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特集2

5G SA方式におけるコアネットワーク技術概要と無線基地局装置の開発

5G SA方式を実現する5Gコアネットワーク技術概要

NTTドコモは5G(第5世代移動通信システム)単独で動作する5G SA(Standalone)を実現するため、5G専用のコアネットワーク装置(5GC)を開発・導入し、2021年12月に法人向けとして商用サービスを開始しました。5GCではSBA(Service Based Architecture)やコンテナ基盤のような先進的な技術を導入し、ネットワークスライシングなどの5G時代のネットワークに求められる新たな価値創造を実現していくことが可能となります。本稿では、これらの技術について解説します。

田中 優多(たなか ゆうた)/荒川 雅矢(あらかわ まさや)
奥田 兼三(おくだ けんぞう)/清水 和人(しみず かずと)
國友 宏一郎(くにとも こういちろう)
NTTドコモ

はじめに

5G SA(Standalone)方式*1を実現するために開発・導入した5G(第5世代移動通信システム)専用のコアネットワーク装置(5GC:5G Core network)*2では、例えば以下2つのような先進的な技術を活用しています。
・REST API(REpresentational State Transfer Application Programming Interface)*3ベースで制御装置間の連携をするSBA(Service Based Architecture)*4
・更新や立上げが容易なコンテナ基盤
これら技術は、後述する各ネットワーク機能(NF:Network Function)を疎結合にし、通信の利用用途に合わせて柔軟に各NFを組み合わせることを可能とします。これにより、ネットワークスライシングをはじめとした5G時代のネットワークに求められる新たな価値提供が可能となります。
本稿では、前世代4G(第4世代移動通信システム)/LTE(Long Term Evolution)のコアネットワーク装置であるEPC(Evolved Packet Core)*5と対比しつつ、上記2つの先進技術と新たな価値であるネットワークスライシングを中心に解説します。

*1 5G SA方式:5Gの無線技術NRを利用する際に、NRにて制御信号およびユーザデータの送受信を行う方式。本稿では3GPPの5G Deployment Optionのうち、NTTドコモが採用しているOption 2を指します。
*2 5GC:5G専用のコアネットワーク。5G NSA方式*6でも実現されていた高速・大容量に加え、5Gの特長である高信頼・低遅延、多数端末同時接続の対応に必要。
*3 REST API:ここではURIを指定してHTTP/2*9でアクセスすることでJSONを返却するAPI。
*4 SBA:5GCで採用されているソフトウェアアーキテクチャの1つで、コアネットワークの各NFを、SBIと呼ばれるバス型の統一的なインタフェースを介して接続し、相互作用させるアーキテクチャ。
*5 EPC:LTE/4Gのコアネットワークを指します。MME(Mobility Management Entity)、S-GW(Serving GateWay)、P-GW(Packet data network GateWay)、PCRF(Policy and Charging Rules Function)などにより構成。

5G NSAと5G SAでのコアネットワーク装置構成の比較

NTTドコモは、5Gの初期導入時の方式として既存のEPCに5G基地局を接続して5Gサービスを実現する5G NSA(Non-Standalone)方式*6を採用しました。この方式は、5G用の基地局装置gNB(gNodeB)、4G用の基地局装置eNB(eNodeB)および第4世代のコアネットワーク装置であるEPCから構成され(図1(a))、5G用の装置だけではなく4G用の装置を用いるため、5G NSA方式と呼ばれます(1)。この方式では、ユーザデータの送受信を行うU-Plane(User Plane)処理に5G基地局装置および4G基地局装置を利用し、信号の制御を行うC-Plane(Control Plane)処理に4G基地局装置を利用します。5G NSA方式を採用した理由は、EPCを利用することでC-Plane処理は従来と同等の品質レベルを実現可能であること、加えて既存ネットワークインフラを活用でき早期導入が可能になること、の2点です。
一方5G SA方式は、5G用基地局装置であるgNB、および5G用コアネットワーク装置である5GCによって構成されます(図1(b))。5G SAでは、4G用の装置を使わないシンプルな構成となり、U-Plane処理、C-Plane処理共に5G装置を利用して行います。このネットワーク構成では、ネットワークスライシングなどの第5世代向けのより高度な制御が可能となります。
5G SA方式で新規に導入された5GCは、複数のNFで構成されています。その構成を図2に示します。4Gのコアネットワーク装置であるEPCと比較し特徴的なのは、NRF(Network Repository Function)*7とNSSF(Network Slice Selection Function)*8です。NRFはNFを管理するリポジトリとして導入されました。これは後述のSBAの実現に大きく寄与しています。NSSFは5GCにて、後述のネットワークスライシングを実現するための専用NFとして導入されました。そのほかのNFについては、EPCに類似の機能があるものがほとんどです。

