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from NTT西日本

道路路面診断ソリューション ―― AI解析技術を用いて道路管理の効率化

NTTフィールドテクノでは、インフラ設備の構築、保全にかかわるノウハウを活かして、社会インフラの維持をテーマに新規ビジネス創出に取り組んできました。今回紹介する道路路面診断ソリューションでは、全国の自治体が抱える大きな課題である、道路の舗装点検にかかるコストと労力に対して、NTTグループの保有するAI(人工知能)技術等を活用し、新たな点検手法を確立することで、低コストで効率的な道路の点検を実現させました。

道路インフラと道路舗装点検の現状

高度成長期に集中的に整備された舗装道路は建設後40年以上が経過し、老朽化が進行しています。近年ではトンネル崩落事故や道路陥没事故などが発生していることもあり、道路路面の損傷に起因する事故を未然に防ぐためにも、予防保全型管理の必要性が高まってきています。そこで国土交通省は、従来から定期点検が義務付けられていた主要道路以外にも、生活道路における道路の点検、管理を強化する方針を示し、新たな点検要領を策定しました(1)、(2)。従来の道路点検手法では、自治体の管理している主要道に路面性状測定車を走らせ、「平坦性」「ひび割れ率」「わだち掘れ量」のデータ収集・管理を求めています。しかし、路面性状測定車による点検にかかるコストは非常に高く、新たな点検要領に沿って生活道路を含めたすべての管理道路での点検において、路面性状測定車を走行させることはできません。そのため、日常的に点検ができていない道路については、住民からの通報やパトロール時の目視点検を行い、修繕対応を実施するケースがほとんどで、予防保全とは程遠い現状となっています。
このような社会課題があるにもかかわらず、道路インフラの維持、点検にかかわる修繕費は1990年代半ばをピークに大きく減少しており、現在では限られた財源の中での計画的なアセットマネジメントが大きな課題となっています。

道路路面診断ソリューションの概要

前述の課題から、NTTフィールドテクノでは従来の点検手法とは異なる方法で道路の舗装点検を行い、低コストかつ効率的な点検が可能となる道路路面診断ソリューション(本ソリューション)を開発しました(図1)。
本ソリューションでは路面性状測定車のように高価な機材を用いず、市販のビデオカメラとスマートフォンといった安価な機材を用いて、点検の要する道路を走行し、路面状態の撮影とデータの収集をしています。そこで撮影された道路の動画データは、画像データへ変換したのちにAI(人工知能)解析にかけ、画像データからAIが自動で「ひび割れ個所の判定(図2)」「ひび割れ率の算出」を行います。またスマートフォンの加速度センサから取得された走行データを基に「IRI(International Roughness Index)*」の算出をしています。このように、AI等のシステムを活用することで、道路の点検にかかるコストの削減と点検業務の効率化、点検結果の平準化を実現しています。また、これらの解析結果を「クラウド地図上に可視化」し、お客さまへ提供することで、お客さまが点検結果を容易に確認することも可能となります。
ここまでの一連の作業をパッケージ化したものを道路路面診断ソリューションとして、NTTフィールドテクノからお客さまへ提供しています。

* IRI:1989年に世界銀行が提案した路面のラフネス指標。路面の平坦性を数値化しています。

図1 道路路面診断ソリューションの概要

図2 ひび割れ判定結果

ひび割れ解析ソリューション

本ソリューションのひび割れ解析手法として、NTTコムウェアの提供するDeepLearning技術を活用した画像認識AIであるDeeptector®(ディープテクター)を用いてひび割れ解析を行います。まず、一般車両の車上後方にアクションカメラを取り付け、路面状態の撮影をします。そこで撮影された動画データをNTTコムウェアのAI解析にかけることで、人の目視確認に近いひび割れの検出とひび割れ率の算出がされます(図3)。また、ひび割れ検出結果は、撮影時に取得したGPS情報を用いることで、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)上でも確認することができるため、補修計画や住民通報対応などの道路維持管理業務の効率化も可能となります。

図3 ひび割れ解析ソリューション概要

IRI解析ソリューション

本ソリューションは平坦性解析手法として、東京大学とJIPテクノサイエンス株式会社が提供する「DRIMS®(スマートフォンを用いた道路の路面性状把握システム)」を用いてIRIの算出を行います。このDRIMS®を搭載した特定の車での測定結果は、土木研究センターの路面性状自動測定装置の性能試験に合格しており、IRIの精度は路面性状測定車と同等といえます。また、事前にキャリブレーション作業を実施することで、車両特性を考慮したデータの算出が可能となるため、車両の制限がなく計測が可能となります。測定方法としては、測定用iOSアプリをインストールしたスマートフォンを車のダッシュボード上へ設置して測定対象となる道路を走行し、スマートフォンに搭載されているセンサデータ(加速度、角速度)からIRIを算出します。また、ひび割れ解析結果と同様に、スマートフォンのGPS情報を用いることでIRI解析結果をGIS上で確認することができます。
このDRIMS®は、国土交通省「路面性状を簡易に把握可能な技術」試験において、上位3社の路面性状測定車と同等の評価、スマートフォンを用いた3社中最高評価を受けています。

