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特集

NTTグループの食農特集──一次産業を日本の成長産業へ

SDGsの取り組み「地域食品資源循環 ソリューション」

NTT西日本グループは“ソーシャルICTパイオニア”として、ICTのチカラで地域課題を解決し、持続可能な社会をつくることで、地域から愛され信頼される会社をめざしています。地域通信事業の保守業務を中核事業とするNTTフィールドテクノでは、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)などICTの活用により食品リサイクル事業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し、食品残渣(ざんさ)の堆肥化について優れた技術実績を有する株式会社ウエルクリエイトと提携し、食品リサイクルの普及に資する「地域食品資源循環ソリューション」の提供を2019年4月から開始しています。本稿では、SDGs(持続可能な開発目標)に向けたNTTフィールドテクノの食品資源循環に関する取り組みを紹介します。

中山 実(なかやま まこと)/中西 文洋(なかにし ふみひろ)
宮奥 健人(みやおく けんと)

NTTフィールドテクノ

食品リサイクルの現状

■地域食品資源循環ソリューション

食品関連事業者にとって、食品残渣(ざんさ)を廃棄物として処理するコストに比べて、食品リサイクルの導入に要するコストのほうが高いことが食品リサイクルの普及を妨げる大きな要因となっていました。
本ソリューションの食品残渣発酵分解装置は、野菜などの食品残渣の分解性能に非常に優れた微生物を利用することにより、投入された食品残渣を短時間で5〜10分の1の量の一次発酵物に分解縮小し、これによりコスト要因となる収集運搬作業を効率化しコストを削減します。さらに、事業者に対して、装置レンタルを含め月額制のサービスとして一連のソリューションを提供することで、食品リサイクルの導入における初期投資が不要なうえ、月々の食品残渣処理コストを大幅に削減することができます(図1、2)。
「地域食品資源循環ソリューション」は、全国オンサイト体制を擁するNTTフィールドテクノがサービス提供元となり、高性能な食品残渣発酵分解装置をお客さまへレンタルし、設置するとともに、定期メンテナンス、保守などを含むサービスを全国で広く提供できるようにしています(図3)。
本ソリューションの導入にあたっては、お客さまに確実にコストメリットを享受していただけるよう、①導入コンサルティングを行い、さらに必要に応じ、②残渣の分解発酵や臭気に関するテストおよび実機によるトライアルを実施します。
コストシミュレーション、食品残渣分解テストは無償で実施しますので、お客さまは初期投資不要で本ソリューションを導入し、月々の食品残渣の処分コストを削減することができます。実機によるトライアル(3カ月程度)は有償となります(図4)。

■ICTを活用した食品資源循環

(1) 耕作放棄地の畑化、農耕地の肥沃化
農業業界では、この20年で約2倍になっている耕作放棄地の拡大が問題となっています。主な原因は農家の高齢化ですが、その背景には化学肥料の利用による土の劣化により作物が育ちにくく、儲かる農業が難しくなってきたためともいわれています。さらに、これらの耕作放棄地は、雑草の繁殖や害虫の発生など近隣の農家にも大きな影響を与えています。
この耕作放棄地の問題を解決する手段として、地域食品循環ソリューションで発生した食物残渣に、地域で入手可能な有機資材(例:牛糞・鶏糞、もみ殻、米ぬか等)を加えてつくったリサイクル有機堆肥の活用を堆肥・育土研究所とともにノウハウ(温度・湿度・PH調整等)をデジタル化しています。
NTTフィールドテクノでは、高品質有機堆肥の非常に難しい製造工程を開発したIoT(Internet of Things)センサ等にてデータ取得し、そのデータを基に安定した高品質の堆肥や培養土を作成する仕組みをつくり、農業の基礎となる土づくりを支援しています(図5)。
現在、岡山県の大規模農業法人と高品質有機堆肥の活用による「耕作放棄地の畑化、農耕地の肥沃化」に関する共同実証を行っており、土壌の物理性、化学性、微生物性などについて、ドローンでの空撮画像、IoTセンサによる土壌データ等を取得し、短期間かつ低コストで土壌を肥沃化できる方法を実際に葉物野菜の圃場にて比較実証しています。
(2) 有機農業支援事業
地域食品循環ソリューションは、食のリサイクルループ実現に向けて、農業業界が抱える課題にも取り組んでいきます。農業業界では、勘と経験に依存した農業が主であり、経験と伝承によりノウハウが受け継がれてきた経緯があります。昨今の農家高齢化および離農者の増加に伴い、このノウハウの消失が大きな問題になっています。
NTT西日本グループが持つセンシングや通信等のICTを活用し、堆肥化、土壌改良のみならず営農ノウハウ、特に有機農業分野での農法のデジタル化を進めていき、有機農業者にノウハウを享受していくことで、有機農業支援を推進していきます。現在、複数の篤有機農家とミニトマトや葉物野菜について品種選定、育苗、定植、潅水から作物の栄養価の評価等の全工程について、デジタル化を進めており、省力化・自動化を行うことでの収益性の向上について実証しています。

今後の展開

コロナ禍が1年以上にわたって続き「家庭内で食事をとる、つくる」機会が増加しました。この状況下において、中食やミールキット宅配といった新たな食品流通市場が拡大し、食品・食材選びの選択肢も増加しています。このような環境変化の中で、消費者の食へのニーズがより多様化し深化していく結果、食に対する安全性、食品ロス削減やサスティナビリティへの意識がさらに高まっていくものと想定されます。
NTT西日本グループでは、このような市場ニーズの変化を踏まえ、地域食品資源循環ソリューションを軸とした資源循環型スマート・バリューチェーンを構築することにより、健康志向、自然志向を有する消費者の皆様へ「資源循環の輪の中にある健康で豊かな生活」といった新たな価値を提供するとともに、食品ロスのない持続的な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

(左から)中西 文洋/中山 実/宮奥 健人

世界的にみても日本では多くの食品が廃棄され、まだまだ活用されていないのが現状です。NTTグループ内外の会社とのアライアンス、研究や技術の実用化を通じて、食品リサイクルをすることが当たり前になる世の中をめざしていきます。

問い合わせ先

NTTフィールドテクノ
首都圏営業本部
TEL 03-6260-6776
E-mail recycle@west.ntt.co.jp