特集
RAN仮想化(vRAN)に向けた取り組み
- vRAN
- 仮想化
- Open RAN
LTEや5Gのさらなる高速・大容量化が進みつつある中、無線基地局装置において高い処理性能が求められています。NTTドコモは、このような要求を実現するために、これまで専用に開発されたハードウェア(HW)とソフトウェア(SW)を用いてきました。一方、IT分野における技術革新は目覚ましく、HWの性能向上や、HWとSWの分離(仮想化・クラウド化)が進んでいます。それら技術を取り込んだ、優れた無線基地局装置の実現が可能になりつつあり、RANの仮想化として開発・商用化が進められています。本稿では、RAN仮想化技術に関するNTTドコモでの取り組み状況について紹介します。
水田 信治(みずた しんじ)/ウメシュ アニール
中島 佳宏(なかじま よしひろ)/久野 友也(くの ゆうや)
NTTドコモ
はじめに
NTTドコモでは、2020年3月から5G(第5世代移動通信システム)サービスを提供開始しており、現在、5Gエリアの拡大に取り組んでいます。既存のLTE基地局装置を最大限に活用しつつ5Gを展開するために、5Gサービスを実現する必要最小限のハードウェア(HW)とその上で動作するソフトウェア(SW)を開発し、それらをLTE基地局装置へ追加しました。
一方、昨今のIT分野における技術革新は目覚ましく、汎用HWの性能向上や、仮想化技術を利用したHWとSW分離によるHWリソースの有効活用、共通機能のプラットフォーム化によるクラウド化が急速に進んでいます。また、データ暗号化、AI(人工知能)技術や機械学習などを実現するために、さまざまな各種計算に特化したHWアクセラレータと呼ばれる製品が開発・販売されています。
このようなIT分野で利用されている汎用的なHWや無線処理にカスタマイズしたHWアクセラレータをベースに仮想化技術を無線基地局に適用する取り組みが始まっており、無線アクセスネットワークの仮想化(vRAN:virtualized Radio Access Network)と呼ばれています。vRANには、これらの技術を有効活用しつつ、汎用HWを利用することで、インフラ投資削減効果が見込める可能性があります。NTTドコモは、vRANの効果を最大化するために、2021年2月より5GオープンRANエコシステム(OREC:Open RAN ECosystem)*1の協創プログラムを開始しました(1)。また、NTTドコモではコアネットワーク装置の仮想化技術をすでに導入済みであり、その運用経験も最大限に活かしつつ、vRAN導入の取り組みを進めています。
*1 5GオープンRANエコシステム(OREC):多様なニーズに応えられる柔軟なネットワークの構築を可能とする、オープンな無線アクセスネットワークの海外展開を目的としたドコモとパートナー会社との取り組み。
RAN仮想化技術
■ネットワーク仮想化技術
ネットワーク仮想化技術とは、汎用HW上に仮想化レイヤを導入し、SWを仮想リソース上で動作させるIT仮想化の技術とオーケストレーション技術*2を利用して、従来、高信頼性や高性能などの通信事業者が用いるシステムの要件を満たすため最適化された専用のHWとSWを用いて提供してきた通信サービスを、仮想化技術により実現するものです。ネットワーク仮想化技術の適用により、最先端のHWの早期導入やSWのアップデートのみによる新規機能の提供が可能となります。さらに、オープンソースの適用やIT分野で培われた効率的な開発手法などを利用することにより、サービス開始までのリードタイム*3の短縮などのメリットが享受できます。
NTTドコモでは、2010年代前半よりネットワーク仮想化技術の研究開発とETSI(European Telecommunications Standards Institute) NFV(Network Functions Virtualisation)等における標準化を進め、2015年度より商用ネットワークのコアネットワーク装置へ仮想化技術の導入を開始しました。2020年度末でのLTE装置以降のコアネットワーク装置の仮想化適用率は約50%を超え、2021年度に導入された5Gのコアネットワークはすべて仮想化されています(2)。これにより、NTTドコモでは以下4つのメリットを享受できました(3)。
(1)ネットワーク設備の経済性向上
従来は装置ベンダごと・通信機能ごとの装置および通信SWとなっており、それぞれの装置および通信SWごとの保守が必要でしたが、本技術により複数ベンダの通信SWを統一的な仮想化基盤上で動作させることが可能となり、運用保守の統一化と単純化、低コストな汎用HWの利用・共用化により経済性が向上しました。
