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トップインタビュー

NTTグループ、地域社会に活力を提供する「エネルギー源」となる。カーボンニュートラルを実現するエネルギー流通のリーディングカンパニーへ

徹底したESG経営の下、再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に引き出し、地球にやさしい経済活動を推進するNTTアノードエナジー。エネルギー分野における新しいプレーヤーとして、NTTグループの環境負荷低減の取り組みを牽引しています。フラットでスピードある組織運営でエネルギー事業に挑む岸本照之 NTTアノードエナジー代表取締役社長に、主力事業とトップとしての心構えを伺いました。

NTTアノードエナジー
代表取締役社長
岸本照之

PROFILE

1986年日本電信電話株式会社に入社。2014年NTTフィールドテクノ代表取締役社長、2017年西日本電信電話株式会社 関西事業本部長 大阪支店長、2019年同社常務取締役 設備本部長 設備本部ネットワーク部長を経て、2022年6月より現職。

ICTとエネルギー事業を「つなぐ」

社長に就任されて1年余りが経ちました。この1年を振り返り、ご心境やNTTアノードエナジーの置かれている状況をお聞かせいただけますか。

23年間を過ごしたNTT西日本を離れ、2022年6月にNTTアノードエナジーの代表取締役社長に就任しました。通信から電力へと取り扱い業務が大きく変わり、私が長年従事した通信業界とは変化のスピード感や投資規模、そして設備投資のあり方には違いがありますから、まるで転職したような感もあります。しかし、NTT西日本で長年担ってきました通信設備事業の知見や経験を活かしつつ、これまで同様にアンテナを高くしてビジネスや社会の動向等について勉強しています。
電力エネルギー事業を取り巻く環境は、世界的な脱炭素化の流れや不安定なエネルギー資源価格、再生可能エネルギー導入拡大と火力発電減退による電力システムの改革等に代表されるように、大きく変化しています。
日本の電力事業を取り巻く環境においても、2023年6月に脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律、GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法が施行され、エネルギーの安定供給と脱炭素の実現をめざすGXの取り組みがさらに加速し、電力システムをはじめ脱炭素化につながる取り組みを後押ししています。
こうした現状において、私たちNTTアノードエナジーは、NTTグループにおけるエネルギー電力分野のエキスパート集団として、ICTとエネルギーの橋渡しを担います。
このため、私たちは4つの事業を柱に、NTTグループ各社やパートナー企業と連携して、脱炭素化とエネルギーの地産地消の推進に向けたチャレンジを加速させています。これは2023年5月に発表したNTT新中期経営戦略の循環型社会実現を見据えた、日本における2050年のカーボンニュートラルを実現する取り組みで、NTTグループの掲げる環境エネルギービジョンを実現すること、国内外におけるスマートエネルギービジネスの創造、グループのみならず社会への貢献が期待されています。プレッシャーも大きいのですが、非常にやりがいを感じています。

エネルギー業界はどのような局面を迎えているのでしょうか。また、NTTアノードエナジーはその局面にどのような体制で臨んでいるのですか。

エネルギー業界におけるこの10年、20年にはさまざまな課題が凝縮されています。通信は日進月歩ならぬ秒進分歩の変化ですが、エネルギー事業もこの20年ほど前から大きく変化しています。夏冬の電力不足に備えて、一部で計画停電を呼びかけるなどエネルギーの安定供給が叫ばれています。発電形態は再生可能エネルギーへの変革が求められ、発電事業・送配電事業・電力小売り事業の分離、電力事業やガス事業の自由化など規制緩和が進みました。エネルギー業界には、これらを解決し、環境に対応した新しいビジネスを創ることを求められているのです。
こうした動きに対応していくために、NTTグループの中からエネルギー電力のエキスパート約3000名を私たちNTTアノードエナジーに集約しました。加えて、社外、国内外のスペシャリストも中途採用しました。まさに、ダイバーシティ&インクルージョンを体現した組織であり、社員一丸となって進む方向を示す羅針盤として、「技術力と探求心でエネルギーに新常識を」というパーパス「Anode Way」を掲げました。「Anode Way」は社員自らが考えて作成したのですが、極力横文字を使わず、使う場合は日本語で分かりやすく意味を添えてあります。
また、私たちの歴史「Our Story」も作成し、社員全員で共有することにしました。足跡をたどって改めて気付いたのですが、1962年に公衆電話の上に小さい太陽光発電機を搭載して、実用化に向けて試験をしていたのです。その後も東日本大震災時に大規模太陽光発電による電力を供給し、その後はそれを事業として参入する等、今日に至るまでに先輩方が築き、挑戦してきたことが大きなアセットになっていると改めて実感する機会になりました。

