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特集

NTTグループの食農分野の取り組み──食農の新たな価値創造への挑戦

超小型バイオガスプラントによる社員食堂残渣の食品リサイクルを通じた都市型循環エコシステム

食品廃棄物のリサイクル方法の1つとして、再生エネルギーを回収できる「メタン化」への注目は高まりつつありますが、導入にあたっての設備コストや運転管理の手間が課題となることが多くなっています。そこでビオストックは、取り回しが容易で遠隔監視システムを装備したコンテナ型バイオガスプラントを開発し、NTT東日本と共同で、NTTe-City Laboに商用プラントを設置し、社員食堂の食べ残しや自社圃場の廃棄物を活用してエネルギーや肥料を創出する都市型循環エコシステムの実証を開始しました。

井上 翔吾(いのうえ しょうご)
ビオストック

食品廃棄物のリサイクルを取り巻く環境

食農分野における脱炭素(カーボンニュートラル)や循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現していくにあたり、日々大量に発生している食品廃棄物を有効に活用することは重要なテーマの1つです。可能な限り食品廃棄物の排出を抑制するフードロス削減の活動がまず大事であることはもちろんですが、それでも排出されてしまう食品廃棄物を単純に焼却処理するのではなく、資源として利活用することは、資源の有効活用という観点に加えて廃棄物処理にかかる社会コストの削減という観点でも効果的です。
これまで食品廃棄物のリサイクル手法としては、「飼料化(エコフィード)」「肥料化(堆肥化)」の2つの手法が一般的でしたが、昨今どちらの手法も事業環境は厳しい状況にあります。飼料化については、豚熱など家畜感染症対策に伴う衛生基準強化により、処理可能物が減少するとともに、衛生基準を満たすために新たな設備投資を行う必要があることも多く、年々ハードルが上がっています。肥料化については、リサイクル後の製品である堆肥の需要の問題があります。化学肥料の高騰などにより、安価な堆肥が見直される動きも一部あるものの、農業従事者の減少が続く中で、単位量当りの肥効が大きく散布の手間が少なくて済む化学肥料に押されて、一般的には堆肥は余剰傾向にあり、手間をかけて高品質な堆肥をつくればつくるほど赤字になるという話を聞くことも多くなっています。
そこで近年注目を集めているのが第三のリサイクル手法である「メタン化(バイオガス)」です。メタン化は、有機物をメタン菌の作用により発酵・分解し、その過程において創出されるメタンを主成分とするバイオガスを回収する技術です。回収したバイオガスは、専用の給湯器・ボイラーにて燃焼し温水として熱利用できるほか、バイオガス発電機を通じて電気としても利用できることから、リサイクル後の製品需要に困ることがないことが最大の特徴です。FIT(Feed-in Tariff:固定価格買取制度)における優遇や、カーボンニュートラルに向けた官民の取り組み強化の追い風を受け、昨今急速に活用が進みつつあります。

メタン化・バイオガスプラントの課題

一方で、メタン化のさらなる普及拡大にあたり課題となっているのが、設備構築にかかわるコストや運用管理にかかわる手間の問題です。メタン発酵を安定的に進めるという技術的な観点と、規模の経済を働かせ、設備投資効率を上げるという経済的な観点の双方から、メタン発酵施設(バイオガスプラント)は1日の処理量(原料投入量)が50t〜300t程度の大型の施設を建設することがこれまで一般的でした(1)。また運転管理にあたっては、施設ごとに配置された熟練運転管理者がメタン菌の活性状況を把握し、経験と勘による匠の技で安定的な発酵を維持することも少なくありません。
大規模なバイオガスプラントは一度に大量の食品廃棄物を処理できるという利点がある一方で、廃棄物処理施設となることから設置に適した場所が限られるという課題や、毎日大量の原料を運搬してくる必要がある(廃棄物運搬のためのコストがかかるうえ、運搬に伴うCO2が排出される)という課題もあります。今後さらにメタン化による食品リサイクルを進めていくためには、バイオガスプラントを小型化し、食品工場や大規模商業施設などの食品廃棄物の排出拠点にオンサイトで設置できるような設備とするとともに、誰でも平易に運転できる仕組みをつくることが求められています。

