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from NTT東日本

デジタル技術を活用した業務変革へのチャレンジ

現在、NTT東日本は電気通信事業の安定的かつ効率的な運営をめざし、さまざまな業務分野において自らのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。設備系業務においては、「生産性2倍」を目標に掲げてフルデジタル化・データ活用等のDXに取り組み、さらに培ったノウハウや技術を活用することで地域活性化への貢献をめざしています。このDXを実現すべく、技術に特化した多様なDXチームを設立し、それぞれの技術スキルを高めるとともに各チームが連携することによって、業務の課題をコンサルし、技術とアイデアによる課題解決や業務変革にチャレンジしています。

設備業務のフルデジタル化

NTT東日本ネットワーク事業推進本部は現在、圧倒的な生産性向上をめざし、設備DX(デジタルトランスフォーメーション)に注力しています。
具体的には設備部の業務をフルデジタル化し、そこから得られたデータを徹底活用することで業務改革を推進しています。実際に人手のかかっている業務をDXでユーザセルフ化、オールフロースルー化し、人手のかからない業務へと進化させ、開通・コールセンタ・オンサイトはWeb受付によるユーザセルフ化、さらに後工程についてもオールフロースルー化を進めることでさらなる生産性向上を志向しています。
昨今、変化の激しい時代の中で、お客さまから寄せられる要望は多様化してきています。こうしたお客さまの要望にこたえるためにも、当社自身の技術を高め、地域活性化への貢献をめざしています。

DXチームの設立と融合

NTT東日本ネットワーク事業推進本部では、業務改革の実現をめざし、DXを支える技術に特化した多様なDXチームを設立しています。今までは、複数の組織に分かれていた各技術部隊を集約し、DXを実現するためのデータや技術、知識を一元的に蓄積することで、それぞれの技術を高めるとともに、設備系全体のDX人財育成にも取り組んでいます。また、各チームが連携することによって、業務の課題や困りごとをコンサルし要件を整理しながら、技術とアイデアによる課題解決や業務変革にチャレンジしています(図1)。

DXチームの取り組み

■AI

AI(人工知能)チームでは、画像内の物体検知や異常検知、自然言語、音声認識、予測等の多岐にわたる分野に取り組んでいます。今回はその1つである物体検知の技術を適用した危険作業検知システムについて紹介します。
NTT東日本における工事では、電柱や鉄塔等の高所作業も多く、作業従事者は危険と隣り合わせです。そのため、作業従事者だけでなく、後方支援をするメンバも現場に同行し、一体となった安全管理を行うことが必要でした。しかし、現地に直接行く安全パトロール等での安全管理に稼働がかかるという課題がありました。そこで取り組んだのが、ネットワークカメラとAIの導入による安全サポートの実現です。まずネットワークカメラを導入することで遠隔からリアルタイムでの見守り・業務支援が可能となりました。そして、ネットワークカメラにより見守るタイミングを見逃さないために、AIが各ネットワークカメラの映像をリアルタイムに解析し、遠隔サポータが危険な作業時のみサポートし、見守り稼働を削減しています。
ネットワークカメラは、市販のギガらくカメラサービスを採用し、リアルタイム見守りとともに振り返りの動画確認も可能としています。AIはギガらくカメラとAPI(Application Programming Interface)連携してネットワークカメラの画像を取得し、物体検知AIにより工事現場における人や電柱やバケット車等を検出し、その位置から総合的に危険な作業中であるかを判断しています。
AIの推論は計算量が多く、サーバの運用コストが高くなる傾向があります。そこで、AIモデルの量子化とGPU(Graphics Processing Unit)による推論処理の最適化を検討しました。量子化とは、より小さいビット数で表現することで、モデルの軽量化を図る手法です。また、NVIDIA TensorRTフレームワークを採用することで、GPUを効率的に利用しAI推論の高速化を実現しました。
AIはAWS(Amazon Web Services)のクラウドで動作しており、カメラ台数に応じて稼動中のAIサーバ台数を自動調整するオートスケーリングによりコスト削減を図っています。今後はさらなる利便性向上のため、現場からのフィードバックを基にAIの機能拡充やデータ収集・AIの再学習・評価による検出精度向上に引き続き取り組んでいきます(図2)。

