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IOWN構想特集 ─オールフォトニクス・ネットワーク─

オールフォトニクス・ネットワークを支える光フルメッシュネットワーク構成技術

本稿では、超高臨場感サービス等の提供を支える多様かつ大容量なコンテンツの超低遅延な伝送を実現する光フルメッシュネットワークのコンセプトと、その実現に必要となる技術を紹介します。また、光フルメッシュネットワークのコンセプトを具現化した、大容量光伝送システムにおける8K非圧縮映像伝送のデモンストレーションを紹介します。

河原 光貴(かわはら ひろき)†1/ 関 剛志(せき たけし)†1/ 須田 祥生(すだ さちお)†1/ 中川 雅弘(なかがわ まさひろ)†1/ 前田 英樹(まえだ ひでき)†1/ 持田 康弘(もちだ やすひろ)†2/ 築島 幸男(つきしま ゆきお)†2/ 白井 大介(しらい だいすけ)†2/ 山口 高弘(やまぐち たかひろ)†2/ 石塚 美加(いしづか みか)†3/ 金子 康晴(かねこ やすはる)†3/ 越地 弘順(こしぢ こうじゅん)†3/ 本田 一暁(ほんだ かずあき)†4/ 金井 拓也(かない たくや)†4/ 原 一貴(はら かずたか)†4/ 金子 慎(かねこ しん)†4

NTTネットワークサービスシステム研究所†1
NTT未来ねっと研究所†2
NTTネットワーク基盤技術研究所†3
NTTアクセスサービスシステム研究所†4

はじめに

NTT研究所では、超高精細映像情報に加えて、触覚や聴覚といった五感情報を含む多様なコンテンツをリアルタイムに共有し、時空間の壁を越えた超高臨場感サービス(1)の提供をめざしています。しかし、このようなサービスを多くの人に利用していただくためには、多様かつ大容量なコンテンツを低遅延で伝送できるネットワークが必要になります。このようなネットワークを提供するため、IOWN構想(2)の一環として、フォトニクス技術をベースにした革新的ネットワークであるオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現をめざしています。NTTネットワークサービスシステム研究所、NTT未来ねっと研究所、NTTネットワーク基盤技術研究所、NTTアクセスサービスシステム研究所では、APNのトランスポート機能の大容量化、低遅延化を実現する光フルメッシュネットワークの検討に取り組んでいます。

光フルメッシュネットワークのコンセプト

従来のネットワークでは、送信したいコンテンツをネットワークに収容する際、通信回線容量による制約でデータ圧縮処理が必要であったり、IPプロトコルによるルーチング制御のためIPパケットに変換したり、多重・スイッチ制御のためイーサネットフレームに収容していました。これにより、データ圧縮による遅延や、パケットの待ち合わせ処理で発生する遅延が発生、従来の端末間通信における遅延の支配的要因となっていました。
一方、 図1に示す光フルメッシュネットワークは、光バックボーンネットワークおよび光アクセスネットワークを、パケット変換や多重・スイッチ制御といった電気処理を極小化したフォトニックゲートウェイ(Photonic GW)と呼ぶ光ノードで中継し、サービスごとに光パスをエンド・ツー・エンドで提供します。 これにより、データ圧縮時の遅延やパケットの待ち合わせ処理における遅延が解消され、大容量かつ超低遅延なネットワークを提供できます。