(2)サービスの早期提供
新サービスの導入時に、既存の汎用HWを利用することで、個別のHWの準備と構築が不要になり、サービス開始までのリードタイムが短縮されました。
(3)通信混雑時のつながりやすさの向上
災害時などに発生する輻輳や急激なトラフィックの集中に対し、短時間でネットワーク設備容量を自動的に拡張し、通信のつながりやすさが向上しました。
(4)通信サービスの信頼性向上
冗長化されたHW構成が容易に実現でき、HWの故障を検知した際、正常系のHWに通信SWを自動構築させることが可能となり、短時間での通信機能の復帰が可能となり、即時の駆けつけ保守作業が不要になり、通信サービスの保守性と信頼性が向上しました。
*2 オーケストレーション技術:アプリケーションやサービスの運用管理を自動化するために、必要となるリソースやネットワークの接続性の管理・調停を実現する技術。
*3 リードタイム:さまざまな分野で使用されるが、本稿では開発着手や設備構築からサービス提供開始までの期間を示します。
■期待されるvRANの導入効果
近年の仮想化技術の進展により、高処理性能や高いリアルタイム性などのサービスレベル要求がより厳しい無線レイヤのベースバンド*4処理も対応可能になってきました。このため、国内や海外のいくつかのオペレータでは、仮想化技術を用いてvRANの実用化に取り組み、導入を始めています。期待されるvRANの導入効果は以下のとおりです(図1)。
(1)HWとSW分離による最適なソリューションの組合せの実現
・汎用的かつ標準的なHW活用による設備の経済化
・最新HW活用による性能向上や低消費電力化
・SW更新のみによるRAN系サービス・機能の拡張
・新規ベンダの収容の容易化
(2)仮想化・自動化によるシンプルかつインテリジェントなRANの保守の実現
・設置済みリソースプール*5を最大限に利用したSWでの設備構築によるリードタイム短縮やデプロイメントの柔軟性向上
・SW化に伴う遠隔保守範囲の拡大と現地作業削減
・トラフィック需要変動への柔軟な容量対応によるつながりやすさの向上
・HW故障時の短時間での自動復旧や信頼性の向上
・RIC(RAN Intelligent Controller)によるトラフィック変動対応
(3)エッジからコアネットワークでのインフラ共用化・共通オペレーションの実現
・RANのアプリケーションを中心に、エッジからコアネットワークおよび新しいネットワーク設備に対する共通基盤化と共通オペレーションの実現
・安定的かつ長期的な仮想化基盤の運用
・E2E(End to End)でのオーケストレーションの提供
*4 ベースバンド:無線通信の送信側および受信側において、無線周波数帯に変換する前・後の情報信号の帯域のこと。普通は低い周波数帯であり、デジタル信号処理にて実現されています。
*5 リソースプール:計算機の予備などを束ねて、計算機のCPUやメモリを束ねて仮想的なコンピュータとして管理する仕組み。
■vRAN要件に対するネットワーク仮想化技術の課題
vRANには、従来のコアネットワークの仮想化の技術課題に加え、RAN特有の要件も考慮したうえでの技術課題があります。
(1)課題①:HWとSW分離による最適なソリューションの組合せの実現に向けた課題
・基地局装置の設置環境に対応できる仕組みの構築
RANではビルの一室や屋外へ小規模かつ分散的に設置される基地局サイトも多くあるため各設置場所により、要求される性能、設置スペース、電力の制限も異なります。さらに、防塵性能や、極端な温度への適応など、より厳しい環境に対応した汎用HWが求められます。
(2)課題②:仮想化・自動化によるシンプルかつインテリジェントなRANの保守の実現に向けた課題
・現地作業や手作業の削減
全国に分散する基地局装置や仮想化基盤の構築から故障対応までの自動化を実現するために、全体のワークフローを設計する必要があります。特に、vRAN化に伴ってSW制御できる範囲を広げることで、現地作業を最小化し自動化の範囲を拡大することが重要です。そのため、汎用機器のキッティングを含めた構築業務や予備部材の共通化や、作業遠隔化のための各種接続インタフェース(IF)の整備も必須です。
(3)課題③:エッジからコアネットワークまでのインフラ共用・共通オペレーションへの課題
・全国に分散された仮想化基盤の長期運用の課題