主要4事業のバリューチェーンでスマートエネルギー事業を展開

設立から4年目を迎え、エネルギー事業を担う企業としてのアイデンティティを着実に確立していらっしゃるのですね。推進している4事業についてお聞かせいただけますか。

現在、推進しているのは「グリーン発電事業」「地域グリッド事業」「需要家エネルギー事業」「構築・保守オペレーション事業」の4事業です。これらによりバリューチェーンを構築し、スマートエネルギー事業として展開しています。
まず、「グリーン発電事業」では、お客さまやNTTグループ各社のグリーン電力ニーズにこたえるために太陽光、風力、地熱、バイオマス、水力などの再生可能エネルギー発電所の開発を進めています。私たちは大規模な森林伐採等を行わず、生態系や住環境に配慮した発電所の構築に取り組んでおり、2023年8月には株式会社JERAと共同で、株式会社グリーンパワーインベストメントの株式を取得しました。
続いて2番目の「地域グリッド事業」では、地域の安定した再生可能エネルギー電源を活用してエネルギーの自立化と地産地消を推進しています。各地域が抱える課題はさまざまですから、それぞれの状況にマッチした方法で課題解決に臨み、カーボンニュートラルの目標達成と同時に、地域経済の循環・活性化に貢献します。ちなみに、環境省の脱炭素先行地域として、NTTアノードエナジーが支援している7自治体が選定されています。
そして3番目、「需要家エネルギー事業」では、自社開発した発電所でつくったグリーン電力を提供しています。このうち、コーポレートPPA(電力購入契約)には関心を寄せておりますが、中でも物理的な制約を受けず使用電力の増減に柔軟に対応できるオフサイト型コーポレートPPAは、今後さらにその価値を発揮すると考えています。
最後に4番目の柱である「構築・保守オペレーション事業」では、太陽光発電や大型データセンタといった電力設備の構築・保守・監視サービスを提供しています。東日本と西日本に設置された2カ所のオペレーションセンタでの高度技術者による監視統制、および全国各地の保守拠点の技術者により、NTTグループの通信用電源設備の設計・監理・保守といったオペレーションを先端の技術力で提供しています。

これら4事業によって脱炭素化やエネルギーの地産地消を現実のものとするのですね。

さまざまな自治体やパートナー企業との連携等によって、すでに具体的な取り組みが始まっています。2023年度は、日本電気株式会社(NEC)との連携により、脱炭素社会実現に向けて取り組んでいます。「新環境エネルギービジョン(NTT Green Innovation toward 2040)」を掲げるNTTと、「2050年を見据えた気候変動対策指針」を掲げるNECがタッグを組んで環境負荷を低減する新たな取り組みです。NECグループの温室効果ガスScope2排出量削減に加えて、製品をグリーン化電力により製造し、供給することでNTTグループのScope3排出量の削減を実現し、両社の環境経営を推進します。
そして、NTTドコモ、NTTスマイルエナジーとの連携により、脱炭素社会の実現に向けた家庭用太陽光発電・蓄電池の実証実験を5月から実施しています。「ドコモでんき Green」の提供によりカーボンニュートラルの実現をめざすNTTドコモと、太陽光発電・蓄電池の知見があるNTTスマイルエナジーとの連携により、太陽光発電・蓄電池を利用した家庭向けエネルギーサービスをエリア限定で提供し、月額定額、初期費用無料にてご家庭に太陽光発電パネル、蓄電池の設置を提供しています。これにより、NTTドコモは、サービスの販売支援、データ分析による今後の「ドコモでんき」との連携検討、NTTスマイルエナジーは本サービス提供主体としてユーザの利用状況分析、NTTアノードエナジーは、電力小売事業者としてサービス拡大検討、今後、需給調整分野での連携可能性を、検討することになります。

目標に向かい自分を鼓舞し、仲間を鼓舞し、ゴールする喜びを分かち合う

前回のトップインタビュー(2020年)で、「暗黙知」を受け継ぐことの重要性について教えていただきました。NTTアノードエナジーのように多様性に富む組織において、「暗黙知」はどのように引き継いでいらっしゃるのですか。

