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特集2

3GPP Release 18標準化活動

3GPP Release 18における5G-Advanced無線技術概要

3GPP(3rd Generation Partnership Project)において、5G向けの新たな無線アクセス技術であるNR(New Radio)の標準仕様がRelease(Rel)-15として策定された後、その拡張技術の標準仕様Rel-16/17がこれまで策定されてきました。3GPPでは、5G(第5世代移動通信システム)からのさらなる技術拡張として、Rel-18以降の5G仕様を5G-Advancedと定義しています。この位置付けのもと、2022年3月より開始されたRel-18の仕様策定が、2024年6月に完了しました。本稿では、Rel-18における5G-Advanced無線の高度化技術について概説します。

熊谷 慎也(くまがい しんや)/武田 大樹(たけだ だいき)
安藤 桂(あんどう けい)/下平 英和(しもだいら ひでかず)
閔 天楊(びん てんよう)/井上 翔貴(いのうえ しょうき)
NTTドコモ

まえがき

5G(第5世代移動通信システム)向けの新たな無線アクセス技術であるNR(New Radio)*1が3GPP(3rd Generation Partnership Project) Release(Rel)-15で仕様策定された後、Rel-16/17において、モバイルブロードバンドの高度化(eMBB:enhanced Mobile BroadBand)や高信頼・低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communication)向けの高度化技術に加えて、産業分野でのIoT(Internet of Things)を促進するIIoT(Industrial IoT)といった新規事業を創出するための拡張技術が規定されました。Rel-17ではさらに、新規シナリオ・ユースケースに対応するために、非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)のサポートや、低コストNR端末カテゴリ(RedCap:Reduced Capability*2)の追加なども規定されました。
3GPPでは、Rel-18以降を5G-Advancedと定義し、2020年代後半の商用化をターゲットにした機能追加とともに、2030年ごろをターゲットとした6G(第6世代移動通信システム)へのステップとも位置付け、①モバイルブロードバンドの進化とさまざまな業界への5G展開、②短期的なニーズに対応する技術と中長期的なニーズに対応する技術、③デバイスの進化とネットワークの進化、のそれぞれの観点でバランスのとれた検討・仕様化項目を行い、5Gが新たな価値を提供することへ貢献しています。Rel-18で仕様化した主な機能を図1に示します。本稿では、これらのRel-18で仕様化された主な拡張技術を概説します。

* 本特集は「NTTドコモ・テクニカル・ジャーナル」(Vol.32, No.2, 2024年7月)に掲載された内容を編集したものです。
*1 NR:5G向けに策定された無線方式規格。4Gと比較して高い周波数帯( 例えば、6GHz帯以下や28GHz帯)などを活用した通信の高度化や、高度化されたIoTの実現を目的とした低遅延・高信頼な通信を可能にします。
*2 RedCap:Rel-17 NRにおいて導入された簡易端末カテゴリの名称で、通常のNR端末よりサポートする送受信アンテナ数や帯域幅を減らすことでデバイスの複雑さを低減します。

産業創出・ソリューション協創向け高度化技術

■IoTデバイスのさらなる複雑性・コスト低減

Rel-17では、NRのハイエンドなIoT端末と、eMTC(enhanced Machine Type Communication)やNB-IoT(Narrow Band-IoT)で提供されるローエンドなIoT端末の間に位置するミドルレンジIoTサービスに対してNRを最適化した端末として、RedCapが仕様化されました。一方、Rel-17 RedCapは、さらに端末の複雑性を削減する余地が指摘されており、よりローエンドIoTに近い領域でRedCapを適用するための機能拡張として、eRedCap(enhanced Reduced Capability)と呼ばれる端末の仕様化が行われました。

■ドローン向けのNR機能実現

Rel-15で導入されたLTEドローンでは、高度報告、航路報告、過剰な品質測定報告の抑止機能が仕様化されました。Rel-18で導入されたNRドローンは、LTEドローンの基本機能が盛り込まれたほか、機能拡張も行われました。具体的には、品質測定報告のトリガにドローンの高度情報を考慮した新規イベントが導入されました。また、品質測定報告の設定において、ドローンが測定するビームを高度に応じて設定することや、ドローン航路報告において、航路の情報を更新することが可能となりました。さらに、ドローン規制局がドローンの飛行を検知できるようにドローンIDをサイドリンクでブロードキャストする機能(BRID:Broadcasting Uncrewed Aerial Vehicle ID)、ドローンどうしの衝突を防ぐためにブロードキャストする機能(DAA:Detect And Avoid)が導入されました。

