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特集

3GPP Release 17標準化活動

3GPP Release 17における5GCの高度化技術概要─システムアーキテクチャ

3GPP Release 15(Rel-15)で策定された5GCのアーキテクチャでは、ネットワーク機能やインタフェースにサービスベースのアーキテクチャ(SBA)の考え方を用いて、ネットワーク機能のモジュール化、再利用化、自己完結型を実現しました。この基盤機能を充実させ、特に産業分野で必要とされる機能や要素の不足を埋めるため、同アーキテクチャはRel-16およびRel-17でさらに拡張されました。本稿では、Rel-17で拡張された技術分野の概要について、エッジコンピューティング、ネットワークスライシング、ネットワーク自動化、NPN(Non-Public Network)に焦点を当てて解説します。

巳之口 淳(みのくち あつし)/鈴木 悠司(すずき ゆうじ)
Srisakul Thakolsri/Riccardo Guerzoni/Malla Reddy Sama/Tugce Erkilic Civelek
NTTドコモ

はじめに

5Gシステム(5GS:5G Sys­tem)*1は、5Gコアネットワーク(5GC:5G Core network)*2、5G無線アクセスネットワークおよび端末(UE:User Equipment)*3から構成されます。ここで、5GCの基本設計原則はSBA(Service-Based Architecture)*4に基づいており、すべてのネットワーク機能およびインタフェースが自己完結しており、再利用が可能となっています。ネットワーク事業者は、コアネットワークとその機能を、特定のユースケースに合わせてカスタマイズすることができます。
Rel-17では、エッジコンピューティング*5、ネットワークスライシング、ネットワーク自動化、NPN(Non-Public Network)において拡張があり、本稿では、これらの拡張について解説します。

*1 5Gシステム(5GS):コアネットワーク、無線アクセスネットワーク、および通信端末で構成される5Gのネットワークシステム。
*2 5Gコアネットワーク(5GC):5Gのアクセス技術向けに3GPPで規定された第5世代のコアネットワーク。
*3 UE:ユーザ端末。3GPP仕様向け無線インタフェースを介したネットワークサービスへのユーザアクセスが可能。
*4 SBA:5GCで採用されているネットワークアーキテクチャで、ネットワーク機能群ごとにNFを定義し、各NF間は統一的なSBI(Service Based Interface)を介して、相互にサービスを利用。
*5 エッジコンピューティング:システムのよりエッジ(末端)にデータ処理や保管の機能を分散配置することで、通信量や遅延、より上位ノードの演算負荷などを抑える手法。

エッジコンピューティングのサポート

■Rel-15におけるサポート

3GPP 5Gシステムアーキテクチャでは、Rel-15以降、エッジコンピューティングをサポートする機能が導入されています。TS23.548では、3GPP SA WG2で規定されたエッジコンピューティングを実現する5Gネットワークアーキテクチャでサポートされる以下の3点の接続モデル(1)(図1)の概要が示されています。
①分散アンカーポイント
②セッションブレイクアウト
③複数PDUセッション

