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小型省電力Optical Open Line System(小型省電力OOLS)の実用化
- 光伝送
- DWDM
- 小型省電力
NTTネットワークイノベーションセンタでは、5G MBH(Mobile Back Haul)の普及に伴う急激なトラフィック増加に対して中継ネットワークにおける末端ビルまでの大容量化を実現するため、1波長当り100Gbit/sの光伝送を経済的かつ・省スペース・省電力に提供可能とする、「小型省電力 Optical Open Line System(小型省電力OOLS)」を開発しました。ここでは本システムの概要と特長について紹介します。
須田 祥生(すだ さちお)/青柳 健一(あおやぎ けんいち)
菅野 康隆(すがの やすたか)/柴田 弘(しばた ひろし)
関 剛志(せき たけし)※/広瀬 健太(ひろせ けんた)
島崎 大作(しまざき だいさく)/前田 英樹(まえだ ひでき)
NTTネットワークイノベーションセンタ
※現、NTTネットワークサービスシステム研究所
中継ネットワークの大容量化
スマートフォン、クラウドサービス、動画配信サービス等の普及に伴う中継トラフィック増大に対して、NTTグループの光伝送網ではこれまで県間ネットワークおよび県内幹線ネットワークまで1波長当り100Gbit/sの波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)システムを導入してきました。一方、5G MBH(Mobile Back Haul)導入を契機に末端ビルまで含めたネットワーク全体のトラフィック増が予測され、支線ネットワークに対しても県間ネットワークおよび県内幹線ネットワークと同様の大容量化が求められています。しかしながら、現行の100G-WDMシステムでは設置スペースや消費電力量に対する課題により導入の障壁となっていたため、設置スペース・消費電力量を大幅に削減した「小型省電力Optical Open Line System(小型省電力OOLS)」を開発しました。本システムを用いることで、多様化するサービス需要に対し、トラフィック量に応じて設置スペース・消費電力量を最適化したシステム構成を取ることが可能となります。
小型省電力OOLSの技術的特長
小型省電力OOLSのシステム構成を図1に示します。小型省電力OOLSは、1本の光ファイバに複数の波長信号を多重する「超高密度波長多重技術(DWDM: Dense Wavelength Division Multiplexing)」およびデジタルコヒーレント技術をベースとした光伝送システムであり、1波長当り100Gbit/sの波長信号を最大80波長多重することで最大8Tbit/sの伝送容量を実現しています。また、最大8つの伝送路に対して任意の光パスの挿入(Add)、分離(Drop)、通過(Through)が設定可能な光クロスコネクト部を有しています。さらに、すでに導入されている100G-WDMシステムとの接続において光信号を電気変換の必要なく接続できることで、既存設備の有効活用が可能なシステムとなります。小型省電力OOLSでは上記スペックに対して、最先端の光デバイスや小型省電力に資するシステム構成の技術開発を行い、システムの小型化・省電力化を実現しています。小型省電力OOLSの主な特長としては、①小型・省電力トランスポンダ、②Alien Wavelength接続機能(ラムダ接続機能)、③小型・省電力システム構成、にあります。
(1) 小型・省電力トランスポンダ
小型省電力OOLSではサービスノードとの接続に使用するクライアント信号と波長信号を相互に変換するトランスポンダに対して、COSA(Coherent Optical SubAssembly)(1)、低消費電力DSP(Digital Signal Processing)、小型光モジュールといった最先端デバイスを活用することで小型・省電力化を実現しています。COSAはNTTデバイスイノベーションセンタが開発した光電融合型光送受信モジュールであり光変調器、光送受信器、アナログIC類を1chipに集積化しています。NTT未来ねっと研究所が開発したDSPと組み合わせ、伝送特性を最大化することでLバンドでの動作を実現し小型省電力OOLSトランスポンダへの搭載を可能としました(図2)。サービスノードとの接続に使用する100GbE光モジュールは、従来のCFP(Centum gigabit Form factor Pluggable)からより小型化されたQSFP28(Quad Small Form factor Pluggable 28)を採用することで従来比約4分の1の小型化を実現しています。
(2) Alien Wavelength接続機能(ラムダ接続機能)
