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グループ企業探訪

第249回 株式会社複合現実製作所 

XR(Cross Reality)サービスで、鉄工業界の課題解決

複合現実製作所は、XR(Cross Reality)サービスの将来性に注目する中、NTTドコモの新規事業創出活動に参画し、パートナーとの連携で課題解決のソリューションを構築して誕生したベンチャー企業だ。XRによる課題解決と、XRをベースとした工場全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)への思いを、創業者である山﨑健生社長に伺った。

複合現実製作所 山﨑健生社長

XRサービスの可能性を求めてベンチャー企業が誕生

◆NTTドコモ発のベンチャー企業なのですね。設立の経緯について教えてください。

複合現実製作所は、NTTドコモの「39works」という新規事業創出活動の成果として、XR(Cross Reality)技術の適⽤が進む建築・鉄工業界を中⼼としたXRサービスの企画・開発を主業務とし、技術継承問題や人手不足といった社会課題の解決を目的に、2020年8月に設立されました。私はNTTドコモの先進技術研究所において、コアネットワークやモバイルエッジコンピューティングの研究と並行して将来のモバイルサービスの検討を行っていました。その中で5G(第5世代移動通信システム)において、XRがサービスとして期待されており、将来的なサービスとして注目していたときに、「39works」を知り、そこに異動したことが会社設立のきっかけです。
「39works」ではXRに関する事業検討から始まり、検証を繰り返しながら事業性を確認しているときにパートナー(有限会社宮村鉄工様)が見つかり、課題解決のためのソリューション構築・販売をする中で、事業化に向けた検討を進め、スモールスタートを指向してNTTドコモの社内ベンチャー制度により新会社を立ち上げることとしました。設立当初は私1人が業務委託をベースに宮村鉄工様との連携を含めすべてを取り仕切っていましたが、2021年3月から開発担当の社員を採用し、現在(2022年6月)は2人体制の会社となっています。

◆XRはさまざまな活用が考えられますが、具体的にどのように活用しているのでしょうか。

宮村鉄工様の事業領域である鉄工業界は、技術者の高齢化や人手不足といった課題を抱えており、ICTの活用による業務の高度化・効率化が求められています。例えば、鉄骨の溶接にあたっては二次元の図面を正確に読み取って作業を行います。この図面を読み取るには熟練のスキルが必要ですが、熟練工が高齢化しており定年等による退職者が続いている一方で、新入社員の採用難や人材育成に時間がかかるため、熟練工が抜けた後を埋めることが非常に困難な状況になっています。また、こうしたスキル不足によりミスが発生すると、大きな手戻りになるばかりではなく、つくり直しにより、場合によっては多額な費用が発生することもあります。そこで、宮村鉄工様とXRを活用した建築鉄骨業向けの作業支援ソリューション「L’OCZHIT®(ロクジット)」を共同開発しました。
L’OCZHIT®は、AR(Argument Reality)により、作業対象に作業個所、手順、完成イメージを重畳させて表示し、それに従って作業することで作業ミスを激減させ、誤差も少ない品質の高い作業が可能となります(写真)。また、完成品と完成イメージを重畳表示することで、検査の効率化も可能となります。さらに、図面も横に表示して実物と比較させることで、図面に関する教育ツールとしても利用できます。実際に、経験30年の熟練工が約50分かかる作業は、6年目の職人では約100分かかるのですが、鉄骨にCADデータをCGとして重ねて表示させて実験したところ、6年目の職人による作業がCADデータの設定等の準備時間を除いて13分で完了したというデータも取れ、その効果も検証できました。
このようなXRの活用、特にCGの重畳については、建築では内装関連、配管関連、そして土木関連の作業において活用されている事例はいくつかありますが、鉄骨にフォーカスしたものはおそらく初めてではないかと思います。これはCG重畳に要求される精度が、内装等他の業種に比べて、鉄工所の場合は非常に厳しく、数mm以下の精度を要求されることもあるため、通常のXRでは対応できないことがその理由です。L’OCZHIT®では数mm以下の精度への対応はまだ追いついていませんが、デバイス等の工夫により鉄骨に必要とされる精度のレベルに対応可能としたことで、サービス化することができました。

XRサービスの提供範囲を広げて工場のDXをめざす

◆事業概要を教えてください。

現在のメイン業務は、L’OCZHIT®のサービスとしての販売、およびストリーミング映像対応等の機能拡充です。宮村鉄工様ではすでにご利用いただいていますが、宮村鉄工様をチャネルとして鉄工業界へのサービス展開を行っています。
そして、建築鉄骨業以外の分野や鉄工業界以外の業界にXRサービスを展開するために、さまざまなパートナーと共同で、お客さまが抱える課題を見つけ、プロトタイプで実際に運用をしながら、段階的かつスピーディに課題解決につなげるといった、新たなサービスの企画・開発も行っています。ここでは、XR技術だけでなく、5Gや「ドコモオープンイノベーションクラウド®」など、NTTドコモが持つさまざまな技術やサービスを融合して最適なソリューションも検討します。
さらに、XR技術を活用したサービス導入に関するコンサルティングとして、XRサービスの導入を検討する企業に対して、XR技術が活用できる業務や具体的な活用方法をお客さまと共同で検討することにより最適な課題解決方法を提案します。
現在鉄工所以外ですと、タンクやパイプといった製管関連の企業様と検証を進めたり、溶接ではなく、設計関連業務をXRで効率化したいというご要望を受けて、ディスカッション、検証を行っています。

◆今後の展望についてお聞かせください。

直近としては、建築鉄骨以外の製造分野におけるパートナー様を見つけて、そこをベースとしてXRを活用したサービスを展開、普及させていきたいと思います。その中で、XRで製造業務そのものだけではなく、その周辺、例えばXRで工作機械の使用方法のガイダンスや、メンテナンス、モニタリングといった業務にまで適用範囲を広げ、工作機械の自動制御の拡大による省人化促進、ロボットの活用による省人化、人手による作業についてもXRによるサポートで熟練の技を補完するといった、工場全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)をめざし、それが将来の工場像モデルとなれるようにしていきたいです。
事業面としては、設立3年で単年度黒字をめざすという目標を独自に掲げていますが、なんとか達成できるところまできています。これを少しでも上方に向かっていけるよう努力しています。

ア・ラ・カルト

■ベンチャーならではの自由な環境

会社設立時は1名でしたが、2021年3月よりエンジニアを1名採用し、2名の体制です。エンジニアは週4日勤務、兼業可能、裁量労働制、完全リモート勤務ということで、まさに自由な労働形態です。週に1度、協力会社のエンジニアも含めて5人程度でオンライン会議をしているそうですが、ベンチャーならではの自由な雰囲気の中で、いいアイデアが出てくるのでしょうね。

■めざすは郊外の大きなラボ

リモートワーク中心のベンチャー企業ではありますが、オフィスがあります。XRのテスト環境やデバイスを置くスペースやラボ的な機能が必要ということで、1室確保しているそうです。山﨑社長は、お客さまやパートナーのオフィスや工場訪問等の外出以外はオフィスに1人常駐し、来訪されるお客さまやパートナーの対応、開発関連の業務を行う傍ら、税理士さんや税務署関係の対応、請求書の処理等のアドミニストレーション業務もこなしているそうです。事業規模を大きくして、郊外に工場のようなラボをつくり、通常の業務はレンタルオフィスやバーチャルオフィスで行うような環境をめざしているそうです。