■NRにおける位置測位技術の機能拡張

Rel-16より、NRではUE(User Equipment)位置を推定する位置測位機能が導入されています。NR位置測位技術では、セルIDやTAを利用した比較的に簡易な測位方式だけでなく、電波の伝搬時間や到来方向などを利用したより高精度な位置測位方式、加えて、より厳しい要求条件を持つ産業ニーズにこたえるための水平・垂直方向の精度向上や遅延の削減に向けた機能拡張など、多様な位置測位技術が仕様化されてきました。
Rel-18では以下の2つの方向性で測位精度向上、遅延低減や端末消費電力の削減が可能となる仕様化を行いました。
・cmレベルの測位精度をめざす新たな測位方式のサポートや既存位置測位技術の拡張
・簡易NR端末(RedCap)向けやV2X(Vehicle to Everything)*3ユースケースなどを想定した機能拡張によるNR位置測位技術の適用領域拡大

*3 V2X:車車間の直接通信、車と路側機(道路脇に設置されている無線通信設備)間の直接通信、車両と歩行者間の直接通信、LTEや5Gなどのセルラ網を経由して通信する広域通信(基地局経由通信)などの総称。

■端末間通信(サイドリンク)

3GPPでは、Rel-16においてV2X向けにサイドリンクの5G基本機能が仕様化され、Rel-17において5Gサイドリンクの消費電力低減機能および高信頼・低遅延向け機能の追加が行われました。
Rel-18では、データレート向上や適用領域の拡大を目的として5~6GHz帯のアンライセンスバンド*4向け機能を追加し、効率的なV2Xサービスの実現を目的としてサイドリンクのキャリアアグリゲーション機能と、LTE(Long Term Evolution)サイドリンクとの共存機能を追加しました。

*4 アンライセンスバンド:行政による免許割当が不要で、特定の通信事業者に限定されずに使用可能な周波数帯。

■産業IoT向けの高精度時刻同期のさらなる拡張

Rel-16/17 IIoTでは、高精度時刻同期機能が仕様化されました。Rel-18では同期精度の変化に対して、時刻同期に関するステータスを監視・報告する機能が導入されました。これにより、同期精度が劣化した際に対応策をとることが可能となります。本機能では、AMF(Access and Mobility management Function)はgNBに対し、同期品質に関する制御情報をユーザごとに提供します。この制御情報を基に、gNBはUEに対して時刻同期に関するステータスを通知します。また、このステータスについて更新がある場合には「変更あり」を報知することにより、UEは通信状態によらず同期品質の変化に対応することを可能にします。

■NTN技術の拡張

Rel-17では、静止軌道(GSO:GeoStationary Orbit)と非静止軌道(NGSO:Non GSO)の衛星利用を想定し、GNSS(Global Navigation Satellite System)機能を備えたUEを前提としてNTNの仕様化が行われました。Rel-18では、スマートフォンなどの小型端末に対応するための「UL(UpLink)のカバレッジ改善」、位置情報をGNSS機能のみに依存しないための「端末位置の妥当性検証」、NTN特有の大きな伝搬遅延や衛星の移動を考慮した、サービス継続性の強化を行うための「NTN-TN間およびNTN-NTN間モビリティの機能拡張」、10GHzを超える周波数帯のシナリオである「VSAT(Very Small Aperture Terminal)端末*5向けの周波数帯サポート」といった機能拡張が実施されました。

* 5 VSAT端末:小型のパラボラアンテナなどを使用して飛行体と通信を行う装置。スマートフォンと比較すると大型であり、当該装置の先に有線でハブ・固定電話・PCなどを接続する構成が想定されます。

モバイルブロードバンド向け高度化技術

■MIMO高度化

(1) MU-MIMOの最大レイヤ拡張
Rel-15では、下りリンク(DL:Down Link)において、最大8レイヤのSU-MIMO(Single User- Multiple-Input Multiple-Output)*6と、最大12レイヤのMU(Multi User)-MIMOが実現できるよう仕様化がされていました。Rel-18ではさらなる大容量化を目的に、MU-MIMOの最大24レイヤへの拡張に向けて復調用参照信号(DMRS:DeModulation Reference Signal)の最大ポート数を2倍に拡張しました。
(2) 拡張型Type-IIコードブック
Rel-15では、UEが基地局へ報告するCSI(Channel State Information)コードブックとしてType-IとType-IIの2種類が仕様化されています。Type-IIコードブックで報告されるプリコーダ情報は、UEの移動などに起因して発生するドップラー周波数*7の影響を大きく受けるという課題がありました。Rel-18では、UEがプリコーダの時変動の予測値についても測定・報告することができる拡張型Type-IIコードブックが仕様化されました。
その他に、マルチTRP(Transmission and Reception Point)*8シナリオにおける上りリンク(UL)送信や、ULの送信レイヤ数拡張などが仕様化されました。