vRANでは、全国に分散した多数の小規模仮想化基盤の維持管理も重要な課題です。特にすべての仮想化基盤のバージョンアップ作業は、通信サービスを継続したまま短期間で実施することが必要となります。そのため、長期間安定的に基盤運用を行うための仕組みが望まれます。
課題解決に向けたアプローチ
NTTドコモでは、特にO-RAN(Open RAN)ALLIANCE*6やETSI NFVにおけるvRANを実現するための標準化の推進と、ORECによるマルチベンダ環境における相互接続検証の2つのアプローチで前述の課題解決を進めます。
「HWとSW分離による最適なソリューションの組合せの実現」の課題①に対しては、RANアプリケーションベンダと汎用HWベンダが連携した技術検討と実装、性能向上のための最適化を、ORECを活用し推進しています。ORECでの取り組みについては後述します。
「仮想化・自動化によるシンプルかつインテリジェントなRANの保守実現」に向けた課題②と「インフラ共用・共通オペレーション」への課題③に対しては、vRAN自体とそれに関連するシステム間のIF・情報モデル*7の策定とオペレーションの共通化を最重要として標準化を推進しています。また、標準化を行うことで、装置等のマルチベンダ化が可能となり、設備更改時等における柔軟性・安定性が向上します。さらに、標準化団体ごとの個別仕様(標準仕様の乱立)防止と、NTTドコモがリードしてきた標準仕様を最大限利活用するために、標準化団体間での調整を推進します。
vRANに関する標準化についてはO-RAN WG(Work Group)6にて取り組みが進められており、その中で、O-RANでの全体アーキテクチャ(図2)をベースに、NTTドコモが標準化でアプローチすべき点をまとめました。
・SMO(Service Management and Orchestration)とマルチベンダのvCU-CP/vCU-UP/ Near-real time RIC/O-DUの機能を有するvRANアプリケーションのIF(図2 O1)
・SMOとDMS(Deployment Management Services)/IMS(Infrastructure Management Services)の機能を有するマルチベンダ仮想化基盤の収容を可能とするIF(図2 O2dms/O2ims)
・SMOおよび、複数の仮想化基盤による、統一的なオペレーション
・運用自動化に向けた、SMOで管理するvRANアプリケーションや仮想化基盤の情報モデルの統一化、パッケージの統一化
・vRANを含めたコアネットワーク機能やMECの収容が可能な共通仮想化基盤
・既存のオペレーションシステムと連携する関連システムへの後方互換性を維持した安定的なIFとシステム間の情報流通方法
・オペレータの既存資産を最大限活用した拡張性の高い機能分担やIF仕様
*6 O-RAN ALLIANCE:5G時代におけるRANのオープン化、インテリジェント化の推進を目的に、2018年2月にドコモと海外の主要なオペレータにより設立された団体。
*7 情報モデル:システムが有するHWリソースなどを外部装置などから扱いやすくするためにモデル化すること。
O-RAN WG6標準化最新状況
O-RAN WG6の仕様は、全体コンセプトであるGAP(General Aspects and Principles)、システム間を連携するユースケース仕様書、そしてデータモデルやプロトコルを規定するIF仕様書から構成されています。
各仕様の詳細は以下のとおりです。
① GAP
WG6においてO-Cloudを中心とした機能名の定義や関係性が記述されたもので、O2IFとAAL(Acceleration Abstraction Layer)*8の2種類のGAPが規定されています。
② ユースケース仕様書
O-Cloud/NF(Network Function)/xApp(Near-RT RIC Application)のProvisioning、Fault Management、Performance Managementの代表的なユースケースが規定されています。
③ IF仕様書
O2ims、AAL FEC(Forward Error Correction)、AAL High-PHYのサービスおよびプロトコルが規定されています。また、現在O2dmsのプロトコルも規定中です。