図1 光フルメッシュネットワークの概要

光フルメッシュネットワーク構成技術

光フルメッシュネットワークの実現に向け、以下の3つの技術を中心とした光フルメッシュネットワーク構成技術を検討しています。
(1) 1Pbit/s級の超大容量光伝送システム構成技術
1Pbit/s級のシステム容量を有する超大容量光伝送システムの実現をめざし、光チャネル高速化技術、複数の波長帯における波長多重信号伝送を行うマルチバンド伝送技術、マルチコアファイバ等の新規光ファイバ上で光信号伝送させる空間多重伝送技術、を組み合わせたシステム構成技術の検討を進めています。このようなシステム構成技術を支えるデバイス技術の詳細は、本特集記事『超大容量光通信技術』を参照してください。
(2) IP非依存で伝送するプロトコルフリーメディア伝送基盤技術
非圧縮映像・音声、さらには五感情報や感情に至るあらゆるメディア情報を、プロトコルやインタフェース種別やフォーマットを意識させないエレメンタリーストリームとして、IP非依存で伝送する検討を進めています。SDI(Serial Digital Interface)/HDMI(High-Definition Multimedia Interface)ケーブルを流れる4K/8K高精細映像信号、MADI(Multichannel Audio Digital Interface)/AES(Audio Engineering Society)ケーブルを流れる音声信号、ストレージ/メモリとネットワークインタフェース間を流れるPCI(Peripheral Component Interconnect)バス信号などを光信号に直収し、メディアの伝送路をオール光化して、IPによる経路制御(ルーチング)を必要としない光のパスでエンド・ツー・エンドを直接結ぶことで、大容量かつ超低遅延なメディア伝送を実現します。手始めに、同軸ケーブルを用いて非圧縮映像・音声を伝送するSDIを光パスに収容するインタフェース技術の開発を進めています。SDIは放送局内の設備の配線で使用されていますが、本技術ではユーザに伝送プロトコルや経路制御を意識させることなく、局内の配線を行うような感覚で、遠隔地との接続を提供できるようになると考えています。現在、スポーツ等のイベントを放送局外から中継する場合には、編集スタッフ・編集機材を積んだOB VAN(中継車)のイベント会場への派遣が必要ですが、本技術によって、イベント会場から放送局までの光の直通パスで素材映像を伝送しながらオンライン編集を行うといったような効率的な制作ワークフロー(リモートプロダクション)の現実味が増すことになるでしょう。そのような、これまでにないアプリケーションの開拓をめざします。
(3) トポロジフリーなアクセス系波長管理制御技術
あらゆるユーザ装置にエンド・ツー・エンドで光パスを提供するAPNを実現するために、ユーザ装置が送受信する波長を光パスごとに遠隔管理制御することが必要となります。これに対して、アクセス面とローカルフルメッシュ面を接続するPhotonic GWの主要機能の1つとして、アクセス面の波長管理制御の検討を進めています。伝送媒体を共有する光パス間で波長の重複が生じないように、Photonic GWは、波長の割当を行う上位のシステムと連携して各々のユーザ装置へ波長を払い出し、ユーザ装置に対する波長制御指示、常時波長監視を行います。ユーザ装置は、Photonic GWから通知される波長制御指示に従って、光トランシーバの波長を設定します。Photonic GWからユーザ装置への波長制御指示の方法として、ユーザ信号と干渉しない低周波数帯に管理制御信号をAMCC(Auxiliary Management and Control Channel)として重畳して同一波長で通知することを検討しています。AMCCを用いることにより、通信プロトコルや光変調方式、さらにはネットワークトポロジに依存せずに、どんなユーザ装置でも光ファイバに接続すればすぐにつながる光ネットワークの実現をめざします。

デモンストレーション:大容量光伝送システムにおける8K非圧縮映像伝送

私たちは、これらの技術に基づき、光フルメッシュネットワークの有効性を示すデモンストレーションを実施しました。まず、光フルメッシュネットワークを支える大容量光伝送システムとして、ファイバ1本当り0.24 Pbit/sのシステム容量(現行商用システムの約30倍のシステム容量)を有する伝送実験系を構築しました。本システムの実現にあたり、光チャネル高速化技術として600 Gbit/s/λ光信号をリアルタイムに送受信可能な世界最先端のトランスポンダを試作しました。また、図2に示すように、生成された600Gbit/s/λ光信号をC帯とL帯という2つの伝送波長帯に最大100波長分を高密度波長多重により配置しました。さらに、4つのコアを有するマルチコアファイバを試作し、すべてのコアを用いて波長多重信号を伝送させる空間多重伝送技術を適用しました。これらのキー技術の組み合わせにより、大容量光伝送システムを実現しています。
この光伝送システム上で、600Gbit/s/λの光パスに8K映像コンテンツを収容して伝送しました。大容量光パスを利用することにより、8K映像のリアルタイム非圧縮伝送が可能になりました。比較のために同じ光パスに収容した8Kの圧縮映像と比べて、画質劣化なくおよそ30分の1の低遅延性を示しました。非圧縮で伝送された8K映像図3(右)は、圧縮映像よりも高品質・低遅延であることを示しています。IP非依存のメディア伝送技術の研究開発を進めることによってさらなる低遅延化が可能であると考えています。

図2 大容量伝送システムの光スペクトル

図3 8K映像コンテンツの伝送結果

今後の展望

本稿では、多様かつ大容量なコンテンツの超低遅延な伝送を実現する光フルメッシュネットワークのコンセプトと必要な技術を紹介しました。光フルメッシュネットワークは、例えば、金融系、医療系などの、低遅延性が求められるネットワークに対する適用が考えられ、これにより、帯域や遅延に律速されないストレスフリーな通信を提供できます。今後、適用領域におけるネットワーク要件を考慮しつつ、要素技術の早期の確立をめざしています。

■参考文献
(1) 阿久津・南・日高:“超高臨場感通信技術Kirari! Beyond 2020,” NTT技術ジャーナル, Vol.30, No.10, pp.12-15, 2018.
(2) https://www.ntt.co.jp/RD/techtrend/pdf/NTT_TRFSW_D.pdf

(上段左から)前田/河原/須田/関/中川/築島/白井/山口/持田
(下段左から)石塚/越地/金子/金井/原/金子/本田

光フルメッシュネットワークの実現に必要な要素技術を実用化のレベルまで磨き上げるだけではなく、多くのユーザにどのように新たな価値を提供できるのかも併せて考え続けていきたいと思っています。

問い合わせ先

NTTネットワークサービスシステム研究所
ネットワーク伝送基盤プロジェクト
TEL 0422-59-6721
FAX 0422-59-4656
E-mail hiroki.kawahara@hco.ntt.co.jp