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特集

無線アクセスネットワークのオープン化とインテリジェント化

RANオープン化(Open RAN)に向けた取り組み

5G(第5世代移動通信システム)のモバイルネットワークは、従来に比べて多岐にわたるサービスへの対応が求められています。これを満たすために、サービスに応じた柔軟なネットワークを構築する必要があり、それを実現するのがRANのオープン化です。本稿では、RANオープン化の概要を説明し、オープン化の標準化を担うO-RAN ALLIANCEの現況、およびNTTドコモの新たなRANオープン化の取り組みである5GオープンRANエコシステムについて紹介します。

平塚 大輔(ひらつか だいすけ)/栗生 敬子(くりう けいこ)
ウメシュ アニール/森 晴基(もり はるき)
NTTドコモ

はじめに

すべてのモバイルオペレータは、顧客のニーズに、より適切に対応するために、新しいネットワーク機器を追加したり、既存の機器を交換したりして、ネットワーク機能を拡張し続けることが求められます。このため、ネットワークには柔軟かつ機敏に拡張性を実現できる能力が必要です。そこで、NTTドコモではインタフェースのオープン化を推進しています。オープンインタフェースを使用することで、さまざまなベンダ製品の中から最適なソリューションを自由に選択して採用することが可能となり、柔軟かつ機敏なネットワーク拡張が可能となります。
本稿では、RAN(Radio Access Network)*1オープン化の概要とO-RAN ALLIANCE*2の現況に触れるとともに、グローバルへのオープン化推進に向けてNTTドコモが立ち上げた5GオープンRANエコシステムについて解説します。また、オープン化による性能、インテグレーションそして相互運用検証における課題に対し、本エコシステムで解決するアプローチを紹介します。

*1 RAN:コアネットワークと端末の間に位置する、無線レイヤの制御を行う基地局などで構成されるネットワーク。
*2 O-RAN ALLIANCE:次世代の無線アクセスネットワークの拡張性をより高く、オープンでインテリジェントにすることを目的に活動している電気通信事業者および通信機器サプライヤによる団体。

RANのオープン化

(1)オープンRANの3つの要素
無線アクセスネットワークのオープン化(オープンRAN)は、主に以下3つの要素で構成されています(図1)。
① さまざまなベンダのRAN装置の組合せを実現するオープンインタフェース
② RAN装置内のハードウェア(HW)とソフトウェア(SW)の分離を可能にする仮想化(vRAN:virtualized RAN)
③ RANの運用の最適化および自動化を実現するインテリジェント化
(2)オープンRANがもたらす効果
オープンRANでは、基地局装置を複数のコンポーネント〔子局(RU:Radio Unit)、親局(CU:Central UnitおよびDU:Distrib­ut­ed Unit)〕に分離し、それぞれを標準化されたインタフェースで接続することができます。これにより、通信事業者はベンダロックイン*3から解放され、商用導入までの時間を短縮でき、消費者向けに最適化されたサービスを提供するための最善の機器構成を採用できます。また、RANの仮想化は汎用HWの利用によるコスト削減や、柔軟性および拡張性の向上をもたらすことができます。さらに、今後のモバイルネットワークの複雑化に伴い、人手によるオペレーションが困難になってきますが、RANのインテリジェント化によりその困難を解消することが可能になります。

*3 ベンダロックイン:基地局を構成する装置が同一ベンダにより提供され、かつベンダ独自のインタフェースにより接続されることで、通信事業者が他ベンダ装置の導入をすることが困難になる状態。

オープンRANの標準化状況

NTTドコモは、2018年2月、世界のオペレータと連携し、RANのオープン化やインテリジェント化を目的とした業界団体「O-RAN ALLIANCE」を設立しました。O-RAN ALLIANCEの概要については、参考文献(1)を参照ください。本稿では2019年から現在までの新たな取り組みについて紹介します。
まず、2019年時点では19社のオペレータおよび55社のベンダなどがメンバでしたが、2022年2月22日現在、オペレータが31社、ベンダなどが294社にまで拡大しています。
また、2019年時点ではWG(Work Group)4のFronthaul*4仕様のみが公開されていましたが、2022年2月22日現在では各WG/FG(Focus Group)から新たに仕様が公開されています。その中から、NTTドコモが共同議長を務めているWG4とWG5において、新たにリリースされた仕様を紹介します。
WG4では、Fronthaul仕様に加えて、新たに下記3種類の仕様がリリースされ、バージョンアップもすでに実施されています。
①テストについての仕様:
・Open Fronthaul Conformance Test Specification
・Fronthaul IOT(InterOperability Test)Specification
②CTI(Cooperative Transport Interface)についての仕様:
・Fronthaul CTI Transport Control Plane Specification