*6 SU-MIMO:単一ユーザの複数の送受信アンテナを使用してMIMO通信を行う技術。
*7 ドップラー周波数:無線通信において、送信機もしくは受信機の移動によって発生する周波数の誤差。
*8 TRP:基地局において、1つの場所に設置された、1つまたは複数の送受信アンテナポートの集合。1つの場所に設置された送受信アンテナポートのみを用いる基地局構成をシングルTRPと呼び、複数の場所に設置された送受信アンテナを用いる基地局構成をマルチTRPと呼びます。

■ハンドオーバの高度化

従来のハンドオーバは、protocol stackのRRC(Radio Resource Control) layerで行われ、L3(Layer 3)モビリティとも呼ばれています。Rel-18では、従来のハンドオーバにおける瞬断時間を削減するために、より低いレイヤ(L1/L2)でハンドオーバを実行するLTM(Lower layer Triggered Mobility)が仕様化されました。
LTMにおいて、ハンドオーバ元の基地局は従来のL3品質測定報告に基づき、ハンドオーバ候補セルの情報をあらかじめUEに設定しておきます。ハンドオーバ実行直前にハンドオーバ元の基地局は、UEからのL1品質測定報告に基づき、ハンドオーバ候補セルから最適なターゲットセルとビームを選択し、セルスイッチコマンドというL2シグナリングでUEにハンドオーバ指示を送ります。

■XRシナリオにおける低遅延・大容量化

XR(Extended Reality)は今後のモバイルネットワークにおいて重要なユースケースとして位置付けられています。XRでは、高データレートと、低遅延の両方が要求されます。また、小型かつ軽量な端末の利用が想定されるため、端末に搭載できるバッテリ容量も制約されます。
Rel-18ではこのような高機能化と低消費電力化の要求に対して、拡張されたBSR(Buffer Status Report)*9情報や遅延情報といったXR特有の補助情報を追加することでより効率的なULデータ送信を行う「XR Awareness」、Configured Grant設定時のリソース利用効率改善とPDCP PDU(Protocol Data Unit)を複数まとめて制御することによりセル当りの通信容量を改善する「XRキャパシティ向上」、およびDRX(Discontinuous Reception)の受信周期拡張やConfigured Grant*10設定時のUL送信方法などXRユースケースに特化した「XR端末向けの低消費電力化」が仕様化されました。

* 9 BSR:ULのMACサブレイヤで伝送される制御信号MAC CE(Medium Access
Control Control Element) の一種。UEがgNBに対し、送信を希望するULデータのバッファ滞留量を報告するために用いられます。
*10 Configured Grant:基地局からあらかじめユーザ個別にPUSCHリソースを割り当てておき、上りリンクデータが発生したら、SR(Scheduling Request)送信を行わずにUEが当該リソースでPUSCHを送信できる仕組みのこと。

■マルチキャリア活用の拡張

Rel-15以降、5Gのネットワークが拡大し続けていますが、今後は従来3G/4Gで利用されているFR1(Frequency Range 1)バンドを5Gに転用する機会が増えると考えられ、これらの複数バンドを束ねたマルチキャリア運用が求められます。一方でFR2バンドでは、同一バンド内で束ねたマルチキャリア運用が有効な場合もあります。
Rel-18では、上記のようなマルチキャリア運用を効率化するために、1つのセルの物理下りリンク制御チャネル(PDCCH:Physical Downlink Control CHannel)が複数のセルに対してスケジューリングする機能、および最大4バンドの中から送信バンドを動的に切り替えるUL Tx switchingという機能が規定されました。

■RF拡張における送受信系統、変調方式の拡大

Rel-15以降、UE送受信系統数の拡大によりスループット性能が向上しています。Rel-18では、以下に示すUE送受信系統数の拡大が仕様化されました。
(1) FR1
FR1では、Handheld UEと比較して実装制約の少ないFWA(Fixed Wireless Access)*11端末などに対して、最大送信電力29dBmで上り最大4系統(シングルキャリア送信時4系統、2バンド組合せ時3系統)、下り最大8系統(8layer DL MIMOを含む)への拡張が行われました。一方のHandheld UE向けには、1GHz未満の周波数帯における下り最大4系統までの仕様が導入されました。
また、キャリアアグリゲーションやデュアルコネクティビティにおいて同時送受信を行う際の、端末内部における自身の送信信号の回り込みによる受信感度劣化の低減措置がUE capability*12と組み合わせて仕様化されました。
(2) FR2
FR2では従来、上り変調方式としてπ/2 BPSK(Binary Phase Shift Keying)*13、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、64QAMがサポートされていましたが、Rel-18で新たに256QAMが仕様化され、64QAMと比較して、8/6倍の情報量を送信可能となりました。

