NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

Focus on the News

NTTとJAXA、地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現に向けた共同研究を開始

NTTと国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、両者の技術融合による社会インフラ創出(社会課題の解決につながる革新的な光ネットワーク・インフラの構築等)をめざした協力協定を締結し、「地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現」をめざすべき世界観として共有した共同研究に取り組むことに合意しました。
NTTの「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想実現に資する光・無線ネットワーク技術」とJAXAの「宇宙機のシステム構築技術」との掛け合わせにより技術障壁のブレークスルーを加速し、新たな社会インフラの実現をめざします。

協力の背景

人々のニーズが素早く大きくダイナミックに変化するSociety 5.0の時代の基盤となる社会インフラ、多様な社会課題解決(大規模災害対策等)に資する社会インフラとして、今後、大容量で高速、セキュアな通信インフラの重要性は更に高まっていくと想定されます。
一方、宇宙空間においても地球観測衛星、宇宙ステーション、月近傍のゲートウェイ等が収集する情報量の増大に伴い、大量の画像・データ等をより高速に伝送し活用するための通信インフラが求められ、さらには宇宙ビジネスの拡大等を背景に人類が宇宙空間へ活動範囲を広げていく未来に向けた環境整備も求められていくと予想されます。
このような背景を踏まえ、「光・無線ネットワーク技術の高度化やIOWN構想の実現に取り組むNTT」と「宇宙機のシステム構築のノウハウを豊富に持つJAXA」が、共同で研究開発に取り組むことで、「地上と宇宙をシームレスにつなぐ超高速大容量でセキュアな光・無線通信インフラの実現」、さらに「宇宙利用や宇宙探査の飛躍的な高度化・活性化を基盤的に支えるキー技術の整備」をめざします。
将来的には本取り組みにより、災害に強い超高速大容量通信インフラの提供や次世代の宇宙探査を可能とする自律的なエコシステム(生態系)の確立等、社会への価値提供をめざしていきます(図)。

図 めざすべき世界観イメージ

世界初:低軌道衛星と地上局間通信の大容量化に向けた衛星MIMO技術の適用

無線通信におけるMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)技術とは、送信機と受信機の双方に複数のアンテナを用いて、同時かつ同一周波数で異なる情報を伝送することで、通信の大容量化を実現する技術です。
衛星通信では電波伝播環境が地上通信と大きく異なり、伝播距離が長く遅延量が大きくなるため、携帯電話や無線LAN等で実用化されてきたMIMO技術をそのまま適用することが困難でした。
NTTとJAXAは本共同研究において、NTTが保有する受信タイミング・周波数誤差が異なる複数信号を干渉補償して分離する技術と、JAXAが保有する低軌道衛星システム設計にかかる知見を組み合わせることで、低軌道衛星-地上局間における世界初の低軌道衛星MIMO技術を確立し、地球観測データ等の大容量データの超高速伝送の実現に貢献します。

超高速大容量宇宙光無線通信に向けた光増幅技術の適用

宇宙で運用される地球観測衛星、宇宙ステーション、月近傍のゲートウェイ等が収集する情報は、その活動の進展に伴い大量の画像・データ等をより高速に伝送し活用することが求められています。
NTTとJAXAは本共同研究において、静止軌道と低軌道の衛星間通信や、静止軌道の衛星と地上局の間の通信において、今後求められる100 Gbit/sを超える超高速大容量通信を実現するために必要な技術として、NTTの超高感度低雑音光増幅技術(LNA)である位相感応増幅技術と、JAXAの超高出力光増幅技術(HPA)を組み合わせ、「高感度な光ローノイズアンプ」の研究開発を通じ、超高速大容量宇宙光無線通信技術の確立をめざします。
この技術の確立により、宇宙から地上までのシームレスな超高速大容量通信を可能とし、宇宙利用や宇宙探査の飛躍的な高度化・活性化に係る活動を支えていきます。

