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グループ企業探訪

第237回 株式会社トレードワルツ

ブロックチェーン技術を活用した貿易プラットフォームTradeWaltz®により、貿易業務のデジタルトランスフォーメーションに貢献

トレードワルツはブロックチェーン技術を活用した貿易プラットフォームTradeWaltzにより、貿易業務のデジタルトランスフォーメーションに貢献する会社だ。貿易に登場する多くのステークホルダーの思いを1つにして、日本、そしてアジアの貿易プラットフォームのデファクトスタンダードをめざす。その思いを小島裕久社長に伺った。

トレードワルツ 小島裕久社長

多岐にわたるステークホルダーとともに貿易プラットフォームを構築

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

貿易取引に関する手続きでは、多数のプレイヤーの間で紙書類、FAX、PDF等のアナログな情報のやり取りが世界的に多い現状があります。特に日本はその傾向が強く、貿易取引に膨大な時間を要しています。世界銀行グループの調査では、2019年9月現在で日本はOECD加盟国36カ国中31位の効率性となっています。
こうした課題解決を目的に、荷主、銀行、保険、物流といった貿易業務に携わる日本の各業界のリーディングカンパニーと、ITベンダのNTTデータの計13社により、ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォームの実現に向けた「貿易コンソーシアム」が2017年8月に発足しました。
貿易コンソーシアムで国内外における実証実験やプラットフォームの試行運用を重ねた後、NTTデータが事業準備会社として2020年4月に株式会社トレードワルツを設立しました。コンソーシアム参画企業のうち7社が共同出資を行い、2020年11月から事業を正式に開始しています。
トレードワルツは、貿易プラットフォーム「TradeWaltz®」を運用し、SaaS(Software as a Service)形式でお客さまに提供しています。貿易のステークホルダーである荷主、銀行、保険会社、物流会社、税関等は社内でデジタル化を進め、自社システムを持ちますが、そのシステム・データがステークホルダー間では情報連携されていません。そのため、貿易業務においては、ステークホルダー間の情報連携のため、書類のやり取りが多数発生しています。書類の大半は紙ベースであり、郵送やFAX、バイク便等で送受され、受領者は自社のシステムに転記しており、書類ミスにより、手続きが手戻ることもあります。そこで、TradeWaltzの提供するAPI(Applica­tion Programming Interface)により各社のシステムとTradeWaltzを接続し、関係書類の送受、保管をTradeWaltz上で電子的に行うことで、これらの業務の効率化を図ることができます。「やり取りされる情報の正確性はどうなるのか」という点に関しては、ブロックチェーン技術を活用することによりドキュメントの原本保証と不正改ざん防止を行うため、データを安全かつ真正に取り扱うことができ、電子帳簿保存法等の法律にも対応可能です。

◆多岐にわたるステークホルダーを取りまとめて新しい事業を行うのはあまり例がないようですが。

日本ではサービス企画のために同一業界内や少数の業界間でコンソーシアムを形成するケースはありますが、本事業を生み出した貿易コンソーシアムのような、多くの業界にまたがるコンソーシアムは日本国内ではあまり例がないと思います。
もともとの起こりは2017年ごろ、NTTデータが貿易業務全般に時間やコストがかかっていることに着目し、関連書類を電子化・連携するシステム・サービスの検討をしたところから始まりましたが、貿易関連企業に話を聞くと皆同様の課題感はあるものの、業界横断的な調整へのハードルが高く、そこがボトルネックだと分かりました。そこで、貿易業界では中立の立場となるNTTデータが事務局となり、貿易コンソーシアムを立ち上げ、13社の参画をいただいたところから事態が動きました。
コンソーシアムでは参画企業の貿易に関する課題をディスカッションする中で、貿易には、業界をまたがる共通課題が多くあることに気付き、課題解決方法をシステムに限らず、オペレーションや事務処理プロセスの部分まで踏み込んで検討しました。議論の中でシステム化に着手し、国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトへの参画を通した実証実験や、シンガポールやタイにおける実証実験、コンソーシアム外の企業も参加する試行試験等を通して、貿易プラットフォームTradeWaltzのコア部分を開発、事業として展開を始めました。なお、母体となる貿易コンソーシアムは、現在トレードワルツが事務局となって継続しており、2021年8月現在で61団体が参画しています。
トレードワルツのように、多岐にわたる業界が協力して開発・提供しているプレイヤーは国内にいないため、貿易コンソーシアムへの参画者やTradeWaltzの利用者を増やすことで、日本のデファクトスタンダードとしての位置付けを獲得していきたいと考えています。

