適用方法を紹介します。
日本では年間2842万トンの食品廃棄物のうち、実に可食部分の食品ロス、つまり、「売れ残り、食べ残し、規格外、返品」の食品ロスは646万トンにもなります(4)。この食品ロスを、街区における飲食店で減らすために、以下のような方法が考えられます(図4)。
(1) 需要予測による仕入れ最適化
店舗で発生する食品ロスは、過剰生産による売れ残りや、過剰な仕入れによる材料の廃棄が原因です。もし需要を予測し、需要に見合った適切な仕入れと生産が可能になれば、過剰な材料購入を削減することが可能となりコスト減にもつながります。街区における需要予測は、街区の利用者の飲食店の利用を、前日までの需要の状態から予測することが可能です。
(2) 最適プライシングによる売れ残りの積極供給
需要予測を行い、需要に見合った仕入れによる供給を行ったうえでも、当日になると想定よりも売れなかった、といった売れ残り誤差が発生することが考えられます。これに対し、リアルタイムの売れ行きのデータと過去の売れ行き(価格と販売数等)のデータを利用した最適価格設定により、積極的な販売につながる“売れる状態をつくる”ことで売れ残りを減らすことができると考えられます。
(3) 最適配膳量による食べ残しゼロ
食品ロスの原因の中でも大きいのが個別ユーザの食べ残しです。主な原因としては、提供時の過剰配膳、過剰注文があります。これを減らすためには、適切なオーダー量と、適切な配膳量、提供内容での提供が必要となります。食べ残しが発生する配膳量や料理内容、オーダー数は、過去の食べ残し傾向、食べ残し量の分析により予測が可能であり、予測を適用した配膳量、内容、オーダー数による提供で、食べ残し量を減らすことができると考えられます。
これら(1)~(3)は、フードロスゼロという具体的な目的(具体的なUX)に向けたDTということができます。各方法は、「街づくりDTC」実現STEPに沿って、まずは、街区の人の動きの状態を集団(マクロ)でとらえ予測します。その後、STEP2のように、個人単位で提供されるサービスを用いて個人単位での購買行動予測を用いることで、予測を精緻化することが可能です。
さらにSTEP3の他のDTとの連鎖では、例えば、個人の健康情報DTと連鎖することで、個人のその日の体調や、それまでの食事の内容から、最適な配膳量の予測を行うことで個人の健康に配慮し、さらに適切な配膳量での提供により食べ残しゼロに向けた食品ロスの軽減を一挙に実現することが可能です。

図4 フードロスゼロヘのアプローチ

今後の展開

私たちは、街区にかかわる地権者や事業者に寄り添い、現状の具体的な課題と未来を見据えた提供価値から、具体的な目的(実現したいUX)を設定して、その実現のために必要なDTと、DT間の相互作用であるDTCを、実際の街区開発の場で具体化・検証していきます。

■参考文献
(1)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/supercityforum2019/190629_shiryou_08_02.pdf
(2)https://www.rd.ntt/dtc/DTC_Whitepaper_jp_2_0_0.pdf,
(3)角田・秦・中村・尾花:“施設管理支援に向けた常時型人流予測,”研究報告コンシューマ・デバイス & システム (CDS) ,2020.
(4)https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/efforts/pdf/efforts_180628_0001.pdf

(上段左から)社家 一平/山本 千尋
(下段左から)深田 聡/上野 晋一郎

街で提供される“提供価値”単位の環境・モノ・人のDTと、それらを相互に連鎖させる機能を実現することで、街全体が最適化される新たな価値の提供をめざした、 「街づくりDTC」を推進します。

問い合わせ先

NTTスマートデータサイエンスセンタ
E-mail sdsc-sfu-all-p@hco.ntt.co.jp