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特集

NTT R&D フォーラム - Road to IOWN 2022

IOWN 1.0 ―「IOWNサービス」スタート―

本稿では、2022年度末からいよいよスタートするIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)サービスを中心に紹介します。本記事は、2022年11月16~18日に開催された「NTT R&Dフォーラム - Road to IOWN 2022」における、島田明NTT代表取締役社長の基調講演を基に構成したものです。

島田 明(しまだ あきら)
NTT代表取締役社長

これからのデータドリブンの社会を展望すると

昨今、IoT(Internet of Things)の広がりやサービスの多様化を受け、データに基づいた分析やアクションを行っていくデータドリブンの社会へと急速に変貌しています。こうしたデータドリブン社会では、扱うデータ量は膨大に増えるとともに、データ処理に必要となる電力消費量も大幅に増加する見込みです。
例えばデータ量は、動画ではフルハイビジョンをスムーズに視聴するには、1.5Gbit/s程度の回線容量が必要であるのに対して、16K映像では約750倍の容量が必要になります。また、今後メタバース等のXR(Cross Real­ity)が急速に普及していくと想定されていますが、2次元のデータが3次元になると、必要となるデータ量は約30倍になるといわれています。さらに、今後は今まで以上にさまざまなものがIoTとしてネットワークにつながっていきます。全世界で2017年に270億個である機器数が、2030年には約5倍の1250億個になるといわれています(図1)。
次に消費電力の増加について、データセンタの消費電力は、2018年に日本で14TWh、世界で190TWhでしたが、クラウド化のさらなる進展に伴い、2030年には日本で約6倍の90TWh、世界で約13倍の2600TWhまで増えると予想され、電力消費も大幅に増加すると想定されています。さらに、今後出てくるサービスを考えると、従来の大容量ストレージや映像トリミングなどのサービスは、現用の高速通信ネットワークでも快適に利用できますが、VR(Virtual Reality)/AR(Aug­mented Reality)、ロボット・ドローン、自動運転を普及させていくためには、さらなる低遅延化が求められています。例えば、VRは20ms以内でないと、人の動きよりも映像が遅れて見えてしまうので、VR酔いするともいわれています。統計的なデータからみても、データ量や電力等は今後、大幅に増加することが想定されています(図2)。データ量の増加、消費電力の増加、ネットワークの遅延などの課題をIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)で解決します。具体的な目標としては、電力効率を100倍、伝送容量を125倍、エンド・エンド遅延を200分の1にしていくことをめざしていきます。

APNサービス(低遅延化・大容量化)

まず遅延の解決に向けて、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)サービスを商用化します。IOWNサービスの第一弾として、2023年3月にAPNサービスを開始します。これは100Gbit/sの専用線サービスで、ユーザがエンド・エンドで光波長を専有することができるものになります。また、サービススペックは図3に記載しているとおりです。このIOWN1.0サービスの特徴は低遅延化と大容量化です。今回、大容量化は1.2倍となりますが、特に遅延については、光信号を電気信号へ変換することなく光波長のまま伝送できるため、従来のサービスに比べて200分の1まで下げることができます。つまり、今回でIOWNの目標性能値をクリアすることになります。加えて、遅延における揺らぎもなくなります。IP/Etherサービスでは、遅延が大きいときと小さいときがあり、さらにそれが一定ではなかった(揺らぎ)ため、遅延の予測が難しく、細かい複雑な作業を遠隔で実施することは困難でした。今回のサービスでは、その揺らぎがなくなり、遅延が一定になることで予測が可能となり、さまざまなサービスへ応用することができるようになります。さらに遅延の可視化と調整機能によって、遠隔地間での接続でもタイミングを合わせることも可能になります。
次にAPNサービスの適用例をいくつか紹介します。
まず、1番目は遠隔医療の分野です。低遅延かつ揺らぎがなくなることで安定したロボット動作が可能となります。遠隔手術の内容を大幅に広げていくことができると思っています。現状としては、国産の手術支援ロボット「hinotoriTMサージカルロボットシステム」を提供している株式会社メディカロイドと共同実験を実施しており、地域医療の発展に貢献していく予定です。
次にロボットを使った事例を紹介します。スマートファクトリの事例として、現在、化学プラント企業と共同で、プラント内のオペレーションを遠隔で実施することを検討しています。化学プラントは広大で、人手のメンテナンスは大変です。そこでAPNサービスを使って、遠隔から高所や防爆エリアでの設備確認やバルブ微調整などの細かい作業を実施しようとしています。
3番目の適用例として、eスポーツが挙げられます。格闘ゲームのようなコンマ何秒で勝敗を分けるようなゲームであっても、APNサービスの低遅延かつ遅延調整機能によって遠隔地どうしのプレーヤがストレスなく、公平に楽しむことができるようになります。
4番目はデータセンタ間接続です。APNサービスで地域のデータセンタ間やハイパースケーラのデータセンタ間を大容量、低遅延で接続することで、あたかも1つのデータセンタとして扱うことが可能になります。

光電融合デバイス(APN・サーバの低消費電力化)