5G MBHで用いられるトラフィックは既存100G-WDMシステムを用いて構築した県内幹線ネットワークと小型省電力OOLSを用いて構築予定の支線ネットワーク間をまたがる構成となります。従来の伝送システムではネットワーク間をまたがるトラフィックを構築する場合、ネットワークの境界部分にて一度トランスポンダを用いた電気変換を行う必要があるため、設備コストの面で課題がありました。そこで、小型省電力OOLSでは既存100G-WDMシステムと電気変換なく光信号のまま直結接続が可能なラムダ接続機能を開発することで、既存100G-WDMシステムの有効活用によるサスティナブルなシステムを実現し、投資コストの削減とともにネットワーク一体化による保守運用性の向上を実現しました。既存設備とのラムダ接続機能を活用したネットワークイメージと機能概要について、図3に示します。
WDMシステムでは主に波長信号(トランスポンダから送出される信号)、波長多重信号(複数の波長信号を多重し長距離伝送を行う信号)、および監視制御信号(装置への設定制御や警報転送に用いる信号)を用いて、トラフィックの導通およびネットワーク全体の監視制御を行っています。小型省電力OOLSでは既存100G-WDMシステムとのラムダ接続を実現するために波長信号、波長多重信号、監視制御信号に必要な各種パラメータに対して最適化を行いました。
(3) 小型・省電力システム構成
小型省電力OOLSでは地域支線ビルへの適用に求められる設置スペースの制約や消費電力条件を考慮して、COSAやDSP等の最先端デバイスの適用に加えて、小型・省電力に資するシステム構成へ見直すことでシステム全体の小型化・省電力化を実現しています。従来のWDMシステムでは最大方路数や最大波長数での使用を前提としたユニット構成やパッケージ実装構成となっていたため、使用する方路数や波長数が少ないビルに適用する際には不要な空きスロットが発生し、システムの実装効率の面で課題がありました。そこで小型省電力OOLSでは使用する方路数や波長数が少ないビル等の小規模向けビルに対して実装可能なパッケージ数を削減した小型ユニットを新たに開発するとともに、各機能部集約や高密度実装化によるパッケージの小型化を実施しました。パッケージの小型化の実現にあたっては、パッケージや光ケーブルコネクタ挿抜等の保守運用作業効率を低下させることなくシステムの高密度実装化を実現しました。また、搭載ラックについても従来の大型専用ラックから汎用小型ラックへの搭載を可能とするため、汎用ラック搭載向けユニットを開発しました。これら小型省電力システム構成を小型省電力OOLSに適用することで、従来の100G-WDMシステムと比較してシステム全体で約50%の小型化、約40%の省電力化を達成しました(図4)。
今後の展開
小型省電力OOLSは中継伝送網の経済化に対応するべく大容量化とシステムの小型化および省電力化を実現しました。現在NTTではIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた革新的な光伝送基盤としてオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の研究開発を進めています(2)。APNの実現に向け今後は1波長当りの信号速度を1Tbit/sへ高速化をめざす一方、伝送波長帯域を拡張するためのマルチバンド伝送(3)や、マルチコアファイバなどの空間多重技術(4)を用いることにより、伝送容量の飛躍的な拡大ならびに光伝送システムの高度化に向けて研究開発を進めていきます。
■参考文献
(1) 那須・山中:“シリコンフォトニクス技術による光電融合型光送受信モジュールの開発, ”NTT技術ジャーナル, Vol.32, No.8, pp.10-14, 2020.
(2) 伊藤:“IOWN構想に基づくオールフォトニクス・ネットワーク関連技術の取り組み,”NTT技術ジャーナル,Vol.32, No.3,pp.10-11,2020.
(3) 関・河原・宮村・前田・原・金子・可児:“オールフォトニクスネットワークの実現に向けた伝送技術の進展,”信学誌,Vol.104,No.5,pp.463-470,2021.
(4) 坂本・森・松井・山本・中島:“空間チャネルを活用した新たな光ファイバ基盤技術,”NTT技術ジャーナル,Vol.29,No.3,pp.28-32,2017.
(左から)須田 祥生/青柳 健一/菅野 康隆/柴田 弘
関 剛志/広瀬 健太/島崎 大作/前田 英樹
問い合わせ先
NTTネットワークイノベーションセンタ
トランスポートシステムプロジェクト 高速リンクシステムグループ
TEL 0422-59-2154
E-mail sachio.suda.rc@hco.ntt.co.jp
光伝送システムのさらなる経済化と高機能化に向け新技術の研究開発を今後も進めていきます。