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2023年ITU世界無線通信会議(WRC-23)報告

無線通信が利用する電波は、国境を越えて伝わるために国際的な取り決めが必要となります。このため、国連の電気通信に関する専門機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)では、無線通信規則(RR:Radio Regulations)として周波数ごと・地域ごとの電波の利用ルールを規定しています。RRは約4年ごとに見直しがされており、このことを目的として開催される国際会議がITU世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference)です。改正されたRRは国内の電波法令等にも反映されることから、携帯電話やその他無線によるサービスを提供しているNTTグループにとってもWRCは非常に重要な会議です。ここでは2023年11~12月にかけてアラブ首長国連邦・ドバイにて開催された2023年ITU世界無線通信会議(WRC-23)について報告します。

大槻 信也(おおつき しんや)†1/坂本 信樹(さかもと のぶき)†2
亀田 彩子(かめだ さいこ)†2/岩谷 純一(いわたに じゅんいち)†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†1
NTT技術企画部門†2

2023年ITU世界無線通信会議(WRC-23)

世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference)は無線周波数帯の利用方法、衛星軌道の利用方法、無線局の運用に関する各種規程、技術基準をはじめとする国際的な電波秩序を規律する無線通信規則(RR:Radio Regulations)の改正を行うために国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)が開催する最大規模の会議で、通常3~4年ごとに開催されます(1)。2023年ITU世界無線通信会議(WRC-23)は2023年11月20日~12月15日にアラブ首長国連邦・ドバイにおいて開催され(図1)、163カ国の加盟国から約3900人が参加し、表1に示すようなRR改正に関する議題について審議が行われました。日本から代表団として総務省、その他政府機関、民間事業者の約130名が参加し、NTTグループからはNTTおよびNTTドコモが参加しています。
RRでは世界を3つの地域(Region)に区分し(図2)、全世界もしくは地域ごとに無線周波数の利用方法を規定しています。これとは別に特定の国についてのみの利用を規定することもあります。また、各地域には地域的電気通信機関が第一地域に4つ、第二地域に1つ、第三地域に1つ存在し、各地域的電気通信機関はWRCに関する活動を行っています。日本は第三地域のアジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)に属しており、APT内のWRCへの共同提案を策定する会議体であるAPG(APT Conference Preparatory Group for WRC)でも活動をしています。
WRC-23の審議体制を図3に示します。全体会合を司るPlenaryの下にCOM1からCOM7までの委員会が設置され、RRの改正内容に関する検討は主にCOM4(地上・航空・海上議題等)、COM5(衛星関連議題)、COM6(一般・将来議題)で審議されました。このうち5G・Beyond5Gを含む携帯電話(IMT:International Mobile Telecommunication)*1向け周波数特定(議題1.2)や、非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)実現に向けたIMT基地局としての高高度プラットフォームステーション利用の検討(議題1.4)等の議題を含めた地上系無線の検討を行うCOM4の議長として日本より新博行氏(NTTドコモ)が選出されました。

*1 IMT:いわゆる3G(第3世代移動通信システム)以降の移動通信システムであり、IMT-2000、IMT-Advanced、IMT-2020、IMT-2030を含みます。

■IMT用周波数の特定(議題1.2)

5G・Beyond5G等IMT向けの追加周波数特定について、日本が関係する周波数として6425-7025MHz(当初の議題では第一地域のみ対象・日本との関係は後述)、7025-7125MHz(全世界が対象)の議論が行われました。日本としては、関係する7025-7125MHzについてITU無線通信部門(ITU-R:ITU Radiocommunication Sector)での検討を踏まえてIMT特定を支持、6425-7025MHzの第一地域での特定については規模の経済の恩恵の観点から支持をしていました。また議題の範囲外ではありますが、6425-7025MHzについて第三地域に属する中国等アジア6カ国および第二地域に属する国でのIMT特定を求める提案が行われました。同周波数帯で運用される衛星システム等既存無線システムへの影響をかんがみて、IMT基地局に適用される電力制限値の規定に関して各国間の対立が続きましたが、最終的に合意に達し、7025-7125MHz帯については第一地域全体、第二地域の一部の国(ブラジル・メキシコ)、第三地域全体でIMT特定が合意されました。6425-7025MHzにおける第三地域に関する提案については、近隣国への影響を考慮して中国を除く数カ国(カンボジア・ラオス・モルディブ)のみIMT特定が合意されました。加えて6425-7025MHz帯は第一地域全体および第二地域の一部の国(ブラジル・メキシコ)でIMT特定が合意されました。

■IMT基地局としての高高度プラットフォーム利用の検討(議題1.4)

山間部や海上等を含めたカバレッジの拡大や大規模災害時における通信網復旧の迅速化を可能とする宇宙RAN(Radio Access Network)・非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)の実現がBeyond 5Gで期待されており、その手段の1つとして、高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)*2をIMT基地局(HIBS:HAPS as IMT Base Stations)として利用することが検討されています(2)。前回のWRC(WRC-19)において日本が中心となって議題化の提案を行い、WRC-23においてHIBSと端末間の通信で利用する周波数について、新帯域の追加(694-960MHz、1710-1885MHz、2500-2690MHz)および既存帯域(1885-1980MHz、2010-2025MHz、2110-2170MHz)の使用条件の見直しが審議されました。議論の結果、694-960MHz以外の帯域についてはHIBS利用の特定や利用条件の見直しが合意されました。694-960MHzについては既存システムへの干渉を懸念する中国、ロシア、ベトナム、イランと対立しましたが、最終的に第一地域および第二地域はHIBS利用の特定が合意されました。また、第三地域では日本およびHIBSの展開が想定されている国を含む14カ国について、帯域の全部もしくは一部にHIBS利用の特定が合意されました*3。

