特集1
リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤による移動固定融合ネットワークの進化
- 移動固定融合
- 品質可視化技術
- 運用協調技術
移動固定融合ネットワークは移動網や固定網などのアクセスネットワークやデータセンタネットワークなどのさまざまなドメインのネットワークの密な連携により実現されます。本稿では、ネットワークドメイン間連携を柔軟に実現しネットワーク全体の信頼性や品質を向上するリライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤による、ネットワークの進化の可能性について紹介します。
林 航平(はやし こうへい)/酒井 優(さかい まさる)
中村 孝幸(なかむら たかゆき)/高橋 謙輔(たかはし けんすけ)
西山 聡史(にしやま さとし)
NTTネットワークイノベーションセンタ
リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤のねらい
社会インフラにおける通信キャリアが担う役割が拡大する昨今、信頼性や通信品質が確保されたネットワークの重要性が高まっています。また、通信キャリアが提供するMEC(Multi-access Edge Computing)・データセンタを活用した自動運転やAR/VR(Augmented Reality/Virtual Reality)等の新たなユースケースの広がりも加速しており、端末・アプリケーションの利用シーンに応じ、通信キャリアが持つ移動網や固定網などのアクセスネットワークや接続先となるデータセンタネットワークを適切に組み合わせて利用可能であることが重要となります。このようなユースケースの実現に向けては、アクセスネットワークやデータセンタネットワーク等の複数のネットワークドメインをまたがり俯瞰的に信頼性・品質を確保する仕組みが求められます。
アクセスネットワークやデータセンタネットワークを組み合わせたネットワークサービスにおいて、アクセスネットワーク配下の端末からサーバ等の通信先にわたるエンド・ツー・エンドで信頼性や通信品質を確保するためには、複数のネットワークドメインをまたがる影響やアラートを伴う故障等発生時の復旧迅速化、およびエンド・ツー・エンドでのサービス品質保証に向けた複数のネットワークドメインをまたがるリソース管理・品質可視化が必要となります。
NTTネットワークイノベーションセンタではこれまで、さまざまなネットワークドメインに対するネットワークシステムやこれらを運用するためのオペレーションシステムの実用化を進めてきました。これまで培ったネットワークシステム・オペレーションの技術を基に、単一のネットワークドメインにとどまらず、複数のネットワークドメインにまたがる故障分析・品質可視化制御による通信の信頼性や通信品質の確保を可能とする、リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤の実現に向けた研究開発に取り組んでいます(図1)。
リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤は、大きく分けて2つの技術から構成されています。1つは、複数のドメインを横通しで把握しドメインをまたがる設定や故障をスピーディに把握するためのネットワークドメイン間運用協調技術、もう1つは、推定された要因や時系列情報をオペレータに提示するとともに最適な対処方針を自動選択し、ネットワークリソース等の制御を行うオンデマンド品質可視化・制御技術です。これらの技術の組合せにより、これまで有識者のオペレータが時間をかけて分析・対応してきた複雑な故障や品質劣化をより効率的に対処し、ネットワークを高品質に保つことが可能になります。以降、それぞれの技術について詳細を説明します。
ネットワークドメイン間運用協調技術
ここでは、MEC基盤やクラウドが接続されるデータセンタネットワークや、移動網や固定網などのアクセスネットワークといった異なるネットワークドメイン(ドメイン)をまたがるサービスを提供する際に、ドメインを横断した接続ポリシー管理の一元化によるワンストップサービスの提供および被疑箇所分析による故障復旧の迅速化といった、ドメインをまたがる運用を協調させることにより、保守者の対応稼働を削減し、サービス品質と信頼性の向上を実現するネットワークドメイン間運用協調技術について説明します。