*6 5G NSA方式:5Gの無線技術NRを利用する際に、LTE側で制御信号をやり取りし、ユーザデータのやり取りにのみNRとLTEを協調動作させて使う方式。本稿では3GPPの5G Deployment Optionのうち、NTTドコモが採用しているOption 3xを指します。
*7 NRF:NF ConsumerによるNF ProducerやNF Serviceの発見、登録されたNF Producerの状態変更がある際の通知を実現するための登録・情報提供装置。
*8 NSSF:加入者が利用するネットワークスライスを選択するNF。

データ通信関連技術

■SBAの実装

5GCシステムのアーキテクチャとしてSBAが採用されています。5GCでは個々の機能をNFとして定義しており、それぞれのNFは他のNFに対してサービスを提供しています(2)。この際に用いるインタフェースがSBI(Service Based Interface)です。5GCの中で、SBIが適用されているNFについて図2に示します。3GPP(Third Generation Partnership Project)の標準規格Release-15(Rel-15)時点でSBAを利用するのは5GCの制御信号を送受信するC-PlaneのNFであり、ユーザデータを送受信するU-PlaneのNFではSBAは用いられていません。
SBAでは、アプリケーション層のプロトコルとしてHTTP/2(HyperText Transfer Protocol version 2)*9を利用し、表記方法としてJSON(JavaScript Object Notation)形式を用います。また、トランスポート層は、基本的にはTLS(Transport Layer Security)への対応が必須となっています。SBIはNFのサービスを提供するインタフェースとして、NFごとに表現されています。SBIでは、それぞれのサービスにアクセスする際にREST APIを利用します。

*9 HTTP/2:IETF RFC(Internet Engineering Task Force Request For Comment)9113で規定される通信プロトコル。

■コンテナ基盤の実装

NTTドコモが導入した5GCの動作基盤では、コンテナを採用しています。コンテナは仮想化技術の1つであり、ホストOS*10を共有しながら仮想的にリソースが分離された空間をつくり出すことができます。一般的な仮想マシン(VM:Virtual Machine)型の仮想化方式ではゲストOSが必要ですが、コンテナ型仮想化では不要です。こうした構成上の違いにより、コンテナ型仮想化では、VMと比較し、「軽量」「迅速な起動・停止」といったメリットが挙げられます。
一方、NTTドコモでは、VM型仮想化に相当するかたちでコアネットワークの仮想化を推進してきました(3)。このような状況の中コンテナを導入するにあたり、①VM型仮想方式(VM方式)、②VM上にコンテナをデプロイする方式(コンテナ on VM方式)、③物理サーバ上に直接コンテナをデプロイする方式(ベアメタルコンテナ方式)の比較検討を実施しました。これら方式のアーキテクチャを図3に示します。
②のコンテナ on VM方式は、VMとコンテナの多段構成となるため、ベアメタルコンテナ方式と比較するとわずかなオーバヘッドがあるものの、機能面で差分がなく既存資産を有効に活用できます。このためNTTドコモでは、基本的にコンテナ on VM方式の採用としました。ただし、U-Plane処理部などVMが適する機能部もあるため、それらはVM方式を採用しました。
マイクロサービス*11を意識したSBAの採用とコンテナによる実装から、5GCのNFは従来と比較してアプリ機能が最小化されており、機能単位ごとの改修やデプロイを並列に行うことが可能です。これにより、後述のネットワークスライシングのような柔軟で多様に変化するネットワーク需要に対して、特定機能の拡充や追加といった対応を効率的に行うことが可能となります。

*10 ホストOS:ゲストOS(VMにインストールされたOS)と対比で使われる用語で、物理サーバにインストールされたOSを指します。
*11 マイクロサービス:ソフトウェア開発の技法の1つ。1つのアプリケーションを、機能に沿った複数の小さいサービスの疎結合な集合体として構成し、軽量なプロトコルを用いて相互の通信を行うことで全体を構成するソフトウェアアーキテクチャ。

