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特集

NTT R&D フォーラム2020 Connect 特別セッション

宇宙世紀に向けた、NTT宇宙環境エネルギー研究所の挑戦

2020年11月20日にライブ配信された「NTT R&Dフォーラム2020 Connect」特別セッション2では、ゲストに小説家・「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」SF考証の高島雄哉氏、タレントの眞鍋かをり氏を迎え、前田裕二NTT宇宙環境エネルギー研究所 所長により「宇宙世紀に向けた、NTT宇宙環境エネルギー研究所の挑戦」をテーマにセッションが行われました。SF作品であるガンダムの設定世界と絡めつつ、核融合炉の最適オペレーション技術など、NTT宇宙環境エネルギー研究所が取り組むさまざまな挑戦について紹介されました。

前田 裕二(まえだ ゆうじ)
NTT宇宙環境エネルギー研究所 所長

はじめに

NTT宇宙環境エネルギー研究所は2020年7月にNTT情報ネットワーク総合研究所内に新設されました。「地球の未来、宇宙(そら)から。」を基本コンセプトとし、地球環境の再生と持続可能かつ包括的な社会の実現に向け、核融合や宇宙発電など次世代エネルギー技術とレジリエントな環境適応を可能とする技術の創出をめざすとともに、環境負荷ゼロに貢献するための研究を行っています。
より具体的にいうと、「環境負荷ゼロプロジェクト」として核融合炉や宇宙太陽光発電など圧倒的にクリーンなエネルギーの研究を行っている「次世代のエネルギー技術グループ」、つくったエネルギーを流通させる研究を行っている「エネルギーネットワーク技術グループ」、CO2をマイナスにするようなサステナブルシステムの研究を行っている「サステナブルシステムグループ」、さらに「レジリエント環境適応研究プロジェクト」としてESG経営を科学的に分析して未来予測をするような研究を行っている「ESG経営科学技術グループ」、物理的に私たち自身が環境に適応したり、気象をコントロールしたりする研究を行っている「プロアクティブ環境適応技術グループ」を内包しています。

宇宙世紀とガンダムの世界観

セッション最初のテーマは「宇宙世紀とガンダムの世界観」。前田裕二NTT宇宙環境エネルギー研究所 所長より「モビルスーツ、ガンダムはこれからの地球のために必要なのかどうか」という疑問が呈されました。
それに対し小説家の高島雄哉氏は、自身がSF考証として携わった「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」には現在まさに実用化されつつあるパワードスーツの延長のような、モビルスーツの前身となる、月面開発作業用として開発された「モビルワーカー」が登場することを例に挙げ、「モビルスーツにつながる、宇宙空間で自由に動けるようなものがあっても良いのかなと個人的には思う」と述べました。
一方、タレントの眞鍋かをり氏は、自身が取材の際に得た「VR技術が発展すれば人間の五感をさらに上回るようなメリットが得られる」との展望を示し、モビルスーツは人間が搭乗することを前提としているが、通信技術が発展すれば「実際に人が行くだけではなく、例えば感覚だけ宇宙に行くなどが可能になるのでは」と述べました。
それを受け、前田所長は「ロボットだけが宇宙空間に行き、地上で操作できるという世界はすばらしい」とし、「通信ができない世界をなくす、ということが私たちの使命でもあるので、宇宙通信も含めて頑張っているところ」と結びました。
続いて、現在の地球環境の問題点として、前田所長は人類が増え過ぎたこと、そして今後も増加が見込まれることを挙げ、スペースコロニーへの人類移住について現実解を求めました。
高島氏は「自分も行きたい」としたうえで、「ガンダムが切り開いた長期的にスペースコロニーに滞在するというイメージはあり」と述べました。
一方、真鍋氏は「スペースコロニーでも地球と同じような生活をすることを前提としているが、例えば肉体だけがスペースコロニーにいて、生活・意識の面では違ったバーチャル世界で生きていくようなこともあり得るのでは」との見解を寄せました。

宇宙世紀と地球環境問題

2番目のテーマは「宇宙世紀と地球環境問題」。ここで前田所長はNTT宇宙環境エネルギー研究所のチャレンジを紹介しました。現在、同研究所ではITER機構、量子科学技術研究開発機構などと連携して、核融合炉の最適オペレーション技術に関する研究を行っています。核融合炉からエネルギーを取り出すにはプラズマを長時間安定的に発生させる必要があります。そのためには膨大なセンサデータをコントロールセンタに転送し、最適な数値を計算し、瞬時にフィードバックする必要がありますが、その実現にはネットワークのさらなる高速化・低遅延化が不可欠となります。そこでNTTではIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術を適用し、これに貢献したいと考えています。

宇宙太陽光発電

同研究所では3万6000 km上空の静止軌道上で発電したエネルギーを地上に伝送する宇宙太陽発電の研究も行っています。伝送する際に使用するレーザが実現すれば、雲や海を暖めたり冷やしたりすることができるため、気象をコントロールできるのではないか、という見解が前田所長より示されました。まずはデジタルツインコンピューティングの技術を使ってサイバー空間上に再現した地球上でさまざまなシミュレーションを実施し、地球および人類に悪影響がないことを確認した後、現実社会での実行をめざします。

おわりに

最後に両ゲストへ、NTT宇宙環境エネルギー研究所へのリクエストを伺いました。
高島氏からはワープに関する研究をしてほしいとの要望があり、これに対し、前田所長は人体の転送となるとまた違う話になるが、と前置きしたうえで「通信の分野の技術ではあると思う」と、研究への参入の余地を残しました。また、真鍋氏からは「新しい世界の価値観、ナチュラルな思想の両輪を持ち、自然界が豊かになるような方向性の研究も続けてほしい」という要望が寄せられました。