貿易プラットフォームのデファクトスタンダードをめざす

◆貿易は相手国があるのですが、外国の状況はどうなのでしょうか。

海外にも貿易プラットフォームはあります。欧米の場合、TRADELENS、CONTOUR、MarcoPolo、we。trade等の民間主導の貿易プラットフォームがあり、金融業務、海運業務といった個別業務を対象として欧州、米国、中近東、アフリカ等広域にわたり、事業展開する傾向にあります。
アジアにおいては、シンガポールのNTP、韓国のTrade Hubのように政府主導の貿易プラットフォームがあり、すべての貿易業務コーディネーションを対象として、自国内を中心とした事業展開をする傾向にあります。昨今では日本のTradeWaltzや、TradeWaltzが立ち上げをサポートしているタイのNDTPなど民間発で、すべての貿易業務をコーディネーションするプラットフォームも出てきています。
相手国から自国までの貿易関連業務をエンド・ツー・エンドにて、貿易プラットフォーム上で処理するためには、Amazonのように単一のプラットフォーム内において全世界の処理を行うか、国や産業ごとに持つプラットフォーム間を連携してエコシステムで全世界をカバーする必要があります。貿易の場合、各国の思惑やかかわる産業プレイヤーが多様な中、単一のプラットフォームが貿易関連業務やデータを独占的に対応することは現実的に不可能だと思います。ですので、プラットフォーム間連携によるエコシステム形成が貿易完全電子化を成し遂げる有力な手立てであり、国際会議などでは「相互接続性=interoperability」という単語が流行になっています。ただし、データ項目やデータ連携・保管に関する仕様の統一など技術的課題や標準化の課題、電子書類の法的な担保などの法律的課題もあり、まだまだプラットフォーム間連携は2-3個の間での連携、あるいはPoCレベルにとどまっています。
トレードワルツとしては、既存プラットフォームとは「競争」ではなく「協業・連携」を図り、プラットフォーム不在の地域に対しては、TradeWaltzの技術提供・フランチャイズ・展開を行い、貿易エコシステムの創造に挑戦していきたいと考えています。

◆今後の展望についてお聞かせください。

まずはTradeWaltzの輸出・輸入に関する基本サービスを2021年度中に開発完了し、初期のお客さまにしっかりと価値を体感していただきたいと思っています。そのうえで、お客さまのニーズの強さや法改正の状況に合わせ、付加価値機能を順次リリースしていきます。現在も、多数の企業様にご関心をいただいておりますが、貿易コンソーシアム参画企業やサービス利用企業の輪を広げ、オールジャパンでTradeWaltzを日本の貿易プラットフォームのデファクトスタンダードとして成長させていきたいと思います。
その先には、アジアでのプラットフォーム展開・連携によってアジアのデファクトスタンダード化を、そして有力なプラットフォームとの連携により、グローバルレベルの貿易デジタルトランスフォーメーションを実現していきたいと思います。

担当者に聞く

貿易業務のデジタルトランスフォーメーションをめざして可能性を追求

取締役CEO室長 兼 グローバル&アライアンス事業本部長
染谷 悟 さん

◆担当されている業務について教えてください。

現在はCEO室とグローバル&アライアンス事業本部を管掌しています。
トレードワルツには、①広報や人事採用などを行うCEO室、②広報で興味を持っていただいたお客さま候補へのコンサルティングや協業候補先との連携を行うグローバル&アライアンス事業本部、③お客さまへの営業や契約を行うマーケティング&セールス本部、④システム開発・契約先へのサービス提供を行うプロダクトカスタマーサクセス本部、⑤会社全体をサステナブルに発展させるコーポレート&戦略本部の5つの部署があります。
ここではCEO室を紹介します。CEO室は、社長の外交面での分身を担う組織として立ち上がり、社長特命という社内向けの部署横断的・特殊な仕事以外は、基本的に「トレードワルツの仲間づくりをする部署」と定義しています。
私たちが仲間にしたいのはまず1番にお客さまです。広報活動を通じ、まずは貿易業界の方々にTradeWaltzを知っていただき、興味を持っていただけたらと考えています。また、長期的にTradeWaltzを支えてくださる貿易コンソーシアムの会員企業様も大切な仲間です。会員企業様へ適宜情報提供や意見交換をさせていただく中で、貿易プラットフォームに必要な業務機能を検討しています。
そして日本や海外の政府機関も、私たちが味方につけたい仲間です。貿易は各種の法制度や公的機関とのかかわりが多く、それらを所管する経済産業省、財務省、法務省、国土交通省、外務省、内閣府等と連携して取り組む必要があります。また、貿易では相手国があるので、海外政府や国際標準団体との連携も必要となります。
最後に、一番身近な仲間である社員、この仲間を得るために行っていることが採用活動です。当社には親会社からの出向社員、当社が採用したプロパー社員、業務委託社員のほか、週1~5日で働く「兼業・副業」社員もいます。「兼業・副業」は採用活動の一環として募集し、当社のビジネスやビジョン等に興味を持っていただけた490名から、17名を採用しました。多様なビジネススタイル、考え方、知見を持つ方たちと当社のフルタイム社員が連携する中で、プラットフォーム展開に日々新しい示唆が提供されています。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