ドメインをまたがるサービスの運用に向けては、従来の技術では次の2つの課題があります。
1点目の課題は、従来のネットワーク管理においては、MEC基盤やクラウドが接続される各種データセンタネットワークや、移動網や固定網といったアクセスネットワークなどの各ドメインが独立して運用されていることです。これには各ドメインが独自の技術要件や運用ポリシーに基づいて特化した機能を提供できるといった専門性の確保や、故障の切り分けや管理が比較的容易といった管理の簡素化といったメリットがあります。一方で、ドメインをまたがったサービスを統合的に提供する際には、異なるドメイン間の連携が煩雑化し、保守者の対応が増加する要因となります。例えば、新しいサービスを提供する際に、ドメインごとに設定を行うため、同じ情報を複数回設定する必要が出てくるといった設定の冗長性や、1つのドメインで設定が変更された場合、それに合わせて他のドメインの設定も変更する必要があるといったサービスオーダの煩雑化が挙げられます。また、端末が異なるネットワークに移動する際には、端末が接続するアクセスネットワークが変わることによるIPアドレスの変更や、それに伴いユーザアプリ側の設定の更新といったエンド・ツー・エンドのネットワーク疎通を維持するための作業の煩雑化も挙げられます。
2点目の課題は、従来のネットワーク管理においては、各ドメインのアラート情報は個別に管理されていることです。そのため、故障の原因を特定するためには、ネットワークドメインをまたぐ保守者間での連携が必要となり、その過程で保守者の対応が増加する要因となります。また、各ドメインで発生するアラート情報が個別に管理されているため、それらが互いにどのように関連しているかを分析するのは非常に困難となります。例えば、MEC基盤で疎通不可のアラートが発生した際に、疎通不可の原因が実際にはMEC基盤が依存しているクラウド側の故障であった場合、MEC基盤のアラートだけを分析しても故障の根本原因を特定することはできません。このため、個々のドメインの保守者がそれぞれのアラートを独立して分析し、さらにそれを突き合わせる作業が必要となります。
ネットワークドメイン間運用協調技術は、これら2つの課題を解決します。本技術はドメイン間ポリシー制御機能とドメイン間被疑箇所分析機能で構成されます。本技術の概要を図2に示します。各課題に対応する機能について以降で解説します。
■ドメイン間ポリシー制御機能
1点目の課題に対しては、ドメイン間ポリシー制御機能が対応します。本機能では、異なるドメインをまたがるサービスを提供する際に、ドメインを横断した接続ポリシー管理の一元化によるワンストップサービスの提供を可能とし、かつネットワーク情報の収集と連携して端末の構成変更に応じて設定変更を可能とします。これにより、保守者は「端末AとユーザアプリAを接続する」といった接続ポリシー情報のみを設定することで、ドメイン間の情報をシームレスに連携し自動で設定が変更されることとなり、サービス提供の時間を短縮し、ユーザの利便性が飛躍的に向上します。
■ドメイン間被疑箇所分析機能
2点目の課題に対しては、ドメイン間被疑箇所分析機能が対応します。本機能では、異なるドメイン間のアラートを収集し、相互に連携した被疑箇所分析を行います。これにより、ネットワークの故障が発生した際に、その原因を迅速に推定し、復旧を迅速化することが可能となります。例えば、クラウドサービスに関連する故障が発生した場合も、アクセスネットワークやデータセンタネットワークとの関連性を考慮して一括で分析が行えるため、より適切な対策が迅速に適用可能となります。
オンデマンド品質可視化・制御技術
ここでは、ユーザ個々が要望する通信帯域や遅延・ジッタ等のネットワーク品質を保証したネットワークサービスを、ドメインをまたがってエンド・ツー・エンドで提供するために必要となる、オンデマンド品質可視化・制御技術について説明します。本技術により、多様な品質監視項目や端末等の多数の品質監視対象からの品質情報の収集や、これに基づく品質劣化判定や品質維持のための制御をオンデマンドに実現できます。
ドメインをまたがるエンド・ツー・エンドでの品質確保に向けては、従来の技術では次の2つの課題があります。
