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特集

現実空間とサイバー空間をナチュラルにつなぐ境界としてのメディア・ロボティクス技術の取り組み

視線移動を用いた妨害感の少ない割り込み情報表示方法の研究開発

私たちは目標の実現に向かうユーザに対し、スマートグラスなどの日常的に身に着けて使用する情報デバイスにより、行動情報を表示する方式について検討しています。情報閲覧を強制するとユーザの妨害感を高めて継続的な利用が妨げられる可能性があり、強制しないと閲覧されないことが予想されます。そこで妨害感の低減と確実な閲覧を両立する情報表示方法として「情報の閲覧を強制するが自ら選んで閲覧したと感じさせる方法」を実現し、これが有効である可能性を確認しました。

西條 涼平(さいじょう りょうへい)†1.2/佐藤  妙(さとう たえ)†1
永徳 真一郎(えいとく しんいちろう)†1.2/渡辺 昌洋(わたなべ まさひろ)†1
NTTサービスエボリューション研究所†1
NTTデジタルツインコンピューティング研究センタ†2

日常生活への割り込み情報表示

近年、スマートグラスなど日常的に身に着けて利用する情報デバイスの研究開発がさかんに行われています。これらの情報デバイスを通してタイムリーに情報を表示するシステム(情報表示システム)から、情報を受け取ることでユーザはさまざまな恩恵を得ることができます。例えば、運動不足のユーザがエレベーターと階段がある場所にやってきたタイミングで、「階段を使いましょう」などの割り込み情報が情報デバイスに表示されます。それをユーザがすぐに閲覧、実行すれば、日々の行動習慣を改善することができると考えられます(図1)。しかし、このような情報は、適切なタイミングが過ぎた後(例えば、エレベーターに乗った後)でユーザが閲覧しても効果がありません。そのため、情報が表示されたタイミングでユーザが情報を確実に閲覧すること (閲覧の確実性)が重要です。その一方で、確実な閲覧のために強制的に情報を見せるような表示がされると、ユーザには実施していた活動が妨げられたという感覚(妨害感)が生じ、情報表示システムの継続的な利用をやめてしまう可能性があります。
行動習慣の改善のようなシーンでは、ユーザが自らを理想的な状態に改善するための支援ツールとして、情報表示システムが活用できます。そのためには、情報表示システムは、継続的かつ効果的にユーザに情報を表示し、日々の行動改善を支援できる必要があります。そこで、私たちは、情報表示システムにより割り込み情報を表示した際の妨害感が低く、かつ、閲覧の確実性が高い情報表示方法の実現をめざして研究を進めています(1)。

これまでの割り込み情報表示技術

これまで、割り込み情報の表示方法に関する研究は数多く行われています。例えば、情報閲覧を促す通知をユーザが無視すると、より閲覧を強制する方向に表示方法を変えていき、最終的には作業中の画面に重畳させて表示する方法があります(2)。この方法では、閲覧の確実性は向上しますが、妨害感も増大してしまう可能性があります。また、情報表示による活動の妨害を少なくする手法として、PCの操作履歴から活動に対するユーザの割り込み拒否度を推定し、拒否度が低いタイミングで割り込み情報を表示する方法があります(3)。この方法では、作業の妨害を避けることができますが、情報をタイムリーにユーザに表示することができません。
このように従来の方法では、割り込み情報を表示した際の妨害感の低減と閲覧の確実性の向上の両立が難しいといえます。また、従来研究では、ユーザがもともと行っている作業をどの程度妨げたかを評価していますが、割り込み情報表示の際にユーザが感じる妨害感は調べられていません。もともと行っていた作業を妨げなくても、妨害感は大きい可能性があり、情報表示システムの継続的な利用を阻害する可能性があります。そのため、妨害感についても検討が必要です。

情報閲覧に至るプロセス

割り込み情報の表示においては、図2のように、①システムからの通知を受け取り、②情報を閲覧するという意思決定をし、③閲覧するための行動を自ら実施して、④情報を閲覧する、という4つのプロセスで情報の閲覧に至ると考えられます。私たちは、このプロセスのうち、②で生じる「意思決定」と③で生じる「行動」に着目し、これらの有無を切り替えることにより、妨害感と閲覧の確実性を変化させられると考えました。
閲覧の確実性を優先する表示方法として、図2(a)のプロセスが考えられます。例えば、ユーザが見ている場所に情報を表示する方法がこれに相当します。見ている場所に情報が表示されることで、情報をすぐに閲覧するかどうかの「意思決定」を行うまでもなく、同時に閲覧に必要となる「行動」も行うまでもなく、ユーザは情報を閲覧することになります。そのため、閲覧の確実性は向上すると考えられますが、妨害感が増大することも考えられます。一方で、妨害感の低減を優先する表示方法では、図2(b)のプロセスが考えられます。この表示方法では、情報を閲覧するかどうかをユーザが「意思決定」し、さらに、それに続く「行動」をユーザが行って、初めてユーザが情報を閲覧します。通知に気が付いたユーザがアイコンをタッチして情報を閲覧する場合などがこれに該当します。この方法では妨害感が低減すると考えられますが、「意思決定」の段階でしばしば閲覧が先送りされるなど、閲覧の確実性は低下すると考えられます。

