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from NTTコムウェア

プロセスマイニングの活用による新たな業務改善の取り組み

NTTコムウェアでは、チャットボット等を活用して業務効率化を推進する業務支援AI(人工知能)の開発・事業化に取り組んでいます。そのユースケースの1つとして、営業担当者がSFA(営業支援システム)への業務報告を支援・効率化する営業支援BOTがあります。今回、営業支援BOTと業務プロセスを可視化・分析する手法であるプロセスマイニングを組み合わせた業務改善の取り組みについて紹介します。

デジタルトランスフォーメーションを進めるために解決すべき課題の根源

現在NTTグループを含む多くの企業でデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが活発化しています。今後日本は人口減少社会を迎え、労働力不足が課題となる中、データやデジタル技術を利用することで業務プロセスを改革し、業務の自動化・効率化を図る必要があります。近年、働き方改革の意識の高まりにより具体的な施策が求められる中、RPA(Robotic Process Automation)やチャットボットの導入により業務の自動化・効率化を図る例が増えており、すでにデジタル技術が業務を変える時代が始まっています。
しかし、それらの導入を検討する場合においても、その業務自体が本当に必要かどうか、また、業務自体の見直しをしたほうが良いのではないか等の考慮をせず、ただ単に現状の業務プロセスをRPAに置き換えるだけというケースもみられます。デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて真の業務効率化を進めるためには、事前に自動化すべき業務プロセスの選別と、選別した業務プロセスの定型化が必要になります。このような状況において、現状の業務プロセスを可視化し確認する手法として、「プロセスマイニング」が注目されています。

プロセスマイニングとは

プロセスマイニングとは、情報システムに蓄積されたイベントログなどを収集し、業務プロセスを網羅的に可視化・分析する手法です。2010年ごろより主にヨーロッパの研究者・開発者が取り組み始めた手法であり、昨今では「Celonis*1」や「myInvenio*2」といった商用製品が提供されています。日本でも2018年ごろからIT関連のWeb記事やセミナー等でプロセスマイニングが紹介されるようになり、注目度が上がっている状況です。
プロセスマイニングが有効な業務の場面として、例えばITサービスマネジメントやコンプライアンス、マニュアルに従った保守作業など従うべき標準プロセスがあり、そこからの逸脱をチェック、改善するような活動があります。また別の場面の例としては、営業活動のような従うべき標準プロセスはないものの、継続的にベストプラクティスなどと比較しながら行動の改善が必要な活動があります。このような活動においては、その活動中の場面場面において「行動」と「状態」を把握することが重要になります。プロセスマイニングでは、「行動」と「状態」が時系列で記録されたログ情報(イベントログ)を活用し、業務プロセスを可視化します。現状の業務プロセスを可視化することにより、業務のボトルネックや非効率プロセスの発見、標準化手順からの逸脱プロセス・不正プロセスの評価、既存業務プロセスの改善などに役立てることが可能となります。

*1 Celonisは独Celonis SE社の商標または登録商標です。
*2 myInvenioは伊Cognitive Technology Ltd社の製品であり、商標または登録商標である可能性があります。

営業支援BOTによる業務改善の取り組み

NTTコムウェアでは、プロセスマイニングの将来性と有効性に着目し、業務プロセスの可視化や改善につなげられないかといった検証の取り組みを進めています。ここでは、NTTコミュニケーションズとの営業報告入力支援用のチャットボットとプロセスマイニングを組み合わせた業務改善の取り組みを紹介します。
NTTコムウェアでは2017年度より、営業担当者がSFA(営業支援システム)への業務報告を支援・効率化するシナリオが描けないか、検討を進めてきました。SFAは営業情報のリアルタイム把握や売上・生産性向上のために導入をされますが、営業担当者が営業日報等の情報をその都度手入力する必要があり、必要な情報が蓄積されづらく、十分な活用が難しいという課題があります。営業支援BOTは、これまで営業担当者が外出先からSFAのフォームにノートPCなどから手入力する代わりに、スマートフォンを用いて自然文で音声入力することにより自然言語処理により文字に変換した後、自動的にSFAへの入力項目を抽出し登録することができます。これにより、営業担当者が移動中でも簡便に顧客訪問の状況や次回に予定等をSFAに登録することができるようになり、営業担当者のSFA入力促進と稼働削減につながります(図1)。

