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最先端技術を活かした価値創造の取り組み

NTTグループの先端技術を活用した1次産業(農林水産業)の取り組み

現在、日本の農業をはじめとする1次産業は、就業人口の減少や高齢化、農地の減少などさまざまな課題を抱えています。その解決の切り札として、IoT(Internet of Things)やビッグデータ解析、AI(人工知能)、ロボット技術を農業分野に活用したAgriTech(アグリテック)が注目されています。本稿では、グループのAI関連技術corevo®の活用を中心としたAgriTechの具体的な取り組み、および今後の方向性について紹介します。

久住 嘉和(くすみ よしかず)

NTT研究企画部門

注目が集まるAgriTech

日本の農業は、農業従事者の減少による労働力不足や低い生産性等、さまざまな課題を抱えていますが、近年、その解決の切り札として、IoT(Internet of Things)やビッグデータ解析、AI(人工知能)、ロボット技術を農業分野に活用したAgriTech(アグリテック)*1が注目されています。中でも減少の一途をたどる農業のプロ(いわゆる篤農家)の「眼」「頭脳」の支援、代替としてAIを活用した取り組みが国内外で始まっています。NTTグループにおいてもAI関連技術corevo®を活用し、通信事業者ならではのAgriTechのサービス化や研究開発を進めており、稲作や畑作、畜産における検証・実証、および社会実装を進めています。

*1 AgriTech:AgricultureとTechnologyを組み合わせたもの。

畜産分野への適用事例

牛の飼育への適用

牧場経営においては、家畜の健康状態や効率的な繁殖に必要な発情・分娩兆候など、個体および群の情報を適時に把握することが非常に重要です。NTTテクノクロス(テクノクロス)は、畜産分野に通じたデザミス株式会社が提供するサービス「U-motion®」に、牛に取り付けたタグ型のセンサ情報から採食・飲水・反芻・動態・起立・横臥・静止の7つの主要行動をデータ分析プラットフォーム「IoTデータ分析Suite」でリアルタイムに見える化した情報を提供しています。さらに蓄積データを分析することで、畜産農家が確認すべき牛の状態である「発情兆候」「疾病(体調不良)」「起立困難」を適切なタイミングで通知するサービスを提供しています(図1)。特に、1頭約100~150万円で取引される肉牛の飼育において、起き上がれなくなった牛が突然死する起立困難牛を早期発見できるアラート機能の効果は大きく、U-motion®の導入が進んだことで、起立困難牛の検出事例が蓄積されており、分析精度も向上しています。また、牛が体調不良になると乳量に影響します。U-motion®によって疾病を早期に検知して対処できるようになり、乳量の減少を最低限に抑えられるようになるなど、さまざまな効果が期待できます。
牛乳の量や質という観点では、牛がえさとする牧草も大きな影響を与えます。例えば、牧草の刈取時に霧が発生し牧草が湿ると家畜用飼料の質が悪くなり、すべてを廃棄することもあります。また、質の悪い飼料では牛の食欲が落ち、乳の出が悪くなってしまいます。一方、霧は雲との区別が難しいため発生の把握が難しく、新たな技術への期待が畜産現場では高まっていました。そこで、NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)とNTTデータグループのハレックス、気象庁、牛の給食センターである北海道浜頓別エバーグリーンTMRセンター等が連携し、気象衛星ひまわり等の気象ビッグデータとAI関連技術corevo®であるCS研の時空間解析などの技術、ハレックスの民間気象会社としての知見、ノウハウを融合させ、霧の発生リスクの予測を行い、霧が発生する前での牧草収穫時期の決定支援実現をめざしています(図2)。

図1 U-motion®の表示画面

図2 霧発生リスク予測概念図

豚の飼育への適用

豚の飼育においてもさまざまな課題がありますが、中でも出荷時の体重で豚の価格が決まるため、出荷前の体重管理は非常に重要な作業です。また、豚の健康管理においても正確な体重を把握することが重要です。子豚から成長していく過程で必要な飼料が変わり、適切なタイミングで適切な飼料を与えなければ健康面・品質面で影響をもたらすため、体重に合った飼料を与えることが必要になるからです。出荷時の豚の体重を量る手法としては、豚専用の体重計、集団計測などがありますが、どれもコストと手間がかかり、養豚農家の負担となっています。これまでは月齢や熟練者の目勘(めかん)で出荷タイミングを決めており、熟練者の経験が必要とされていました。そこで、テクノクロスは伊藤忠飼料株式会社と連携し、AI関連技術corevo®による画像認識技術を組み込んだ計測ロジックを活用し、高いレベルで豚の体重を推定することができるデジタル目勘®の開発を進めています(図3)。当初はスマートフォン向けのアプリとして開発していましたが、現在は専用のハードウェアも含んだソリューションとして開発が行われています。技術的にはほぼ完成しており、早期のリリースをめざして専用機の開発が進められています。

