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テクニカルソリューション

最新の故障事例の紹介─設備の材料劣化に関するトラブル

通信設備は、安心・安全で安定した通信サービスを提供するために日々点検、保守・運用されています。NTT東日本 技術協力センタでは、このような通信設備に対し、経年劣化による故障や経年劣化だけでは説明できない特異故障について、材料的な観点から原因の究明と防止対策の提案を行っています。ここでは、最近発生した鋼管柱の特異的な腐食事例やNTTビルの搬入口の手摺り扉の腐食による故障事例について紹介します。

はじめに

NTTの通信ケーブルは、NTTビルからマンホールなどの地下設備を介して、電柱などの架空設備へ架設されユーザ宅へ敷設されます(図1)。NTTビル内の設備(NTT設備)や電柱等は、膨大な数量が日本全国に設置されており、腐食に起因する故障事例が発生しています。NTT東日本 技術協力センタ 材料技術担当では、腐食による特異故障の原因究明と再発防止策などの現場への提案を行っています。ここでは、近年のNTT設備における鋼管柱の特異的な腐食の事例やNTTビルの搬入口の手摺扉が腐食により破断した事例に関して、当センタの原因究明に向けた取り組みを紹介します。

鋼管柱の特異的な腐食事例

■設備の状況

今回紹介する特異的な腐食が確認された鋼管柱の現場の状況を図2に示します。鋼管柱の設置環境は、沿岸部から約10 kmで塩害の影響が小さいと考えられるエリアです。鋼管柱の外観は、鋼管柱の片面に地際部から全長にわたる表面錆(赤錆)が発生していました。さらに、赤錆は鋼管柱の南向きの風上側に発生しており、風下側には発生していませんでした。また、鋼管柱の頭部キャップには土砂が付着していました。

■腐食原因の調査

金属の腐食は、海塩粒子などの塩分が付着することで促進されます。そこで、鋼管柱表面を不織布(小津産業社製ベンコット)で拭き取り、採取した表面付着物の種類や量を分析する「拭き取り試験」を実施しました(図3)。さらに付近の畑の土砂を回収することで、鋼管柱の付着物との比較を行いました。
イオンクロマトグラフにより、拭き取り試験で得られたサンプルと、回収した付近の畑の土壌のイオン種や付着量の分析をしました。その結果、表面付着物として金属腐食を促進させるイオン種である塩化物イオン、硫酸イオンや硝酸イオンを検出しました(表1)。また、これらのイオン種は、腐食面および非腐食面の両面で付着量に顕著な差異はなく、濃度も比較的低い数値を示しました。さらに、鋼管柱周囲の畑の2地点から採取した土砂A、土砂Bからもほぼ同種のイオン成分を検出しました(表2)。なお、土砂Bにおいて塩化物イオンが未検出なのは、土砂Aの畑とは異なる作物の畑であったことから、異なる肥料や土質であったことが考えられます。表面付着物および土砂の分析結果から、鋼管柱表面や頭部キャップに畑の土砂が付着していることが推察されます。
次に、鋼管柱が設置されているエリアの気象条件を調べると、南からの風が年間平均風速約3.0m/sを超える強風エリアであり、沿岸部から約10 kmで塩害の影響が小さいと考えられます。設置されている鋼管柱は南からの強風にさらされており、今回腐食している面と一致することから、風によるなんらかの影響を受けているのではないかと考えられます。

■特異的な腐食事例の原因と今後の対策

鋼管柱の腐食を促進させる成分が、腐食面およびその裏面の非腐食面の両面で同程度の付着量であったことから、片面でのみ赤錆が発生する今回の事例の主要因ではないと考えられます。一方で、鋼管柱表面の腐食状況が部位によって異なることから、表面付着物以外の作用によって腐食が促進されたと推察されます。なお、表1に示す鋼管柱および頭部キャップの付着成分は、表2に示す周囲の畑の土砂と同種の成分が検出されたことから、鋼管柱には畑の土砂が付着していると考えられます。
以上より、腐食のメカニズムは鋼管柱の設置環境が南風を中心とした強風エリアであり、強風に巻き上げられた土や砂の粒子が風上側の鋼管柱表面に衝突することにより亜鉛めっきが摩耗して消失したため、風上側の鋼材表面のみで腐食が進行し、赤錆が発生したと推察されます(図4)。今回の鋼管柱は、流体中に含まれる固体粒子などにより材料が摩耗・損傷される現象である「サンドエロージョン現象」により腐食が発生したことが示唆されます。
今回、調査を実施した鋼管柱の地際の防食塗装(タールエポキシ樹脂塗装)は、軽度の損耗程度であるため、現状では安全性にかかわる強度低下はないと考えられます。一方で、鋼管柱の片側全面にわたる表面錆の発生により、めっき部が消失していることから、将来的には腐食の進行が早まることが予想されるため、計画的な更改が必要となります。