■ネットワークスライシングと5GCの基本呼処理

(1) ネットワークスライシングの概要
ネットワークスライシングとは、物理的なネットワーク上に特定のネットワーク機能とネットワーク特性を提供する論理ネットワーク(スライス)を構成することをいいます。ネットワークスライシングの一般的な用途は、スライスごとに異なるリソース割当てを行うことにより、同時に実現が困難なネットワーク特性(低遅延高信頼通信、広帯域通信、多端末通信など)を1つのコアネットワークで実現することです(4)(5)
コアネットワークにおけるスライスの識別子は、S-NSSAI(Single-Network Slice Selection Assistance Information、スライスID)*12と呼ばれ、32ビットのうち先頭8ビットが機能やサービスについてスライスのタイプを示し、続く24ビットが同一タイプにおけるスライスの識別に使用されます(4)(6)
コアネットワークではC-Plane、U-PlaneのいずれのパケットのヘッダにもスライスIDが書き込まれず、スライスIDを用いて、通信の特徴などに応じて適切なNFを選択することでネットワークスライシングを実現します。一方、IPネットワークではオーバレイネットワークなどを用いた仮想ネットワークのように、U-Planeパケットのヘッダに識別子を付与し分類することでネットワークスライシングを実現しており、根本的なアーキテクチャが異なります。
(2) 5GCの基本呼処理
ユーザが端末(UE:User Equipment)の電源を入れてから通信可能となるまでに、大きく2つの処理―コアネットワークにUEの在圏基地局を登録するRegistration*13プロシージャ*14、インターネット等の外部ネットワークへの通信経路を確立する PDU(Protocol Data Unit)Session Establishmentプロシージャが実施されます。
Registrationプロシージャは、UEからの要求を契機に開始され、認証、契約情報の突合、無線アクセスのセキュリティ設定、UEに使用を許可するスライスIDの選択、ポリシーの適用、位置登録などの処理が実施されます(7)
Registrationが完了するとUEはコアネットワークに対してセッションの確立を要求し、UE-requested PDU Session Establishmentのプロシージャが実施され、スライスID、DNN(Data Network Name)、位置情報などを用いたSMFやUPFの選択、外部ネットワークとの DN-AAA(Data Network Authentication、Authorization and Accounting)、アップリンク・ダウンリンクのトンネルの確立、端末へのIPアドレスの払い出しなどが実施されます(7)
(3) ネットワークスライシングを用いたMECの実現
MEC(Multi-access Edge Computing)*15では、UEに近傍の適切なコンピューティングリソース(MECリソース)と、それに対するクローズドな接続経路を提供します。しかし、ユーザごとに個別のDNNをコアネットワークやUEに設定するという従来の提供方法では事前の設備構築に必要な期間が長く、パブリッククラウドのように即座にリソースを提供することが困難です。また、IoT(Internet of Things)のようなユースケースでは端末位置や状況などに応じて接続先MECリソースを遠隔地から変更したいケースなども考えられます。このため、UEに設定するDNNを変えずに、UEの位置情報や契約情報からコアネットワーク側で接続先のMECリソースやMECリソースを収容するSMF、UPFを選択できる必要があります。
このようなケースではUEがRegistrationをする際にネットワーク側で契約情報から許可スライスIDを決定することで、特定のMECリソースへの接続にネットワークスライシングを活用することができます。

*12 S-NSSAI:ネットワークスライシングにおいて、呼処理信号上でスライスを示すための識別子。NFインスタンスの選択に使用されます。
*13 Registration:5Gにおいて、移動端末が現在の位置情報をUDMに登録すること。
*14 プロシージャ:基地局間や基地局–コアネットワーク間、基地局-端末間などにおける信号処理手順。
*15 MEC:通信局舎などのユーザに近い位置にコンピューティングリソースを配備し、利用できるようにするコンピューティングアーキテクチャ。インターネット上に配備する場合に比べて通信遅延を低減でき、サービスの応答速度を向上できる場合があります。

おわりに

本稿では、5G SA方式実現のために導入した5GCで活用されているSBAやコンテナ基盤などの先進的な技術を述べ、これらの技術により実現可能となるネットワークスライシングについて、IPネットワークとの基本概念の違いや導入形態の例を含め解説しました。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30 No.4、2023年1月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) 巳之口・磯部・高橋・永田:“3GPPにおける5G標準化動向,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.25,No.3,pp.6-12,Oct. 2017.
(2) 巳之口・磯部:“5Gコアネットワーク標準化動向,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.25,No.3,pp.44-49,Oct. 2017.
(3) 鎌田・久野・田村・岩見屋:“ドコモネットワークにおける仮想化基盤システムの実用化,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.24,No.1,pp.20-27,April 2016.
(4) 3GPP TS23.501 V15.13.0:“System architecture for the 5G System (5GS);Stage 2,”March 2022.
(5) 青柳・巳之口・原田・閔・髙橋・吉岡:“産業創出・ソリューション協創に向けた5G高度化技術,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.28,No.3,pp.65-81,Oct. 2020.
(6) 3GPP TS23.003 V15.11.0:“Numbering, addressing and identification,”Dec. 2021.
(7) 3GPP TS23.502 V15.16.0:“Procedures for the 5G System (5GS);Stage 2,”June 2022.

(上段左から)田中 優多/荒川 雅矢
(下段左から)奥田 兼三/清水 和人/國友 宏一郎

NTTドコモにおける5G SA方式を実現するコアネットワークの取り組みについて紹介しました。5G時代に必要とされるコアネットワークに向けてさらなる進化をめざします。

問い合わせ先

NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com