■データ活用

データ活用チームはビジネス課題を設定し解決へと導くため、コンサルティングや蓄積されたデータの可視化・活用などデータサイエンスに取り組んでいます。今回はその1つであるAI Caféについて紹介します。
AI Café「AZLM CONNECTED CAFE 渋谷地下街店」は地方の生産者と都市の消費者を結ぶ新たな商流開拓をめざし、コネクテッドコマース株式会社とタイアップし2021年7月1日にオープンしました。お客さまの要望の実現に向けディスカッションを重ねた結果、顧客行動の分析に使用される相関分析やファネル分析手法に加え、さらに2つの分析の提案に至りました。
1つは購買+映像データの分析です。購買データは来店客が購入した商品の情報に加え、あらかじめサイトに登録した年齢・性別・居住地の会員データも利用します。この分析にはこれまで社内のスマートストア(無人店舗)で培ったマーケティング分析(デシル・RFM等)技術を活用しています。映像データからは、入店からの動線やどの商品の前で立ち止まったか等の来店客の店舗内行動データを取得しています。購買データと組み合わせることで、店舗内のエリアや商品にどの属性の顧客が興味を持ったか(滞在したか)という観点で売上の分析が可能です。
次に、特徴的な分析が購買+音声データの分析です。ビデオ会議システムを利用して取得した音声と購買データを組み合わせた分析で、故障受付コールセンタで私たちが磨き上げてきたAI技術(音声認識、自然言語処理)を活用しています。この技術を来店客の傾向分析に応用するのは初の試みであり、市中でも例のないチャレンジングな取り組みです。
遠隔販売員と来店客の会話の音声を話者ごとにテキスト化した後、自然言語処理や感情識別の技術により、頻出ワードや感情分析、どのキーワードに反応したかなど会話ならではの情報を抽出します。購買データと組み合わせ、商品が購入に至った場合の特徴や傾向を可視化しています。どのデータも個人を特定できるデータは保持せず、匿名化しています。分析結果はダッシュボードにて動的に出品者や店舗運営者が参照・分析できる仕組みです(図3)。
今後は、分析手法についてさらなる情報収集・評価・スキル向上によりデータ分析精度を高め、商品開発や販売戦略の立案に活用するためのさらなる有益なフィードバックをしていきます。

■IoT

IoT(Internet of Things)チームでは多種多様なデバイスを統合的にサーバ上で扱い、可視化や分析可能なシステムの開発に取り組んでいます。今回は、その1つである通信ビルのスマート化を紹介します。
NTT東日本では、東日本エリアに約3000の通信ビルを所有しており、各通信ビルに設置した通信設備により広域にわたり通信サービスを提供しています。通信ビルのうち無人ビル(保守作業員が常駐していないビル)が大部分を占めているため、設備保全業務のたびに、また台風などの自然災害が発生した際は設備への影響を確認するために、被災エリアすべての無人ビルへ作業員を派遣し設備の点検を行っており、大きな負担となっていました。このような課題を踏まえ、遠隔地から無人ビルの状況をIoTデバイスにより把握し、設備の状況確認や点検の優先度を判断する取り組みを2018年9月から開始しました。2020年度には導入拠点を東日本エリア全体で約650ビルにまで拡大し、現在はさらなる機能追加に向けて開発を進めています。
通信ビルに配備したIoTデバイスからの情報の可視化を実現するシステムはすべて内製で作成しています(図4)。
IoTデバイスは多種多様な製品が市場に存在しますが、選定時の条件として、センサが送信するデータのフォーマットが開示されていることを特に注視しました。本システムではセンサとサーバの中継器となるIoTゲートウェイにてセンサデータの加工処理を行うシステム構成にしており、ゲートウェイ内でデータ仕様に合わせて加工作業を行うプログラムを開発しました。この構成でのシステム開発を行ったことで汎用的にデバイス接続が可能になり、さまざまな要望へ対応可能なシステムを実現しました。
現在は主に制御系デバイスの追加に向けた検証を行っており、さらなる機能追加を予定しています。また、IoTデバイスによって収集したデータを解析し、故障の予知や監視自動化による、さらなる品質向上および業務効率化をめざします。

■Webアプリケーション(WebAP)

WebAPチームは、NTT東日本の豊富なクラウド運用の実績を基に、マルチクラウド(Azure・AWS等)を使って、WebAPを短期間で開発しています。今回は、その中の1つである新型コロナワクチンの職域接種における予約管理アプリの開発について紹介します。
NTT東日本では、2021年6月から新型コロナワクチンの職域接種を開始することになりました。ワクチン接種対象者は約4万人に上り、接種者の管理はミスが許されない作業であることから、予約管理を行うWebAPの開発に取り組みました。開発したアプリの利用者は、ワクチン接種対象者と病院スタッフです。ワクチン接種対象者は、アプリ上で接種日の予約と必要書類のダウンロードを行うことができます。病院スタッフは、ワクチン接種のスケジュール管理や接種記録(副反応の有無等)を管理することができます。本アプリは、要件定義から実装、運用開始まで3週間で開発しました。予約受付が開始されると、ワクチン接種対象者が、集中してアクセスすることが想定されます。そこで、ワクチン接種対象者向けのサイトと病院スタッフ向けのサイトを独立させることで、病院スタッフの利用を滞りなく行えるように工夫しました。また、テスト自動化ツールを使って、数千人規模の一斉アクセスに耐えるサーバ設計をすることで、実運用に耐えることができました。
さらに病院スタッフ等の管理者向けに本アプリで登録されたデータを、Tableauを用いて、予約者数・接種率・副反応の状況などを時系列にグラフ化しリアルタイムでの状況把握を実現し、付加価値を創出しました(図5)。

今後の展望

今後、DXチームを中心に新たな技術にチャレンジし各組織を巻き込みながらNTT東日本の設備全体の技術力をさらに高めていきます。また、培った技術はお客さまの困りごと解決に活用していくことで、地域活性化に貢献することをめざしていきます。

(左から)天岡 駿介(PMO)/岩崎 航(PMO)/柴田 高志(AI)/
新谷 麻衣(データ活用)/春山 莉花(IoT)/宮﨑 淳(WebAP)

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部
設備企画部ビジネスデザイン部門/高度化推進部デジタル技術部門
E-mail nw-dx-co-all-gm@east.ntt.co.jp