オープンRANを構築する際には、異なるベンダの装置がO-RAN ALLIANCEのインタフェース仕様に準拠していてマルチベンダ接続ができることを、試験によって実際に確認する必要があり、上記のようなテストについての仕様が策定されました。
またWG5では、新たに以下の仕様のリリースおよびバージョンアップが実施されています。
①X2*5についての仕様:
・NR(New Radio)*6 C-plane(Control plane) profile
・NR U-plane(User data plane) pro-file
②伝送路についての仕様:
・Transport Specification
③監視制御についての仕様:
・O1 Interface specification for O-CU-UP and O-CU-CP
・O1 Interface specification for O-DU
④IOTについての仕様:
・Interoperability Test Specifi­ca­tion

また、RANのオープン化やインテリジェント化に向けて、新たにいくつかのWGやFGが新設されたので、改めて活動内容を表に示します。
2019年の設立時から現在に至るまでの間に、新たに追加されたWG/FGはWG9、WG10、 SFG(Security FG)、TIFG(Test & Integration FG)、OSFG(Open Source FG)、SDFG(Standard Development FG)です。特にオープンRANの課題の1つとして、セキュリティの懸念が挙げられますが、O-RAN ALLIANCEではSFGにてセキュリティリスク分析および対策検討を実施しています。

*4 Fronthaul:無線基地局において、デジタル信号処理を担うベースバンド処理部と無線送受信を担う無線部との間を光ファイバーで接続するリンクのインタフェース。
*5 X2:3GPPで定義されたeNodeB間のリファレンスポイント。
*6 NR:5G向けに策定された無線方式規格。4Gと比較して高い周波数帯(例えば、3.7GHz帯以下や28GHz帯)などを活用した通信の高速化や、高度化されたIoTの実現を目的とした低遅延・高信頼な通信が可能。

NTTドコモのオープンRANについての取り組み

■NTTドコモのマルチベンダネットワークの取り組み

従来、基地局はシングルベンダ構成で親局と子局共に同一ベンダで提供されてきました。シングルベンダのメリットの1つに、オペレータがベンダに導入から保守運用までワンストップで委ねられる点にあります。一方で装置間のインタフェースがベンダ独自のインタフェースであるため、他ベンダの装置への更改ができず柔軟性に欠けるというデメリットもあります。
NTTドコモでは、5G(第5世代移動通信システム)以前から他オペレータに先駆けて、親局と子局との間のインタフェースを独自に規定することでマルチベンダネットワークを実現し、これにより柔軟性のある基地局構成が実現できました(図2)。
また、基地局装置ベンダの選択肢が複数あることにより、コスト、性能面で最適なベンダを選択することができるため、装置導入のコストを抑えることができました。

■NTTドコモの5GにおけるオープンRANの取り組み

ドコモは2020年の5G商用サービス開始時に、O-RAN ALLIANCE準拠のインタフェースを用いたオープンRANを世界で最初に商用網において実現しました。また、現在ドコモが展開している5G基地局のすべてがO-RAN ALLIANCEのFronthaulおよびX2の仕様に準拠したものです。さらに、オープンRANであるため、5Gプレサービス当初から現在に至るまで徐々に導入装置ベンダおよび装置種別のバリエーションが拡大し続けています。
具体的には、ミリ波(mmW: milli­me­ter Wave)*7対応、Sub6 Inter-band CA(Carrier Ag­gre­gation)対応、SA(Stand Alone)対応などが行われてきました。また装置種別については、5Gサービス開始当初は、アンテナ分離型とアンテナ一体型のスモールセル用RU(SRU:Small RU)のみでしたが、現在ではマクロセル用RU(RRU:Regular power RU)および5G FHM(FrontHaul Multiplexer)*8も装置ラインアップに追加されており、CU/DUとRUもそれぞれ新しいベンダを採用しています。
NTTドコモでは、ここまでのオープンインタフェースによる装置間のマルチベンダ化を、オープンRANの1st stepとして考えており、Next stepとして前述したオープンRANの残りの2要素(仮想化およびインテリジェント化)の実現に向けた検討を進めています(図3)。

*7 ミリ波:周波数帯域の区分の1つ。30GHzから300GHzの周波数であり、5Gで使用される28GHz帯を含めて慣習的にミリ波と呼びます。
*8 FHM:ベースバンド処理部と無線装置の間のフロントホール回線を複数に分配する装置。

