特集
IOWN Global Forumにおけるオープンオールフォトニクス・ネットワークの検討
- IOWN
- オープンオールフォトニクス・ネットワーク
- 機能アーキテクチャ
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のユースケースを支えるネットワークとして、必要なときに必要な地点間を光パスでダイレクトに接続可能なオープンオールフォトニクス・ネットワーク(オープンAPN)の技術検討が、IOWN Global Forumにおいて進められています。本稿では、2022年はじめに公開された「Open All-Photonic Network Functional Architecture」の技術文書の内容に沿って、オープンAPNがめざすゴール、技術課題、および機能アーキテクチャを解説します。
西沢 秀樹(にしざわ ひでき)†1/可児 淳一(かに じゅんいち)†2
濱野 貴文(はまの たかふみ)†3/高杉 耕一(たかすぎ こういち)†1
吉田 智暁(よしだ ともあき)†2/安川 正祥(やすかわ せいしょう)†3
NTT未来ねっと研究所†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†2
NTTネットワークサービスシステム研究所†3
はじめに
IOWN Global Forum (IOWN GF)は、2021年にサイバーフィジカルシステム(CPS)とAI-Integrated Communications(AIC)のターゲットユースケースに関するInterim ReportとSystem and Technology Outlook Reportをリリースしました。CPSとAICの実装はすでに始まりましたが、センシング・キャプチャ技術の進化に伴い、現状の技術のままでは帯域・遅延などの要件を十分に満たせなくなることが明らかになっています。IOWN GFは、フォトニクスネットワーキングのオープンアーキテクチャを確立し、サービスプロバイダがフォトニクスネットワーク機能をコンピューティングやネットワーキングのインフラ全体とよりきめ細かく統合できるようにするため、オープンオールフォトニクス・ネットワーク(オープンAPN)の検討を推進しています(1)。
オープンAPNのめざすゴール
オープンAPNのめざすゴールは以下のとおりです。
・エンド・ツー・エンドの光パス接続:ユーザは自身が保有するトランスポンダで、通信事業者のネットワーク(図1に示す波長トンネル)を介して遠隔地にあるサイトと直接接続
・ダイナミックな光パスの設定/制御:ユーザ間を直接つなぐエンド・ツー・エンドの光パス接続サービスを柔軟に提供
・エネルギー効率向上:電気的な処理を最小限に抑えることで、より消費電力の少ないネットワークを実現、ポリシーに沿って低消費電力化を適切に実現
・マルチオペレータ環境の提供:各事業者は、リソースの共有や不具合の切り分けなどの課題に悩まされることなく、エンド・ツー・エンドの光パス接続をシームレスに展開
・コンピューティングとネットワーキングの融合:離れた場所にあるコンピューティングリソースを、コンピューティングの要件に応じた伝送品質で、かつオンデマンドに大容量の光パスで接続
・自動化されたリソース再配置:帯域幅の異なるネットワーク上の分散型計算機資源にアプリケーションを再配分することで、ユーザの待ち時間やネットワークのトラフィックを最小限に抑制
・フォーマットフリーの光通信:光ファイバ網を使った環境情報収集や、さまざまなプロトコルへの対応
・インテリジェントなモニタリング:オープンAPNのよりダイナミックな運用を実現するために、ネットワークの制御・管理システムがオープンAPN機器から十分な情報を収集
光伝送技術の進展
2010年ごろからデジタルコヒーレント伝送システムの実用化が始まり、伝送システムの小型化、省電力化、制御インタフェースの共通化が加速されました。2016年には、ROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)システムをベンダ間で相互運用できるようにするためのインタフェースや、仕様を定義したOpen ROADM MSA(Multi Service Agreement)(2)や、光ネットワークやIPネットワークにおけるオープンな技術、アーキテクチャ、インタフェースを定義することを目的としたTelecom Infra Project Open Optical & Packet Transport(TIP OOPT)(3)が発足し、通信事業者やハイパースケーラーの参加により、光伝送システムのオープン化が加速しました。
