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特集

IOWNに向けたアクセスネットワーク技術

DXスパイラル実現に向けたオペレーション技術の取り組み

NTTアクセスサービスシステム研究所では、スマートなオペレーションの実現や、それを通じた新ビジネス領域の開拓をめざし、オペレーション技術の研究開発を行っています。今後、業務の協働化が進展すると考えられることから、特に、複数プレイヤを横断してのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進・拡大の観点での取り組みを進めています。本稿では、最近の取り組みとして、自己進化型ゼロタッチオペレーション技術と操作プロセス分類型業務デザイン支援技術を紹介します。

柴田 朋子(しばた ともこ)
NTTアクセスサービスシステム研究所

アクセス系オペレーションの特徴・動向とめざす方向性

アクセスネットワークは、全国に面的な広がりを持ち、屋内外の各種通信設備の保守者やサービスを利用するエンドユーザに直結しています。そのため、そのオペレーションは、それら多様なプレイヤおよびビジネスと深くかかわっています。一方、近年では、労働人口減少(1)、インフラ老朽化(2)等の社会課題の解決に向け、各種インフラ企業どうしによる横断的なデジタルトランスフォーメーション(DX)への期待が高まっています。また、ローカル5G(第5世代移動通信システム)/6G(第6世代移動通信システム)や自動運転技術を活用したMaaS(Mobility as a Service)など、新たな面的サービスの普及・拡大も見込まれています。さらに、感染症対策を契機とし、社会生活や働き方の多様化が加速しています。そのため、今後、通信キャリア以外のプレイヤとの、設備やサービスの共有化・相互利用や、それらの運用業務の協働化が進むと考えられ、自社業務に閉じることなく、生産性を高める仕組みが重要となります。
これらを踏まえ、NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)のアクセスオペレーションプロジェクトでは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の進展する状況におけるスマートなオペレーションとして、多様なプレイヤどうしが、それぞれの業務や、そこで使用されるシステム、データなどを活かしてスムーズに協働できるようにしていくためのエコシステムと、それによる価値創出の連鎖・拡大(DXスパイラル)の実現をめざしています。ビジネス構造により協働の形態も異なり、また、そのために連携すべき対象も、情報やシステム、組織など、さまざまです。これら多様な観点で研究開発に取り組んでおり、NTTグループ各社の協力により商用利用も進められています。以降では、最近の取り組みとして、複数のネットワークのレイヤやドメインにまたがったエンド・ツー・エンドでのオペレーションの連携に向け、統一的なネットワーク情報管理とそれに基づく自律的な分析・判断を実現する「自己進化型ゼロタッチオペレーション」と、業務改革組織と現場組織との共通理解の促進により作業効率化を実現する「操作プロセス分類型業務デザイン支援技術」を紹介します。

自己進化型ゼロタッチオペレーション技術

AS研では、運用を抜本的にスマート化する研究開発に取り組んでいます。その中で、自ら進化する「スマートオペレーション」を実現していくうえで、ネットワークリソースが複数のドメインや通信事業者にまたがって管理される場合を想定した、エンド・ツー・エンドでのオペレーションの連携が重要になると考えています。このエンド・ツー・エンドでのオペレーション連携に向け、次の観点での技術確立を推進しています。
① マルチレイヤ・マルチドメインでエンド・ツー・エンドリソースを取り扱うための「ネットワーク情報管理」
② ①のネットワーク情報を基礎とし、ネットワークサービスの提供のため行われる「分析・判断」

■ネットワーク情報管理

「ネットワーク情報管理」について図1に示します。従来、事業者ごと、サービスごと、ネットワーク種別ごとにネットワーク情報のデータベースが構築されており、ネットワークレイヤをまたがる保守運用業務の妨げになるとともに、オペレーション連携を進めるうえでの障壁となっていました。この解決のため、ネットワーク情報の汎用的な統一モデルが求められており、例えばTM Forumでは、SID(Shared Information and Data Model)として標準化されています(3)。しかし、管理すべき対象や粒度が要件や概念レベルで規定されたもので、事業者が管理するネットワーク種別に合わせて、SIDを解釈し、独自の実装を行う必要がありました。また、独自の実装の際には、通常、開発の期間やコストに厳しい制約があるため、汎用性や将来の拡張性を考慮してデータモデルの詳細を検討することは難しく、そのときどき、追加対象となるネットワーク種別に特化したものとなりがちでした。その結果、管理対象のネットワーク種別の追加には、ネットワーク情報を保持するデータベースの変更が必要となり、さらには、それに合わせ、ロジックの変更も必要でした。
AS研では、ネットワーク情報を汎用的で統一されたモデルとして扱えるようにする技術として、NOIM(Network Operation Injected Model)の確立を進めており、商用利用されています(4)。NOIMは、概念レベルにとどまらず、管理するネットワーク種別に依存しない汎用的な拡張性を備えた仕組みを規定することで、ネットワーク種別ごとに必要となっていたデータベースやロジックの変更を限定化し、コストを削減するものです。SIDで規定されていた「点」や「接続性」など、ネットワーク種別に依存しない性質に着目した汎用的なモデルであり、また、ネットワーク種別ごとに異なる属性やレイヤ間の関係性を外部定義し、保持できる機構により、高い拡張性を実現しています。これにより、ネットワーク種別の相違や変化に対し、データベースの変更が不要となり、処理ロジックの変更も限定化できます。また、複数のドメインのネットワーク情報を、データ形式レベルで統一的に取り扱えることで、高い相互運用性が実現され、事業者やサービス間でのネットワーク情報自体やルール等の相互活用が容易になります。

