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特集

3GPP Release 17標準化活動

3GPP Release 17における5GCの高度化技術概要─コアネットワークと端末

3GPPのCTグループは、主にSAグループによって定義されるサービスおよびアーキテクチャの要件に対応するプロトコルの定義を行います。さらに、アーキテクチャの更新や変更の必要がない一部の機能拡張もCTグループが規定します。本稿では、Release 17で行われた機能拡張のうち、PLMN選択、SOR、UDR関連プロファイルの復旧手順、サービスベースのインタフェースなどのプロトコルの拡張の一部など、NTTドコモが注目した拡張に焦点を当てて解説します。

石川 寛(いしかわ ひろし)/彦坂 真央樹(ひこさか まおき)
西田 慎(にしだ しん)/Ban Al-Bakri
NTTドコモ

はじめに

3GPP(3rd Generation Partnership Project)のCT(Core network and Terminals)*1グループは、3GPPのサービスおよびアーキテクチャの要件に対応するプロトコルの定義を主に担っています。加えて、一部の特定の機能などについては、CTグループがアーキテクチャの要件そのものの定義〔SOR(Steering Of Roaming)*2、PLMN(Public Land Mobile Networks)*3の選択、復旧手順、PWS(Public Warning Systems)*4、番号・アドレス・識別の形態に関するStage2要件定義など〕を担っています。Release 17(Rel-17)において、CTグループは、主に第5世代移動通信システム(5G)の機能拡張とそのプロトコルの拡張に携わりました。
本稿では、主に3GPP Rel-17で事業者の関心事になっている機能を中心に、3GPP CT関連の仕様に導入されたソリューションと拡張について解説します。具体的には、eCPSOR(enhancement of Control Plane SOR)*5、ReP_UDR(Restoration of Profiles related to User Data Repository)*6、PLMNの選択〔MINT(Minimization of service INTerruption)*7、5GSAT(5GC ar­­ch­itec­ture for SATellite networks)*8のサポート〕を紹介します。

*1 CT:3GPPにおいて、コアネットワーク内、および移動端末とコアネットワーク間のプロトコルの仕様化を行っているグループ。
*2 SOR:優先事業者選択機能のことで、複数利用可能なVPLMNの中から、HPLMNの方針により端末を特定のVPLMNへ登録することを促す仕組み。
*3 PLMN:移動通信システムを用いたサービスを提供するオペレータのこと。
*4 PWS:災害などを念頭に、緊急情報を最優先としてリアルタイムに配信するシステムの機能。
*5 eCPSOR:3GPPで仕様化されたSOR(優先事業者選択の制御)の1つで、従来のSMSに代わり制御信号(Control Plane)を用いて優先事業者を通知する方式(CP-SOR)の拡張版。
*6 ReP_UDR:3GPPの検討項目名称で、UDRが保持するデータの信頼度が下がった場合(DB破損によるデータ破損など)にネットワークサービスの継続性を担保するための復旧手順を規定。
*7 MINT:3GPP Rel-17で規定された、ネットワークが被災した場合のユーザ影響を最小限に抑えるための機能。
*8 5GSAT:3GPP Rel-17で規定された、NR衛星アクセスをサポートするために必要な機能。

