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グループ企業探訪

第238回 NTTアーバンソリューションズ総合研究所

地域課題の解決と持続可能な社会の実現をめざした「街づくり」に貢献

NTTアーバンソリューションズ総合研究所は、NTTアーバンソリューションズグループが手掛ける「街づくり」に向けた情報基盤構築とそれを活用するシンクタンクとして設立された。地域課題の解決と持続可能な社会の実現をめざした「街づくり」への思いを坂上智之社長に伺った。

NTTアーバンソリューションズ総合研究所 坂上智之社長

「街づくり」に向けた情報基盤構築とコンサルティングで街づくりオーナーのパートナーをめざす

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

不動産開発とマネジメントを主業務としているNTT都市開発と、エネルギーと建築に関するエンジニアリング・運用を主業務とするNTTファシリティーズを傘下に収めるかたちでNTTアーバンソリューションズ(NTT US)は設立されました。グループの方針として、単に不動産開発やエネルギー・建築のエンジニアリングを提供するだけではなく、地域の皆さまをサポートし、ともに考える「街づくり」へ取り組み、NTTグループ各社とも連携しながら、全国各地で街づくりへの参画に向けた提案活動を進めています。その中で、社会情勢の変化とともに多様化、複雑化する地域課題への迅速な対応と、街づくり推進体制の強化を目的に、2021年7月1日、NTTアーバンソリューションズ総合研究所(US総研)が設立されました(図)。
US総研は、街づくりに関する情報や知見等を、一元的に収集・分析・蓄積し、それを付加価値の高い提案やコンサルティングにつなげていくことをミッションとしています。こうした活動をもとに、自治体や地域の団体をはじめとする街づくりオーナーの方々と一緒に街づくりを推進していくパートナーをめざしています。「街づくりに関するコンサルティング」「街づくり情報の収集・調査・研究・分析」「街づくりを支援するデータベースの運用・構築」の3つの軸で事業を行っていますが、それぞれを有機的に連携させることで、街づくりにおける付加価値の高い提案を提供していきたいと思います。

◆街づくりとはどのようなものでしょうか。

よく「再開発」という言葉を耳にすることがあると思います。ある特定のエリアの細分化した土地や老朽化した建物を更新するため、土地の高度利用によって土地や建物、公共機能の整備を行うものです。その多くはオフィスビルや商業施設を開発して地域の活性化につなげるものですが、「街づくり」は必ずしも不動産開発や賑わいの創出といった側面だけで語ることのできるものではありません。地域の歴史や文化を受け継ぎ、街の魅力を感じながら未来に期待や希望を持って暮らすことができる場所をつくる営みでなければなりません。
一方、現在の日本は、人口減少、少子高齢化が進展する中、都市への人口集中が加速している状況です。さらに、環境問題の深刻化、気候変動や異常気象による災害への対応などに直面し、社会は大きな変革が求められています。
街づくりとは、このような社会的課題への対応を前提として、それぞれの地域が抱える課題を解決し、その街で人々が豊かに暮らし続けることができる持続可能な社会の実現をめざすものです。

期待の高まるICTで持続可能な社会をつくる

◆街づくりの実現に向けてどのように取り組んでいくのでしょうか。

それぞれの地域にはその場所ならではの魅力があり、また抱える課題もさまざまです。 US総研は街づくりのシンクタンクとして、地域の魅力や課題を読み解き、街の皆様の想いを具現化する街づくりをサポートしていくことになります。
まず、街づくりにつながる地域の魅力や課題を浮かび上がらせるためには、地域の人の声に耳を傾け、街のさまざまな姿を直接感じ取ることが大切です。そこから、街づくりに向けた与件の整理や取り組むべきテーマを見出し、街づくりのビジョンの策定につなげていく流れになります。ビジョンの具現化にあたっては、不動産開発のみならず、環境やエネルギーに関する提案を組み込んでいくこと、これはまさにNTT USグループ各社がサポートできるところです。そして、安心・安全、快適で豊かな社会をめざして、情報のデジタル化やICTの活用といった生活を支えるシステム、これはNTTグループとして期待されるところだと思います。さらには日々の暮らしや街の賑わいを支える、街の運営、例えばエリアマネジメントなどを通じて地域にかかわり続けることが非常に大切な取り組みになると考えられます。
つまり、NTTグループとして、さまざまな角度からの地域へのサポートと持続的な取り組みで、街の皆さまの想いを理想の街へつなげていく、それがNTTグループの「街づくり」なのではないでしょうか。

