トップインタビュー
Re-Design by Digital─デジタルによる社会の再構築多様性時代における価値観とフィロソフィの共有
新型コロナウイルスの感染拡大は社会に大きな変革をもたらしました。リモート生活が常態化した今、不確実な状況に適応するサプライチェーン、安心・安全なデータ連携、ビジネス環境を支えるITインフラやセキュリティに期待が高まります。より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献することを企業理念に掲げるNTTデータ。中期経営計画とトップの心構えを藤原遠NTTデータ代表取締役副社長執行役員に伺いました。
NTTデータ
代表取締役副社長執行役員
藤原 遠(ふじわら とおし)
PROFILE
1985年日本電信電話入社。1988年NTTデータ通信、2014年NTTデータ執行役員 第四金融事業本部長、2017年取締役常務執行役員、2018年代表取締役副社長 金融分野・欧米分野・グローバルマーケティング担当を経て、2020年6月より現職。
質を伴った成長を重要視すべき
今年度は中期経営計画の締めくくりの年ですね。概観をお聞かせいただけますか。
NTTデータは15年ほど前からグローバル展開を強化してきました。欧米を手始めに徐々に経験値を積んで大型M&Aを実現し、53の国・地域で事業を運営しています。連結売上高は2019年度で約2兆2700億円、13万人の社員のうち、約3分の2が外国籍で、その中で一番多いのがインド国籍です。
こうした環境の中、2019年からの中期経営計画は、2025年ごろのGlobal 3rd Stage達成に向けて極めて重要な3年間と位置付けています。「変わらぬ信念、変える勇気によってグローバルで質の伴った成長」をめざして、Growth、Earnings、Transformation、Synergyの4つの観点に取り組んでいます(1)。グローバル化をさらに進め、社会のデジタル化は加速するという見通しの下、資源を集中して新しい技術分野での強みづくりを進めています。
キーワードは「質を伴った成長」です。言い換えれば、利益の「額」だけではなく、「率」を重要視しています。ビジネスのボリュームが増えれば売上「額」は増えます。一方で利益「率」増は、お客さまからの評価の高さであると考えています。お客さまに、NTTデータが提供するサービスにはそれだけの価値があると認めていただいたからこそといえるからです。お客さまの評価は私たちのモチベーション向上にもつながりますから、デジタルを通じた顧客価値の高度化を今後も追求していきたいと考えます。
さて、2021年度は中期経営計画、3年間の締めくくりの年です。1年目の2019年度は計画を順調に遂行してきましたが、ご存じのとおり2年目の2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大が社会に大きな影響を与えました。NTTデータでも各グローバル拠点のトップたちと相当な時間をかけて実情の把握と対策の検討を重ねてきました。日本以上に海外は大打撃を受け、欧米では今も約95%の社員が在宅勤務を余儀なくされる等の厳しい状況にあります。
例年5月ごろに前年度の実績と今年度の計画についてご報告しておりますが、昨年5月の期末決算発表当時は緊急事態宣言中でもあり、計画や見通しを報告することは非常に難しい状況にありました。結果的に8月に延期して報告させていただいた通期業績目標は、第3四半期の決算発表時点では達成できる見通しです。これは、なによりも現場の頑張りのおかげですが、新型コロナウイルスによる世の中の変化を、ある意味追い風ととらえて取り組んできた結果、達成できたのではないかとも考えています。
新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大は従来のビジネスを大きく変えましたね。
私たちが提供するサービスが停止してしまえば、お客さまのみならず社会に影響を与えます。最初の緊急事態宣言のときは「この状況で本当にサービス継続できるのか」と懸念しましたが、とにかくできることをやり続けました。