SORの拡張

SORは、HPLMN(Home PLMN)*9がローミング中の契約者に対し、ローミング先地域の複数の事業者(VPLMN:Visited PLMN*10)の中からローミング先として優先したいVPLMNに誘導する機能です(1)。本機能は、GSM(Global System for Mobile communications)*11以来使用されています。
5Gでは、CP-SOR(Control Plane SOR)*12と呼ばれるソリューションが導入されましたが、本ソリューションでは、制御プレーンを介してSOR-info(SOR information)*13を提供します。SOR-infoにはユーザに優先的に接続させたい事業者が含まれており、SOR-infoを受信したユーザ端末(UE:User Equipment)は、その事業者を優先して接続します。
このSOR実施の際、UEはIdle状態となる必要がありますが、従来、Connected状態のUEがSOR-infoを受け取ると、Idle状態になるまで待機してから、優先事業者へ接続する場合がありました。するとHPLMNは、ローミング時の接続料や加入者プロファイルなどに基づいて最適なVPLMN(主に海外の通信事業者)を決定しているにもかかわらず、長時間SORが実行されないことになります。
そこでRel-17ではeCPSORが規定され、HPLMNは、SORを実行するために進行中のPDUセッション*14を中断させUEを即座にIdle状態へ遷移させることができるようになりました。なお、単にセッションを中断させIdle状態へ遷移させると、利用中の通信やサービスが切断されるなどユーザ体験が悪くなる可能性があるため、HPLMNが特定の通信の種類(例えば音声通話)を指定し、UEがその通信を優先させられるようになりました。このCP-SORの機能拡張のために、SOR-CMCI(SOR Connected Mode Control Information)*15と呼ばれる追加の情報をSOR-infoにて送信できるようになりました。

*9 HPLMN:加入者が契約している、ホームオペレータ。
*10 VPLMN:加入者がローミングした先のオペレータ(在圏オペレータ)のこと。
*11 GSM:デジタル携帯電話で使用される第2世代の移動体通信方式。
*12 CP-SOR:3GPPで仕様化されたSOR(優先事業者選択の制御)の1つで、従来のSMSに代わり制御信号(Control Plane)を用いて優先事業者を通知する方式。
*13 SOR-info:CP-SORを実現する際、UDMからUE宛に送信するSORに用いる情報。優先事業者リストや正常な受信の検証を促す情報などが含まれます。
*14 PDUセッション:データのやり取りを行うための仮想的な通信路。
*15 SOR-CMCI:HPLMNがUEに対しSORを実行するためにどのタイミングでConnected状態(通信中状態)からIdle状態(非通信状態)に移行するかを制御するための情報。

MINT

MINT(Minimization of service INTerruption)は、地震や津波などによる災害発生時、ネットワークが通信サービスを提供できない場合に、ユーザへの影響を最小限に抑えるために導入された機能です。なお、MINT機能の実装はオプションとなっています。HPLMNは本機能を利用するかどうかをUEに対して設定可能です。また、この機能の利用には事業者間の協定が前提となります。
MINT機能により、ユーザは許可されているPLMNが利用できない場合に、別のPLMNからの報知情報を当該UEが読み取ることによって、通常はアクセスが禁止されているPLMNに一時的にローミングできます。
UEは災害時ローミング用として以下を満たすPLMNを選択します。
・「災害時に使用するPLMNのリスト」に含まれているPLMN
・「災害関連報知情報」を報知していて災害時ローミングを受け入れているPLMN
「災害時に使用するPLMNのリスト」は、VPLMNまたはHPLMNによってあらかじめUEへ提供されています。
MINTの機能により災害時ローミングを行うと、被災地域の膨大な数のUEがPLMNに同時アクセスする可能性があるため、ネットワークの過負荷を最小限に抑える必要があります。この目的のために、UEには「災害時ローミング待機時間レンジ」と呼ばれるタイマーが事前に設定されています。
被災していたネットワークが復旧し災害時ローミングが必要なくなった時点で、ネットワークはUEからのアクセスを拒否するか、または位置登録解除(Deregistration)を実施します。

NR衛星アクセス

NR(New Radio)衛星アクセスは、衛星に搭載された基地局と地上のUEが通信する方式であり、Rel-17でサポートされるようになりました。NR衛星アクセスを使用すると、全国または複数の国をカバーする広範なエリアを持つ衛星アクセスセルをつくることができます。また、衛星アクセスに対応したUEが衛星アクセスセルのエリア内にある場合、そのUEは、当該セルをPLMN選択の候補とすることができます。

