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from NTTフィールドテクノ

NTT西日本におけるネットワーク視える化ツールの活用状況(能登半島地震における活用実績)

NTT 西日本グループの通信サービスを「24時間365日」監視しているNTT フィールドテクノネットワークサービスオペレーションセンタ(NSOC)では、通信障害時の対応を迅速化しサービス品質を高めることを目的に、設備の状態やサービスの提供状況の「視える化」の実現に向けた取り組みを進めています。ここでは、NSOCで導入しているネットワーク視える化ツールを紹介し、2024年1月に発生した能登半島地震時における視える化ツールの活用実績、今後の取り組みについて示します。

ネットワーク視える化ツール導入の背景

NTT西日本が提供する電気通信サービスは、人々の生活に不可欠な重要なインフラです。NTT西日本グループの通信サービスを「24時間365日」監視しているNTTフィールドテクノネットワークサービスオペレーションセンタ(NSOC)では、通信サービスの安定性・信頼性確保を最優先事項と位置付け、通信障害が発生した際は速やかな復旧に努めています。また、通信障害の状況をお客さまに適切かつ速やかに発信することも大切な責務と考えており、平時より情報共有の体制を整えています。
しかし、大規模な災害や故障が発生した際には通信ビル間の中継光ケーブルの切断や、大規模ルータの故障が同時多発的に発生することがあります。それに伴い、伝送装置や交換機、集約ルータ、サーバなどから大量のアラームやメッセージが発せられます。これまではオペレータがそれらを1つひとつ分析する必要があったため、障害状況の把握に時間を要してしまうことがありました。また、一連の復旧対応が終わった後に、発生した事象や対応措置内容を、分析する際にも情報の整理に時間を要しました。
これらの経験を基に、サービス影響や障害個所の早期把握に向けてネットワーク情報を可視化するツールの開発、導入を進めています。

ネットワーク視える化ツールの例

現在、目的に合わせて複数のネットワーク視える化ツールを導入しています。ここでは代表的な3つのツールを紹介します。
1番目はプローブツール(図1)です。NTT西日本エリアの各府県の加入者収容装置に接続したプローブ(試験端末)を用いて、お客さまと同じ環境でインターネットとの自動疎通試験と品質測定を行っています。この結果を可視化することで俯瞰的にサービス影響の有無、範囲を把握可能としました。
2番目はトラフィック情報可視化ツール(図2)です。ルータ間を流れるトラフィックを5分間隔で収集しており、収集・蓄積したトラフィック情報を加工して有益な情報として可視化するさまざまなダッシュボードを用意しています。例えば、トラフィック量を線グラフでリアルタイムに描写しつつ、前日または前週の同一曜日のトラフィック量と重ね合わせる表示をさせるダッシュボードを備えています。また、過去の同一曜日のトラフィック量を学習することでトラフィックの予測値を算出し、実際のトラフィック量が予測値から外れた場合に乖離の大きさに応じて警告を表示するダッシュボードも用意しています。これらのダッシュボードにより、トラフィックの特異な振る舞いを容易に把握することが可能です。
3番目はNTTアクセスサービスシステム研究所が研究開発したネットワークリソース管理技術(NOIM:Network Operation Injected Model)です(1)。NTT西日本のネットワークサービスは、光伝送ネットワークやイーサネットワーク、IPネットワークなど、異なる通信プロトコルを組み合わせたマルチレイヤのネットワークによって提供されています。NOIMはTM Forum(2)で議論されている情報フレームワーク(SID:Shared Information and Data Model)で定義されたエンティティを採用し、汎用的なデータ形式によるネットワーク情報の一元管理を実現しています(図3)。NOIMにより、故障が発生したときの影響を迅速に把握し、故障状況を可視化することが可能です。例えば、自然災害によって物理リソース(ビルやケーブル)が損傷した場合、当該物理リソースに重畳している論理リソースが損傷の影響を受けます。論理リソースが影響を受けると、その論理リソースが提供しているサービスが影響を受けます。NOIMはレイヤをまたがる各リソース間の関係を保持しているため、それらの関係をたどることで、物理リソースの損傷によるサービス影響を容易に判定できます。さらに、ネットワークを監視するシステムのアラームを自動連携することで、より迅速にサービス影響を把握することが可能です。