■分析・判断

「分析・判断」は、ネットワークサービスの提供のための、設備の計画や、サービスオーダへの対応、監視や障害対応など、さまざまな業務で日常的に行われています。従来、これらの分析・判断は、作業者のスキルに大きく依存しており、また多くの稼働を要していました。この課題を解決し、かつ、作業者では困難な最適な分析・判断の実現に向け、昨今のネットワークオペレーション分野では、Autonomous NetworkやAI Ops(Operations)など、ネットワークAI(NW-AI)に関する取り組みが広く進められています。
AS研では、NW-AIによる最適な分析・判断に、NOIMが実現する汎用性や拡張性、相互運用性といった特長を組み合わせることで、NW-AI効果のさらなる拡大をめざした研究開発を進めています。以降では、その一例として、ネットワークの障害箇所推定・対処に関する技術を紹介します。
障害対応においては、複数のレイヤにまたがった、大量で因果関係が複雑なイベント情報から障害箇所を特定するとともに、障害原因に応じて適切な対処方法を選択する必要があり、従来、作業者のスキルに大きく依存するとともに、多くの稼働を要していました。この解決のため、AS研では、障害箇所の推定と対処策の選択を自動化する技術を確立し、商用利用されています(5)。ネットワーク障害箇所の推定とその対処について図2に示します。本技術では、NW-AIにより、過去に障害が発生したときのアラームや分析・切り分け結果から、障害情報と障害箇所の関係性(ルール)をレイヤ横断で学習し、それに基づき、以降の障害発生時に障害箇所を推定します。また、障害原因ごとの対処実績に基づき、復旧対処時間・回数を最小とする方法をレコメンドします。
一方、NW-AIでは、障害特定・対処ノウハウの学習にはデータが不可欠です。そのため、導入後、まだ蓄積されたデータが少ない場合や、稀にしか発生せず、蓄積データから学習できる可能性の低い事象の発生時には十分対応できません。また、現状、NW-AIを学習させる段階では、適切な学習データの準備も含め、有識者のスキルや稼働が必要です。これらの解決に向けAS研では、実業務で作成される情報を学習データとしてそのまま使用できるよう、ログやトラブルチケットから自動的に障害原因や対処内容を抽出し、NW-AIにフィードバックする自律学習技術に取り組んでいます。また、各NW-AIが適用されるネットワーク環境で生成された学習データやそこから導出されるルール、AIモデルを、異なる環境間で相互に活用できるよう、NOIMの相互運用性を活かしてネットワーク環境間の差異を分析し、学習データやルール、AIモデルを変換する環境間転移技術への取り組みも進めています(6)。環境間転移について図3に示します。

操作プロセス分類型業務デザイン支援技術

かつて、業務改革は、業務支援組織が主導し、経営動向を踏まえた俯瞰的な視点・知見に基づき、潜在的に大きな生産性向上効果のある改革案が推進される一方で、業務実態との乖離により、実現に多くの時間・コストを要する場合がある、といった問題がありました。最近では、RPA(Robotics Process Automation)や、ローコード・ノーコードの普及などにより、業務実行組織主導でのDXが進んでおり、実業務に密着した詳細な視点・知見に基づき、業務実態の適合性が高く、即効性のある改革案が実行される一方で、個別最適化への懸念も増大しています。今後、DXの実効果をさらに高めるためには、業務支援組織と業務実行組織の共通理解の下で、両アプローチのパラコンシステントが重要になってくると考えられます。ここで、「共通理解」は、「実際の業務がどのように行われているか」(業務実態)の理解が土台となります。しかし、顧客のニーズ、他社動向等、事業環境の相違や変化により、業務実行組織での業務に相違や変化が生じるため、「業務実態」と、標準フローや業務マニュアルの前提となっている「設計上の業務」や、サンプリング的に行われる実業務の観察や作業者へのヒアリングの結果を加味した「想定の業務」との間には、ギャップが存在し、業務実態の理解を難しいものとしています。
AS研では、客観的データに基づく正確・容易な業務実態把握により、共通理解を促進・深化させる技術の確立を進めています。特に、業務実態把握の正確さが、業務改革の実現性を大きく左右する一方で、これまで業務支援組織による把握が困難であった実務作業の1つである端末作業を対象とし、「操作プロセス分類型業務デザイン支援技術」を実現しています(7)。本技術は、端末作業における有力な客観データである、操作ログを取得し、それを基に、作業内容(操作フロー)の可視化、操作フローの編集、実作業への反映(RPAによる自動化シナリオの生成)を、一気通貫で行える仕組みであり、業務の設計・想定と実態とのギャップを把握するうえでポイントとなる、次の特長を実現しています。

