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特集2

5G SA方式におけるコアネットワーク技術概要と無線基地局装置の開発

5G SA方式での音声通話を実現するコアネットワーク技術概要

NTTドコモは2022年8月に、5G(第5世代移動通信システム)単独で動作する5G SA(Standalone)の一般消費者向け商用サービスを開始しました。これを提供するにあたり、5G SAでの音声通話サービスや5Gエリア外にて4G(第4世代移動通信システム)/LTE(Long Term Evolution)への通信の引継ぎサービスを可能とする機能を開発・導入しました。本稿では、これらの技術について解説します。

清水 和人(しみず かずと)/阿部 元洋(あべ もとひろ)
宮﨑 祐哉(みやざき ゆうや)/小原 啓希(おはら ひろき)
NTTドコモ

はじめに

NTTドコモは2022年8月に、5G(第5世代移動通信システム)単独で動作する5G SA(Standalone)方式*1の一般消費者向け商用サービスを開始しました。
5G SAを一般消費者向けに提供するうえでは、スマートフォンなどハンドセットでの利用が前提となります。その場合、以下の2つの計画の実現が必要です。
・5G SAのエリア拡充までの4G(第4世代移動通信システム) LTE(Long Term Evolution)/5G NSA(Non-SA)*2エリアの提供
・緊急通報を含めた音声通話サービスの提供
これらを実現すべく、NTTドコモでは5GC(5G Core network)*3において下記3機能を開発・導入しました。
・5G SAエリア外での通信を実現するEPC(Evolved Packet Core)*4との連携
・音声通話を実現するEPSFB(Evolved Packet System Fallback)および5GCでの音声通話のQoS(Quality of Service)制御
・5GCでの重要通信の優先制御と緊急通報
本稿では、上記技術について4G/LTEのコアネットワーク装置であるEPCや4G/5Gでの音声提供装置群であるIMS(Internet protocol Multimedia Subsystem)*5との連携を含め解説します。

*1 5G SA方式:5Gの無線技術NRにて制御信号およびユーザデータの送受信を行う方式。本稿では3GPPの5G Deployment Optionのうち、NTTドコモが採用しているOption 2を指します。
*2 5G NSA方式:5Gの無線技術NRを利用する際に、LTE側で制御信号をやり取りし、ユーザデータのやり取りにのみNRとLTEを協調動作させて使う方式。本稿では3GPPの5G Deployment Optionのうち、NTTドコモが採用しているOption 3xを指します。
*3 5GC:5G専用のコアネットワーク。5G NSAでも実現されていた高速・大容量に加え、5Gの特長である高信頼・低遅延、多数端末同時接続に対応する際に必要。
*4 EPC:LTE/4Gのコアネットワークを指します。MME、S-GW(Serving Gateway)、P-GW(Packet Data Network Gateway)、PCRF(Policy & Charging Rules Function)などにより構成。
*5 IMS:音声通話を制御するコアネットワークの装置群。P-CSCF(Proxy-Call/Session Control Function)、S-CSCF(Serving-Call/Session Control Function)、AS(Application Server)などにより構成。音声通話をIPで実現するため、IP以下の伝送路に極力依存しないよう設計されています。