図3 デジタル目勘®

稲作分野への適用事例

農林水産業は自然とともに営む産業であるがゆえに、自然界特有の被害に見舞われることがあり、病害虫被害もその1つです。世界規模でみると、農業生産可能量の2、3割程度が病虫害、雑草害で失われ、世界の飢餓人口に相当する数億人分の食料に値するともいわれています。一方で、気候変動や栽培作物の多様化、農産物流通の国際化に伴う海外からの侵入病害虫等、その対策への農家の負担はますます大きくなってきています。NTTデータCCS(データCCS)は日本農薬株式会社とともに、農林水産省の事業として、水稲の病害虫、雑草の診断システムの構築に取り組んでいます。データCCSの持つAI技術を活用した画像解析技術と日本農薬の持つ農薬メーカならではの知見・ノウハウ、および同社が所有する大量の病害虫画像を組合せ、例えば、農家や営農指導員がスマートフォンで撮影した病害虫の画像を病害虫データベースと突合させ、リアルタイムで病害虫の候補やそれぞれの対処方法、推奨農薬等の情報をフィードバックする仕組みの構築、面的展開をめざしています(図4)。
また、新たな試みとして、水稲の生育ステージを判別する仕組みを、水稲の形状の変化に着目した画像深層学習を用いて開発を進めています。稲の生育ステージは大きく分けて、分げつ期、幼穂分化期、減数分裂期、出穂期、登熟期がありますが、収量や食味、品質を上げるには、特に幼穂分化開始のタイミングを正確に把握し、適切な時期に追肥*2することが必要です。しかし現状では、篤農家の長年の経験と勘に基づいて行うか、顕微鏡検査等による科学的なアプローチが必要で、後継者不足の問題や多大な労力と困難を伴います。データCCSと茨城県農業試験場はこの課題に取り組み、固定カメラの画像から各生育ステージを分類し、撮影時の稲の形状把握を行うことで、特に重要な幼穂分化開始を深層学習(ある種の非破壊検査)により決定する仕組みを構築するとともに、対象作物拡大、面的展開を進めています。なお、本取り組みついては国際特許を申請済みです。

図4 病害虫診断システムのイメージ

*2 追肥:播種(はしゅ)または移植の後に施す肥料。

今後の展開

AgriTechは検証・実証フェーズから、社会実装のフェーズに移りつつあります。このような状況の中、NTTグループはこれまで各社が個別にプロダクト開発や展開を進めてきましたが、今後は各プロダクトや蓄積されたデータを連携させる仕組みの構築を加速させ、競争力を強化します。例えば、稲作については、前述の病害虫・病害雑草診断、生育診断、およびグループの持つセンシング技術、気象、地図情報、さらには研究所の将来予測技術までを連携させ、稲作のトータル診断・予測サービスの実現をめざします(図5)。また、ICTを活用して生産された米を、並行して取り組みを進めている、NTTグループの農と食をつなぐデジタルフードバリューチェーンの仕組みとも連携させ、生産のみならず、販売面でも農業関係者を支援する仕組みを構築し、省力化と収益増の両面から儲かる農業の実現をめざします。さらには、日本と同様に稲作の盛んなアジア各国への展開も視野に入れ、日本で生産された米等の輸出のみならず、Made by Japanの発想で、日本で仕組化した稲作生産支援システムの展開もめざします。
今後も、NTTグループが選ばれ続けるバリューパートナーになることをめざし、グローバルを視野に入れた1次産業での発展に貢献していきます。

図5 稲作トータル支援サービスのイメージ

久住 嘉和

NTTグループが今後も皆様から選ばれ続けるバリューパートナーとなるべく、ICTを通じてグローカルでの農業をはじめとする1次産業の発展に貢献します。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
プロデュース担当
TEL 03-6838-5364
FAX 03-6838-5349
E-mail agri-ml@hco.ntt.co.jp