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B2B2Xパートナーとのコラボレーションによる新たな価値創造

NTTグループの1次産業(農林水産業)におけるB2B2Xの取り組み

現在、日本の農業をはじめとする1次産業は、就業人口の減少や高齢化、農地の減少などさまざまな課題を抱えています。一方、地球規模では将来の人口爆発による食糧危機に直面するといわれており、ICTは国内外の課題の解決に貢献できると注目されています。NTTグループはこれまで通信事業で培ってきたICTを活用した1次産業への取り組みを行っています。本稿では、NTTグループとパートナーの具体的な取り組みと今後の方向性について紹介します。

久住 嘉和(くすみ よしかず)

NTT研究企画部門

農業分野等を取り巻く課題

農業分野は就業人口の減少と高齢化が進み、就業人口はここ30年で6割近く減少し、65歳以上の比率も6割を超えています。新規就農者も、収穫量や品質が天候次第で変動して収入が安定せず、災害や獣害被害等の不確実性への不安から、大幅な増加はみられません。この傾向は水産業や林業も同じ傾向です。また、農地も減り続けています。1965年のピーク時に600万haあった農地面積は約450万haにまで減少し、耕作放棄地も年々増え続けています(1)。その結果、日本の経営体当りの面積は欧米諸国に比べると20~80分の1程度になっています。地球規模では人口爆発により、食料、水の争奪戦になるともいわれており、今後、日本の農業が発展するためには、若い世代の就業者を増やし、規模拡大と生産性の飛躍的向上を図り、グローバルという大きなマーケットを視野に入れて取り組むことが求められます。一方、生産法人数や輸出の増加といった明るい兆しもみえてきています。また、政府の未来投資会議では、「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革をめざした攻めの農林水産業を掲げ、「世界トップレベルのスマート農業の実現」などを重点項目としています。

NTTグループの農業×ICTの取り組み

NTTグループにおいても農業を重点分野として位置付け、NTT研究企画部門が取りまとめ役になり、グループ横断プロジェクト「農業ワーキンググループ」を発足させ、NTT東日本・西日本やNTTドコモ、NTTデータといった主要事業会社に加え、農業には必須の地図情報を扱うNTT空間情報や気象情報を扱うハレックスなど、秀でたサービスを持つ約30のグループ会社や先端技術を持つ研究所と連携し、全体戦略やビジネス、サービス、研究開発等多岐にわたる検討を行っています。現在は農業に加え、水産業や林業にも取り組みを広げています。グループ各社が持つ全国規模の通信インフラやアセット、ネットワークサービス、AI(人工知能)技術「corevo®(コレボ)」などを活用し、1次産業向けの技術やソリューションをお客さまに提供しています(図1)。これらを組み合わせ、例えば、大規模・分散化が進むと想定される農地を1つの仮想的な農場としてとらえ、面的に展開されたセンサやセキュアなネットワークで収集された環境や土壌、生育状況のデータを一元的に管理し、AIが分析を行います。その結果から品目に応じた最適な栽培計画を立て、農機やロボット、ドローンが協調しながら、効率的に農作業を実施します。さらに、流通から販売、消費、輸出入に至るまでの過程を見える化し、需要を基に、売れる作物を計画的に生産し、収入の安定化につなげるなど、課題解決に向けた仕組みづくりをめざしています。

図1 グループソリューションマップ

さまざまなパートナーとのコラボレーション

ただし、農業等の生産活動に直接携わっていないNTTグループには専門知識やノウハウが不足しているため、NTTが推進するビジネスモデル「B2B2X」により、産官学のさまざまなパートナーとの連携を戦略的に進めています。
例えば農機メーカの株式会社クボタとは、農業や水環境インフラ分野におけるICTイノベーション創出に向けて、農作業の省力化と精密化の実現をめざすスマート農業や水環境設備等の高度なオペレーションによる省人化、安心・安全で持続的なインフラ提供につながるサービス創出をめざして取り組みを進めています(図2)。STEP1として、水田センサや省電力広域無線サービス、1kmメッシュ気象予報サービスを活用した、農地や農機、上下水道の関連設備等からの情報収集と見える化の仕組みの構築を進めています。STEP2として、前述の仕組みより、同社の営農支援システム「クボタスマートアグリシステム(KSAS)」や水環境支援システム「クボタスマートインフラストラクチャシステム(KSIS)」に収集・蓄積された情報をcorevo®を活用して分析を進めています。例えば、米の生産に関係する農場の温度や湿度、日射量等の多種多様なデータから、有意味な横断的特徴を効率的に抽出することのできるNTTサービスエボリューション研究所の多次元複合データ分析技術等を用い、良食味米の高収量生産に最適な条件や収穫時期の予測を行う、あるいは、民間の排水処理施設に設置されている液中膜*1の監視について、NTTソフトウェアイノベーションセンタが保有する異常検知技術とオープンソース機械学習処理基盤Jubatus*2を用いて、従来は人手をかけて監視していた液中膜の圧力や運転稼動情報等のデータの解析を自動化し、監視の効率化および精度向上を実現するシステム構築に向け、検証実験を進めています(図3)。

