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テクニカルソリューション

鉄塔塗装の早期劣化を防ぐ取り組み―鉄塔塗装に関する技術資料の紹介

NTT東日本・西日本は、全国各地に通信用鉄塔を保有し、鉄塔鋼材の腐食を防ぐために防食塗装を行っています。塗装は、紫外線や海塩粒子などの自然環境の影響を受けて剥離などの劣化が起こるため、定期的な点検結果に基づき、塗装の塗り替えを行うことで鉄塔本体の鋼材の腐食を防ぎ、設備の健全性を維持しています。ここでは、この鉄塔塗装に関する技術資料について紹介します。

はじめに

NTTでは標準的な点検マニュアルを設置して鉄塔(図1)の定期点検を実施しており、塗膜剥離や錆の発生状況を確認することで、適切な塗り替えのタイミングを決定しています。しかし、鉄塔の塗装の塗り替えにおいて、設計や施工等の工程ごとに異なる担当者が実施するため、別工程での重要性が十分把握されておらず、一貫性のある運用が十分なされていないことから早期劣化に至るケースもみられました。このような背景から、NTT東日本技術協力センタでは、適切な塗替え工事を実施して鉄塔を長期にわたり効率良く保守していくために、鉄塔塗装に関する網羅的な技術資料の策定に取り組んできました。

鉄塔塗装の早期劣化事例

技術協力センタは、鉄塔の塗替え工事後から短期間で①塗膜剥離や②鋼材腐食が発生した特異的な事例(図2)について相談を受けています。塗替え工事後の早期劣化は、再塗装などの工事につながります。そして、鉄塔の塗替え工事は、足場組立が必要な高所作業であるため、大規模な改修工事となり、膨大な改修コストが発生します。
鉄塔を構成する鋼材は、空気や水と接触することによって酸化して錆が発生し、金属の組成変化および減肉等を要因としてその強度が低下します。鋼材にエポキシ、ウレタン等の樹脂から成る塗料を塗布すると、錆の原因となる鋼材と空気や水との接触を遮断し、酸化劣化を防止できます。塗装による防錆は、塗装と鋼材が十分に密着していることが重要なポイントの1つです。塗装の種類や設置環境にもよりますが、5〜15年で徐々に劣化して剥がれなどが生じるため再塗装が必要になります。付着力が低下した旧塗膜の上から塗装を重ね塗りすると、旧塗膜と新しい塗膜がよく付着していても、旧塗膜ごと新しい塗膜が剥がれる可能性があります。上記の短期間での①塗膜剥離は、このような塗膜の不適切な重ね塗りが原因の1つとして考えられます。
また、鋼材の錆が十分に除去されずに塗装すると、塗膜の付着力が十分に発揮されず、塗膜の浮きや錆の進行につながる可能性があります。短期間での②鋼材腐食は、このような錆の除去不足が原因の1つとして考えられます。

鉄塔塗装施工の各工程をつなげ、最適化する技術資料

鉄塔塗装の工程は、精密点検・設計・施工・検査・記録から構成されますが、それぞれの工程を実行する部署が異なっており、各部署で把握している工程の技術もさまざまです。前述のような早期劣化を防ぐためには、当該工程だけでなく他の工程の技術も知り、適切な塗装を実施するためのポイントをおさえることが重要です。
そこで、鉄塔の早期劣化防止に役立てるため、長年にわたる現場への技術協力を行うことで鉄塔塗装技術を蓄積してきた当センタは、各工程での現場へのヒアリングも行いながらこれらのノウハウを技術資料として網羅的に集約し策定しました。技術資料では、図3に示すような構成で、各工程の中で主要な工程について解説しています。ここでは、技術資料の内容の一部を紹介します。

技術資料の活用例

一般的に、塗装の塗り替えを行う場合、塗膜の付着性を高めることを目的として、旧塗膜や錆を除去することで鋼材表面の素地を調整します。この工程は、素地調整やケレンと呼ばれます。鋼材が早期に腐食するケースでは、前述したように、付着力の低下した旧塗膜や鋼材の錆を除去しきらず、その上から塗装を実施することで新しい塗膜の付着力が十分ではないという場合が要因の1つとして考えられます。素地調整については、図3の技術資料の構成の中で、塗膜や鋼材の状況を精密点検(図3(a))すること、その点検結果を基に設計の工程(図3(b))において適切な素地調整グレードを決定すること、施工の工程(図3(c))において素地調整を適切に実施すること、適切に実施されたことを検査(図3(d))すること、記録(図3(e))して保管することなど、各工程での適切な対処が必要となります。
各工程の一貫性が重要となる具体例を紹介します。施工の工程(図3(c))での素地調整の作業は、方法に応じて大きく1種ケレン(ブラスト処理)から2〜4種ケレン(ディスクサンダーやワイヤホイル等の電動工具処理、手工具による処理など)までの4種類があり、設計の工程(図3(b))では錆の面積や塗膜の割れ、膨れなど旧塗膜の状態からどの程度の素地調整を行うかを判断します。1種ケレンのブラスト処理による素地調整は、コストはかかりますが、進行した錆や旧塗膜をすべて除去して鋼材面を露出させ、再塗装した塗膜の密着性を高める、より緻密な表面処理が可能になります。図4には、素地調整の手法による防錆効果の違いを示しています。加速劣化試験後(塩水噴霧試験2000時間後)で比較すると、ブラスト処理による素地調整の鋼板は端部からの流れ錆のみで十分に防錆できていますが、電動工具による素地調整の鋼板は全体に錆や塗膜の膨れが発生しており、十分に防錆できていない様子が確認できます。このように、ブラスト処理は高い防錆効果が得られますが、要するコストも増加するため、劣化の進行度によっては軽度のケレンのほうが適切となり、どのような部位に本処理を適用するか設計の工程(図3(b))で判断することが重要です。またその判断には精密点検の工程(図3(a))での点検確認が大きく影響します。技術資料の中では、この素地調整のグレードを細分化して解説しており、どの場合にどのグレードを選定すべきかといった情報も記載しています。
このようにNTTでは、技術資料を参考にして、他の工程も含めた技術的な情報を理解、有機的に情報を結び付けて活用することで、工事内容の適正化や早期劣化の防止に取り組んでいます。この結果、鉄塔の長寿命化やコストの低減が期待されます。なお、技術資料は、現在NTT社内限りであり、本稿より詳細な情報については非公開とさせていただいています。

今後の展望

ここで紹介した鉄塔を含め、全国に膨大な数の通信設備があるため、その劣化要因はさまざまです。特異な劣化事例を防ぎ設備の長寿命化、安心・安全で安定したサービス提供を行うために、今後も技術協力センタでは、現場と連携しながら材料に起因するような特異故障や劣化の原因の究明、防止対策を立案し、現場にフィードバックしていきます。技術協力センタでは、57年以上にわたり技術協力活動を行ってきました。これまでに蓄積された知識と経験を基に、引き続き通信設備の信頼性向上や故障の早期解決、および保守コスト低減に向けた取り組みを進めていきます。

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部 技術協力センタ
TEL  03-5480-3703
E-mail zairyo-ml@east.ntt.co.jp