一番はシステム開発だと思います。トレードワルツは幸いなことにメディア等から注目をいただき、立ち上がったばかりのスタートアップとしては、分不相応なほどお客さま候補や協業候補先からご連絡をいただいており、たくさんの可能性がみえてきています。一方で立ち上がったばかりの弊社リソースは有限であり、開発できるボリュームは限られています。その中で私たちがお客さまヒアリングを通じ、大多数のお客さまに喜んでもらえる最小限度の機能「MVP」は何か、基本・コア機能として自社実装すべきはどこか、開発スピードを上げるためにどのような開発体制を敷くべきか、今後付加価値機能をどの時期に、どれをリリースしていくのか、といった部分を決めていく作業は苦労しています。一通りは決まりましたが、先のスケジュールに関しては取り巻く環境の変化に応じて見直しをかけていく必要があり、今後も苦労は絶えないと思います。

◆今後の展望について教えてください。

本誌は技術をメインにしていると伺ったので、最後はAPI、ブロックチェーンに続く「IoT」の技術活用に関して展望を述べたいと思います。トレードワルツはPlug and Play Japanが主催する IoT分野のアクセラレータープログラムに京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)と共同して行うIoT実証について、2021年6月に採択されました。これはKCCSが開発する位置情報プラットフォーム「IoTトラッカー」で把握した貨物のリアルタイムの位置情報をTradeWaltzの貿易取引情報にかけ合わせるという取り組みです。皆さんもAmazonで何かを注文したときに、商品がどこの集荷所まで到着したか、通知してくれる機能を使ったことがあるかもしれませんが、あれをB2Bの貿易の世界にリアルタイム情報で持ち込むイメージです。国際物流で荷物のトレースが可能となれば、各物流事業者の契約履行状況の把握や、スマートコントラクトでの自動決済など、将来的に物流自動化の可能性が広がります。
TradeWalltzが進める貿易完全電子化の取り組みは、実務者の手元の作業を効率化するだけでなく、その先に電子化された“データ”を起点とした新たなビジネスモデル・ユーザ体験への可能性を広げます。世界中をつなぐ貿易という大きなフィールドで、トレードワルツはNTTグループの皆様とともに、日本発のデジタルトランスフォーメーションにチャレンジしていきたいと思います。

ア・ラ・カルト

■“一風変わった”デザイナーズオフィス

トレードワルツは、丸の内の登記オフィスとは別に、WEEKという、1フロアを曜日単位で借りられる新しいタイプのオフィスを利用しているとのこと。コロナ禍の影響で毎日出社することが当たり前ではなくなりつつある今、同じオフィススペースを朝晩消毒しながら、曜日単位でレンタルできるシェアオフィスです。取材にお伺いすると、入口を入ったところにバーコーナーのあるラウンジ、その奥にガラス張りのオフィススペース、左側にはガラス張りの会議室があり、各所に趣向が凝らされたデザイナーズオフィスでした。屋上からは東京タワーを目の前に望むことができ、俳優さんやモデルさんの撮影が行われることもあるようです。コロナ禍で「オフィスに集まる」ことが特別になりつつある中、その時間をラグジュアリーにするという意図があるとのことでした。

■バラエティーに富む人材

トレードワルツに集まるメンバーはバラエティーに富んでいます。種々の業界から集まる出向社員のほか、プロパー社員、派遣社員、コンサルタントはもちろんのこと、7月から集まった兼業・副業の方が多いことが特徴で、全体の約40%を占めるそうです。その方々の本業もバラエティーに富んでおり、海外の大型プラットフォーマー、省庁の方、企業の経営幹部、タレント、クリエーターと多士済々で、シンガポールから参加しているメンバーもいるとか。ワークスタイルやバックグラウンドが異なる多くのメンバーのマネジメントは大変である一方で、事業に対してそれぞれ新しい視点からとらえ、考え、提案してもらえるという大きな魅力があるとのこと。兼業・副業の方の中には1~2カ月働いてみて、トレードワルツを本業にしたいという方もいるようで、新しい採用手法の1つになるかもしれません。

■“顔を合わせなくても仕事は進む”働き方改革の推進

トレードワルツは本業の社員もリモートワークが主体で、フレックス制、出社は週1~2回で席もフリーアドレスであり、兼業・副業のメンバーには勤務時間という概念さえないとのこと。会社設立のころは少人数で、お互いに顔を合わせていたようですが、全社員が参加する会議は週1回でリモート可能なため、7月以降で全社員が物理的に顔をそろえたことはないそうです。それでも、各自それぞれの環境で仕事を進め、リモート会議やチャットツールなどを積極的に利用することで、コミュニケーション不足を解消。コロナ禍でも安心して仕事に取り組める環境が整えられていました。