次に、低消費電力化につながる、光電融合デバイスの開発状況について説明します。
今回、発表したAPNサービスは低遅延に着目したサービスとなりますが、IOWNの最大の特徴は電力効率の向上です。そのためのキーとなるのが、光電融合デバイスです。光電融合とは、光回路と電気回路を融合させ、小型・経済化に加えて、高速・低消費電力など、さまざまな性能向上を図るものです。これをネットワークだけでなく、コンピューティングの世界まで適用することで大幅な電力削減を図ろうとしています。光電融合デバイスのロードマップでは、まず、2023年度にネットワーク向け小型・低電力デバイスを商用化する予定です。これは、今まで複数のデバイスで構成されていたものを同一のパッケージに組み込み、大幅に小型化することで、低電力化を図るものになります。具体的には、2023年度に400Gbit/sのデバイス、2025年度には800Gbit/sのデバイスを商用化する予定です。さらに、デバイスが小型化されるため、伝送装置などのネットワーク装置の小型化も可能となり、運用の簡素化にもつながると考えています。
次に2025年度に、ボードとボード間やボードと外部インタフェース間の接続に光を利用することができるようになる、ボード接続用デバイスを商用化する予定です。これにより、いよいよコンピューティングへの利用が可能になっていきます。その後、2029年度目標にボード内におけるチップ間も光電融合技術で接続させ、2030年度以降にチップ内も光で接続していきます。この光電融合デバイスをAPNサービスおよびサーバにも適用していくことでIOWNの高度化を図っていきます。
まず、2023年度には、ネットワーク向け小型・低電力デバイスをAPNサービスに適応していきAPNサービスの電力効率を高めていきます(図4)。次に、IOWN2.0として、2025年度から、ボード接続用デバイスをAPNサービスだけではなく、サーバ分野にも利用することで適用範囲を広げていきます。現状のスケジュールでは、2026年度に、この光電融合デバイスを使った低消費電力サーバを商用化する予定です。さらには、IOWN3.0として、2029年度を目標にチップ間接続向けデバイスを開発し、2030年度以降にIOWN4.0としてチップ内接続を光化し、電力消費の大幅削減を図っていきます。この光電融合デバイスに加えて、波長技術や光ファイバ技術の向上も踏まえることで、2025年度からのIOWN2.0では、APN部分で電力効率が13倍、サーバ部分で8倍となり、大容量化は6倍となる予定です。そして、2029年度からのIOWN3.0では、さらなる性能向上を図り、大容量化は125倍を達成できる見込みです。電力効率も装置への展開次第ですが、IOWN2.0より性能向上させることができ、サーバ部分では、従来に比べて20倍程度の向上を達成する予定です。そのうえで、2030年度以降のIOWN4.0の際には、電力効率が全体で100倍、大容量化は125倍、遅延は200分の1という目標を達成させたいと考えています。

デジタルツインコンピューティング

次に、IOWNのもう1つの技術であるデジタルツインコンピューティング(DTC)についても紹介します。
IOWNのフレームワークは、APNとサーバ基盤、その要素となる光電融合デバイスのほかに、コグニティブ・ファウンデーションとDTCの技術から成り立っています。
コグニティブ・ファウンデーションとは、あらゆるものをつなぎ、その制御を実現する技術です。DTCは、実世界とデジタル世界の掛け合わせによる、未来予測や最適化を実現するものとなります。DTCは現実空間のヒト・モノ・コトのさまざまなデジタルコピーをサイバー空間で表現したうえで、データ分析や未来予測などのシミュレーションを行います。そして、その結果に基づく最適な方法や行動を現実空間にフィードバックすることで、現実空間のプロセスなどの改善につなげていくものとなります。例えば、人流データや車の交通量データおよび都市の基礎データを結び付けることで、最適な交通環境の制御を行うことができるようになっていきます。
このDTCによる街づくりをしている実例を紹介します(図5)。
2022年度、アーバンネット名古屋ネクスタビルにて、複数のソリューションを連携させたDTCを使った、街づくりの実証実験を行っています。
アーバンネット名古屋ネクスタビルではフードロス0、モバイルオーダー配送、省エネ空調制御、個人単位の食事リコメンドの各サービスが互いに連携します。フードロス0サービスでは、その日余りそうなメニュー量を判断、店舗の混雑具合の予測とロボットの稼動状況の予測と照らし合わせ、個人の行動や嗜好に合わせて、適切な人に適切なメニューをリコメンドします。さらには、これらのリコメンドや制御により発生する人の移動の変化を、空調制御DTCの予測制御に反映します。このように、未来予測に基づく価値最大化技術により、おもてなしの顧客満足度、フードロスのロス率、ロボット稼動率、空調制御の省エネ性能といった、優先指標がすべて考慮された制御を実現します。
DTCを使った街づくりはすでに始まっています。現段階では実証実験中ですが、空調制御とフードロスについては、2022年度中に商用化を行う予定です。今後さらにサービスを拡充することやさまざまな街で展開していくことで、個人にも優しく、地球環境にも優しい街づくりに貢献していきます。

おわりに

2025年の大阪・関西万博において、NTTは、万博内でのパビリオンの出展および「空飛ぶ夢洲(ゆめしま)」と題したバーチャル万博のプラットフォームを提供する予定です。万博でIOWN2.0サービスの商用化を発表したいと思いますので、どうぞご期待ください。