グローバルに向けたオープンRANの推進

■5GオープンRANエコシステムの設立

NTTドコモは、オペレータへのオープンRAN導入を加速させるために、2021年2月に12社と5GオープンRANエコシステムを設立しました。本エコシステムでは、vRANの検証を加速させ、オープンRANの導入を検討しているモバイルオペレータの要件に基づいた最高水準のRANをパッケージ商材化することで、オープンRANの導入・運用・維持管理をサポートします。NTTドコモは、長年にわたり培ってきたオープンRANに関するノウハウを活用することで、5GオープンRANエコシステムを推進し、高品質で柔軟なネットワークの提供に取り組んでいきます。

■オープンRANの課題とソリューション

オープンRANには、いくつかの課題も残されています。ここでは、主要な課題の概要と、その課題に対して5GオープンRANエコシステムがどのように取り組んでいくかを解説します。
(1)性能
オープンRANの要素の1つであるvRANでは、HWとして汎用サーバを用いますが、汎用サーバ上でRANアプリケーションを動作させる場合、無線特性や収容容量が低下する可能性があります。この課題に対するソリューションとして、本エコシステムではアクセラレータ*9を活用し、E2E(End to End)でのvRAN検証を進め、現行の2~3倍程度の性能の達成をめざしています。
(2)インテグレーション
オープンRANでは、基地局の各コンポーネントが分離可能となる一方で、各コンポーネント間のインテグレーションが課題としてあげられます。vRANではHWとSWの分離が可能となり、異なるベンダのコンポーネントどうしを統合し提供することが考えられます。その場合、従来のRANに比べてインテグレーションが必要なインタフェースの数が増えます。
この課題に対する解決策として、本エコシステムでは後述するオープンRANの検証環境を立ち上げ、RANを検証・運用する海外オペレータに対しマルチベンダのインテグレーションの検証環境を提供するための取り組みを行っています。
(3)その他
その他コスト、自動化、装置展開においてもオープンRANでは課題がありますが、それらに対するNTTドコモのソリューションについては、本特集記事『RAN仮想化(vRAN)に向けた取り組み』(2)、『RANインテリジェント化に向けた取り組み』(3)で紹介します。

*9 アクセラレータ:コンピュータ(CPU)や画像表示などの処理性能を向上させるための周辺機器や付加装置のこと。本稿では、通信用CPUの処理速度を向上させるために追加したLSIのこと。

■オープンRAN検証環境の共有化を実現

マルチベンダインテグレーションの検証においては、テストケースは製品やインタフェースの数に応じて増加し、また検証に応じた環境を各オペレータが個別に準備する必要があります。
NTTドコモは、日本に本エコシステムのオープンなテストベッド*10を設置し、シェアドオープンラボとして2022年2月に公開しました。テストベッドの主な機能の1つは、それが各国モバイルオペレータのラボにあるかのように利用することを可能とするために、リモートで制御できることです。さらに、テストベッドをオペレータのコアネットワーク設備に接続することで、複数のベンダ製品を用いたvRAN装置のテストを簡単に実施することができます。これにより、オペレータは検証に費やす時間やコストを劇的に削減できるようになるため、本テストベッドがタイムリーなオープンRANの導入に貢献できると考えられます。テストベッドは2021年の夏に運用開始し、エコシステムパートナーによる製品は、2021年10月より検証を開始しています。NTTドコモは、本シェアドオープンラボを活用し、オペレータも含む幅広いステークホルダとの連携をさらに深め、多様化するニーズに柔軟かつ迅速にこたえられるオープンネットワーク、特にオープンRANやvRANの早期普及に向けて、技術やノウハウの確立に貢献していきます。

*10 テストベッド:技術方式の実現性確認や性能評価などを行うための実証検証設備。

おわりに

本稿では、RANのオープン化の概要説明、オープン化の標準化を担うO-RAN ALLIANCEの現況、およびNTTドコモの新たなRANのオープン化の取り組みである5GオープンRANエコシステムについて紹介しました。NTTドコモは、今後もオープンRANのパイオニアとして、自社のネットワークだけでなく、グローバルに実現すべくオープンRANを推進していきます。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30、No.1、2022年4 月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) 安部田・河原・ウメシュ・松川:“O-RAN Alliance標準化動向,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.27, No.1, pp.36-42, Apr. 2019.
(2)水田・ウメシュ・中島・久野:“RAN仮想化(vRAN)に向けた取り組み,”NTT技術ジャーナル,Vol.34, No.9, pp.37-44, 2022.
(3) 桂川・川名・井上・立石・橋本・藤塚:“RANインテリジェント化に向けた取り組み,”NTT技術ジャーナル,Vol.34, No.9, pp.45-51, 2022.

(上段左から)平塚 大輔/栗生 敬子
(下段左から)ウメシュ アニール/森 晴基

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