また、光伝送装置にデジタル信号処理回路が入ることにより、①伝送路とその設計がシンプルで柔軟になった、②ハードウェアとソフトウェアが独立して進化できるようになった、③伝送品質に影響を与えることなく、伝送品質をリアルタイムに測定可能になった、④伝送距離や容量を決定する伝送路の特性を迅速に推定するガウシアンノイズモデルが提案された、等の新たな価値がもたらされ、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のユースケースの実現に必要な技術要素が整いつつあります。さらに、超小型光送受信回路と電子デバイスコパッケージ化された超小型の光インタフェースがコンピュータの処理ユニットにより近いところに実装されることにより、技術の進展が加速すると考えられています。
一方、4G(第4世代移動通信システム)〜5G(第5世代移動通信システム)のモバイルサービスを支えるモバイルフロントホール(MFH)向けの技術としては、低コストな強度変調-直接検波(IM-DD)方式による10〜25Gbit/s光リンク技術が進展し、10〜25Gbit/s・IM-DDの光信号を波長多重(WDM)するための標準化議論もさかんに行われています(4)、(5)。
また、固定ブロードバンドアクセス向けには、従来からPONシステムで用いられている時分割多重アクセス(TDMA)に4〜8波長の高密度波長多重(DWDM)技術を組み合わせたNG-PON2が標準化され商用化されているほか(6)(7)、2.5〜10G級のTDMA-PONに16波長以上のDWDM技術と光増幅技術を組み合わせることで50km以上の長距離アクセスを実現するSuper-PONの標準化が行われています(8)。メトロ・アクセス領域で共通的にWDMネットワーキングを行うことで、MFH、モバイルバックホール、固定ブロードバンドアクセス等のトラフィックを効率的に収容することが可能になると期待されています。
オープンAPN実現に向けた技術課題
オープンAPNのコンセプトの実現に向けては、これらの技術トレンドのさらなる進展を加速するとともに、表1に示すように、複数種別のネットワークをまたがったエンドエンドダイレクト光パス設定およびそのためのノードアーキテクチャ、光パスの動的設定のための即時の光パス設計、ユーザ所有トランシーバのネットワーク登録およびそのトランシーバ間光パスにおけるセキュアな光伝送、伝送性能のリアルタイムモニタリングといった技術課題を解決する必要があります。オープンAPN機能アーキテクチャは、これらの解決を念頭に置き、ハイレベル・リファレンス・アーキテクチャ、制御・マネジメントプレーンアーキテクチャ、ユーザプレーンアーキテクチャに分けて記述されています。
オープンAPNの機能アーキテクチャ
■ハイレベル・リファレンス・アーキテクチャ
オープンAPNのハイレベルリファレンスアーキテクチャを図2に示します。オープンAPNトランシーバ(APN-T)、オープンAPNゲートウェイ(APN-G)、オープンAPNインターチェンジ(APN-I)、およびオープンAPNコントローラ(APN-C)の4つの機能ブロックが定義されています。
APN-Tは光パスの端点であり、光信号の送受信機能を有します。APN-Gは光パスのゲートウェイであり、収容するAPN-Tに対する制御チャネルの設定、光信号のユーザプレーン・アドミッションコントロール、光パスの多重化・逆多重化、光パスの折り返し接続、光パスの合分波の各機能を有します。APN-Iは光パスの中継機能部であり、波長クロスコネクト、インタフェース間のアダプテーションの各機能を有します。APN-T、APN-G、APN-Iの3つの機能ブロックにより、オープンAPNの光パスのユーザプレーン処理が実現されます。APN-Cは、オープンAPNの制御・マネジメントプレーン処理を実現するためのコントローラです。
既存の標準的なROADMと比較すると、APN-Gが有する収容APN-T制御チャネル設定やユーザプレーン・アドミッションコントロール、さらには、APN-Gが有する光パスの折り返し接続やAPN-Iが有するインタフェース間のアダプテーション機能がオープンAPNに特徴的な機能といえます。
■制御・マネジメントプレーンアーキテクチャ