vRANを実現する構成要素には、vRANアプリケーションの仮想リソースを規定するNF Deployment、NF Deploymentに仮想リソースを提供する仮想化基盤であるO-Cloud、そしてNF DeploymentとO-Cloudを管理制御するSMOがあります(図3)。O-RAN WG6では主に、SMOとO-CloudのリファレンスポイントであるO2と、NF DeploymentにO-CloudがHWアクセラレータを提供するリファレンスポイントであるAALの仕様策定を進めています。
*8 AAL:O-Cloudに搭載されるHWアクセラレータでのHWとSWを分離するレイヤであり、HWアクセラレータの使用形態やIFを規定することにより、異なるベンダ間でのHWアクセラレータとSWとを組合せできることを目的としてO-RANで規定が進められています。
■SMO
SMOは、NF DeploymentとO-Cloudを制御するためにFOCOM(Federated O-Cloud Orchestration and Management)とNFO(Network Function Orchestration)の論理機能を持ちます。FOCOMはO-CloudのInventory管理・Alarm管理・Performance管理を行い、NFOはO-Cloudと連携してNF Deploymentのライフサイクル管理・Alarm管理・Performance管理を行います。
■O-Cloud
O-Cloudは、NF Deploymentに仮想リソースを提供するO-Cloud Node、NF Deploymentを管理するDMS、O-Cloud NodeとDMSを管理するIMS、そしてHWアクセラレータを管理するHWアクセラレータManagerから構成されます。O-Cloud NodeはComputeリソース、Networkリソース、Storageリソースから構成され、ComputeリソースにはAALを実現するための機能が含まれます(後述)。DMSはKubernetesやOpenStackのような仮想化基盤が想定され、SMOとはO2dmsで接続されます。IMSは主にO-Cloud NodeのInventory管理・Alarm管理・Performance管理、DMS自体のデプロイメントを担い、SMOにO2ims IFを介して接続されます。
■HWアクセラレータ
ETSI-NFVでは、vRANで必要となるHWアクセラレータに関する規定が存在しておらず、O-RANにて議論が進められています。AALには、物理装置としてのHWアクセラレータと、これを利用してvRANのさまざまな処理を実現するAAL Profile、およびAAL ProfileとvRANのIFであるAALI(AAL Interface)が含まれます。AAL ProfileはHWアクセラレータManagerから制御され、HWアクセラレータManagerはNF Deploymentを制御するDMSやIMSと連携しながら、O-Cloud上のAAL Profileを管理しNF Deploymentと接続します。
HWアクセラレータにおける無線処理のオフロード実現方法は、大きく分けてLook-aside型とInline型と呼ばれる2つの方法が提案されています。前者は無線レイヤ1の一部、特に暗号化・復号化といった処理負荷が高い部分を、後者は無線レイヤ1すべてをオフロードする形態となっています。いずれの形態であっても、仮想化・オーケストレーションが実現できるように規定が進められています。
今後O-RAN WG6では、O2dmsのIF仕様書、AALのユースケース仕様書、vRANアプリケーションのPackage、そしてオペレータにとってもっとも大切な機能分担と機能定義された仕様書が規定される予定です。
標準化でのNTTドコモの取り組み
NTTドコモは、これまで積極的にETSI-NFVにてコアネットワーク仮想化の標準化を進めてきました。その仮想化の仕様を最大限利活用し、かつ、標準仕様の乱立防止のため、上記仕様に対して、図3のとおりO-RAN仕様とETSI-NFV仕様を対比しながら検討を進めています。具体的には、O-RAN WG6においてO2dmsのIF仕様の策定を行いつつ、ETSI-NFVにおいては、ETSI GR NFV-IFA 046(4)によるO-RAN仕様とNFV仕様のギャップ分析に取り組んでいます。
将来的には、図4のようなRANからコアネットワークまでの統合NFV Platformをめざし、標準化を推進していきます。なお基地局の分散的な設置は、基地局とRU(Radio Unit)*9間のフロントホール長の制限などのように、各機能部固有の制約や特徴が必要となり、それら制約や特徴を考慮した最適な提供形態を継続して検討していきます。O-RANとETSI NFVの標準化を進めていくうえでNTTドコモが重要と考えているポイントを以下に示します。
