NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

特集

NTT R&D フォーラム2020 Connect 特別セッション

ポストコロナに向けたスポーツ&ライブエンターテインメントの再創造

2020年11月19日にライブ配信された「NTT R&Dフォーラム2020 Connect」特別セッション1では、ゲストに日本フェンシング協会会長/国際フェンシング連盟副会長 の太田雄貴氏、株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO/株式会社IMAGICA GROUP ゼネラルプロデューサー諸石治之氏を迎え、木下真吾NTTサービスエボリューション研究所 主席研究員により「ポストコロナに向けたスポーツ&ライブエンターテインメントの再創造」をテーマに、コロナ禍におけるスポーツ&ライブエンターテインメントの現状と今後について議論が交わされました。

木下 真吾(きのした しんご)
NTTサービスエボリューション研究所 主席研究員

はじめに

ぴあ総研の2020年5月の発表によれば、2020年2月から年末までのイベントの中止・延期件数は約43万2000件、その損失額は市場規模の77%、約6900億円と予測されています(1)。
大勢のファンが1つの会場に集まり、大きな声援を送ることにより一体感を生む、スポーツ&ライブエンターテインメントという素晴らしい体験文化が、新型コロナウイルス感染症という未曽有の危機によってあり方の変革を迫られています。
そこで特別セッションでは、ゲストの方とともにポストコロナ時代に向けたスポーツ&ライブエンターテイメントの課題および将来像、そしてそこにNTTが果たすべき役割について議論しました。

ポストコロナ時代のNTTの取り組み

まずは現在、スポーツ&ライブエンターテインメント業界に何が起きているかを木下真吾NTTサービスエボリューション研究所 主席研究員が紹介しました。
ライブエンターテインメント業界については、イベントの中止・延期が続き、無観客または観客数を削減して開催したとしても声援やハイタッチは禁止、という厳しい状況が続く中、クリエイティブやテクノロジを活用して成功を収めた国内外でのオンラインライブ等の事例が紹介されました。
また、スポーツ業界についても、CGや電子会議システムを使用した「バーチャルファン」を配置することで会場を盛り上げる取り組みや、シミュレータを使用して試合自体をバーチャル化した自転車競技の取り組みなどが紹介されました。
さらにNTTがコロナ以前から開発を続けてきた、競技空間を遠隔会場にまるごと届け、超高臨場な情報伝達を実現する「Kirari!」の技術を紹介。超低遅延通信技術により試合会場と遠隔会場とを同期させ、一体感を生み出す分散URVの様子が披露されました。

日本フェンシング協会の取り組み

ゲストの日本フェンシング協会会長/国際フェンシング連盟副会長 太田雄貴氏は、コロナ以前から現在までのフェンシング協会の取り組みを紹介しました。「突け、心を。」というフェンシング協会の新スローガンのもと、2017年から取り組んだ大会の改革について報告しました。
選手の格好良さを綺麗に出すようポスターを工夫したり、会場を従来の体育館から劇場に移したりといった取り組みで、客数およびチケット単価を上げた経緯が語られました。
また、NTTの協力のもと実施された決勝大会でのリモート観戦体験についても報告しました。「ハートビートエクスペリエンス」は、別会場で応援するご家族に試合中の選手の鼓動を感じながら観戦していただく仕組みです。選手が装着した心拍計のデータをご家族が持つボール型のデバイスへと伝送し、選手の鼓動を「振動・光」として体験するものです。また、「リモートハイタッチ」は試合会場の選手と別の会場で応援するご家族とのハイタッチを可能とするソリューションです。それぞれの会場に設置された透明のボードに触れたときの振動を計測し、映像とともに遠隔地へと伝送するものです。離れた場所からの観戦でも双方向のコミュニケーションを取ることができ、スポーツの感動・喜びを伝え合うことができる新たな仕組みといえます。

IMAGICA EEXの取り組み

もう1人のゲスト、株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO/株式会社IMAGICA GROUP ゼネラルプロデューサー諸石治之氏はコロナ禍でのビジネスモデルの変容について説明しました。リアル至上主義で進行してきたライブエンターテインメント業界ですが、今後は三密回避、ソーシャルディスタンスの確保といった観点から、ありかた改革が求められています。これまでの劇場等の物理空間の中でチケット収入を得るという「劇場型収益」のビジネスモデルから、配信やライブビューイングを活用した「体験価値収益」のビジネスモデルへと変容するのではないか、とのことでした。
最新の取り組みとして、自身が企画・プロデュースを担当した「長渕剛オンラインライブALLE JAPAN」を紹介しました。2時間半・16曲を完全生ライブというかたちで配信し、10万人以上が視聴したライブです。300インチのLEDを3面配置し、360度を映像装置に囲まれるという環境を創り出し没入感・世界観の演出を行いました。また、300人がリモート参加し、一緒に歌うことで一体感・リアルタイム表現をも実現しました。
ライブ会場では、物理的制約の中で、アーティストとファンの空間的距離が生まれてしまいますが、 映像そして配信を活用した新しいコミュニケーションの演出や表現、テクノロジにより、心と心の距離をゼロにすることができました。
リアルとバーチャルを融合した新しいライブエンターテインメントの可能性を諸石氏はこのライブを通じて発見したとのことです。

ディスカッション

続いてディスカッションを実施しました。オンラインライブの有効性を再確認する中、木下がスポーツ&ライブエンターテインメントの将来について問いかけると、太田氏はハイブリッド型になるだろうと予測しつつも、グローバル化が進むことにより大手の寡占化が進むのではないか、という危機感を吐露しました。
一方、諸石氏は、5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)などが普及する中、テクノロジとクリエイティブが融合することで新しいビジネスが生まれ、 そして、エンターテインメント世界が広がっていくのが楽しみだ、と述べました。
セッションは未来のスポーツの話題で大いに盛り上がり、3氏はまだまだ語り足りない様子でしたが、大変有意義なものとなりました。

■参考文献
(1) https://corporate.pia.jp/news/detail_covid-19_damage200529.html