*2 HAPS:ソーラープレーン型の航空機や飛行船などを利用して、成層圏環境等高高度での運用が想定される空中プラットフォーム。HAPSと地上基地局(ゲートウェイ)間(フィーダリンク)用周波数はWRC-19において決定されました。
*3 HIBS(694-960MHz):豪、モルディブ、ミクロネシア、パプアニューギニア、トンガ、バヌアツ、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、タイにおいて全帯域もしくは一部帯域が利用可になりました。

■その他の議題(科学議題・衛星議題)

その他科学や衛星に関する議題についても議論されました。議題1.13では14.8-15.35GHzにこれまで二次業務*4であった宇宙研究業務(衛星間、衛星-地球局間)を一次業務に格上げする検討が行われ、原則として一次業務に格上げすることで合意されました。ただし、衛星間については衛星から送出される電波の地表上での電力束密度(PFD:Power Flux Density)を制限すること、衛星-地球局間については日本を含む複数の国の地上業務に対して二次業務の扱いを維持することが合意されており、同じ帯域で運用されているIMT用エントランス回線を含む日本の地上無線システムへの悪影響を及ぼさないようにしています。
議題1.16では、近年利用が進んでいる非静止軌道衛星について、17.7-18.6GHz、18.8-19.3GHz、19.7-20.2GHz、および27.5-29.1GHz、29.5-30GHzで海上と航空機に搭載された地球局との通信を可能とするための議論が行われました。最終的に利用可能とすることが合意されるとともに、対象帯域で運用される28GHz帯5G・ローカル5Gを含む地上系無線システムに対して悪影響を与えないための条件を規定することが合意されました。

*4 一次業務・二次業務:無線業務には「一次業務」「二次業務」の区分が決められており、二次業務の無線局は一次業務の無線局に対して有害な干渉を与えてはならず、また一次業務の無線局からの干渉に対して保護を要求することはできません。

■2027年ITU世界無線通信会議(WRC-27)の議題

WRC-23では、将来の世界無線通信会議で扱われる議題も議論され、次回WRC-27の議題として表2に示す議題が決定されました。
IMT用周波数候補についても、FR 3(Frequency Range 3)やミッドバンドに含まれる7-15GHz帯を中心に議論が行われ、最終的に7125-8400MHzおよび14.8-15.35GHz帯が合意されました。また日本においても一部の帯域がすでにIMTで利用されている4400-4800MHzについてもWRC-27で議論されることが決定されました。
NTN実現に向けて、スマートフォン等の携帯端末と低軌道衛星との間の直接通信を行う衛星ダイレクト通信向け周波数について、日本等の提案を元に議論が行われ、694MHz-2.7GHzの周波数を候補としてWRC-27で議論されることが決定されました。

2023年ITU無線通信総会 (RA-23)

WRC-23に先立ち、2023年ITU無線通信総会(RA-23:Radiocommunication Assembly 2023)が2023年11月13~17日までの期間でWRC-23と同じ会場で開催されました。RAはITU-Rの総会であり、勧告案や研究課題案の承認、ITU-Rの作業方法等を定めた決議案の承認、研究委員会(SG:Study Group)の構成やSGの議長・副議長の指名を行います。
RA-23ではいわゆる“6G”のITUでの呼称を“IMT-2030”とする決議案の審議も行われ、承認されました(3)。加えて“6G”に求められる能力やユースケース等を含む全体像を与える勧告案も承認され(4)、今後ITU-Rにおいて“6G”の検討が加速することが期待されます。
SGについては、図4に示すように、各SGの議長と副議長が任命され、日本から推薦された3名全員がSG 4、SG 5、SG 6の副議長候補として承認されました。またこれまで明記されていなかった衛星間業務についてSG 4の所掌として明確に記載される決議案が承認されました(5)
今回のRAではSG配下で作業を実施する作業部会(WP:Working Party)の議長について、その任期の上限について議論が行われました。議論の結果、原則として2研究会期(1研究会期は約4年)として、必要な場合1研究会期の延長を可能とすることが合意されました。
また、その他のITU-Rの決議案、勧告案、研究課題案等も承認され、今後のITU-R活動の指針となります。

今後の予定

NTTグループでは、WRC-27に向けて、ITU-Rやアジア・太平洋地域の関連会合、国内関連会合等において引き続き積極的な貢献をしていく予定です。

■参考文献
(1) https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/inter/wrc/wrcsum/index.htm
(2) https://journal.ntt.co.jp/article/19880
(3) https://www.itu.int/pub/publications.aspx?lang=en&parent=R-RES-R.56
(4) https://www.itu.int/rec/R-REC-M.2160/en
(5) https://www.itu.int/pub/R-RES-R.4-9-2023