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テクニカルソリューション

最近の故障事例の紹介 ―― 設備の材料劣化に関するトラブル

通信設備は、安心・安全で安定した通信サービスを提供するために日々点検し、保守・運用されています。技術協力センタでは、このような通信設備に対し、現場で発生した経年劣化による故障や経年劣化だけでは説明できない特異故障について、材料的な観点から原因の究明と防止対策の提案を行っています。ここでは、最近現場で発生した架空設備および地下設備での故障事例について紹介します。

はじめに

情報通信サービスは、通信センタビルからお客さま宅までさまざまな設備を介して提供されています。例えば光回線サービスの場合、図1に示すように、通信用光ケーブルは、通信センタビルからマンホールや管路などの地下設備、地上の電柱などの架空設備を経由してお客さま宅までつながっています。そのため、通信設備は、さまざまな環境下で、多くの劣化につながる外的要因の中に設置されています。

図1 通信設備

2号B自在バンドの破断事例

設備の状況

2号B自在バンド(Bバンド)は、軽量化した通信ケーブルや引込み線を電柱に固定する際に使用する金属性の物品です。故障発生場所の写真を図2に示します。故障の発生した設備の近傍には、比較的障害物が少ないことや、蔓が生えている場所があることが分かります。発生当時、当該区間の通信ケーブルには約22 mにわたり、蔓が巻きついている状況でした。また、破断したBバンドは、設置から約8年経過していましたが、赤錆の発生は確認されず、金属の腐食による破断ではないことが分かりました。

図2 現場と破断時の状況

Bバンドの破断面の分析

腐食以外での金属破断の要因には、①引っ張りによる破断(延性破壊)、②繰り返し応力による破断(脆性破壊)、③それ以外の外的要因(車両衝突等)が考えられます。それぞれの要因ごとに特徴的な破断面を有するため、要因を確定するための1つの方法として、顕微鏡による断面観察を行いました。走査型電子顕微鏡によるBバンドの破断面観察結果を図3に示します。断面全体に、等軸ディンプル(引張破断による塑性変形が伴った窪み状の模様)や伸長ディンプル(破断面が引き伸ばされた模様)という延性破壊に特徴的な破断面の組織形状が観察されました。したがって、破断面の状況、および現場の状況から、今回の破断は蔓がケーブルに絡まったことにより、Bバンドに過大な荷重が掛かり延性破壊を起こしたと考えられます。

図3 Bバンドの破断面の観察

破断原因の検証実験および今後の対策

延性破断したBバンドについては、引っ張り試験により、切断部以外の強度を確認しました。その結果、バンドの金属自体は規定を満足する強度を持っており、金属自体の製品不良ではないことが分かりました。故障時の状況から22 m巻き付いていた蔓によるケーブル自重の増加、および電柱間を吹き抜ける風の影響が加わったのではないかと仮定し、Bバンドに加わる荷重を試算しました。その結果、Bバンドに加わった荷重は、規定の破断荷重を約1.5倍上回る値となりました。したがって、蔓が巻きつくことによる荷重の増加と風による荷重の増加で、バンドに過大な荷重が加わり、延性破壊を引き起こしたと考えられます。
今後の対策として、下記の2点を提案しました。

① 蔓を除去し通信ケーブルに必要以上の荷重を掛けない
② 除去ができない場合は蔓が絡まないように、通信ケーブルと樹木の離隔を確保する

マンホール内での白色析出物の発生事例

設備の状況

図4に示すような放射状で大面積の白色析出物が、マンホール(MH)内の壁面で確認され、技術協力センタに設備への影響と人体への影響について調査依頼がありました。
現場のMHは、昭和50年代に建設され、交通量の多い交差点内の道路に設置されていました。またMH内を詳細に確認したところ、白色析出物以外にもMH上床板や管路ダクト近傍において、多数のコンクリートの浮き、剥離、ひび割れを確認しました。特にMH上床板では、コンクリートの剥離、鉄筋の露出、鉄筋の腐食(さび)が発生していました。さらにMH内の壁面では、段差および空隙などを確認しました。

図4 白色析出物の発生状況

白色析出物の分析

白色析出物をより詳細に確認するため、光学顕微鏡で観察しました。その結果を図5に示します。図5から、白色析出物は針状の形をした結晶であり、金属等の無機物質ではしばしば見られる結晶の形態でした。さらに、エネルギー分散型X線分析装置により、主要な構成元素はカルシウムでした。また、X線回折分析装置により、含まれる結晶相は炭酸カルシウム(CaCO3)などであることを確認しました。したがって、白色析出物はMHのコンクリート成分が溶出および析出したものと考えられます。そのため、この析出物自体がMHのほかの部分や人体に影響を与えることはありません。このような事例はエフロレッセンス(白華現象)と呼ばれています。しかし、本事例のような、放射状で大面積のエフロレッセンスが観察されることは稀です。

図5 析出物の光学顕微鏡写真

今後の対策

大面積のエフロレッセンス、コンクリートの剥離、鉄筋の腐食が確認されたことから、今後の対策として、下記の3点を提案しました。

① MH内の詳細点検を実施し、剥がれたコンクリートの補修や補強を実施する
② MH内での建設工事時や保守運用時に既定の点検を丁寧に実施し、劣化の起点となるひび割れなどの不良個所の補修を行う
③ 経過観察をしながら、エフロレッセンスが断続的に発生するようであれば、MHの取り換え等を行う

今後の展望

今回紹介したように、通信設備の設置環境は多種多様であるため、複数の要因により劣化し故障発生につながる場合があります。このような特異な故障事例を防ぎ設備の長寿命化、安心・安全で安定したサービス提供を行うために、今後も技術協力センタでは、現場と連携しながら材料に起因するような特異故障の原因の究明、防止対策を立案し、現場にフィードバックしていきます。技術協力センタでは、56年以上にわたり技術協力活動を行ってきました。これまでに蓄積された知識と経験を基に、引き続き通信設備の信頼性向上や故障の早期解決、および保守コスト低減に向けた取り組みを進めていきます。

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ 材料技術担当
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E-mail gikyo-ml@east.ntt.co.jp