*11 FWA:無線通信規格の1つで、固定無線アクセスシステムを指します。FWA端末はスマートフォンのような携帯端末とは異なり固定されて使用する想定のため、一般的に、携帯端末と比較して大きなデバイス容積で各種無線信号処理ハードウェアが実装しやすいです。
*12 UE capability:標準仕様で規定された各種機能やそれらの機能に付随する性能要件への対応可否、またある機能を使用する際に複数の設定を取り得る場合にどの設定に対応可能なのか、といった端末の機能対応可否の総称。
*13 π/ 2 BPSK:2値の情報を2つの位相状態に対応させたデジタル変調方式であるBPSKにおいて、各変調ごとに基準となる位相状態をπ/2(90度)ずつシフトさせることで急激な位相変動を避けて、ピーク電力対平均電力比を抑えることを可能とする変調方式。

■ミリ波端末性能規定のさらなる拡張

従来、FR2の同一周波数帯においてUEが満たすべき要件は、1つのアンテナパネルによって1つのビームを形成できることですが、4layer受信をFR2で行うためには異なる2つのビームを用いる必要がありました。
Rel-18では、FR2の下りスループットの向上に向けて、RF機能部をより高度なものである前提として、同時に2つのビームを形成することでFR2の同一周波数帯での4layer DL MIMOを実現可能とする、端末性能規定を策定しました(図2)。
また、FR2では無線品質測定の際にUEのビームスイーピングが必要となることで、FR1に比べて無線品質測定に長い時間を要していましたが、Rel-18においては、それぞれ独立してビームスイーピングを行うことが可能な受信機能部を複数具備することでビームスイーピングの時間を短縮可能としました。

■非隣接基地局アンテナ環境におけるintra-band NR-CA送受信性能規定

LTEのBand 42(3.4~3.6GHz)およびNRのBand n77(3.3~4.2GHz)/n78(3.3~3.8GHz)は、周波数帯域が重複するためintra-bandとして扱われ、基地局アンテナが物理的に隣接して設置される前提となっていました。そのため、これらのバンドのEN-DC(Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network New Radio Dual Connectivity)/NR-CA(NR-Carrier Aggregation)におけるバンド間の受信信号電力差や信号送受信時間差は、伝搬経路の差が考慮されないものとなっていました。しかし、実際にはこれらのバンドの基地局アンテナが物理的に離れた場所に設置される場合があり、これらのバンドのEN-DC/NR-CAの正常な運用が担保できない課題がありました。Rel-16およびRel-17では、EN-DCにおいて各バンド2layer、合計で4layerまでに限定して規定の適用範囲の拡大を実施し、受信信号電力差は6dBまでとなっていたものが25dBまでの差分が許容可能となり、信号送受信時間差は従来に比べて30 μs長い時間差まで許容可能となりました。Rel-18においてはこの規定をNR-CAにも適用できるように拡張を実施しました。

■カバレッジ拡大

(1) 物理ランダムアクセスチャネルの繰返し送信
Rel-17では、UL制御/データチャネル向けに、カバレッジ拡大を目的として繰返し送信の拡張が規定されています。しかし、Rel-17カバレッジ拡張機能の実装が想定されたセルにおいては、物理ランダムアクセスチャネル(PRACH:Physical Random Access CHannel)*14のカバレッジがセル全体のカバレッジのボトルネックになり得ることが指摘されました。これを解決すべく、Rel-18にてPRACHの繰返し送信が仕様化されました。
(2) 物理レイヤでの通知によるCP-OFDM/DFT-S-OFDMの切替え
Rel-15では、PUSCH送信に対してはCP-OFDM(Cyclic Prefix-Orthogonal Frequency Division Multiplexing)*15とDFT-S-OFDM(Discrete Fourier Transform-Spread-OFDM)の2種類の波形が規定されています。CP-OFDMは周波数方向のリソース配置の柔軟性などにおいて優れており、一方DFT-S-OFDMは生成される信号のPAPR(Peak to Average Power Ratio)が低いという点からカバレッジ観点で優れています。Rel-15では、これらの波形は上位レイヤ設定によってのみ切替えが可能であったが、Rel-18では、物理レイヤでの通知による切替えにすることで、より細かい時間粒度での制御が可能となります。

