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特集1

IOWN Global Forumの最新動向

Open APNの詳細化、実用化に向けた取り組み

IOWN Global Forumでは、低遅延・低消費電力を実現するネットワーク基盤としてOpen All-Photonic Network (Open APN)を提案しており、昨年度アーキテクチャ文書である「Open APN Functional Architecture Release 1」を発行しました。本稿では、アーキテクチャ文書を発行してからのOpen APNの詳細化、実用化に向けた取り組みについて紹介します。

海沼 義彦(かいぬま よしひこ)†1/武田 知典(たけだ  とものり)†2
可児 淳一(かに じゅんいち)†3/西沢 秀樹(にしざわ ひでき)†4
NTT研究企画部門†1
NTTネットワークサービスシステム研究所†2
NTTアクセスサービスシステム研究所†3
NTT未来ねっと研究所†4

はじめに

Open-All Photonic Network(Open APN)は、IOWN Global Forum(IOWN GF)で提案されたフォトニクスネットワーキングのオープンアーキテクチャであり、サービスプロバイダがフォトニクスネットワーク機能をコンピューティングやネットワーキングのインフラ全体とよりきめ細かく統合できるよう検討を推進しています。2022年初めにアーキテクチャ文書である「Open APN Functional Architecture Release1」(1)が公開されて以降、アーキテクチャ文書に基づくPoC(Proof of Concept)の実施、またアーキテクチャの拡充・詳細化を行った「Open APN Functional Architecture Release2」文書の公開などを行ってきています。本稿ではRelease1アーキテクチャ文書発行以降の活動について紹介します。

Open APN

まずは、Open APNについて簡単に紹介します。Open APNは、さまざまな拠点間を光波長パスでダイレクトに接続することを可能としたネットワークであり、Open APNトランシーバ(APN-T)、Open APNゲートウェイ(APN-G)、Open APNインターチェンジ(APN-I)により構成されます。APN-Tは光波長パスの端点であり、光信号の送受信機能を有します。APN-Gは光波長パスのゲートウェイであり、収容するAPN-Tに対する制御チャネルの設定、光信号のユーザプレーン・アドミッションコントロール、光波長パスの多重化・逆多重化、光波長パスの折り返し接続、光波長パスの合分波の各機能を有します。APN-Iは光波長パスの中継機能部であり、波長クロスコネクト、インタフェース間のアダプテーションの各機能を有します(図1)。
具体的なアーキテクチャの詳細については本誌2022年3月号記事『IOWN Global Forum におけるオープンオールフォトニクス ・ ネットワークの検討(2)と併せてご覧ください。

Open APN PoC

Open APN PoC(3)は、Open APN Functional Architectureが未来の技術ではなく、すでに世に出ている技術を活用して構築・運用可能であることをグローバル市場に示すために計画されました。この活動を通じて、世界中の多くの組織がOpen APNを構築・導入し、ユースケースを創出し、グローバルな市場に拡大していくことをめざしています。IOWN GFでは、さまざまなPoCを実施するためのガイドラインとしてPoC Reference Documentを発行しており、誰もが共通のガイドラインの下、PoCを実施できるようにしています。Open APNのPoC Reference Documentでは、以下の項目についてのガイドラインが示されており、Open APN Functional Architectureの検討を行っているチーム(Task Force:TF)であるOpen APN Architecture TF、Open APN Wavelength Availability TFのみならず、光ファイバを活用したセンシング技術検討を行っているOpen APN Fiber Sensing TFで定めたアーキテクチャを包括的に実証できるようつくられています。ここでは、PoC Reference Documentに定められた評価対象とする機能について紹介します。