コンテナ型バイオガスプラントと遠隔監視システムの概要・特長

そこでビオストックは、株式会社ヴァイオスと共同で、コンテナ型バイオガスプラントを開発しました(図1)。このコンテナ型バイオガスプラントには、超小型で取り回しが容易であること、および遠隔監視システムが備え付けられており無人運転が可能であるという2つの特長があります。
従来のバイオガスプラントは、設置場所ごとに大掛かりな建設工事が必要であり、着工から運転開始まで2〜3年程度かかることが一般的でしたが、コンテナ型バイオガスプラントではその名が表すとおり、バイオガスプラントに必要な機能・部材を20フィート海上輸送コンテナ数台に格納しており、圧倒的にコンパクトなサイズとなっています。バイオガスプラント本体(コンテナ)は工場で製造し、トレーラーで設置場所まで運搬、クレーン車にて据付を行うため、現地工事は電気・水道の接続だけでよく、最短2日で試運転が開始できます(図2)。また、プラント本体が可搬型であるという特徴により、建設工事の手配が難しい離島や海外向けにも適したシステムとなっています。
プラントの基本的な構成は、従来のバイオガスプラントと同様のシステムです(図3)。調整槽で原料を均質化したうえで、発酵槽にてメタン菌による発酵工程を経て、再生エネルギーであるバイオガスを回収するとともに、発酵残渣(消化液)は農業利用もしくは浄化処理のうえ排水するという処理フローも従来のプラントと同様です。従来のプラントとの違いは、各パーツを大幅にダウンサイジングしている点です。処理量に応じた最適なパーツを選択することでシステムコストの上昇を抑えるとともに、20フィートコンテナに格納できるよう配置を工夫しています。これにより、従来のバイオガスプラントが1日当り50t以上の原料を必要とすることが一般的であるのに対して、コンテナ型バイオガスプラントは1t/日〜の原料でも運用が可能です。
もう1つの特長として、オンサイト設置・無人運転を可能とする遠隔監視システムが搭載されている点が挙げられます。従来の大型のバイオガスプラントでは、施設ごとに専門の運転管理者を配置することが一般的でしたが、コンテナ型バイオガスプラントは自動制御による運転と多数のセンサを用いた遠隔監視をビオストックで行うことで、原料排出拠点側では、熟練の運転管理者がいなくとも、片手間で運転管理が可能です。
バイオガスプラントの運転状況を現地の制御盤で確認したり、プラントによってはメールでアラートを発報したりするような仕組みは従来から存在しましたが、ビオストックの遠隔監視システムは、経済性・拡張性・セキュリティ面が従来システムと大きく異なります。オンプレミスではなくクラウドを前提としたシステムとするとともに、製造業分野で実績のあるIoT(Internet of Things)パッケージソフトを活用することで、安価かつスケーラビリティに富んだシステムとなっています。またNTTグループのセキュリティガイドラインに沿ったシステムとすることで、今後増加が見込まれる産業分野でのサイバー攻撃への対応を含めて安心・安全なシステムとなっています。なお本システムは、ビオストックが提供するコンテナ型バイオガスプラントだけでなく、他社が提供するバイオガスプラント向けにも提供していく方針であり、ユーザ要望に基づきカスタマイズも可能です。