◆今後の展望についてお聞かせください。

デジタル化やICTによるスマートシティについては重要なテーマの1つとして取り組んでいきたいと思います。ただ、新しい技術やサービスは街づくりを支える基盤であり、それが目的ではありません。街づくりはそこに住む人がその街に魅力を感じ、愛着を持って暮らし続けられることをめざすものです。単にICTやデジタルの技術で生活が便利になる、快適になるといったところにとどまるのではなく、人間として真に豊かな生活とは何なのか、人間らしくあり続けるとはどういうことなのか、という本質を追究することによって、人が主役の街づくりを考え続けることが大切だと考えています。
US総研は、街づくりへの理念を持った専門家集団であるべきと思っています。とはいえ、街づくりのために必要な知識や技術は幅が広く、私たちだけでは対応できない領域も多くあるので、全国各地でビジネスを展開しているNTTグループの皆さんと連携させていただき、そこで暮らす皆さまとともに街づくりを考え、進めていくことが重要だと考えています。人、街、地域のために活動されている皆さまとコラボレーションしながら、街づくりに取り組んでいきたいと思います。

担当者に聞く

蓄積された情報や知見をベースに街づくりのコンセプトを提案・コンサルティング

街づくりデザイン部 上席研究員
竹内 絵理子さん
横山 健児さん

竹内 絵理子さん

横山 健児さん

◆担当されている業務について教えてください。

街づくりデザイン部では、蓄積された情報や知見を基に、街づくりのイメージやコンセプトの策定、実現に向けた手段を検討し、それを提案やコンサルティングのかたちでお客さまに提供しています。
竹内:私は、どちらかというとイメージ・コンセプト側を担当しています。最近の自治体は、ビル等をつくった後の社会の姿や運営等にかかわるエリアマネジメントに関心が高まる傾向にあります。安心・安全、快適、便利で豊かな社会は、ICTの活用により実現できることが多く、NTTグループだからこそICTで何かできるのではないか、といった期待が寄せられているのを強く感じています。
横山:私は、実現に向けた手段側を担当しています。環境エネルギー関連を主な専門分野としていますが、最近はICTを利用したソリューション的な提案を求められることが多くなり、お客さまの関心が多様化してきているように感じます。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

自治体の街づくり案件は、公共的な要件と民間の事業的な要件があり、これらを提案型のコンペで評価・採択されることが多いのが特徴です。公共的な要件が混在していることもあり、見積もりの積算方法を含めコスト的制約も多いのですが、創意工夫を凝らして付加価値のある提案を行っています。そうした中でどのように事業性を担保するか、といった点の検討に苦労していますね。さらに、受注前の提案だけでは収益を得ることが難しい場合は、US総研として、 NTT USグループの中で付加価値のあるビジネスモデルを構築して収益を得ていくための施策を常に考えていかなければなりません。

◆今後の展望について教えてください。

NTTグループが街づくりに参入したということで、同業他社や自治体からは大きな期待を持って注目されています。その期待にこたえられるようにスキルアップだけでなく、エリアマネジメントやデジタル関係を専門とするメンバーとの協働が必要と考えています。また、カーボンニュートラルを意識した蓄電池や水素の活用等、時流に乗った専門性も高めていきたいと思います。街づくりは総合力が求められるので、主体性・多様性・協働性そして専門性を大切にして、街づくり関係者の期待にこたえていきたいと思います。