例えば、業界によって制度や使う専門用語が異なります。さまざまなバックグラウンドを持つ社員が結集していますから、専門用語や背景を相互に理解することもその1つです。新型コロナウイルス感染症の5類への移行を経て、出社率も約50%程度になっており、リモートとハイブリッドで組み合わせたコミュニケーションも重要です。
ちなみに、人どうしの直接的な言語によるコミュニケーションは2、3割で、直接会って共有する空気感等、非言語によるコミュニケーションがその大半を占めるといいます。大半を占める空気感を理解し合えるように努めていきたいと考えています。
さらに、現場には、最前線で長年活躍している60代の社員も、20代、30代の若手社員もいますから、30年、40年の年齢差や経験差があります。
こうした状況において、先輩の持つ暗黙知を引き継ぐために、息子や娘のような年齢の社員に対して、先輩方が言葉をかみ砕き、分かりやすく教授する仕組みをつくりました。若い社員がこれまで設備の保守点検を担ってきた先輩方を質問攻めにしながら、暗黙知を日常業務において引き継いでいます。実は、今日(インタビュー当日)も昼食を囲みながら先輩方は若手から質問攻めにされていました。こうした取り組みを通して、身につけなければいけない知識や資格に若手が自ら気付き、自発的にスキル向上を図り、それを後輩に伝えていくといった、いい循環をつくり上げていきたいと思います。この瞬間に暗黙知は形式知になっています。まもなくやってくるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)時代を見据えて、NTTアノードエナジーが進んでいくべき領域や取り組むべき仕事を発信し、こうしたナレッジの循環に加えてICTを駆使して、新しい電力設備のグランドデザインをつくっていきたいと考えています。

トップとして大切にしていることをお聞かせください。そして、皆さんへのメッセージもお願いいたします。

これまでと同様、決断と実行を大切にしています。加えて、実行していくには私自身がその「源」となる、発信や行動です。私は、これを「NTTグループ、地域社会に活力を提供する“エネルギー源”となる」と言語化して、「マイパーパス」として掲げました。これを実現するために私は、「前を見て、顔を上げて歩き続けられる安心な風土づくりの“道しるべ”となり、目標に向かい自分を鼓舞し、仲間を鼓舞し、ゴールする喜びを分かち合います。そして、絆で結ばれた仲間と向き合い、それぞれの目標を尊重し、ともに成長することを具現化、実践していきます」と宣言しています。そして、NTTアノードエナジーでは、これを幹部社員にも拡大して「マイパーパス」を掲げてもらっています。
感化する、まとめ上げることを日々少しずつであっても欠かさないことです。そのためにも東京の田町にある本社と現場最前線の組織の物理的距離を克服して、気持ちのあり方、情報の格差を極力なくしていきたいです。このために、キャラバンを組んで各都道府県を回り、生の声をいただき、社員のエネルギー源になるように努めています。
この「発信」を社員以外にも、メッセージとしてお届けしたいと思います。
まず、研究者、研究開発者の皆さん。IOWNにより世界をけん引していく存在として、マーケティングの発想を携えて実用化に向けて邁進していただきたいです。また、外の世界と触れ合ってダイバーシティ感覚を養い、イノベーションを興していただくことに期待しています。スマートエネルギービジネスは私たちだけではできません。私たちは引き続きオペレーションを担いますので、それに資する研究開発もぜひお願いします。
そして、お客さまが私たちNTTの3文字のブランドイメージ力に寄せるご期待にしっかりとこたえていきたいです。蓄電池、水素発電等の技術進歩も激しい時代において、ともに新しいこと創り上げていきましょう。
そのために、お客さまの視点からのご要望もぜひお寄せください。NTTが築いてきた、培った知見をエネルギー領域に反映し、ご提供していきます。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

3年ぶりのご登場となった今回も、岸本社長はご趣味には相変わらず「応援」を掲げていらっしゃいました。陸上、野球、ラグビーに、新たにサッカーが加わりました。インタビュー前夜も社員の皆さんとともに、Jリーグのチーム「大宮アルディージャ」の応援に行かれたという岸本社長。「昨夜は初めて勝ちゲームを観戦いたしました」と喜んでおられました。
この「応援」という姿勢は、スポーツ観戦だけにとどまらず、今回はインタビュアである私に一冊の本を手渡してくださいました。テーマはキャリアや働き方の再考でした。
トップインタビューは対談ではありませんから、インタビュイーはご自身のことをアピールされるのが一般的であるにもかかわらず、インタビュアまで気遣う心配りの細やかさには本当に驚かされます。
岸本社長のさり気ない一言や振る舞いに、かかわるすべての人への思いやりと、その場限りではない深い愛情を感じたひと時でした。