パンデミック当初は、アウトソーシングを手掛ける海外の社員が出社できなくても、あるいは、お客さまのもとへお伺いできない状況下でも、サービスを提供し続けられるよう必死で対応しました。中には、国としての環境が満足に整わない中でも、苦労して環境を整えて在宅勤務をしているところもあります。今だから落ち着いて話せますが、当時は世界中の全社員が懸命に環境を整備し、ビジネスを継続するための体制を整えてくれたのです。
大きな支障もなく事業を継続することができたのは、日本を含む世界各国のお客さまのご理解と、現場の社員1人ひとりの努力の結果だと思っています。お客さまにも社員にも心から感謝しています。
前述のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大は、社会全体のあり方まで変え、その結果経済的な向かい風ともいえる部分がクローズアップされがちですが、デジタル化にとっては追い風でもありました。新型コロナウイルスの感染拡大によって、強制的にリモート環境整備が加速し、ニーズや課題も明らかになりました。私たちがこれまで積み上げてきたノウハウや、NTTグループ全体のケイパビリティである技術が貢献できる領域が広がってきたのではないかと考えます。
特に1年前と比べて、デジタル化はそのニーズが一気に高まっており、さらに強化していく必要があります。デジタル庁が設立されることとなり、官公庁のデジタル化、そして日本社会のデジタル化に臨む国家的な取り組みは加速すると思われます。これまで官公庁、金融機関などのデジタル化、決済システムなどのインフラ整備を数多く担当させていただいた私たちの強みを活かして、デジタル技術を駆使した社会全体をつなぐ仕掛けづくりに、積極的に取り組んでいきたいと考えています。
価値観やフィロソフィは共振するまで伝え続け、「着眼大局、着手小局」で進める
世界各国で多くの社員が団結して未曾有の事態に臨まれたのですね。
53の国と地域、13万人の社員の心を1つにしてビジネスを展開するために、私は常に利益目標だけではなく、多様性を重要視しつつ、価値観やフィロソフィを共有することが大切であると、一貫して伝え続けています。特にお客さまとの間に「Long-Term Relationships(長期にわたる揺るぎない関係性)」を築くことを大切にしています。一般的に、急成長するIT業界に世の中が抱く印象は「短い期間で技術を売るだけ」というのが多いかもしれませんが、私たちは違います。お客さまと長くお付き合いする、しっかりとした関係性を築くことを重要視しているのです。お付き合いの過程には、お客さまが苦しいときも私たちが辛いときもありますが、互いに理解し合えれば苦難も乗り越えられると信じています。
これらは、会社創立30周年を機に掲げたNTTデータのグループビジョン「Trusted Global Innovator」を裏打ちする姿勢です。特にTrusted、つまりお客さまとの信頼関係を築くためにはLong-Term Relationshipsは欠かせません。M&A等により外国籍企業に私たちの傘下に入っていただく際にはこうしたフィロソフィや価値観を共有できるかを確認しています。
グループビジョンの達成にあたって、グループ全社員で共有し、社員が日々実践している価値観は次の3つです。1番目はClients First。私たちが手掛けるシステムインテグレーションはお客さまの考え方や真の目的を咀嚼して、中長期的な視野からお客さまにとっての最善策を提案することです。例えお客さまからの要望であったとしても、将来的にお客さまのプラスにならないと判断したことは、はっきりとそれを伝え、代替策を示します。2番目はForesight、技術や社会の将来を見据え、必要な技術やサービスを社会やお客さまに提案することです。一例として毎年、NTT DATA Technology Foresightとして、先進技術や社会動向の調査分析によるトレンド予測を公開しています。お客さまからも進むべく道の提案を期待され続けるような存在でありたいと考えています。3番目はTeamworkです。私たちだけでできることには限界があり、特に規模の大きな事業は社内だけではなく、お客さまと一体となって築いていかなければ成し遂げられません。難局をともに乗り越えていくことで強固な関係性も築き上げられ、ともに戦いに挑んだ同志という認識も生まれます。私がまだ課長だったころのお客さまとは今でも強い絆で結ばれており、お互いの立場は変わっても20数年来のお付き合いが続いています。こうしたかかわりは個人としての資産だけではなく企業としての資産でもあります。