オープンAPNの制御・マネジメントプレーンの実現のため、図2に示すように、APN-CとAPN-C外部のマネジメント・オーケストレーション機能部との間にオープンAPNサービスAPIが定義され、APN-CとオープンAPN装置(APN-T、APN-G、APN-I)との間にオープンAPNデバイスAPIが定義されています。
APN-Cは、APN-Tの認証・アクティベーションを行った後に、オープンAPNサービスAPIを通じてAPN-T間の光パス設定・削除・再設定のリクエストをユーザからオンデマンドに受け付けます。APN-Cは、帯域・遅延・ジッタといったユーザ要件に基づき、適切な光パス経路、利用波長、光送受信パラメータを決定し、オープンAPNデバイスAPIを通じてオープンAPN装置を適切に設定します。
さらに、APN-Cは、オープンAPNデバイスAPIを通じてオープンAPN装置から伝送品質のリアルタイム情報を収集し、ユーザ要件が満たされているかどうかを判定します。収集した情報は、高度な分析のためにAPN-Cの外部装置に転送することもできます。伝送品質の情報収集アーキテクチャとして、APN-CとオープンAPN装置に対するテレメトリの構成例が示されており、例えば、モバイルシステムとの連携の構成例(eCTI)が例示されています。
■ユーザプレーンアーキテクチャ
オープンAPNアーキテクチャでは、限られた波長数や伝送可能距離といった物理的な制約の下でスケーラブルかつ相互接続可能なオープンAPNを実現するために、Group of Optically Interoperable Port(GOIP)という概念が定義されています。
GOIPは、任意の2つのポート間でダイレクト光接続(光パス)を確立できる光ポートのグループとして定義されます。ここで、ポートとは、オープンAPNトランシーバとアクセスリンク間の接続インタフェースを意味します。ポイントツーポイント(P2P)の光パスに加え、ポイントツーマルチポイント(P2MP)の光パスの提供も想定されています。図3にGOIPの構成イメージを示します。
ダイレクト光接続の伝送可能距離はビットレートや変調方式に依存するため、ビットレートや変調方式はGOIPごとに明示されます。なお、GOIP内では、任意のポート間にダイレクト光接続を可能とするルートが最低1つ存在するが、波長リソースの利用状況や光ファイバ断等の障害状況により最短ルートが利用できない場合に、ダイレクト光接続が不可能となることも考えられます。これらを考慮したGOIPの設計方法等は今後の検討課題としています。
また、オープンAPNアーキテクチャでは、所定のビットレートや伝送距離に応じて適切に波長トンネルを運用できるように、物理レイヤのリファレンスアーキテクチャを定義するとともに、運用に必要な参照情報を示しています(表2)。
今後の展望
IOWN GFにおいて、仕様化と実証を繰り返すスパイラルアプローチでオープンAPNは進化していきます。今回公開されたオープンAPN機能アーキテクチャは、今後の仕様詳細化に向けたコンセプト実証のベースとして利用される予定です。実証を通して得られた知見は、オープンAPNの詳細仕様、および並行して検討される機能アーキテクチャリリース2の検討に反映される予定です。
■参考文献
(1) https://iowngf.org/technology/
(2) http://openroadm.org/
(3) https://telecominfraproject.com/oopt/
(4) https://www.ericsson.com/en/mobile-transport/mopa
(5) https://www.itu.int/itu-t/workprog/wp_item.aspx?isn=16803
(6) https://www.itu.int/rec/T-REC-G.989/
(7) https://www.lightreading.com/gigabit/fttx/verizon-calix-roll-out-commercial-ng-pon-2/d/d-id/740093
(8) https://www.ieee802.org/3/cs/
(上段左から)西沢 秀樹/可児 淳一/濱野 貴文
(下段左から)高杉 耕一/吉田 智暁/安川 正祥
問い合わせ先
NTT研究企画部門
IOWN推進室
TEL 03-6838-5317
E-mail iowngf-info@ml.ntt.com
今後もIOWN Global Forumのメンバ企業とのコラボレーションにより、オープンAPNの実現方式やアーキテクチャの策定を進め、オープンAPNの社会実装をめざします。