NTTビルの搬入口の手摺り扉の腐食破断事例

■設備の状況

NTTビルには、上層階に通信装置を搬入するために、搬入口が設置され、転落防止等のための手摺り扉が設置されています。今回、あるNTTビルへの機器搬入時に手摺り扉を開けようとした際に、手摺り扉の蝶番部分が破断して、手摺り扉が外れる事例がありました。

■破断面分析および破断再現試験

手摺り扉の構造と破損した蝶番の写真を図5に示します。蝶番の上部側(写真A、B)の心棒の破断面は発錆しており、破断後一定の時間が経過していたと考えられます。一方、蝶番の下部側(写真C、D)の心棒の破断面は金属光沢が残っていたため、今回、手摺り扉を開けたときにねじ切れたものと考えられます。
現場より撤去した蝶番の破断面の観察を走査型電子顕微鏡(SEM)により実施しました。破断面A、Bは発錆が進行しており、破断面表面を観察することができませんでしたが、破断面CのSEM像では、金属に過負荷がかかり破断した際にみられる特徴的な断面形状である伸長ディンプルが観察されました(図6)。また、下部側の蝶番を分解すると、蝶番と心棒との間に発錆がみられました。
心棒の破断原因を追究するために、現場より撤去した蝶番の心棒の直径(10 mm)と同様の軟鋼製のボルトをねじ切る破断再現試験を行い、その際に心棒にかかるトルクの計測および破断面の観察を行いました。その結果、約100 N・mのトルクで心棒が破断しました。また、ねじ切り後の心棒の破断面をSEM観察した結果、破断面Cと類似した伸長ディンプルが確認されました(図7)。

■破断の原因の推定

上記の破断面の観察や破断再現試験の結果より、手摺り扉の破損原因は以下のステップで進行したと推定しました。
① 当該ビルは海岸からも離れており塩害による腐食の影響が小さいと考えられる地域ではあるが、上部の蝶番と心棒はすき間に滞留した水分の影響で、経年によって腐食が進行し、固着した状況で利用されていたと考えられる。また破断面から扉上部の心棒(A、B)は、事例発生当日よりも以前に破断していたものと考えられる。
② 時間経過とともに下側の扉の蝶番と心棒も腐食で固着したため、事例発生当日には、扉がスムーズに開閉できなかった。
③ 開閉しづらくなった扉を作業者が強い力で開けようとして、破断トルクを上回ったため下部側心棒(C、D)がねじ切れた。
手摺り扉など使用頻度が少なく蝶番のような目視で確認できない構造を有する設備においては、気付かないうちに腐食が進行していることが考えられます。その場合、無理に扉の開閉を実施すると、蝶番のような可動部位が破断し、上層階から扉が落下するなどの2次災害等が起こる可能性があります。そのため、使用頻度が少なく、腐食が予想される設備については、使用する際に点検を実施し、扉が開きにくいなどの不具合があった場合は、慎重に開閉するとともに、交換などの適切な措置が必要になります。

今後の展望

今回紹介したように、通信設備はさまざまな環境に設置されることや、長年にわたり利用することなどから、金属、プラスチックなどの材料が劣化し、想定していなかった故障が発生することがあります。そのため、長く安全に設備を利用するためには、日々の点検や利用前の点検をしっかりと行うことが必要です。技術協力センタ 材料技術担当では、設備の長寿命化や事故防止のために、材料の劣化原因の究明や対策方法を立案し、現場にフィードバックしています。これまで56年以上にわたり行ってきた技術協力活動で蓄積された知識と経験を基に、通信設備の信頼性向上や故障の早期解決だけでなく、新たな技術への対応や保守コスト低減に向けた取り組みを進めていきます。

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ 材料技術担当
TEL 03-5480-3703
E-mail zairyo-ml@east.ntt.co.jp