理念を現実のものとするために、大切にしていることがあれば教えてください。
私は、トップには明確なビジョンを持ち、それを共有するために情報を発信し、周囲を巻き込んでいくことや、社員にビジョンを理解してもらうだけではなく、共振するまで伝え続けてベクトルを合わせることが求められていると思います。社員が自然にそれを語れるようになるまでです。
また、理念は素晴らしくても現実は思いどおりに進まないことはあります。国内外の社員には次の3つを大切にしてほしいと話しています。1番目は「Interactive Communication:双方向コミュニケーション」です。コミュニケーションは相互に行われているかに留意することです。時折「それは伝えましたよね?」といった受け手の理解を意識しない、あるいは耳の痛い話は聞かないワンウェイなコミュニケーションをしてしまうことがありますが、相互にコミュニケーションを図ることを大切にしたいと考えます。2番目は「Mutual Respects:相互の尊重」です。発注者と受注者という立場には、本来、上下関係はないはずですが、時に誤解してしまうことがあります。「互いにプロとしてリスペクトし合いましょう」と、私たちが率先して示すことで相手が言いづらい話も聞かせてくれることがあります。3番目は「Passion and Perseverance:やりぬく姿勢」です。リーダーが覚悟をメンバーに示すことは、彼らの安心感ややる気を担保することにつながるため非常に重要だと考えています。正直なところ、意思表明はドキドキしますが、プロジェクトを終えたときに「やはりこれで良かったのだ」と実感しますし、「あの意思表明に心を打たれました」とメッセージが届いた際は、メンバーと共感できたと嬉しく思いました。
そして、私は「着眼大局、着手小局」をモットーに掲げています。常に社会の動向を広い視野を持って眺め、社会やお客さまがNTTデータに期待されていることを、できる限り模索しています。私は経営戦略、人事戦略と同時に技術戦略の責任者でもありますから、技術の発展を通じた社会貢献を追究しながら、大局観を持って技術を活かし、NTTデータを強い会社に成長させることを意識しています。さらにNTTデータらしいグローバルマネジメントを常に念頭に置いています。技術開発力、お客さまとの接点の各レイヤにおいて、NTTデータグループの共通財産を活かして事業を進めていきたいと考えています。
「三方痛し」で信頼関係を確固たるものにする
ところで、藤原副社長はNTT民営化1年目に入社され、NTTデータの発展とともに歩んでこられたのですね。
1985年の入社式はダイナミックループのお披露目を兼ねて行われ、大型ディスプレイに映るループを眺めたことを今でも覚えています。
1988年にはMBA(経営学修士号)取得のために米国留学をさせていただきました。当時米国では技術を十分に理解した経営の重要性が議論されており、私が留学したコーネル大学でもエンジニアリングと経営学のジョイントプログラムを検討していました。MOT(技術経営修士)の原点となる考え方でしょうね。私を含め、各国から技術の専門性をバックグラウンドとする留学生が選抜され、MBAとME(工学修士号)のダブルディグリー(2つの学位)を2年間で修了するというハードな時間を過ごしました。
入社以来、35年の間には何度も苦しい時期がありました。私は日本の金融機関向けシステム開発に多く携わってきましたが、障害が発生すると業務の遂行に致命的な悪影響が出るほど重要(ミッションクリティカル)なシステムを担当させていただいたときのことです。ミッションクリティカルなシステムを構築するときは手堅い手段をとるのが王道なのですが、お客さまも私たちも20年、30年先を見据えたシステムを構築することで合意し、先進的な技術を積極的に取り入れようとかなり大胆な決断をしました。