図2 クボタとの連携のイメージ

図3 Jubatusを用いた液中膜監視の省力化イメージ

また、JAグループとは畜産や営農分野を中心に取り組みを進めています。例えば、全国農業協同組合連合会(JA全農)とは、出産が近づいた母牛にセンサを取り付け、体温を細かく測定する「モバイル牛温恵(ぎゅうおんけい)」により、仔牛の分娩事故を防ぎ、畜産農家の損害の抑制に貢献しています。また、生産者やJAグループ向けの会員制情報サービス「アピネス/アグリインフォ」への「1kmメッシュ気象情報」の提供により、天気、気温、湿度、降水量、風向、風速を30分の更新頻度で提供するなど、非常に鮮度が高く、きめ細やかな気象情報による農業の生産性向上に貢献しています。
さらに、国の成長戦略として進められ、産官学の200以上のプレーヤーが参画する「農業データ連携基盤(WAGRI)*3」においては、NTTグループとしてNTTをはじめとする8社が参画し、WAGRIが持つさまざまなオープンシステムやデータの活用、およびNTTメディアインテリジェンス研究所が開発した最先端の音声認識エンジンを搭載した音声認識技術やNTTグループの気象、地図サービス等のWAGRIへの提供を通じて、農業分野のデジタルトランスフォーメーションを国策にのっとって進めています。
新たな取り組みとして、水産分野においても取り組みを始めています。例えば地域の漁業協同組合と連携し、広範囲にわたり海水温等を測定することが可能なセンシングネットワークで刻々と変化する海水温を測定し、牡蠣の養殖業者が海の状況を把握することによる作業のタイミングの決定を支援しています。また、近年増加している密漁の対策として、ドローンによる監視抑止を提案するミツイワ株式会社等と連携し、撮影映像の解析・密漁者の検知・通報を画像認識AI Deeptector®で実現し、複数の漁業協同組合に対する提案を進めるとともに、従来の監視船・監視員による体力・コスト負担の軽減、および密漁抑止に大きな効果が期待できることを確認しています(図4)。

図4 ドローン×Deeptector®による漁業密漁の監視抑止のイメージ

*1 液中膜:精密ろ過膜を利用する浸漬型の膜ろ過装置のことであり、クボタの登録商標です。
*2 Jubatus:NTTソフトウェアイノベーションセンタと株式会社Preferred Networksが共同開発した、オープンソースのオンライン機械学習向けリアルタイム分散処理基盤。
*3 農業データ連携基盤(WAGRI):農業の担い手が、データを使って生産性の向上や、経営の改善に挑戦できる環境をつくるため、データの連携や提供機能を持つ基盤。

今後の展開

NTTグループはこれまで、農業のバリューチェーンにおける営農(生産)を中心に取り組みを進めてきました。今後は流通・加工・販売・消費を含めた食農分野全般へと取り組みを拡大します。例えば、生産者と需要家をデジタルデータでつなぐデジタルフードバリューチェーンの仕組みにより、需要家のリクエストに応じて生産を行うマーケットイン型の農業を通じ、計画的で安定的な生産、安定した調達を実現し、食農にかかわる関係者がムダなく利益を得るような仕組みの構築を進めます。また、国内のみならず、グローカル(ローカル+グローバル)にも取り組みを拡大します。国内(ローカル)において体系化したデジタルファーミングの仕組みを海外での生産に展開する、海外(グローバル)で生産された農作物の安心・安全な輸入にブロックチェーンやトレーサビリティ技術を活用するなど、地球規模で食農の問題に取り組みます。さらに、水産業や林業への取り組みの拡大や、そのために必要なパートナーとの連携も早期に進めます。今後も、NTTグループが選ばれるバリューパートナーになることをめざし、グローバルを視野に入れた1次産業での発展に貢献していきます(図5)。

■参考文献
(1) http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/2030tf/281114/shiryou1_2.pdf

図5 食農のYour Value Partnerへ

久住 嘉和

NTTグループが今後も皆様から選ばれるバリューパートナーとなるべく、ICTを通じてグローカルでの農林水産業の発展に貢献します。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
食農プロデュース担当
TEL 03-6838-5364
FAX 03-6838-5349
E-mail agri-ml@hco.ntt.co.jp