ネットワーク視える化ツールの活用事例(令和6年能登半島地震)

2024年1月に発生した令和6年能登半島地震では、地震に伴う土砂崩れなどの影響により通信ビル間を接続するケーブルの故障が複数の個所で発生し、一部エリアにて通信サービスを利用いただけない状況が発生しました。NTT西日本では地震発生後速やかに災害対策本部を設置し復旧に着手しましたが、初動対応である被災状況の把握においてネットワーク視える化ツールが効果を発揮しました。
はじめに活用したのがプローブツールです。発災直後に速やかにプローブツールで状況を確認し、被災エリアである石川県のインターネットサービスが全断していないことを即座に把握しました。次にトラフィック情報可視化ツールで被災エリアのリアルタイムのトラフィック量を確認しました。平常時と比べて7割ほどのトラフィックの落ち込みを確認でき、全断ではないもののお客さまの通信に影響が出ている状況を大まかに把握しました(図4)。
本地震では設備の故障が広範囲に及んだことにより、サービス影響を精緻に把握するためには多くの時間と人的リソースが必要でした。しかし、ネットワークを監視するシステムからNOIMに連携されたアラームにより、災害対策本部においてサービス影響の範囲を把握することができました。具体的には、サービス影響を受けている範囲が石川県能登地方に限定されており、石川県の加賀地方および隣接県である富山県では、地震の影響による通信サービスの影響を受けていないことを認識できました(図5)。
このことにより以下の2つの利点がありました。1点目は、アラームの精査に要する時間が大幅に削減されたことです。以前は、複数のアラームから関連性のあるアラームを精査するのに多大な時間が必要でしたが、必要なアラームのみをNOIMへ送信する仕組みを導入した結果、この作業は不要となり、サービスレイヤの影響確認に注力することができました。
2点目は、お客さまへの情報発信が迅速化されたことです。NSOCと災害対策本部に速やかに情報が集まることにより、迅速な情報発信を行うことができました。また、市町村災害対策本部が設置される庁舎や災害拠点病院に対して正常に通信サービスが提供されているかなど、被害が発生していないことも併せて確認することができました。
また、能登半島地震の復旧対応に対する振り返りでは、トラフィック情報可視化ツールを活用しました。地震の発生時刻前後でのトラフィック量を分析した結果、被災エリアである北陸3県(石川県、富山県、福井県)ではトラフィックが大きく落ち込んだことが確認できました。さらに、このトラフィックの落ち込みは1月1日の22時ごろには地震発生以前の水準まで回復していることが分かりました。また、北陸3県ほどではないものの、トラフィックの落ち込みは西日本エリアの各府県でもみられました。これは、地震発生直後は緊急地震速報を契機にインターネット利用を一時的に中断し、テレビの地震報道の視聴に切り替えるといった行動が影響しているとみられます。今回確認できたトラフィックの振る舞いは、今後の災害に備えたネットワークの設計や災害直後のネットワークオペレーションに活用できると考えています。

おわりに

ここでは、NTTフィールドテクノが導入しているネットワーク視える化ツールの概要と、能登半島地震における活用事例について紹介しました。これまで、NTTフィールドテクノではプローブツールとトラフィック情報可視化ツールを内製し導入、活用してきました。また、NOIMについては初期導入以降、災害の実践を通して得られた課題に対しNTTアクセスサービスシステム研究所とともに解決に取り組みツールに反映してきました。
今後の取り組みとしては、今回の災害対応で活用したこれらのツールのデータや機能を一元化し、統合的な分析により、オペレーション品質を一層向上させることをめざしていきます。また、視える化ツールに取り込むデータ種類を増やし、さらにその精度を上げていくことで、情報発信の質の向上とサービス回復の早期化に向けた検討を進めます。

■参考文献
(1) 佐藤・西川・深見・村瀬・田山:“ネットワーク種別に依存しない統一管理モデルを用いたサービス影響把握技術,”NTT技術ジャーナル,Vol.32, No.8, pp.51-53, 2020.
(2) http://www.tmforum.org/

問い合わせ先

NTTフィールドテクノ
サービスエンジニアリング部 ネットワーク設備部門
ネットワークサービスオペレーションセンタ 企画担当
TEL 06-6490-1162
E-mail nsoc-hozen-sys@west.ntt.co.jp

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