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from NTTコムウェア

マルチAI制御フレームワーク Infratector®コア

NTTコムウェアでは、デジタル技術を活用したスマートインフラメンテナンス「SmartMainTech®」を展開し、社会インフラ分野でのAI(人工知能)やデータ活用によるソリューション・プロダクトを開発しています。ディープラーニングなどのAI画像認識技術が普及し、こういったAIのプロダクト開発は一般的になりつつありますが、複数のAI画像認識の組合せやAI画像認識と統計解析など異なるAIの組合せ、あるいはAI判定の前後処理の組合せなど、AIの社会実装を進めるうえで、効率的に開発できる環境の整備は、まだまだ不十分です。ここでは、この開発を容易にする部品化フレームワークの取り組みを紹介します。

スマートメンテナンスの取り組み

NTTコムウェアでは、社会インフラ分野におけるスマートメンテナンスの取り組み全体をSmartMainTech®*1(1)ソリューションと位置付け、その中でAI(人工知能)を活用したプロダクトを総合的に開発、提供しています。
現在まで、道路舗装面の画像によるひび点検システムや、スマートフォンを利用してAIによる施工検査を実現するInfratector®TypeC*2、電柱、つり線などの架空構造物点検システム、設備や構造物のデジタルツイン化を実現するSmart Data Fusion®など、社会インフラ分野で、AIやデータサイエンスを使ったさまざまなプロダクトを開発、提供してきました。

*1 「SmartMainTech」は、NTTコムウェア株式会社の登録商標です。
*2 「Infratector」は、NTTコムウェア株式会社の登録商標です。

AI開発効率化の取り組み

従来はAIシステムの開発を個々のプロダクトごとに行ってきましたが、現在は、これらAIシステムの開発を総合的にサポートする部品化・制御フレームワークを整備し、プロダクト開発の効率化をめざしています。ここでは、この部品化フレームワークであるInfratector®コア(2)を紹介します。
社会インフラ分野における、各処理構成部品のマッピングを図1に示します。この図に示したように、多くの構成部品が各処理段階で使われています。Infratector®コアでは、これらの構成部品を機能分担整理し、各モジュールの入出力インタフェースを標準化することで、再利用性を高め、開発の効率を上げることをめざしています。

AIシステムの標準構成

スマートメンテナンス系のAIシステムは通常、大きくみると、入力データの前処理部、AI認識処理部、後処理部に分けることができます。各部の処理概要について説明します(図2)。
まず、前処理について説明します。AI画像認識システムでは、ディープラーニングなどの画像認識技術が使われますが、AI認識以前に、いかに高精細な画像を撮影するかといった撮影技術、適切な画像補正の前処理技術が必要になります。いくら高度なAIを使っても、適切な画像が入力できなければ判断識別できないからです。また、これらと組み合わせて使う各種センサ情報との連携も重要な要素技術となります。高精度GPSによる正確な位置情報との連携はその一例です。
次に、AI認識処理部ですが、この部分では複数種類のAIを組み合わせて、複合的に判断することで精度の高いAI認識を実現しています。弊社ではこれを、マルチAI・マルチモーダルAIと呼んでいます。
最後に、後処理部ですが、どのようなAIシステムでも、判定結果を効果的に可視化表示したり、その判定結果を既存のオペレーションシステムの入力データとして連携するためのインタフェースが必要となります。
可視化表示について、いくつか例を挙げると、道路舗装面のひび点検システムでは、地図GISシステムを中心とした地図ベースの不具合個所の表示システムを提供しています。検出した不具合個所を地図上に表示したり、この点検業務で標準的に使われる様式Aという帳票形式に合わせて出力することもします。また、ドローンやロボットを使った点検などでは、たくさんの写真や映像を大量に記録しますが、どこを撮った写真なのか、後で分からなくならないように、GPS位置情報や撮影方向を記録したデータから撮影対象物の3次元可視化を行い、立体的に構造物にマッピングした3Dモデルで不具合個所の表示を行ったりします。
Infratector®コアでは、これらの処理を機能部品化することで、再利用性を高め、開発の効率を上げることをめざしています。