各レイヤに最先端の技術を駆使したシステムとしただけに、技術的な課題が山積みの状況が続きました。先の見えない状況が続く中、迫りくる期限に向けて社員は外資系ベンダとの丁々発止で疲弊していきます。私は最後までやり抜くと宣言し、ステークホルダと調整を図ろうと必死で「痛み分け」のできる可能性を探りました。時には膝を突き合わせて議論し、硬軟織り交ぜて何とか信頼関係を築き、お互いの譲れるところ、譲れないところを確認しつつ、プロジェクト全体のベクトルをそろえることができたのです。こうした経験もあって私は「三方痛し」、互いが少しずつ我慢をしながらでも前に進んでいける関係性を大切にしています。そして最後までやり抜く姿勢を見せることの重要性も実感しました。
技術分野における今後の展開と技術者の皆さんに向けて一言お願いします。
技術のレイヤでは、AI(人工知能)やBlockchain、そしてSoftware Engineering等の技術を結集して私たちの強みをつくっていきたいのです。これに関しては中期経営計画として、「グローバルデジタルオファリングの拡充」の施策の1つとして、技術集約拠点(CoE:Center of Excellence)の拡充を掲げています。これは、NTTデータグループの世界中に広がるネットワークを活かし、グローバル横断で知識の集約、トレーニング、技術支援、アセット提供等を展開し、お客さまのデジタルトランスフォーメーションに貢献していく取り組みです。これまでBlockchain、Digital Design、Agile/DevOps、AIの4つの領域において活動を進めてきましたが、さらにIoT、Intelligent Automation、Software Engineering Automation を追加し、デジタル化に必要不可欠で当社が差別化すべき先進技術分野のCoEを設立しました。これも着眼大局、着手小局の視点で、すべての課題に同時に取り組むのは難しいですから、着手すべきことを絞り込み、徹底して取り組んでいきます。
そして、技術者の皆さん。技術は世界の共通言語であると同時にご自身の強みです。どんどん出てくる新しい技術に関心を持つことも重要ですが、ご自身の核となる専門性を持ち、それを物差しに活躍できるといいですね。あるとき、電気工学の専門家の方が、揉め事を「ここには抵抗回路があるんだね」等と表現するのを聞いて、思わず感心してしまいました。皆さんきっとご自身の得意な技術はお持ちでしょうから、それを磨き上げ、新しい何かを上乗せしたり幅出ししたりする努力を最大限していただきたいと思います。私自身も新しい積み上げのために、分からないことは、恥ずかしがらずに若手社員に教えてもらったりしています。若手社員のレクチャーは刺激的で楽しいです。技術者としての研鑽は、コツコツ積み上げていかなければならず時間もかかりますが、しっかりと重ねていきたいですね。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
■参考文献
(1) https://www.nttdata.com/jp/ja/ir/management/plan/
※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。
分刻みのスケジュールで働くトップにお話を伺うときは1秒でもその時間を無駄にしないようにスタッフ一同、万全の体制でお迎えします。ところが藤原副社長はお約束の時間前にインタビュー会場に到着され、まだ準備の最中にもかかわらず、時間を共有してくださいました。技術者であったお父さまのお話やバックパック1つで欧州を旅行中に寝台列車で財布泥棒の難を逃れた笑い話、そして留学時代のお話まで、書ききれなかったたくさんのエピソードを朗らかに語られ、私たちをリラックスさせてくれました。
また、副社長のご著書『サステナベーション』はコロナ禍にあった2020年6月に上梓されました。持続可能な社会は常に変化し続けることで永続性を確保できると結ばれた著書には、インタビューで伺った副社長のお考えが事例とともに凝縮されており、まさに羅針盤となる一冊です。藤原副社長のご発言を支える綿密な調査分析力に圧倒されます。こうした明るく朗らかな語らいの時間や精緻な分析を基に執筆されたご著書を手にして、改めて副社長が多くの方を魅了してこられたことが分かりました。物事をなすとき、遠回りをしても正しい道を歩んでほしいという願いが込められた「遠」という副社長のお名前に、名は体を表すということわざを実感したひと時でした。