■操作ログの作業種別への分類

業務の設計・想定は、例えばサービスオーダ受付業務の中でも、受注情報登録、工事稼働予約、といった「作業種別」ごとに行われます。一方、実際の業務では、異なる種別の作業が並列に実施されることは珍しくありません。また、個々の操作ログは、作業種別の区別なく取得されます。そのため、操作ログを時系列順に並べるだけでは、ギャップの把握は困難です。本技術では、操作ログ系列において作業種別が切り替わる箇所を自動で検出し、操作ログを分割・分類したうえで可視化することで、作業種別単位での業務実態把握を可能としています(8)。操作ログの作業種別への分類について図4に示します。

■頻出操作パターンの抽出

業務の設計・想定上の操作は、作業の中で発生する操作のうち、入力欄への値の設定やボタンの押下など、代表的なもののみです。一方、ログとして取得される操作は、網羅的であり、入力欄に値を設定する過程で必要となる、リストボックス中で選択項目を変更するキー操作や、画面をスクロールする操作など、業務の設計・想定上、あまり意識されないものも含まれます。そのため、業務の設計・想定上の操作の間に、さまざまな操作が存在し、また、それらの操作はそのときどきの作業により多様です。操作ログ系列上、連続して頻出する系列を抽出しても、業務の設計・想定上の頻出操作パターンと比較できません。本技術では、操作ログ系列上、連続した操作どうしだけを調べるのではなく、離れた操作どうしの前後関係も調べ、頻出する関係性を自動的に抽出することで、業務の設計・想定上の頻出操作パターンとの比較を可能としています。頻出操作パターンの抽出について図5に示します。
AS研では、生産性が高く実現性も高い業務のデザインや実業務への迅速な反映を継続的に実践可能とするため、共通理解を促進・深化させつつ、RPAに限らず、多様なICTの業務利用を容易化する仕組みとして、技術の洗練・拡充を進めていく予定です。

今後の展望

多様なプレイヤによる、それぞれのアセットを活かした協働を通じ、業務の生産性がプレイヤ横断で高まるとともに、新ビジネス領域の開拓が促進される仕組みの実現に向け、プレイヤ間での連携を容易にし、また分析・判断を自ら進化させる技術の研究開発を推進します。また、研究開発においても、皆様との協働・連携を深めていきながら、タイムリーな成果創出に努めていきます。

■参考文献
(1) https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_ReportALL.pdf
(2) https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/_pdf/research01_02_pdf02.pdf
(3) https://www.tmforum.org/oda/information-systems/information-framework-sid/
(4) 佐藤・西川・深見・村瀬・田山:“ネットワーク種別に依存しない統一管理モデルを用いたサービス影響把握技術,” NTT技術ジャーナル, Vol. 32, No. 8, pp. 51–53, 2020.
(5) 村田・浅井・矢川・鈴木・大石・井上:“ルール学習型障害箇所推定技術,” NTT技術ジャーナル, Vol. 31, No. 5, pp. 15–16, 2019.
(6) D. Li, K. Akashi, H. Nozue, and K. Tayama:“A Mirror Environment to Produce Artificial Intelligence Training Data,” IEEE Access, Vol. 10, pp. 24578–24586, 2022.
(7) https://journal.ntt.co.jp/article/18032
(8) Y. Urabe, S. Yagi, K. Tsuchikawa, and H. Oishi:“Task Clustering Method Using User Interaction Logs to Plan RPA Introduction,” Proc. of BPM 2021, pp. 273–288, Rome, Italy, Sept. 2021.

柴田 朋子

実業務の分析・技術適用から得られる知見を大切に、個人や組織に閉じた業務の効率化にとどまることなく、多様なプレイヤがかかわるアクセス系業務のポテンシャルの開拓と、新たな価値創出に貢献する研究開発に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
アクセスオペレーションプロジェクト
TEL 046-859-4910
FAX 046-859-5515
E-mail info-aop-p@hco.ntt.co.jp