街づくりに関する情報、知見を一元化する情報基盤

街づくりリサーチ部 上席研究員
杉田 敏さん

杉田 敏さん

◆担当されている業務について教えてください。

街づくりリサーチ部は、街づくりに関して共通して持つべき知識、考え方、情報を収集・分析・蓄積し、 USグループが行う提案やコンサルティング活動に活用してもらうための情報基盤を構築しています。将来的にターゲットとなりそうな街(都市)の一般的な情報から、特定の案件における課題やテーマをとらえて調査しています。
例えば、最近ではカーボンニュートラルというキーワードが日本も含めて世界的に使われるようになりましたが、街づくりにおいても、関連した基本的な情報に加えて、カーボンニュートラルをどのようにして街づくりに取り込み、対応していくのか、といったことを調査しています。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

US総研の前は、NTT USグループでソリューション関係の仕事をしていました。立場が変わって、NTT USグループのソリューション関係の人と意見交換を進める中で、彼らの困っていることや悩みごとを的確にとらえることが、少し前までは自分も同じような悩みを持っていたはずなのに、改めて難しいと感じています。US総研は、そのような悩みごとに対してきめ細かく対応していかなければなりませんが、意見交換を繰り返していく中でどうしたら一番効率的にそれができるのかということを考えています。

◆今後の展望について教えてください。

US総研設立から間もない現時点では、コンサルティング案件に直結するようなリサーチを短期間で仕上げていくというのが、重点課題だと考えています。
とはいえ、常に将来に向けたリサーチも必要であり、今後カーボンニュートラルをはじめとしたさまざまなテーマについて、時代をとらえながら、個人の考えにあまり左右されないよう中立的に調べていきたいと思っています。さらに、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想も視野に入れて、デジタルツインコンピューティングをどのように街づくりに適用させていくのか、といったテーマのリサーチにも取り組んでいきたいと思っています。

ア・ラ・カルト

■HP制作を通じたコミュニケーション

会社設立前の準備室の段階に策定した企業ビジョンをベースに、若手社員が中心となって、会社のホームページ(HP)を制作しているそうです。HP制作経験がない社員がほとんどですが、企画から工程管理、そして経営幹部との意識合わせまで、すべてメンバーのみで実行しています。US総研はNTT USグループから社員が集まっており、お互いに面識のない人が多い中、このHP制作が良いコミュニケーションの場になるとともに、新しい会社を知り、自分がその一員であることを強く自覚できたそうです。

■バラエティーに富む人材

シンクタンクの専門家としてどのように行動するか、といった心構えである行動指針を現在策定中です。行動指針は、経営幹部がある程度の方向性を示しながら策定していくことが多いと思いますが、設立間もない会社ということもあり、将来を担う若手を中心に、最初から自分たちで考え、検討し、将来像を思い描きながら策定しているそうです。行動指針はある意味、会社の雰囲気(社風)とも背中合わせになるようなものなので、HP制作から行動指針策定まで、まさに若手が中心となって会社をつくり上げています。

■メンバーの顔合わせ

会社設立の日に全社員が一堂に会したものの、コロナ禍でテレワークが中心のため、その後はなかなか社員どうしのコミュニケーションをとる機会がないそうです。そこで、本コラムの取材で偶然オンライン親睦会の話が出たのをきっかけに、試しにやってみようかということになりました。会社の行事でもない全くの自由参加で、案内の翌日開催という急な話であるにもかかわらず、約20名の社員のうち半数が参加しました(写真)。「まさか今日の明日の話でこれほど集まるとは思わなかった」(主催者の街づくりリサーチ部 斉藤さん)と驚きを隠せません。顔合わせ的な部分もありますが、参加者どうしの話に花が咲き、2回目、3回目の希望もチラホラ出ているそうです。