■Rel-17におけるエッジコンピューティングのサポート

(1) EAS(Edge Application Server)の(再)発見のサポート
5GCでは、EASの発見および再発見を前述の3つの接続モデルでサポートしています。この機能は、EASのFQDN(Fully Qualified Domain Name)*6をネットワーク上でUEに近いEASのIPアドレスに変換できるようにすることを意図したものです(図2)。この機能を基礎として、5GCでは以下の追加の機能をサポートすることが3GPP SA WG2で規定されました。
① 分散アンカーポイントによるEASの発見
5GCはPDUセッション確立時に、UEの場所に基づいて5GCが選択したDNSリゾルバ・サーバの情報をUEに設定します。それに基づき、EASの発見手順が実行されます。
② セッションブレイクアウトによるEASの発見
以下に基づいてEASの発見を行います。
・動的セッション分岐: EASDF(EAS Discovery Function)*7のサポートにより、セッションブレイクアウト(ULCL/BP: UpLink CLassifier/Branching Point)を動的に確立する。
・事前確立セッションブレイクアウト:事前に設定されたDNSリゾルバ・サーバを用いてEASを発見し、静的にセッションブレイクアウトを確立する。
③ 複数PDUセッションによるEASの発見
URSP(UE Route Selection Policy)ルールを用いてEASの発見が行われます。URSPルールは5GC制御プレーンによってUEに設定され、UEのアプリケーショントラフィックを適切なPDUセッションにマッピングします。
(2) エッジの移転のサポート
TS23.548では、エッジの移転、つまりEASの変更および・またはPSA UPFの移転をサポートするさまざまな手順について説明しています。具体例を以下に挙げます。
・パケットロス低減のためのパケットバッファリング
・AF(Application Function)*8の変更を伴うエッジの移転
・EAS IPの置換えを用いたエッジの移転
・ソースおよびターゲットPSAの同時接続に関するAF要求
・ユーザプレーン*9遅延要件を考慮したエッジの移転
・AFによって起動されるエッジの移転

*6 FQDN:DNSのツリー階層内の正確な場所を指定。すべてのドメインレベルを指定。
*7 EASDF:DNSを用いてEASを発見するための機能部。
*8 AF:アプリケーションを提供する、ネットワーク機能。
*9 ユーザプレーン:通信で送受信される信号のうち、ユーザが送受信するデータの部分。

■エッジアプリケーションを実現するためのアプリケーションレイヤアーキテクチャ

3GPP TS23.558では、エッジアプリケーションをサポートするために、3GPP SA WG6(SA6)によって標準化されたアプリケーションレイヤアーキテクチャについて説明しています。
図3は、エッジアプリケーションを実現するためにSA6によって導入されたアーキテクチャの概要を示しています(2)
TS23.558にて、Rel-17の機能として規定されている代表的な手順を紹介します。
(1) サービスプロビジョニング
ECS(Edge Configuration Server)は、EESのアドレス情報などの必要な情報をEEC(Edge Enabler Client)に設定できます。このプロセスは、エンドユーザがエッジコンピューティングサービスを利用できるようにするもので、サービスプロビジョニングと呼ばれます。
(2) 登録
エッジコンピューティングのエンティティ〔例:EAS、EES(Edge Enabler Server)、ECS、EEC〕が相互にやり取りするために、各エンティティに関する情報を他のエンティティに配信するプロセスです。Rel-17では、EESに対するEEC登録(EDGE-1経由)、EESに対するEAS登録(EDGE-3経由)、ECSに対するEES登録(EDGE-6経由)の3種類をサポートしています。
(3) サービスの継続性
UEの移動、EASの過負荷状態、保守によるEASのグレースフルシャットダウン*10などでサービスを継続するための手順を規定しています。

*10 グレースフルシャットダウン:計画的なシャットダウン。

ネットワークスライシングの拡張

■NSAC

Rel-17ではNSAC(Network Slice Admission Control)*11が導入されました。NSACは、ネットワークスライスが収容するUEの数およびPDUセッションの数が、サービスレベル契約(SLA:Service Level Agreement)*12に基づいてGST(Generic Slice Template)*13で指定された割当て量を超過しないようにします、一連の制御である。NSACF(NSAC Function)が、監視し制御します。

*11 NSAC:オペレータが、ネットワークスライスごとに、登録端末数や、PDUセッション数を監視制御できるようにする、5GS Rel-17以降の機能。
*12 サービスレベル契約(SLA):サービス提供者とサービス消費者との間の契約。
*13 GST:ネットワークスライス、あるいは、ネットワークスライスが提供するサービス、の種別を特徴付ける一連の属性。GSMA NG.116が規定。

