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特集 主役登場

現実空間とサイバー空間をナチュラルにつなぐ境界としてのメディア・ロボティクス技術の取り組み

身体状態の把握を通じて「健康」に貢献する

伊勢崎 隆司
NTTサービスエボリューション研究所
研究員

私は人の認知特性や運動特性といった身体状態をセンサ情報からモデル化・推定する技術に興味があり、アルゴリズムや機械学習、統計手法などの技術的な学習を重ねてきました。このようなスキルを持ってどのように社会に貢献するかを考えていた際、歩行が困難になった祖父や認知症になった祖母を見て、自分自身では意識したことのなかった「健康でいること」の大切さを感じた経験を想起しました。私は自身の経験に基づいて健康寿命を延伸する課題に貢献することにしました。
健康で生活するためには、まず自身の身体の状態を「把握する」ことだと考えました。把握することができれば、身体の状態に応じて適切な運動遂行や行動選択が行えたり、運動機能の改善につなげたりすることができるからです。自身の身体機能や状態を把握するということは単純で簡単なことのように思えますが、自分でも分かっているようで分からないことも多いです。例えば、運動会で保護者が転んでしまう要因の1つとして、自身の脳内でイメージする身体と実際の身体の整合性が取れずにバランスを崩してしまうことがあります。
人の身体状態を把握するための技術創出に向けて、これまでに転倒に関連する運動機能や筋活動特性といった身体状態を慣性情報や、表面筋電図といった生体情報に基づいてモデル化・推定する研究を行ってきました。現在は、本誌で掲載した技術『VRを用いた運動時の環境適応能力の評価技術への取り組み』について新型コロナウイルスの感染拡大状況を踏まえながら実験検討を進めるとともに、脳波といったさまざまな生体情報を用いた解析技術創出のチャレンジを進めています。また、脳内の身体と実際の身体のズレで怪我をするという話をしましたが、このようなズレをいかに小さくするかという研究についても運動の主体性の向上や身体図式の再構築という認知的観点に基づいた研究を推進しています。
以前、デイサービス事業者の方と共同研究をした際にたくさんのご高齢の方々と通じさせていただきました。年齢にかかわらず心身ともに健康な方がたくさんいらっしゃいました。このような方々を1人でも多く増やせるように技術を確立していきたいです。当時の共同研究は終わってしまいましたが、今後は長期的なスパンで高齢者の介護サービス等を実施するサービス事業者と連携し、継続的なデータ計測を通じた新規技術の創出と、そこで得られた身体状態をフィードバックするかたちで利用者の方々の健康に貢献していけるような研究開発の仕組みをつくっていきたいです。
身体状態を把握するだけでなく、改善を促す技術についても私のチームでさまざまなアプローチに基づいた支援技術の研究を推進しています。今後も、実ユーザへの適用検証を通じて創出技術の価値や意義を世の中に問いながら研究開発を推進し、皆様が何歳になっても何かの「主役」でいられるように皆様の健康に貢献していきたいと思います。