一般消費者への5G SAサービス提供に向けたLTEエリアとの連携

4Gでのパケット通信においては、4G端末が異世代間をスムーズに移動するためのインタフェースが標準規定され、3G(第3世代移動通信システム)に在圏しながらもEPC側にアンカーポイントを維持することが可能となっていました。5GCにおいても同様に異世代間をスムーズに移動するためのインタフェースが規定されており、黎明期における5G SA無線エリアの狭さを補完するために4Gと5GC/5G SA間をスムーズに移動できる仕様となっています(図1)。
各世代黎明期の無線エリアの狭さは、前世代のエリアとの切替えが頻発することによりユーザ体験の向上という観点において大きな障害となります。特に音声通話に関しては、コアネットワーク間でユーザが移動する処理の際に一瞬の通信の停止が発生し、ユーザとしては通話が一瞬途切れて聞こえてしまいます。そのため黎明期の4Gにおいて音声通話の際には、音声品質を優先させ3Gを活用しました。5Gの導入期では、この3Gと4Gとの関係性と同様に前世代となる4Gが隙間のないカバレッジと成熟したVoLTE(Voice over LTE)の技術を活かした高品質音声通話を、5Gと連携して5G SAユーザへ提供します。しかし、3GとEPC、EPCと5GCでは連携の方法が大きく異なります。
EPCの黎明期における音声の提供では、CSFB(Circuit Switched FallBack)*6という技術を使用していました(1)。CSFBでは、着信の場合はコアネットワークが端末に指示することで4GからCS(Circuit Switched)ドメイン*7の3Gネットワークへ端末を遷移させ、発信の際には端末が自律的に4GからCSドメインの3Gネットワークへ遷移します。5GCではCSFBとは異なり端末が自律的に動作するということはなく、コアネットワークと無線基地局からの指示で端末を4Gへ遷移させるEPSFBという機能を使用します(2)。CSFBとEPSFBの2つの機能は、音声通話の際に前世代の無線およびコアネットワークを利用する(フォールバックする)というコンセプトは同じですが動作は異なります(図2)。このEPSFBは、5GC/5G SAが成長期に入りVoNR(Voice over New Radio)*8が普及するまでの間、4GにおけるCSFBのように広く長く使われる機能です。

*6 CSFB:LTE在圏中に音声などの回線交換サービスの発着信があった場合、W-CDMA/GSMなどのCSドメインのある無線アクセス方式に切り替える手順。
*7 CSドメイン:3Gネットワークにおいて、回線交換(Circuit Switch)方式を採用した部分。主に音声通話サービスを提供。
*8 VoNR:前世代の4Gに依存せず、第5世代移動体通信の無線技術NRおよび5GC単独で音声通話を提供する方式。

音声通話関連技術

■EPSFB

EPSFBとは、5GS(5G System)*9で待受けもしくは通信中の端末をEPSに移動させ、LTEにて音声を提供する方式です。最新世代の5GCおよびNRを用いる5GSから前世代のEPCおよびLTEを用いるEPSに切り替える(フォールバックする)ため、EPSFBと呼びます。複数の3GPP(Third Generation Partnership Project)標準(3)(5)に基づいたEPSFBの処理シーケンスの概要を図3に示します。各手順での処理概要は以下のとおりです。まず、発信側の端末から発信要求を受信した発信側のVGN(VoLTE Gateway Node)*10は位置情報取得により5GS在圏を確認した後、PCF(Policy Control Function)にQoS制御を要求します。同時に、発信側のCSN(Call Session control Node)*11を通じて着信側の装置に通信確立を要求します。PCFからの指示で、SMF(Session Management Function)*12、UPF(User Plane Function)、gNB(next generation NodeB)において、音声通話用QoS制御のための仮想伝送路(QoS Flow)を生成します。ここで音声通話と判断したgNBが、AMF(Access and Mobility management Function)*13に対してEPSFBを要求し、端末がEPSへのハンドオーバを行います。その後、端末からの位置登録(TAU:Tracking Area Update)を契機に、音声通話のための仮想伝送路(QoS Flow/Dedicated Bearer*14)生成を完了します。着信側も5GSに在圏している場合は、上記処理を並行実施します。
上記のとおり、VoLTEと比較し5GSからEPSにフォールバックする手順が追加で必要となるため、EPSFBの接続処理時間はVoLTEの接続処理時間より大きくなります。そこでNTTドコモでは、発信側のEPSFB後に着側でEPSFBするという動作を変更し発信側と着信側の並列処理を実現することで、EPSFBの接続処理時間短縮を実現しています。