*9 RU:基地局を構成する装置の1つで、送受信するデジタル信号を無線周波数に変換し、送信電力の増幅やアンテナ素子での送受信などを行う装置。Massive MIMOにおけるビーム生成に必要な処理についても行う。
■SMOにおけるETSI NFVのNFVOのポジショニング
O-RAN仕様上のSMOは、3GPP-SA(Service & Systems Aspects)*10 5仕様のOSS(Operations Support System)とEM(Element Manager)/NFMF(Network Function Management Function)、ETSI-NFV仕様のNFVO(NFV Orchestrator)*11を含む非常に巨大な機能部となっています(図3)。マルチベンダに対応したSMOの実現に向けては、標準化上のアーキテクチャをより小さな機能群に分割することが必須であると考えています。特にOSS機能部はオペレータごとに既存設備、運用フロー、接続するOSS機能部外の装置が異なるため、現在議論されているSMOだけではすべてを担うことは難しく、OSS機能部はSMOの装置に含まれなくなる可能性があると考えています。また、O1の終端点は現状3GPP-SA5で定義されているEM/NFMFが想定されていますが、これまでのようなNFとEMが1セットでベンダから提供される導入形態よりも、より汎用性のあるEM(Generic EM)の導入によるシンプル化が望まれています。その結果、SMOは仮想化観点ではO1を終端するGeneric EM機能部とO2を終端するNFVO機能部を担う必要があると考えています。
*10 3GPP-SA:3GPPにおいて、サービス要求条件、アーキテクチャ、セキュリティ、コーデック、ネットワーク管理に関する仕様化を行っているグループ。
*11 NFVO:複数のVIMをまたがる仮想リソースの統合的な管理システム。
■O-CloudとETSI NFVのCISM/VIMとの関係性
現在O2dmsのIFはO-RANにて規定中であり今後詳細仕様が決定される見込みですが、DMSと関連が深いETSI-NFVの仕様として、CIS(Container Infrastructure Service)とCISM(CIS Manager)といったコンテナ基盤、VIM(Virtual Infrastructure Manager)とNFVI(Network Functions Virtualisation Infrastructure)といったVM(Virtual Machine)基盤の2種類の基盤が規定されており、これらがDMSに該当すると考えています(図3)。現在O2dmsは、ETSI-NFV仕様のCISM向けIFであるETSI GS NFV-SOL 018(5)とVIM向けIFであるETSI GS NFV-SOL 014(6)と、それらの制御を抽象化したVNFM(Virtual Network Function Manager)向けIFであるETSI GS NFV-SOL 003(7)の利用を検討しています。これによって、VNFMがSMOに属するか、O-Cloudに属するかが決まります。IMSはETSI-NFVの仕様に該当する機能部がないため、ETSI GR NFV-IFA 046(4)のギャップ分析後にIMSやその関連機能をNFVがサポートできるようにETSI-NFV仕様が拡張されると考えられます。
ORECでの取り組み
標準化にて規定されない実装依存の要素やオプションとなっている機能も多くあり、商用運用レベルの5Gサービスを提供するvRANを開発するためには、各種プロダクトを組み合わせるために使用するオプションやIFの合わせや検証も併せて進めていく必要があると考えています。そのためドコモは、O-RANおよびETSI-NFVの標準化推進に加えて、ORECにおいて以下の点を重点的に進めています。
(1)vRANソリューション提供に向けた、運用方法やネットワーク設計のガイドライン作成
vRANアプリケーションベンダ、HWアクセラレータベンダ、O-Cloudベンダによるさまざまなプロダクトの組合せにおいても相互接続を担保できるvRANソリューション提供に向け、各種運用方法やネットワーク設計のガイドラインの作成を行っています。また、クラウド環境においてはネットワークや管理ノードの冗長構成は必須ですが、基地局サイトでは設置環境により十分な冗長構成がとれない可能性もあり、ネットワーク切断や管理ノードのみダウンするケースも多々あります。これらを踏まえたさまざまなオペレーションなどが必要となるため、その観点でも設計方針の検討を進めています。ドコモがめざす具体的なオープン化の姿を図5に示します。VNFMを中心に、各IFをオープン化することでETSI-NFV仕様を最大限活用し、マルチベンダでのvRANアプリケーションや仮想化基盤の相互接続の実現をめざす取り組みを進めています。