NTTe-City Laboでの実証の概要・特長

今回開発したコンテナ型バイオガスプラントの有用性を検証するべく、ビオストックはNTT東日本と共同で、NTTe-City Laboに2022年2月よりコンテナ型バイオガスプラントを設置し、社員食堂の食べ残しや自社圃場の廃棄物を活用してエネルギーや肥料を創出する都市型循環エコシステムの実証を開始しました(図4)。
これまでNTT東日本本社ビルの社員食堂から排出される調理くず・食べ残しなどは、事業系一般廃棄物として焼却処理されていましたが、これをバイオガスプラントでメタン発酵処理することで、食品リサイクルを実現します。回収したバイオガスは発電利用し、隣接する最先端農業の実証ハウスにおける非常時用蓄電池等の充電に活用するほか、災害時でも空気から安全な飲料水を生成できる空気製水器の電源として活用する予定です。また、発酵残渣(消化液)の肥料活用も推進する予定であり、NTT中央研修センタ(東京都調布市)での作物生育に活用するほか、市民農園など地域で活用する仕組みも検討中です。特に一般廃棄物として扱われている事業所や一般家庭から排出される食品廃棄物の多くは、今もなおリサイクルされず焼却処理されることが大半ですが、今回の取り組みにより、都市部の食品廃棄物からエネルギーや肥料を創出する「都市型循環エコシステム」を構築し、本事例をモデルケースとして全国に展開していきたいと考えています。
同時に、NTTe-City Laboに設置するコンテナ型バイオガスプラントでは、一般的なバイオガスプラントと比較し相当多くのセンサデバイス・IoT機器を搭載しており、これまでは都度検体を採取し化学分析を行わないと取得できなかったデータについても、リアルタイムで遠隔からモニタリングするとともに、データをダウンロードすることが可能です。これにより、バイオガスプラントの運用の肝である発酵の安定化に資するデータ分析や、遠隔管理による安定的な運用の実証を行い、コンテナ型バイオガスプラントのさらなるコスト削減に向けた研究や、遠隔での運用管理ノウハウの蓄積にも役立てる方針です。
なお、NTTe-City Laboは、NTT中央研修センタを核としたNTT東日本グループの地域課題解決ソリューションを体験可能な実証フィールドであり、コンテナ型バイオガスプラント以外にも多数の最先端技術の実証を進めています。すでにローカル5G(第5世代移動通信システム)のオープンラボや最先端農業の実証ハウスなどが設置されていますが、今回コンテナ型バイオガスプラントによる食品廃棄物の有効活用・エネルギー地産地消の実証施設としてコンテナ型バイオガスプラントを設置することで、地域の課題解決・スマートシティを幅広く体感できるショーケースとしての活用が期待されています(図5)。

今後の取り組み・展望

NTT東日本への納入を皮切りに、ビオストックでは、省スペース・可搬型・短期間で施工可能なコンテナ型バイオガスプラントの提供・販売を開始しました。カーボンニュートラル・脱炭素対応や廃棄物処理コスト削減など、有機性廃棄物を排出する事業者等にとっての喫緊の課題への有効な対策となることを期待しています。
特に、食品工場等では、1工場当りの食品廃棄物排出量が1〜5t/日程度であることが多く、従来は原料や設置スペースの確保の観点から、工場内にバイオガスプラントを設置することは困難でしたが、コンテナ型バイオガスプラントであれば工場内にオンサイトで設置可能です。従来外部へ委託していた廃棄物処理を工場内で完結することで、食品リサイクル率を向上させながら廃棄物処理コストを削減できるうえ、再生エネルギーも回収できることで、SDGs(持続可能な開発目標)・サステナブルフードへの貢献をPRすることも可能です。
また、廃棄物処理施設や下水・し尿処理場の維持運営費増加に悩む自治体においても、コンテナ型バイオガスプラントは有効なソリューションになると考えています。特に、一般家庭の生ゴミを分別回収し堆肥化事業を行っている自治体では、コスト負担の問題から事業継続が困難になっている事例が多いと聞いていますが、コンテナ型バイオガスプラントの導入により「メタン化+堆肥化」へのハイブリッド処理へ移行することで、事業収支を抜本的に改善できると考えています。2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた、脱炭素先行地域の取り組みとしても活用が可能です。
環境省は、令和3年度版環境白書の中で、「2050年カーボンニュートラルに向けた経済社会のリデザイン(再設計)」と題して、「脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行」が重要テーマになると宣言しています。コンテナ型バイオガスプラントは、再エネ創出・リサイクル・廃棄物処理の分散化(廃棄物輸送削減)の観点から、まさに時流に即したソリューションであり、今回の実証を契機に、全国への普及拡大に努めていきます。

■参考文献
(1) グループ企業探訪:“畜産・酪農業に新しい風を吹き込んで地域貢献,”NTT技術ジャーナル,Vol. 32, No.11, pp.106-109, 2020.
https://journal.ntt.co.jp/article/7831

井上 翔吾

子どもたちにより良い地球を残せるよう、これからも社会課題の解決に取り組みます。

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