割り込み情報表示における 疑似的選択法の提案

私たちは、「情報閲覧のプロセスのうち、ユーザによる『意思決定』を省略することで情報閲覧の確実性を向上させることができ、一方で『行動』を発生させることで、情報の閲覧時に感じる妨害感を低減させることができる」という仮説を立てました。この仮説の下、「情報表示システムからの働きかけにより、『意思決定』を省略して、情報を閲覧する『行動』を発生させる方法」である「疑似的選択法」を提案しています(図2(c))。
「疑似的選択法」を実現する具体的な手段の1つとして、明るさや動きに敏感である周辺視野への輝度変化の提示による、視線誘導を利用した方法を検討しています(図3)。これは、周辺視野への輝度変化の提示により視線が誘導され、「意思決定」なしに「行動」を起こさせる方法です。

提案手法の評価

私たちは、主タスクと割り込みタスクからなる二重課題で、割り込みタスクの情報表示方法を変えて比較を行いました。図2(a)~(c) に相当する3種類の情報表示方法(図4)を設定し、疑似的選択法の有効性を評価しました。実験ではまず、妨害感の低減の効果に焦点を当てて評価を行いました。ここで、主タスクは日常生活の動画鑑賞などの活動に相当し、割り込みタスクは「少し立ち上がりましょう」などの情報表示に相当します。日常生活では、主タスクに集中している状態(活動中)と次の主タスクに移る状態(活動の切れ目)が交互に繰り返し発生します。実験では、このような状況を再現するために、主タスクに2桁どうしの加算問題を用いることで、解答に集中している状態(活動中)と次の問題に移る状態(活動の切れ目)が交互に繰り返されるようにしました。また、ユーザが情報の詳細な内容を読むことを模した状況をつくるため、詳細な内容を閲覧して解答を求めるタスクとして、2桁×1桁の乗算問題を割り込みタスクに用いました。
実験では、20 代から50 代の男女10 名に参加してもらいました。実験参加者には、主タスクに集中してもらうために、1問解くごとに次々に表示される主タスクを可能な限り多く解くように指示しました。また、割り込みタスクが表示された際にはそちらも解くように指示しました。実験の最後にはアンケートを行い、各条件で感じた妨害感を5段階で評価してもらいました。
妨害感に関する5段階評価の結果の平均値を図5に示します。5段階評価の結果について統計的に解析した結果、選択不可条件と疑似的選択条件では選択条件より妨害感が大きいことが分かりました。また、選択不可条件では疑似的選択条件よりも妨害感が大きいことが分かりました。
これらの結果から、疑似的選択条件では、選択不可条件より妨害感が低減し、疑似的選択法で妨害感を低減できる可能性が示唆されました。また、選択条件で妨害感がもっとも低かったことから、「意思決定」と「行動」をユーザが行えることが、妨害感の低減に寄与する可能性が確認されました。

今後の展開

今回、情報閲覧のための自発的な行動の1つとしてユーザの視線移動に着目し、視線移動を発生させることで、割り込み情報に対する妨害感の低減につながる可能性が確認できました。今後は、妨害感の低減に寄与する要因の詳細検討、および閲覧の確実性の向上を行うことで、ユーザの日々の行動改善を支援する情報表示システムの実現をめざしていきます。

■参考文献
(1) 西條・佐藤・永徳・渡辺:“習慣化支援のための視線誘導に着目した情報表示方法の基礎検証,”信学技報, Vol. 119, No. 477, pp. 19-24, 2020.
(2) R. Yoshida, K. Takahashi, T. Kawamura, and K. Sugahara: “Input urging system using unpleasant notification based on neg­­ative motivation,”Proc. of ICECCT 2017, pp. 1-5, Coimbatore, India, Feb. 2017.
(3) 田中・藤田:“割り込み拒否度推定に基づくアンビエント情報提示による円滑なインタラクション開始支援,”知能と情報, Vol. 24, No. 5, pp. 921-932, 2012.

(左から)西條 涼平/佐藤  妙/永徳 真一郎/渡辺 昌洋

情報提示をはじめとするヒューマンインタフェースの研究を推進し、人がより自然に、より簡単に使えるサービスの開発に貢献していきます。

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