■APN-Gの基本機能

(1)APN-Tに対する制御チャネルの設定
(2)光信号のユーザプレーン・アドミッションコントロール
(3)光波長パスの多重化・逆多重化
(4)光波長パスの折り返し接続
(5)光波長パスの合分波
① Flexible Bridging Service:エクストリームなQoS(Quality of Service)要件を持つ複数のデータフローを集約して単一の光波長パス上で伝送するサービス
② オープンインタフェース:オープンインタフェースによるさまざまなベンダの機器のOpen APN Controller (APN-C)との接続、またオープンインタフェース上でのAPN-Cによる制御
③ マルチベンダサポート:異なるベンダによるAPN-TとAPN-Gのインターオペラビリティ
④ 自動プロビジョニング:ファイバ種別やパワープロファイルなどのリンクパラメータによる物理設計を含む光波長パスの自動プロビジョニング
⑤ ユーザ拠点トランシーバ接続のメカニズム:光波長パスを終端するユーザ拠点のトランシーバの自動登録
⑥ モニタリング:APN-CによるAPN-TおよびAPN-Gからのモニタリングデータの自動・定期収集
⑦ ファイバセンシング:以下条件下でのAPN-Gでのファイバセンシングの確認
・Interrogatorは、一般損失測定用のOptical Time Domain Reflectometer (OTDR) であり、波長は1550 nmである
・サーキュレーターやカプラーは、一般的な市販品である
・光スイッチ機能は1550 nmに対応した商用スイッチである
・センシングファイバは、10kmを超える商用シングルモード光ファイバである
多数のIOWN GFのメンバ企業が本PoC Reference Documentに基づくPoCを実施しており、今後はIOWN GFとしてPoC実施結果を公開し、さらなる検討の推進および参画メンバの拡大をめざします。

アーキテクチャ文書の更改

IOWN GFは、2023年9月にOpen APN Functional Architecture Release 2ドキュメントを発行しました。このドキュメントは、2022年当初に発行したRelease 1アーキテクチャ文書をベースに、主に基本アーキテクチャ、コントロールプレーンアーキテクチャ、ユーザプレーンアーキテクチャを拡充・詳細化したかたちでアップデートされています。

■基本アーキテクチャ

Open APNの基本アーキテクチャに新たにファイバレイヤのアーキテクチャを定義し、Release1ドキュメントで定義された波長レイヤとの2層構造をとるかたちに進化しました。波長レイヤのアーキテクチャをOpen APN Wavelength Exchange (Open APN.WX)、ファイバレイヤのアーキテクチャをOpen APN Fiber Exchange(Open APN.FX)と呼びます。Open APN.FXでは、Open APNのエンドポイント間を物理的なファイバで接続するファイバパスを構築するためのゲートウェイであるAPN-FXおよびファイバパス上の各種インタフェースが新たに定義され、各層をどのように組み合わせてファイバパス・波長パスを構築するかが明確化されています(図2)。
また、Release1ドキュメントではPoint-to-Point(PtP)を前提としたアーキテクチャとなっていましたが、1つの信号を複数にブランチするかたちのPoint-to-MultiPoint(PtMP)についてもアーキテクチャが新たに示されました。本文書では、Open APN.WXにおけるPtMPと、Open APN.FXにおけるPtMPの双方について示されています。

■コントロール・マネジメントプレーンアーキテクチャ

PtPの光波長パスを対象としたコントロール・マネジメントプレーンアーキテクチャがより詳細化されました。APN-Tがユーザ拠点に配置されるリファレンスモデルを想定し、Open APNのコントローラであるAPN-Cがユーザ装置を含めたエンド・ツー・エンドでの光波長パスを設定するために必要な機能、またオーケストレータ・各APNノードと連携するためのAPIが体系的に示され、APN-Cが各エンティティとどのように連携し光波長パスをコントロール・マネジメントするかが明らかになりました(図3)。
また、サウスバウンドインタフェースの実装にあたり、OpenConfig、OpenROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)、TAPI(Telephony Application Program Interface)など既存のオープンインタフェースの利用についても新たに記載が加えられました(図4)。

■ユーザプレーンアーキテクチャ

Release1ドキュメントでは、Open APNにおいて、光のまま互いに接続が可能なサブネットワークとしてGroup of Optically Interoperable Ports(GOIP)という概念が定義されました。このGOIPについて、Release1ドキュメントでFuture StudyとされていたGOIP間のインタワークについて新たに記載が加えられました。波長の割当てが可能でかつ伝送特性を満たす場合に光のまま接続する方式、O/E/OリピータやEthernet/OTN(Optical Transport Network)コネクションを活用した電気変換して接続する方式が規定され、GOIPを超えたよりスケールしたOpen APNの構築も可能となりました(図5(a)、(b))。
また、これらのアップデートに加え、本ドキュメントのannexとして、Open APNの各ノードの実装方法、ユースケース、PtMPの実装例などが追加されており、Open APNを実装・活用するうえでのより詳細なガイドラインとなっています。