PAP/CHAP

PAP(Password Authentication Protocol)*16/CHAP(Challenge Handshake Authentication Protocol)*17は、データネットワークへ接続する際のユーザ認証に用いられるプロトコルです。EPS(Evolved Packet System)*18ではすでにサポートされていますが、5GS(5G System)(Rel-15で規定)では当初、サポートされるか否かは標準仕様上明確ではありませんでした。
しかし、次の理由から、5GSの標準仕様にもPAP/CHAPが明記されることとなりました。
・EPSでは企業ネットワークへの接続のためにPAP/CHAPが利用されており〔例:サードパーティーが所有するDN-AAA(Data Network Au­then­tication、Authorization and Accounting)*19サーバでのPAP/CHAP認証のサポート〕、EPSから5GSへのマイグレーションの際にも継続利用できるため。
・5GSネットワークの展開時、特にスタンドアローン*20のSMF(Session Management Function)*21の展開時に、サードパーティーが所有するDN-AAAサーバ、またはローカルネットワークでのPAP/CHAP認証のサポートが必要になる可能性があるため。

*16 PAP:ユーザ認証を行うためのプロトコルの一種。インターネットプロバイダなどで広く用いられています。
*17 CHAP:ユーザ認証を行うためのプロトコルの一種。認証情報の暗号化により認証時のセキュリティを高めています。
*18 EPS:LTEおよび他のアクセス技術向けに3GPPで規定された、IPベースのパケットネットワークの総称。
*19 DN-AAA:データネットワークとUEの間の認証のこと。
*20 スタンドアローン:既存のLTE/LTE-AdvancedとNRをLTE-NR DC(Dual Connectivity)を用いて連携して運用するノンスタンドアローンに対し、NR単独で運用する形態。
*21 SMF:5GCにおいてセッションを管理する機能部。EPCにおけるSGW(Serving Gateway)-C/PGW(Packet Data Network Gateway)-Cに相当します。

UDR関連プロファイルの復旧

■UDRの役割と破損時の影響

5GCでは、サブスクリプションデータ(加入者情報)と加入者UEの状態などのコンテキスト情報をUDRに保管します。仮に、UDRに保管されたデータが装置故障などのために破損し、加入者情報の内容または状態の、他のエンティティで保持するものとの一貫性が失われた場合、最新の加入者情報または位置情報を必要とするネットワークサービスが提供できなくなります。また、SMS着信(SM-MT:Short Message-Mobile Ter­mi­nated)や、IMS(Internet pro­to­col Multimedia Subsystem)*22が適切な音声着信ドメインを判別するT-ADS(Terminating Access Domain Selection)*23も失敗する可能性があります。

*22 IMS:3GPPで標準化された、固定・移動通信ネットワークなどの通信サービスを、IP技術やインターネット電話で使われるプロトコルであるSIPで統合し、マルチメディアサービスを実現させる呼制御通信方式。
*23 T-ADS:音声着信時にIMSとCSのどちらを経由する着信にするか選択する機能。端末が在圏しているアクセス網を特定、アクセス網での音声サポートの特定などを踏まえて決定します。

■Rel-17におけるResetに類似した機能の仕様化

3GPPにおける5GC導入前のアーキテクチャでは、HSS(Home Sub­scrib­er Server)*24やHLR(Home Location Register)*25に格納される加入者情報やコンテキストの状態が保証できず、他の装置の状態と不一致になる可能性がある場合、Reset(3)(4)を使用して回復するよう規定されています。
一方5GCでは当初Resetと同様の規定が策定されてきませんでした。しかし、遠隔地でのバックアップでは保管されたデータの一貫性が予期せず失われる可能性があること、また装置故障によりデータ不一致が起きた場合、保守者契機で加入者情報の一致化を計る使用方法があるなど、Resetには運用上の観点で必要性もいくつかみられたので、Rel-17にて類似の機能をReP_UDRという名称で仕様化しました。
この機能により、UDRとUDM、PCF(Policy Control Func­tion)*26、NEF(Network Exposure Func­tion)*27などのUDRの関連NF(Network Function)Consumer(UDR Consumer)との間、さらにはUDMとAMF(Access and Mobility management Function)、SMF、SMSF(Short Message Service Function)、AUSFなどのUDMの関連NF Consumer(UDM Consumer)との間でプロファイルの復旧が可能になり、UDRに保管されたデータが失われたり破損したりした場合でも、可能な限り最新のステータスを維持することができます(図)。

