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挑戦する研究開発者たち

サービス開発は社会にとって「未来」や「希望」。災害大国・日本の課題解決に臨む

日本は地理的な位置や地形、気象などの自然的条件から災害が発生しやすく、災害大国と呼ばれています。自治体においてはこうした災害に対して住民の安全確保、インフラ等への影響の極小化や復旧をはじめとする防災(減災)・災害対策に取り組んでいます。このような自治体の取り組みをサポートするNTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部コアソリューション部門の成瀬友麻氏と小川香菜子氏に、自治体の災害対策を支援する新サービス開発の背景、開発に向けた取り組み、そして、サービス開発者としての姿勢を伺いました。

成瀬友麻/小川香菜子
バリューデザイン部 コアソリューション部門
マネージドIT担当
NTTビジネスソリューションズ

災害発生時に自治体が抱える課題にこたえる新サービス「Spectee Pro for elgana」

現在、手掛けているサービス開発の背景・概要をお聞かせいただけますか。

(成瀬)日本は災害大国として知られ、私たちは阪神・淡路大震災、東日本大震災等、多くの人の命を奪う大きな自然災害を経験しています。こうした災害への対応は、1961年(昭和36年)に制定された災害対策基本法の下、国の防災計画「防災基本計画」、指定公共機関の「防災業務計画」、地方自治体の「地域防災計画」等が作成され、国や自治体を挙げて実施されています。災害対策基本法は、東日本大震災をはじめとしたさまざまな災害を教訓に、2011年から2019年の8年間で大幅な改正が行われ、自治体には災害時と平常時それぞれにおいて役割が与えられました。災害時の対応には情報の収集、発信と広報の円滑な対応に加えて、住民等の円滑かつ安全な避難の確保、被災者保護対策の改善等が盛り込まれました。
実際の災害発生時には、自治体では現場の状況を把握して、その結果を被災状況に応じた復旧作業や住民周知などの災害対応に活用することになるため、被災状況把握は急務となります。実際の災害発生時において、この状況把握は主として現地へ自治体職員を派遣して調査することになり、非常に手間取るとともに、被災現地と災害対策本部等との間の情報共有は、電話やメールなどで行われることが多く、的確な情報の伝達・集約が困難となっていました。
こうした自治体共通の課題を解決するために、「Spectee Pro for elgana」というサービスを開発しました(図1)。このサービスは、SNSや河川・道路カメラ、人工衛星データなどを基にAI(人工知能)で災害時の被害のシミュレーションや予測などさまざまな角度からの情報を“可視化”した地図画面上に、現地のスマートフォン等のGPSによる位置情報を基に、撮影した画像と作成した文章を重畳表示し、チャットや電話等により現地との間でセキュアなコミュニケーションを図ることで、的確な情報収集を可能とするものです。さらに、基本的に被災現地に駆け付けて状況把握や救済活動を担当している消防団員に依頼して被災状況を送信してもらうことで、自治体職員が現地に向かう時間と労力も削減できます。
2023年2月に名古屋市様と、このサービスを利用して都度更新される災害情報をリアルタイムに確認できる利便性と効果、サービスの有用性や改善点を検証しました。災害時における情報収集の利便性が高まるという定性的な効果が確認できたとともに、「市町村で災害対策に役立つサービスである」といった名古屋市役所職員の方よりコメントもいただきました。

技術開発と立ち位置を異にするサービス開発

どのようなプロセスでサービス開発を行っているのか聞かせてください。

(成瀬)一般的にサービス開発は、新しい技術やプロダクトを市場のニーズに対応させてサービスにつなげていく「プロダクトアウト」のアプローチと、市場の課題やニーズに対応していくために必要な技術やプロダクトを探したり、新規開発したりすることでサービスにつなげていく「マーケットイン」のアプローチがあります。研究所の成果等新技術のサービス化は「プロダクトアウト」となりますが、私たちはお客さまに近い立場にいるので「マーケットイン」でサービス開発を行っています。
サービス開発は、いずれのアプローチにおいても、サービスコンセプト企画、サービスアイデアとビジネスモデル検討、市場調査、実現方法検討、オペレーション・営業チャネル検討、事業性判断といったプロセスを経て、サービスとして市場にローンチされます。
「Spectee Pro for elgana」の開発においては、防災・災害対策に着目して自治体等のお客さまにヒアリングを行い、前述のように被災状況の把握に課題を抱えている自治体が多いことを確認しました(市場調査)。課題を掘り下げていくと被災現地との間のコミュニケーションを工夫することで対応できることに気付きました(サービスコンセプト、サービスアイデア・ビジネスモデル)。実現方法検討にあたってはコミュニケーションという意味で、NTT西日本グループ開発のセキュリティの高さを特長に、180万ID以上の導入実績のある(2023年1月時点)、ビジネスチャットツール「elgana」に着目しました。
そして、NTT西日本グループのオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」で2022年に開催された、「elgana」の連携パートナーについてのビジネス共創ピッチプログラム「Business Match-up For Next Value」にて採択された「株式会社Spectee(スペクティ)」と連携を開始しました(1)。これがきっかけで、AIリアルタイム危機管理サービスで、災害や事故などのリスク情報をリアルタイムに配信するほか、SNSや河川・道路カメラ、人工衛星データなどを基にAIで災害時の被害のシミュレーションや予測などさまざまな角度から被害状況を“可視化”する、スペクティ社の「Spectee Pro」を知り、「elgana」と「Spectee Pro」をAPI(Application Programming Interface)連携させることで、「Spectee Pro」の地図上に、「elgana」で撮影した画像と作成した文章を投稿し、画面上に仕組みを新たに構築することとしました(図2、3)。
(小川)サービスは、ある意で味研究成果や開発技術の事業への出口であり、逆に技術に関係なく市場から収入を得る入口です。事業に直結するサービス開発であるがゆえに、単なる需要予測や事業収支のみならず、将来的に抱える事業リスクも考慮のうえ事業化を判断する必要があります。サービスが厳しい競争環境下にあるときは、他社の戦力やサービスの相違等も考慮した戦略も立てていく必要があります。このためには市場調査とその分析には特に注力することになり、PoC(Proof of Concept)においても市場における許容性、必要度、お客さまへのインパクト等の検証も重要なものとなります。このように、サービス開発は技術開発とその立ち位置を少し異にするものです。

