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from NTTコミュニケーションズ

データ流通とDXにて実現する「日本版Smart Society」――未来の可能性と選択肢が開かれた社会をめざして

私たちが取り組む社会課題は、「分かってはいるが、どのように解いたら良いかが分からない“社会課題解決力がない”という課題」です。デジタルツインコンピューティング(DTC)技術なども用いた民意の可視化・シミュレーションを用い、「リスク評価から合意形成に至るプロセス確立」「人々の行動変容を促す新たな仕掛け」「センターB(企業)・G(国、自治体)を巻き込んだ新たな課題解決サービス創出」への道筋をつけ、より良い社会の実現をめざしています。

取り組む社会課題とめざす世界

日本は、人口減・高齢化などの社会課題先進国であり、このままのなりゆきでは“変われず立ちすくむ社会”となってしまう未来も多分にあるかと想像されます。そこで、社会課題解決、なりゆきの未来回避には、経済価値と社会価値を両立するCSV(Creating Shared Value)が必須であると改めて考え、日本における10年後の未来を見据えた、「日本版スマートソサエティ」を構想しました。SDGs(持続可能な開発目標)達成にも貢献する“未来の可能性と選択肢が開かれた社会”を導出すべく、DTC技術なども利活用し、個人のデータ主権を保護しながらもサイレントマジョリティを含む市民の声を引き出し、民意を反映した意思決定をするための信頼ある「課題解決を支えるプラットフォーム」の構築、センターB*とともに最適解・平衡解、ビジネスモデルを見出すことをめざしています。
現在はその第一歩として、甚大な経済損失、改善余地がある「気象災害」をまず取り組むべきテーマ・ユースケースとし、DTC技術を利活用したシミュレーション基盤の開発構築、防災減災につながる行動変容を促す仕組みの検討を進めています。

* センターB・G:当社提供のプラットフォームを利活用し、サービスを展開する企業・事業者(センターB)や、国・自治体(センターG)などを指します。

課題解決を支えるプラットフォーム

前述にて課題解決力という言葉をお伝えしましたが、社会課題解決力とは、①情報やリテラシーの獲得、②意見の発信と議論の発生、③リスクの評価、④倫理観に基づく意思決定、⑤アクションと包括的な連携、のループと考えており、市民、自治体、企業、NGOなど、実世界と同じように、いろいろな方々が、このプラットフォーム上に集まり、この①~⑤のループを共に考え回すことで、社会課題解決を実現することをめざしています(図1)。実空間でも理論上は実現不可能ですが、昨今のコロナ禍による感染リスクや、また日々多忙な現状をかんがみますと、実空間における大規模シミュレーションなどの実施はコスト的にも非現実的であり、サイバー空間上のほうが、より実現性が高いと考えています。
気象災害を例にとると、気象災害による損失の現状・原因・課題は、具体的な備えがなく有事に対応不能、災害の恐怖体験がなく危機感が低い、サイレントマジョリティを含む一般市民の声が埋没、などが挙げられます。それらの解決などをめざし、まずは、DTC技術を利活用した想定被災エリア(避難対象エリア)の再現、当該エリアにおける被災シミュレーション(体験・行動)、ワークショップ(振返り・気付き)などを通じた本プラットフォームの有効性PoC(Proof of Concept)を実施中であり、目標として掲げています。最適解・平衡解を導出し、社会・経済損失を減らすことに寄与できるかを検証中です。

本プラットフォームの成功要因

本プラットフォームのKSF(Key Success Factor)は、図2に示すように、①生活者を集め惹きつける、②シミュレーションによる民意の収集と可視化、③アクチュエーションによる最適・平衡化および行動変容、④価値の循環、のポジティブスパイラルです。特に重要な内容、センターピンは、②の民意の収集と可視化です。集まった生活者がある状況下(例:大規模な気象災害シナリオ)にてどのように判断し行動するか、刻々と変わる状況変化の中でのシミュレーションが主眼です。どちらを選ぶかという選択肢だけでなく、中庸的な判断や行動なども含め、これまであまり把握することができなかったサイレントマジョリティも含めた(すべての)人々の内なる本音に迫りたいと検討を進めています。
前述しました4つのKSFのポジティブスパイラル実現においては、図3に示すような、各ステークホルダーから見える領域(本プラットフォームにおける水面上・水面下など)における仕掛けが重要であり、一般市民/参加者・センターB・センターGなど各ステークホルダーから見える部分や魅力も異なる点に留意が必要です。参加者においては、本プラットフォーム水面下の情報は見えないが、心理的安全性が保護、意見も反映され匿名性担保が重要であり、センターB・センターGにおいては、マーケティング・政策評価・リソースアロケーションなどに必要な判断材料を、本プラットフォーム水面下からの統計情報にて把握可能なことが利活用判断のポイントとなります。また、民意の可視化をさらに分解・深掘りすると、人間心理・行動原理と、行動変容を促すフックなどになるかと考えています。人間心理・行動原理とは、「人間はこのように動く」というファクト情報を導出し、人間心理を押さえることで、意識変容や行動変容を促すフックにつなげることであり、行動変容を促すフックとは、人間心理を基に、意識変容や行動変容につながるフックを把握することです。これら仕掛けや・要素を押さえ利活用することで、本プラットフォームの求心力を維持し高めたいと考えています。

本プラットフォームの開発状況

本プラットフォームの開発については、まずは、選定したエリアならびに気象災害(大規模な気象災害シナリオ)をDTC技術などの利活用にて再現し、参加している個々人が実世界と同様に、モノを手に取り、情報を確認し、自由に動き回ることができる仕組み(DTC技術を利活用したシミュレーション基盤)の実現と、そこでの被災体験(DTC技術を活用した避難訓練を通じて実感したこと)などの共有や課題解決に向けたディスカッションを行うワークショップの実施など、一歩ずつ具現化を始めています。またこれら取り組みを通じて得られた、DTC技術を利活用したシミュレーション基盤上での活動履歴(判断・行動の履歴)や、ワークショップにおけるディスカッション内容、参加者への個別インタビューやアンケート結果などを、前述の成功要因・ポジティブスパイラルの要素などに基づき分析検証し、次の開発へのフィードバックや本構想における仮説のさらなる具体化(ピボット含む)を進めています。
参考までに、本プラットフォームの画面イメージを図4に、また、現地調査やワークショップの模様を図5に示します。図4は、実際の参加者が操作する、DTC技術を利活用したシミュレーション基盤の画面(シナリオ視聴含む動きのある画面)より、その一瞬(一コマ)を切り取ったものになります。
今後の本格開発においては、前述ワークショップも包含するかたちにて、サイバー空間上における参加者どうしの連絡・検討・協調作業や、さらにセンターBやGも参加しての防災減災の取り組みなども反映できるものにしていきたいと考えています。

本構想のさらなる具現化に向けて

今後も本構想実現・事業化に向けて、デジタルツインコンピューティング技術を利活用したシミュレーション基盤の本格開発、行動把握・行動変容を促すPoC、同志・パートナー企業の方々がチャレンジしたいと共感できるCSVビジネスモデルの具体化、民意が反映される仕組み・ルール形成などの機運醸成・アドボカシーに向けた発信などを引き続き行っていく予定です。
特に、ビジョン・構想などに共感いただく同志方々との協業による具現化は是非とも進めたく考えています。ご賛同いただける方がいましたら、本プロジェクトまでお気軽にお声掛けください。

問い合わせ先

NTTコミュニケーションズ
イノベーションセンター プロデュース部門
日本版Smart Societyプロジェクト
E-mail ic-csv@ntt.com