NTTにおける取り組み

NTTとしては、これらIOWN GFの活動に文書の寄稿のみならずさまざまなかたちでコントリビュートを行ってきました。その中で、特に2つの取り組みについて紹介します。

■Open APN機能群の動作実証実験

Release2ドキュメントの発行に先駆けて、NTT研究所ではOpen APN Architectureにおいてさらなるユースケース拡大のために必要とされる「必要なときに、必要な対地間にて大容量低遅延通信を可能とする機能群」についてラボ内での実証実験を行いました(4)。この機能により、ユーザ拠点を含めたさまざまな拠点にOpen APNのエンドポイントを設置することが可能となります。この機能群は以下3つの機能から構成されます(図6)。
① ユーザ拠点端末と通信事業者機器が連携・協調した、サービス条件を満足する光波長パスの自動設計開通機能、最適モード選択等の調整機能
② ユーザ拠点端末における光波長端点の設定管理機能、端末の認証状態に基づいた通信事業者機器における光信号の通過・停止機能
③ 異なる種類の光ファイバを同一の光波長パスのままで接続可能とするアダプテーション機能
そして、柔軟かつ相互接続性に優れたオープンな光伝送システムを促進する団体であるOpen ROADMMSA(Multi-Source Agreement)やTelecom Infra Project Open Optical & Packet Transportの成果を活用し実環境のファイバ長や損失レベルなどのさまざまな条件下で動作することを実証するための、首都圏でフィールド実証を行っています。その結果を踏まえ、Release2ドキュメントへの寄稿を行っています。

■展示会での動態展示をとおした実環境でのOpen APNの活用

2023年6月に開催されたInterop Tokyo 2023にて、Open APNの動態展示を行いました(5)。この動態展示の主な特徴としては以下3点が挙げられます。
① 複数の離れた拠点間を接続するネットワークを構築
② GPU as a Service、Public Cloudアクセス、Internetアクセスなど、さまざまなサービスを提供
③ APN-G/Iのマルチベンダ接続、マルチベンダAPN-Tの収容
この動態展示をとおし、Open APNがマルチベンダにより構築可能な低遅延・低ジッタなネットワークであることを実際に示しただけでなく、Interopのような大規模な展示会において会場外と接続してさまざまなサービスを提供するにあたり、Open APNはサービスごとに別々のファイバを利用することなく、1本のファイバで提供することが可能であるコスト最適なソリューションであることも示すことができました。これまでのOpen APNの構築は限られた環境での実証目的が主でしたが、さまざまなサービスを提供するネットワークとして実用に近いかたちでOpen APNを提供するのは初めてのケースとなります。Open APNがPoCの段階から実用の段階に移り変わるうえでの新たな一歩となり得る取り組みとして、2023年9月にドイツ・ミュンヘンで行われたMember Meetingでも報告しています。

今後の展開

本稿では、Open APNについて、Release1アーキテクチャ文書が発行されてからの取り組みを紹介しました。Open APNは本号で紹介するDCI(Data Centric Infrastructure)と組み合わせることでさまざまなユースケースへの活用が期待されます。その他本号で紹介するIOWN Data Hub(IDH)やIOWN Mobile Network(IMN)においてもネットワーク基盤としてエクストリームな要件を満たす非常に大きな役割を果たしています。引き続き、NTTはIOWN GFの多くのパートナーとともに議論や実証を重ね、さらなる技術の発展や社会実装に貢献していきます。

■参考文献
(1) https://iowngf.org/wp-content/uploads/formidable/21/IOWN-GF-RD-Open-APN-Functional-Architecture- 1.0-1.pdf
(2) 西沢・可児・濱野・高杉・吉田・安川:“IOWN Global Forumにおけるオープンオールフォトニクス・ネットワークの検討,”NTT技術ジャーナル,Vol. 34, No. 3, pp. 12-16,2022.
(3) https://iowngf.org/wp-content/uploads/formidable/21/IOWN-GF-RD-Open_APN_Architecture_PoC_Reference-1.0.pdf
(4)https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/11/14/221114a.html
(5)https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/06/12/230612b.html

(左から)海沼 義彦/武田 知典/可児 淳一/西沢 秀樹

引き続きIOWN GFのメンバ企業とのコラボレーションをとおしてOpen APNアーキテクチャの詳細化および実用化を進め、Open APNの早期の社会実装をめざします。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
IOWN推進室
TEL 03-6838-5334
E-mail iown-info@ntt.com