1点目の課題は、従来のネットワークでは監視可能な通信帯域等の品質種別や、通信の端点(エンド)となる端末等の監視対象が固定的となっていることです。ネットワークを利用するユーザそれぞれの要望する通信帯域や遅延、ジッタ等の多様な品質要件を満たすネットワークを提供するためには、品質要件に応じたネットワーク品質を監視する必要があります。また、品質監視対象となる端末やサーバ、アプリケーションは、ユーザのネットワーク利用状況に応じて動的に変化することがあるため、これに追従して品質監視対象別の監視設定を更新する必要があります。これらの多様な品質要件や品質監視対象に対応するために、従来はユーザごとの品質要件に応じたネットワーク品質監視を行う監視エージェント個々の設計・導入や、端末の接続状況等に応じたエージェントに対する品質監視対象の設定変更について、ネットワーク運用者による個別作業を要していたことから、運用負担の増大の要因となります。
2点目の課題は、品質関連の情報の収集・分析・対処が各ネットワークドメインに閉じて行われていることです。エンド・ツー・エンドの品質監視により品質劣化を検出した際には、品質劣化が発生しているネットワークドメインや劣化要因の分析、および当該ドメインに対する品質維持のための制御の適用を自動化し、迅速に実行可能とすることが品質確保のためには必要となります。従来のネットワーク運用においては、各ネットワークドメインの品質監視結果や設備のリソース使用状況等の品質関連の情報は、種類や量、データ取得頻度等の規格の増大を抑制するため、それぞれのドメインのネットワークコントローラ・運用システム等に個別に管理されています。そのため、あるネットワークドメインで検知した品質劣化の要因が別のネットワークドメインのリソース逼迫である等の各ネットワークドメインが持つ品質関連の情報を連携させた品質劣化要因分析、対処の判断が必要なケースに対する自動化が困難となります。
オンデマンド品質可視化・制御技術は、これら2つの課題を解決します。本技術はオンデマンド品質監視機能とドメイン間品質判定連携制御機能で構成されます。本技術の概要を図3に示します。各課題に対応する機能について以降で解説します。
■オンデマンド品質監視機能
1点目の課題に対しては、オンデマンド品質監視機能が対応します。本機能では、ユーザ個々のネットワークに対して、その品質要件に応じた品質監視を行う監視エージェントを自動で設計・導入することを可能とし、かつ端末のネットワーク接続時の認証情報等と連携して監視エージェントの動的な品質監視対象の設定変更を可能とします。これにより、従来生じていた人手による品質監視機能部の設計や監視対象の設定が不要とすることができ、運用負担増加を生じさせることなくユーザ個々の品質要件やネットワークの利用状況に応じたエンド・ツー・エンドの品質監視が可能となります。
■ドメイン間品質判定連携制御機能
2点目の課題に対しては、ドメイン間品質判定連携制御機能が対応します。本機能では、複数のネットワークドメインから品質監視結果や品質劣化要因分析に必要となるリソース情報等を収集し、品質劣化要因の推定を行います。また、品質劣化要因については、アクセスネットワークドメインやデータセンタネットワークドメイン等の各ネットワークドメインのシステムや装置に対してリソース割り当て等の品質確保のための設定制御を行います。これにより、従来のアクセスネットワークドメインやデータセンタネットワークドメインのドメイン個々で閉じていた収集・分析・制御について、ドメインをまたがり自動実行できるようになり、エンド・ツー・エンドでの品質確保のための制御を迅速に適用可能となります。
リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤の今後の展望
リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤では、本稿で紹介した2つの技術を発展させ、移動固定融合ネットワークにおけるさまざまなネットワークサービス提供の高度化・高品質化に向けた研究開発に取り組んでいきます。
(上段左から)林 航平/酒井 優/中村 孝幸
(下段左から)高橋 謙輔/西山 聡史
問い合わせ先
NTTネットワークイノベーションセンタ
光トランスポートシステムプロジェクト
E-mail p7e-ml@ntt.com
私たちは、デバイス技術やアクセスネットワーク技術の多様化に対応し、それらを組み合わせてスピーディかつ高品質に世の中に出していくための研究開発に取り組んでいます。リライアブル制御プラガブルネットワーク連携基盤技術の進化にご期待ください。