(2)ソリューションの検証環境の提供とE2Eでの機能・性能検証
vRANにおいては各種技術を新規に使用するため、機能面・保守面の動作検証が必須となります。また、HWアクセラレータを新規に利用するため性能面での検証も必要となります。加えて省スペースな基地局サイトに最適なHWでの検証も必要となります。これらの検証環境を提供し、上位装置から端末までのE2Eでの検証を進めています。
現状、ORECラボでの検証では、vRANアプリケーション、仮想化基盤、汎用サーバ、HWアクセラレータについて数パターンの組合せで検証を進めています。先行して商用化が進められているLook-aside型のHWアクセラレータに加えて、Inline型のHWアクセラレータについても5G SA(Stand Alone)構成での通信の疎通確認も完了しており、今後、性能目標をめざしつつ商用品質に到達するように、さらに検証を加速していきます。
おわりに
NTTドコモは、コアネットワークで効果をあげたネットワーク仮想化を、vRAN要件に対応しながら基地局に適応させるために、標準化とORECの2つのアプローチでvRAN実現に取り組んでいます。現状では、標準仕様もORECも発展途上であり、今後の各種要求に適した最適な組合せを実現できる世界をめざして、パートナーとvRAN開発や、ORECラボでの検証を進めています。また、引き続きオペレータにとって重要な機能を安定的に提供し続けられるように、ユースケースの拡張やIF策定による標準仕様にも貢献していきます。
* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30、No.1、2022年4月)に掲載された内容を編集したものです。
■参考文献
(1) 平塚・栗生・ウメシュ・森:“RANオープン化(Open RAN)に向けた取り組み,” NTT技術ジャーナル,Vol.34,No.9,pp.32-36,2022.
(2) 田村・久野・鈴木:“ネットワーク仮想化基盤におけるETSI NFV stage3仕様に準拠したマルチベンダ対応MANOへの移行,” NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.29,No.4,pp.65-75,Jan. 2022.
(3) 鎌田・久野・田村・岩見屋:“ドコモネットワークにおける仮想化基盤システムの実用化,” NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.24,No.1,pp.20-27,Apr. 2016.
(4) ETSI GR NFV-IFA 046:“Report on NFV support for virtualization of RAN,” July 2021.
(5) ETSI GS NFV-SOL 018:“Profiling specification of protocol and data model solutions for OS Container management and orchestration.”
(6) ETSI GS NFV-SOL 014:“YAML data model specification for descriptor-based virtualised resource management,” May 2021.
(7) ETSI GS NFV-SOL 003:“RESTful protocols specification for the Or-Vnfm Reference Point,” July 2021.
(上段左から)水田 信治/ウメシュ アニール
(下段左から)中島 佳宏/久野 友也
問い合わせ先
NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com
NTTドコモにおけるvRANの取り組みについて紹介しました。汎用HW、HWアクセラレータやオープンソースを活用して、専用装置に代わる低コストでかつ高機能な無線基地局装置の実現をめざします。