次期衛星搭載に向けた観測用、通信用無線デバイスの効果実証

次期衛星搭載に向けた観測用、通信用のテラヘルツ帯無線デバイスの効果実証を行い、技術確立を図ることで、宇宙からの積乱雲の氷雲観測による台風等の気象状況の把握・予測への応用や、次世代衛星間通信等への適用を通じ、安心・安全な社会への貢献をめざします。
NTTとJAXAは、本共同研究において、NTTが保有するInP-HEMT/HBT技術と、JAXAが保有する衛星搭載用テラヘルツコンポーネント技術を用い、300 GHz帯のパワーアンプ・ローノイズアンプの製作と耐宇宙環境性の評価を行い、本技術の確立を図ります。

問い合わせ先

NTT広報室
TEL 03-5205-5550
E-mail ntt-cnr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1911/191105c.html

パートナー紹介

低軌道衛星MIMO技術によるリモートセンシングデータ伝送の高速化

加藤 智隼

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 (JAXA)
研究開発部門 第一研究ユニット

JAXAでは地域観測・災害状況把握等を目的とし、低軌道衛星によるリモートセンシングを行っています。また近年では民間企業が主体となり、衛星画像データ提供サービスやその利用ビジネスが続々と計画されています。これらのリモートセンシングでは、観測センサの高性能化に伴い、衛星から地上局間への伝送データの高速化の需要が高まっています。
JAXAはこれまで、「だいち2号」で地球観測衛星としては世界最高速度(打上げ当時)となる800 Mbit/sのデータ伝送を実現する等、世界最高水準の高速衛星通信システムの研究開発に取り組んできました。しかし従来技術によるデータ伝送の高速化は限界に近づいており、周波数利用効率を革新的に改善する新技術が必要とされていました。そこで注目したのがMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)です。MIMOは送受信アンテナ数に応じた固有の通信路をつくり出すことで多重伝送を実現する空間多重化技術であり、アンテナ数に比例した大容量化を実現します。
NTTは以前からMIMOに関する研究成果を多く残しており、MIMO通信路における干渉除去手法、および当該手法の評価技術を保有しています。今回の共同研究では、NTTの技術とJAXAの衛星システム設計・軌道解析等の知見を合わせることで、世界初の低軌道衛星MIMO技術の実現をめざしています。本共同研究を通じて衛星-地上間データ伝送高速化技術を確立し、今後の持続的な宇宙活動の発展に貢献する所存です。

 

研究者紹介

低軌道衛星MIMO伝送の実証実験に向けた研究

五藤 大介

NTTアクセスサービスシステム研究所
無線エントランスプロジェクト

私たちは、低軌道衛星通信の大容量化に向けて、衛星が所有する複数アンテナから同じ周波数帯域で異なる信号を空間多重伝送し、受信機で分離する低軌道衛星MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)の研究に着手してきました。MIMO伝送は送受信アンテナ間の伝搬路に障害物による反射が発生し、複数の経路から受信アンテナに到来するマルチパスチャネルにおいて分離特性が向上し、セルラ方式や無線LANのような地上の無線通信システムでは一般的な技術となっています。一方、衛星通信は見通し環境での利用が一般的であるため適用が難しく、これまで実用例がありませんでした。
研究分野では、見通し環境でのMIMO伝送において送受信アンテナ間の到来角を大きくすることで分離特性が向上することが分かっています。今回のJAXAとの共同研究では、衛星と基地局間の通信において、基地局の複数アンテナを遠隔に配置することで分離特性を向上させ、衛星MIMO伝送を行えることの実証を検討しています。特に衛星の位置が常時変動する低軌道衛星にMIMOを適用するという難易度の高いシステムの構築をめざし、実証実験に向けて日々研究を進めています。本技術が確立されれば、アンテナ数に応じて伝送容量を向上できる拡張性が生まれるため、将来のモバイルトラフィックの増加に追随する一技術として寄与すること期待できます。これまでの無線通信の研究開発で培ったノウハウに、衛星の研究開発に精通したJAXAとのコラボレーションによって相乗効果を生み、衛星通信分野の発展に貢献していきたいと考えています。