*14 物理ランダムアクセスチャネル(PRACH):UEが初期アクセスやハンドオーバなどにより、セルとコネクション確立を行う場合などに送信される物理チャネル。
*15 CP-OFDM:IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)によって生成した時間領域の信号に対して、CPと呼ばれる末尾の信号のコピーを先頭に挿入する処理を加えた波形生成方法。

ネットワーク省電力化・負荷分散・高密度化のための高度化技術

■AI/MLの活用

Rel-18では以下3つのユースケースを実現するAI/ML機能が仕様化されました。
① モビリティについては、ハンドオーバ元の基地局がハンドオーバ先の基地局に送るhandover request messageに、AI/MLで予測したUEの将来の移動軌跡を含めることが可能になり、ハンドオーバ先の基地局は当該情報を用いて、次のハンドオーバ時に適切なハンドオーバ先の選択が可能となります。
② ロードバランシングについては、AI/MLで予測した隣接gNBの将来のロード状況をgNB間で交換することが可能になり、その情報を用いることで、先読みしたロードバランシング制御が可能となります。
③ ネットワーク消費電力の最適化については、gNBの消費電力の測定メトリックEnergy Costを新たに定義しました。AI/MLで予測した隣接gNBのEnergy CostをgNB間で交換することが可能になり、上記のAI/MLで予測したgNBの将来のロード状況と合わせた情報に基づいて、ロードバランシング制御することでネットワーク全体の消費電力最適化が期待されます。

■ネットワーク消費電力削減

近年の環境問題への意識の高まりによる社会的な要求などにより、ネットワーク側の消費電力削減は通信事業者にとって大きな課題となり、Rel-18で初めてネットワーク側の電力削減技術が仕様化されました。空間・電力・周波数・時間領域での電力削減技術と、それらの技術を実際にネットワークに適用する際に、円滑に運用を行うための、既存UEに対するアクセス規制およびCHO(Conditional HandOver)の拡張で構成されます。

■ネットワーク制御リピータ

5Gエリアのさらなる展開およびカバレッジの拡大に向けた装置として、Rel-17でNRリピータの仕様が規定されました。このNRリピータの動作は単純な増幅中継のみが規定されており、リピータの動作や機能に制約があるため、Rel-18ではネットワークがリピータの動作の一部を制御する、新しいかたちのリピータとなるNCR(Network-Controlled Repeater)の仕様化が行われました。これにより、リピータのビーム制御などが可能となり、より高い周波数帯でリピータを運用するなど、NRネットワークのさらなる拡張・高密度化が期待されます。

あとがき

本稿では、3GPP Rel-18仕様で策定された5G-Advanced無線の高度化技術について概説しました。本稿で紹介した産業創出・ソリューション協創向け高度化技術、モバイルブロードバンド向け高度化技術、および無線ネットワーク高度化技術については、参考文献(1)~(3)でより詳細に解説しているので、参照してください。3GPPでは2023年12月から、5G-Advancedの2番目の仕様としてRel-19仕様の策定を開始しています(4)。NTTドコモは、3GPPにおける5G標準化推進に寄与しており、今後も5G標準化のさらなる発展に貢献していきます。

■参考文献
(1) 吉岡・岡野・閔・岡村・島:“3GPP Release 18における産業創出・ソリューション協創向け高度化技術,”NTTドコモ・テクニカル・ジャーナル,Vol.32,No.2,July 2024.
(2) 松村・芝池・奥村・大川・山下・小熊・北川:“3GPP Release 18におけるモバイルブロードバンド向け高度化技術,”NTTドコモ・テクニカル・ジャーナル,Vol.32,No.2,July 2024.
(3) 栗田・七條・井上・中村:“3GPP Release 18におけるネットワーク省電力化・負荷分散・高密度化のための高度化技術,”NTTドコモ・テクニカル・ジャーナル,Vol.32,No.2,July 2024.
(4) 原田・永田・平間・竹田・寒河江:“5G-Advanced標準化動向,”NTTドコモ・テクニカル・ジャーナル,Vol.32,No.2,July 2024.

(上段左から)熊谷 慎也/武田 大樹/安藤 桂
(下段左から)下平 英和/閔 天楊/井上 翔貴

NTTドコモは、3GPPにおける5G-Advanced標準化推進に寄与しており、今後も5G-Advanced無線の高度化・発展を通してお客さまに新たな価値を提供することに貢献していきます。

問い合わせ先

NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com

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