図1 SFA導入後の課題と営業支援BOTの導入効果

営業支援BOTで得られるデータによるプロセスマイニングの活用

営業活動については見積り提示や契約締結等の一連の業務プロセスがあるものの、細かい行動に関しては顧客や商材ごとに営業担当者独自のノウハウが存在しています。そのため、成績の良い営業担当者の行動をベストプラクティスとし、他の担当者へ横展開できることが好ましいのですが、これまでは営業担当者の行動を定量的に抽出・可視化することが難しいという課題がありました。今回、営業担当者がSFAへの報告のための活動報告を実施する際に、行動の可視化に必要なデータもチャットボットとの自然な会話により取得することとしました。これにより、担当者の営業活動のボトルネックとなっている行動の確認や担当者どうしの営業活動の比較を実施しようとしています。具体的には、営業活動での各イベントの発生頻度やループが発生している個所の確認、活動が長時間対流している個所を確認し、そこから得られる気付きを基に課題を特定し、具体的な改善アクションにつなげることが可能ではないかと考えています。

営業支援BOTのトライアル利用プロジェクト

営業支援BOTを利用したSFA登録の効率化の取り組みに関して、今回NTTコミュニケーションズより共同検証のお声掛けをいただき、営業担当の業務効率化について検証を進めることとなりました。NTTコミュニケーションズでは、SFAにSalesforce.com*3を利用しており、その入力支援にNTTコムウェアが営業支援BOTを提供し、入力支援の付加価値を提供することとなりました(図2)。
なお、入力した音声を文字に変換する部分はスマートフォンの音声認識機能を利用、ビジネスチャットアプリはNTTコムウェアのシャナイン®*4TALKを利用し、文字情報からSFAへの入力項目を抽出する機能はNTTコミュニケーションズのCOTOHA®*5-API(Application Programming Interface)を利用しています。NTTコミュニケーションズとの共同検証は2019年7月より開始し、営業担当者に利用していただき効果を確認しつつ進めています(図3)。
営業支援BOTがさらなる付加価値を提供するために、単に営業担当者のSFAへの入力支援をするだけでなく、入力内容を基に営業担当者に有用なフィードバックをできるようにすることを考えました。そこで、プロセスマイニングを活用し、営業プロセスの可視化・改善につなげる取り組みを行うこととしました。現在トライアル実施中ですが、今後の成果が期待できる有効な取り組みと考えています(図4)。

*3 Salesforce.comは米Salesforce.com, Inc.社の商標または登録商標です。
*4 シャナイン®はNTTコムウェア株式会社の登録商標です。
*5 COTOHA®はNTTコミュニケーションズ株式会社の登録商標です。

図2 営業支援BOTの利用イメージ(COTOHA®-APIを利用)

図3 営業支援BOTのシステム概要

図4 プロセスマイニングのイメージ

営業支援BOTとプロセスマイニングの今後について

現場の人材不足が深刻化する中、業務の品質を落とさずにいかに人手による作業を省力化・効率化するかが重要になってきます。AI(人工知能)やRPAやチャットボットの導入のような人間の代替、プロセスマイニングのような業務プロセス改善のためのツールの導入は多くの業務現場で必須となってきます。営業支援BOTとプロセスマイニングを活用したトライアルは、何がプロセス改善のカギとなるのか、実際の行動を分析しながら抽出していく必要があるため、行動の継続的なモニタリングが必要となります。そのため、営業担当者の日々の活動報告データとツールの組合せにより、お客さまとの継続的な関係構築とデータ分析力の向上には適しているサービスになっていくと想定しています。
NTTコムウェアでは今後も社内外と連携し、これらのツールの有効性をさまざまな場で検証しつつ、お客さまのデジタルトランスフォーメーションの実現に貢献できるよう取り組みを進めていきます。

問い合わせ先

NTTコムウェア
ビジネスインキュベーション本部 AIビジネス推進室
TEL 03-5796-4118
FAX 03-5796-0103
E-mail support-ai-ml@srv.cc.nttcom.co.jp