サービス開発の醍醐味はお客さまの喜びの声を聞くこと

サービス開発を手掛ける際に大切にしていることを教えてください。

(成瀬)サービス開発の醍醐味はお客さまの喜びの声です。私たちは常にお客さまのリアルな声を大切にしながらサービス開発に臨んでいるのですが、課題解決につながった等、お客さまからの声を直接伺えることが何よりも嬉しいです。社会の課題解決に私たちのサービスを役立てていただくために、お客さまの視点を常に意識する必要があり、そのために次の点に配意しながらサービス開発に取り組んでいます。
(小川)私は、サービス開発プロセスの中で技術に近い分野を担当しているのですが、同じようなものを複数つくらないこと、特注品をつくらないことです。同じようなものを複数つくるということは、社内においてカニバリゼーションを発生させ、営業担当が何をお客さまにお届けすればいいのかという判断をくるわせるばかりではなく、その先のお客さまも惑わせてしまいます。そして、開発内容も重複してくるので開発投資の重複にもつながり、お客さまへの提供価格高騰に直結します。そこで、サービスの開発にあたっては、複数のお客さまへの提供機能・価値の最大公約数を意識し、それをコストミニマムで実現することを心掛けています。ただ、どうしてもお客さま固有の部分への対応が必要な部分も出てくるので、その場合はパラメータの設定変更やカスタマイズ、サービスの外側での機能開発によるインテグレーションにより対応していくように考えています。
また、自身の関係する技術に深く入り込むほど、視野が狭くなってくると感じることがあります。サービス開発では検討対象が広範にわたっているため、広い視野と高い視座が必要となるのですが、これに逆行してしまうことになるので、開発の早い段階から市場やオペレーションに近い視点を反映していくために、営業やオペレーションに関係する各部署に相談に行きます。さらに自分でつくったモノを営業と一緒に売りに行き、お客さまの声を直接伺ったこともあります。
(成瀬)「我が社のサービスは最高だ」と自負することは良いのですが、それだけになってしまうのは非常に危険です。「独りよがり」になってしまうと、時代に乗り遅れ、他社に太刀打ちできないサービスが出来上がってしまうことがあるからです。世界を見渡し、自らの考えが世の中にマッチしているのかは常に検証する必要があると思っています。お客さまと直接お会いしている営業部隊にサービスの有用性の高さを確認する等、出口戦略も見据えてサービス開発をすることを心掛けています。
加えて「鳥の目、虫の目、魚の目」で見ることも重要です。俯瞰的な視野で物事を中長期的にとらえることや、今まさに現場が抱える課題は何かをつぶさにとらえる視点等、これらを同時に持てるように心掛けています。

サービス開発にかける熱意が伝わってきました。では最後に、サービス開発者にとって重要なスキル、サービス開発者としての思いを教えてください。

(成瀬)サービス開発者は社会にとっての「未来」だと考えています。幅広い視点で社会を見通せる力が一番大切だと思います。そして、調整力も重要です。サービス開発という立場には、お客さまをはじめ営業、企画、オペレーション等多くのステークホルダーがいます。お客さまはもちろんですが、意見が食い違う関係各所とうまく調整して進めていかないことには、サービスを世に出すことはできません。その意味で調整力は大切だと考えています。そして、最後にスピード感です。時に技術開発担当者には申し訳ないなと思いつつ、市場においていかれないように「速く仕上げてほしい」等と無理を言ってしまうこともあります。市場は待ってくれませんし、サービスが市場に出たところが出発点なので、こういった事情を理解・認識していただけるよう調整しています。
私は2人の子育てをしつつ、残業も出張もしながら働いています。子育てをしながらだと、どちらかをあきらめないといけないと思いがちですが、私はそうはしたくないですね。仕事もプライベートも双方100の力で臨みたいのです。将来的には新規ビジネスを生み出し、それが市場で認められた結果、開発者としていわゆるバイネーム人材になりたいというのがサービス開発者としての思いであり、憧れでもあります。
(小川)仕事でいわゆる無茶ぶりをされても、「できない」「やらない」と言わないことです。まずはどうやってそれを実現できるだろうかと考えることを大切にしています。また、「5分でできることは5分でやる」という姿勢も重要です。頼まれたことを、今忙しいからと後回しにすることはあると思いますが、中身が5分でできることならすぐに対応してやってしまうことです。
サービス開発者は社会にとって「希望」であると私は考えています。これからも仕事とプライベートに150×150の全力で臨んでいきたいと思います。
(成瀬)出来上がったサービスは我が子のように愛おしいんですよ。1社でも多くのお客さまに喜んでいただくために、ファースト案件をめざして、これからもサービス開発に臨みます。

■参考文献
(1) from NTT西日本:“オープンイノベーションによる未来共創プログラム『Future-Build』で社会課題解決・未来社会創造に挑戦した6プロジェクトの成果報告,”NTT技術ジャーナル,Vol.35,No,5,pp. 72-73,2023.