本ソリューションの信頼性の検証

本ソリューションでは、従来の点検手法として使用されている高価な機材を用いず、市販で用意できる安価な機材での点検手法を提供しています。そこで、本ソリューション解析精度を検証するため、従来から路面性状点検を実施しているアジア航測株式会社へ依頼し、本ソリューションの測定・解析結果とアジア航測の保有する路面性状測定車にて測定・解析結果の比較検証を行いました。測定に関する前提条件として、2つの車両で同じ路線を測定し、片側2車線の場合は外側車線を、片側3車線以上の場合は外から2番目の車線を比較対象路線としています。

ひび割れ解析結果の比較・考察

本ソリューションと路面性状測定車のひび割れ比較方法は、解析結果から算出されたひび割れ率と検出画像を比較対象としました。本ソリューションと路面性状測定車で測定・解析されたひび割れ率の解析の結果は図4となり、グラフから見てもひび割れ率の算出結果は、ほぼ近似しています。グラフの中で大きく乖離している個所(図4の2200 m付近)を解析画像から比較したところ、本ソリューションのAIでは路面上に映る影を認識し、ひび割れ解析から除外する動作となっているため、影の中にあるひび割れも除外されたかたちで解析結果として算出されています。一方、路面性状測定車では、目視による判読を行っているため影による影響がなく、解析結果として算出されていることから、本ソリューションとの比較ではひび割れ率が低くなり、路面性状測定車との解析結果に乖離が発生したかたちとなりました。しかし、その他の場所では乖離が少なく、簡易機材でも十分なひび割れ解析結果が得られることが検証されています。

IRI解析結果の比較・考察

本ソリューションと路面性状測定車のIRI解析結果としては、走行したデータからKML(Keyhole Markup Language)ファイルを作成し、IRIの数値ごとに色分けした状態でGIS上に可視化することで比較を行いました。また、KMLファイル内のIRI値を参照し、0~2未満の場合は青色、2~4未満の場合は水色、4~7未満の場合は緑色、7~10未満の場合は黄色、10以上の場合は赤色で色分けを行っています。本ソリューションと路面性状測定車を比較した結果、全体的に路面性状測定車の調査結果の数値が大きく算出されました。本ソリューションにおけるIRI解析結果(図5)としては、全体の5割程度で水色、4割程度で緑色、残り1割程度で黄色となりました。対して、路面性状測定車による結果(図6)では、6割程度で緑色、2割程度で黄色、残り1割程度で赤色となりました。解析結果の共通点としては、交差点前や右左折部分で調査結果が悪くなる傾向(図5、6の〇付近)にあるため、局所的に劣化している部分については、本ソリューションでも場所の把握をすることは可能であると検証されました。

図4 ひび割れ計測データ

図5 本ソリューション IRI解析結果

図6 路面性状測定車 IRI解析結果

総 評

本ソリューションと路面性状測定車の「ひび割れ解析」「IRI」の2つの項目において、比較を行いました。
ひび割れ解析については、影の影響により解析結果に乖離が見られましたが、おおむね路面性状測定車と同等の測定結果を得られることが検証されました。今後、さまざまな気象条件で計測・試行を行うことや、さまざまな種類の道路面舗装に対しても計測・試行を重ね、AIに学習させることでより良い解析結果を得ることができるのではないかと考えています。
IRIについては、多少解析結果に乖離がある個所が見られましたが、ピンポイントでの劣化個所は、本ソリューションと路面性状測定車で一致していることから、本ソリューションでの劣化個所の特定は十分に可能であると考えています。
上記2つの解析結果の比較から、本ソリューションのような簡易機材でも十分な結果が算出されることが検証されたことで、今後の路面点検業務における経済性の効率化や点検結果の平準化にも貢献できるのではないかと考えています。

今後の展開

今回、社会インフラの維持をテーマの一例としてNTTフィールドテクノが取り組む道路路面診断ソリューションを紹介しました。今後の展開としては、道路路面診断ソリューションから培ったノウハウを活かし、路面標示や道路標識など、さまざまなインフラ構造物の状況把握や点検の効率化に貢献していく予定です。

■参考文献
(1) https://www.road.or.jp/event/pdf/201708212.pdf
(2) https://www.road.or.jp/event/pdf/201708211.pdf

問い合わせ先

NTTフィールドテクノ
ビジネス推進部 サポートビジネス部門アライアンス担当
TEL 06-6450-6962
FAX 06-6881-5202
E-mail road-info@west.ntt.co.jp