*9 5GS:5GCおよびgNBを合わせた第5世代移動通信システム。5GS在圏は、5GSを利用している状態。
*10 VGN:VoLTEでの音声通話を制御する装置で、3GPP標準のP-CSCFおよびIMS-AGW相当の動作をするNTTドコモの装置。
*11 CSN:CS-IP NWにおいて、セッション制御を実施するノード。IMSの標準アーキテクチャ上では、I/S-CSCF(Interrogating/ Serving-Call/Session Control Function)に相当。
*12 SMF:PDU Sessionを管理し、QoSやポリシーの実施などのためにUPFを制御する5Gコアネットワーク内の機能。EPCにおけるSGW-C/PGW-Cに相当。
*13 AMF:5Gコアネットワークにおいて、基地局(gNB)を収容し、モビリティ制御などを提供する論理ノード。
*14 Bearer:用途ごとに生成される仮想伝送路。Bearerのうち、Defaultでなく、用途が限定されるものをDedicated Bearerと呼びます。

■QoS制御

サービスを特定の品質で届ける際に必要となる機能の総称がQoS制御です。4Gと比較し、5GC/5G SAでは大きな変更点としてflow basedと呼ばれる方式に変わったことが挙げられます。4Gでは、必要となるQoS特性をeNBも含めたネットワーク全体で実現する際に、Bearer・セッション単位で単一のQCI(Quality Class Identifier)を付与していました。そのため、同一のアクセスポイント(APN)に対して複数のQoS特性のパケットを転送する際には、別なBearer・セッションを生成する必要がありました。5GC/5G SAでは、QCIは5QI(5G network Quality of service class Identifier)という名称に代わり、Bearer・セッション単位ではなくQoS Flow単位での付与となりました(図4)。これにより同一のDNN(Data Network Name)に対して複数のQoS特性のパケットを転送する際に別なセッションを作成せず、同一セッション内で複数のQoSを付与することが可能となりました。
5QIは、QCIと同様に特性が3GPP標準仕様として規定されている1~127、オペレータに裁量が任されている128~254の2つのグループから構成されます。前者には音声パケット用として割り当てられている1、ベストエフォートパケット通信に割り当てられている9など含まれます。

重要通信の確保と緊急通報

■重要通信の考え方

標準仕様において、ミッションクリティカル*15通信や警察消防などへの緊急通報などを判定し、一般通信と異なる制御が可能な機能が規定されています。この規定では、特殊な通信について各国地域の規定や通信事業者ポリシーおよびベンダの製品仕様に応じて、優先的に処理することや発信規制などの対象外とすることが可能となっています。
日本では、電気通信事業法において重要通信の確保について規定されています。例えば、災害時における防災機関などの連絡や連携を想定して、これらの通信を確保することについて言及しています。これに基づき、各通信事業者は災害時優先通信という名称で重要通信の確保に努めています。またNTTドコモは、人命救助や公共の安全・治安維持にかかわる警察や救急消防などの機関に対する緊急通報も扱っており、これに必要な機能を有することが電気通信事業法 事業用電気通信設備規則により義務化されています。

*15 ミッションクリティカル:サービスを継続的に提供できることが極めて重要であり、障害などによる中断が許されない、あるいは非常に大きな損害になり得るシステム。

■重要通信・緊急通報を判断する技術

モバイルネットワークではgNBと各コアネットワーク装置が連携して通信を提供することから、各装置で重要通信であることを把握する必要があります。重要通信の判定に用いる要素は主に2種類あり、契約情報とSIM(Subscriber Identity Module)に含まれるパラメータをそれぞれ使用します。緊急通報は発端末の属性に依存せず発呼されるため、発呼時の情報から都度判定を行います。
gNBとAMFは端末の送信した要求信号に基づき重要通信対象か判定を行います。端末はSIMに設定されたAccessClassと呼ばれる指標に基づき、無線伝送路確立要求信号に“highPriorityAccess”などのパラメータを設定することで、gNBに対して自身の通信が重要通信対象であることを伝えます(6)。一方、緊急通報の場合は重要通信の指標とは異なる値である“emergency”を設定することでgNBに緊急通報であることを伝えます。gNBはこれらのパラメータを参照することで、重要通信もしくは緊急通報として優先制御します。
発呼に伴い無線伝送路確立処理が行われた場合、gNBは重要通信・緊急通報であることを把握できているためその情報をAMFに通知することで、AMFは重要通信もしくは緊急通報であると認識します(7)。直前に無線伝送路確立処理が行われていない場合は、端末がAMFに対して送信した位置登録信号などに設定された各種パラメータを参照して判断します。
AMFから先の5GCの各NFはAMFからの通知もしくは契約情報から重要通信もしくは緊急通報であることを認識します。