マルチAI、マルチモーダルAI

次にAI認識処理の高度化について説明します。ディープラーニングによる画像認識の精度は飛躍的に向上しましたが、まだいくつかのものを見分けるというところが一般的で、これをさらに高度化したいというニーズがあります。Infratector®コアでは、複数のAIを複合的に組み合わせ、より高度な画像認識を行ったり、認識精度の向上を行ったりしています。これは人間の視覚判断の過程に似ています。人間はまず、大まかに全体を見て、認識する対象がどの領域にあるかを判断し、それに対して(その領域に対して)さらに、詳細な視覚認識判断を行っていますが、これと同様な過程をAI認識に取り入れることにより、目的とする認識対象範囲外の領域に対して、やみくもに認識判断をしたり、対象の領域以外で誤検出したりすることはなくなります。また、人間は検出した対象に関して、本当にそれが目的の検出対象であるか、さらに詳細に見て、見間違いでないか検証しますが、こういった過程も複数のAIを組み合わせることで可能となります。見るべき対象を画像認識でフィルタし、次の認識判断を行ったり、複数AIの検出結果に対してAND、ORをとるなどのロジック判断を行う処理の基本的な流れを図3に示します。
また、入力として画像だけでなくセンサ情報などさまざまな入力情報を総合してAI判定、将来予測を行ったりします(マルチモーダルAI)。
これまで述べてきた、前後処理も含めたAI構成部品は、柔軟に組み合わせて再利用性を高める仕組みが必要となりますが、これには処理のフローを制御できるオーケストレータのような仕組みが必要であり、現在、この整備を行っています(図4)。

マルチAIの適用事例

以下に、NTTコムウェアで開発した、マルチAIの実際の適用事例を紹介します(図5)。
① 電柱ひび、営巣点検システム:MMS走行カメラ画像からAIで電柱を見つけ、さらに、ひびや、営巣をAIが検出します。
② マンホール種別、位置検出システム:MMS走行画像から、AIでマンホールを探し、その輪郭を抽出。次にサイズ、形状、模様からマンホール種別を判定、その位置情報を記録します。
③ 架空構造物点検システム(つり線点検):スマートフォン画面でガイダンス撮影、撮影画像の適切さをAIが判断、問題なければ、さびのレベルをAIで判定します。
④ 道路舗装面点検システム:MMS走行画像から道路舗装面を見つけ、複数のAIで複合的に、ひび、舗装細粒分浮きを検出します。
⑤ 河川水位監視予測システム:河川に設置したカメラ映像からAIで河川の水面を見つけ、仮想水位計で水位をAI判定。さらに気象データから将来の水位を予測します。
⑥ 高所作業安全点検システム:作業映像から脚立を見つけ、さらに、それに立つ作業者の骨格ポーズをAI推定します。危ない動作をしていないか、作業姿勢を総合的に判定、ビューアに表示します。
⑦ 風力発電ブレードの点検システム:ドローンで自動飛行撮影し、風車のブレードを見つけ、ブレード上での落雷痕や塗装剥がれを検出します。
⑧ 鉄塔のさび点検システム:ドローンで鉄塔のフレームを見つけ、さらにさび、塗装剥がれを検出します。
⑨ 公園巡回点検システム:公園を4足歩行ロボットで巡回。人や樹木を見つけ、転倒、腐朽菌など、さらに状態を詳細判定します。
このように、Infratector®コアでは、さまざまな種類のAIを部品化し組み合わせることで、1つのAIでは実現できない高度な精度の高いAI認識を実現しています。

今後の取り組み

社会インフラ分野におけるプロダクト開発を加速させるための部品群の拡充とフレームワーク整備を進めます。設備情報や稼働状況など、まだまだ活用されていない構造化・非構造化データの価値を引き出し、スマートメンテナンスの実現につなげていきます。

 

■参考文献
(1) https://www.nttcom.co.jp/smtech/
(2) https://www.nttcom.co.jp/smtech/infratectorcore/

■著者
井藤 雅稔/原田 俊彦/杉本 智

問い合わせ先

NTTコムウェア
ビジネスインキュベーション本部
ビジネスインキュベーション部 プロダクト創出部門
Infratector®コア担当
E-mail bi-bid-ma_ito-g@srv.cc.nttcom.co.jp