*24 HSS:3GPP移動通信網における加入者情報データベースであり、認証情報および在圏情報の管理を行います。
*25 HLR:3GPP上で規定される加入者情報の管理機能および呼処理機能を有する論理ノード。
*26 PCF:QoSなどのポリシー制御や、課金制御を担う5Gコアネットワークの機能部。
*27 NEF:5GCで規定されたネットワーク機能の1つ。3GPP規定外の外部サーバやアプリケーションなどへのAPIを提供。

■UDR復旧のための運用体制と手順

UDRに保管されたデータは、通常の運用の中で自動的に更新されます。UDRに保管されているもっとも重要な情報は各UEの位置情報であり、加入者情報(サブスクリプションデータ)やポリシーデータの更新に必要な送信先(コールバック情報など)といった重要な情報がその後に続きます。これらの情報の喪失または破損は、サブスクリプション登録者に提供されるサービスの質に重大な影響を及ぼします。したがってRel-17では、UDRの障害によって引き起こされる影響を限定し、情報を自動的に復旧させるための運用体制と手順が規定されています。
この運用は、揮発性のストレージユニットの複製とデータの周期的なバックアップを前提としています。周期的なバックアップデータを利用する場合でもUDRで保持するデータの完全性を確保できない場合に備え、必要な手順が規定されています。

コアネットワーク内をサービスベースのインタフェースを用いたSMS(サービスベースSMS)

SMSのサポートはGSMから規定されており、コアネットワーク内でのメッセージの配信はMAP(Mobile Application Part)プロトコルを使用して実現しています。その後EPSでDiameterプロトコルを使用するようになり、さらにIMSを介したSMSでSIP(Session Initiation Protocol)を使用するように徐々に方式を追加しました。
5GCの場合、規定当初のRel-15でUEとコアネットワークの間でNAS(Non-Access Stratum)を介してSMSメッセージを処理するSMSFが導入されていますが、コアネットワーク内の配信では依然として既存のネットワークプロトコルを使用することになっていました。そこで、Rel-17では、コアネットワーク内でSMSを配信するサービスベースのインタフェースを新たに導入する作業が行われました。
・サービスベースのインタフェースをサポートし、新しいサービスベースのAPI(Application Pro­gram­ming Interface)を規定するための、既存のSMS関連エンティティの拡張
・SM MT、SM MO(SMS Mo­bile Originated)のサービスベースのインタフェースを使用する手順
・GPSI(例えば、電話番号)からサブスクリプションへのマッピングのサポート
・ローミング以外の目的、つまり事業者(PLMN)間のSMSメッセージ転送でのN32の使用

おわりに

本稿では、3GPP CTグループがRel-17で行った機能拡張の一部を解説しました。これらの機能はコアネットワークとUEに影響を及ぼしています。3GPP CTグループはさらに、新しい要件に基づいて5Gシステムの拡張を続けていきます。NTTドコモは引き続き5Gシステムの拡張に関する標準化作業に貢献していきます。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30、No.3、2022年10月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) 青栁・石川・巳之口:“3GPP Release 16における5Gコアネットワークの高度化技術の概要,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.28,No.3,pp.45-56,Oct. 2020.
(2) 3GPP TS23.122 V17.7.1 - Annex C.4:“Non-Access-Stratum (NAS) functions related to Mobile Station (MS) in idle mode,” June 2022.
(3) 3GPP TS29.002 V17.2.0:“Mobile Application Part (MAP) specification,” June 2022.
(4) 3GPP TS29.272 V 17.3.0:“Mobility Management Entity (MME) and Serving GPRS Support Node (SGSN) related interfaces based on Diameter protocol,” June 2022.

(上段左から)石川 寛/彦坂 真央樹
(下段左から)西田 慎/Ban Al-Bakri

プロトコルを中心に担当するCTグループでは、常に新たな要求条件とこれまでの仕様化したプロトコルの改善・拡張について取り組んでいます。ドコモはこれらの活動に積極的に寄与し、より高度化する5GCやNASの仕様化に貢献していきます。

問い合わせ先

NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com