■緊急通報の提供方式

VoNR導入以前のEPSFB方式時期における5G SAでの緊急呼の提供方式としては、主に下記の2つ挙げられます。
・ネットワークがEPS遷移を促すES(Emergency Service)-FB
・端末の自律EPS遷移(N1mode-disable)
どちらの方式も緊急通報自体の提供はEPS在圏で行われます。両者の違いは5GSに在圏している場合に、ネットワークがEPSへ遷移を促すのか、端末が自律的に遷移するのかという点です。ES-FBは、緊急通報の提供がEPS在圏のみでありかつ5GSに在圏している場合にネットワーク側からEPSへの遷移を促す方式です(3)。一方、緊急通報の提供がEPS在圏のみであり5GCがES-FBに対応していない場合は端末の自律EPS遷移(N1mode-disable)となり、端末は緊急通報を開始時に自律的にEPSに遷移します。その際、ネットワークに向けては一時的に端末能力がSA能力なしとなった旨を通知します(N1mode-disable)(8)
位置登録(Registration)の際にネットワークが対応している方式を端末に通知します。端末は、ネットワーク接続中は通知された方式を保持し、緊急通報時にそれぞれの方式に応じた動作を実行します(8)
NTTドコモでは、緊急通報発信までの動作時間が短いことから端末の自律EPS遷移方式を採用しています。

おわりに

本稿では、5G SAにおいて、緊急通報を含めた音声通話サービスの提供、および4G LTE/5G NSAエリアの利用による5G SAのエリア拡充までの利便性向上を実現する技術について、4G/LTEのコアネットワーク装置であるEPCや4G/5Gでの音声提供装置群であるIMSとの連携を含め、解説しました。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30 No.4、2023年1月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) 田中・輿水・西田:“LTEと3G回線交換サービスの連携を実現するCS Fallback機能,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.17,No.3,pp.15-20,Oct. 2009.
(2) 青柳・巳之口・原田・閔・髙橋・吉岡:“産業創出・ソリューション協創に向けた5G高度化技術,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.28,No.3,pp.65-81,Oct. 2020.
(3) 3GPP TS23.502 V15.16.0:“Procedures for the 5G System (5GS),”June 2022.
(4) 3GPP TS23.228 V15.5.0:“IP Multimedia Subsystem (IMS);Stage 2,”Dec. 2021.
(5) 3GPP TS29.512 V15.11.0:“5G System;Session Management Policy Control Service;Stage 3,”June 2021.
(6) 3GPP TS38.331 V15.18.0:“NR;Radio Resource Control (RRC) protocol specification,”June 2022.
(7) 3GPP TS38.413 V16.10.0:“NG-RAN;NG Application Protocol (NGAP),”June 2022.
(8) 3GPP TS24.501 V15.7.0:“Non-Access-Stratum (NAS) protocol for 5G System (5GS),”June 2022.

(左から)清水 和人/阿部 元洋/宮﨑 祐哉/小原 啓希

NTTドコモにおける5G SA方式での音声通話を実現する取り組みについて紹介しました。今後は、NR単独で音声通話を実現するVoNR など5G時代に期待される音声通話実現に向けて、さらなる深化をめざします。

問い合わせ先

NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com