■ネットワークスライス内のデータレートの制御および制限

Rel-17では新たにUE-Slice-MBR(UE Slice Maximum Bit Rate)が導入され、1UEが特定の1ネットワークスライスに持つすべてのPDUセッションに関し、それらに含まれるGBR(Guaranteed Bit Rate)*14および非GBRの全データフローの合計ビットレートを制御および制限できるようになっています。AMFがUE-Slice-MBRをRAN(Radio Access Network)に提供し、RANがビットレートの制限を実施します。
さらに、Rel-17では、同じネットワークスライス内でのすべてのUEのデータレートの制御および制限を実行することも可能です。この機能をサポートするため、UDR(User Data Repository)*15はネットワークスライスのすべてのUEに関する最大データレートの情報と、ネットワークスライスごとの残りのデータレートの情報を格納します。そして、PCF(Policy Control Function)*16は、これらの情報を参照し、現在のデータレートがネットワークスライスで許可されている最大値を超えないようにします。

*14 GBR:ビット速度が保証されていること。
*15 UDR:5GCにおけるレポジトリ。
*16 PCF:QoS制御、ポリシー制御、課金制御などを担う、5Gコアネットワークのネットワーク機能。

■ネットワークスライスの同時登録に関するアクセス制限

5GCは複数のネットワークスライスの同時利用を制限しなければならない場合があります。この制限をサポートするため、UDM(Unified Data Management)はNSSRG(Network Slice Simultaneous Registration Group)*17情報を加入者情報の一部として自身に格納してそれをAMFに提供し、UEから要求を受け取った場合にAMFが制限を実施できるようにしています。

*17 NSSRG:加入者情報の一部として含まれる、同時に使うことのできるネットワークスライスを制約する情報。

■ネットワークスライス固有周波数帯に基づく転送

異なるネットワークスライスが異なる周波数帯を使用するよう構成される場合があります。しかし、Rel-17より前のUEはどのネットワークスライスがどの周波数帯で運用されているか認識しません。そこでRel-17では、AMFがRANにターゲットNSSAI(Network Slice Selection Assistance Information)*18を送り、それが示すネットワークスライスをサポートするセルに、RANがUEを振り向けることができるようにしました。

*18 NSSAI:ネットワークスライスの選択を支援する情報。

ネットワークデータ解析の拡張

■NWDAFの拡張

Rel-17では、NWDAF(NetWork Data Analytics Function)は以下に分けられました。
・MTLF(Model Training Logical Function):ML(Machine Learning)モデルを訓練し、訓練済みMLモデルを新しく定義されたサービス(Nnwdaf_MLModel)を介してAnLF(Analytics Logical Function)に共有します。
・AnLF:推論を実行し、解析結果を利用するNF、AF、OAM(Operations、Ad­min­is­tration、Maintenance)の要求に基づいた統計および予測情報を解析結果として導き出します。
MTLFおよびAnLFは、スタンドアローン機能として別々に実行することも、組み合わせて1つのNWDAFに含めることもできます。

■新しい機能セットの導入

図4に示すように、Rel-17では、以下のような新しい機能セットがネットワークデータ解析の枠組みに導入されました。
・DCCF(Data Collection Coordination Function)*19:データConsumerはデータ要求を、データソースに直接送信するのではなく、DCCFに送信します。DCCFは別のデータConsumerがすでに同じデータを要求していないかどうか評価し、すでに要求があり同じデータが利用できる場合、DCCFはそれを直接Consumerに提供します。データが利用できない場合、DCCFはデータソースからデータ収集を開始します。
・メッセージングフレームワーク: 標準化されていません。3GPPの仕様書では、5GSがメッセージングフレームワークとやり取りできるようにするサービスとして、MFAF(Messaging Framework Adaptor NF)*20について説明しています。
・ADRF(Analytics Data Repository Function):データConsumerがデータおよび解析結果を、格納および取得できるようにするストレージ機能です。

*19 DCCF:NWDAFに代わって、データを収集する、また、データ収集を調整する、ネットワーク機能。
*20 MFAF:5GSがメッセージングフレームワークとNmfaf機能を用いて連携できるようにする、ネットワーク機能。

ノンパブリックネットワークの拡張

Rel-17では、SNPN(Standalone NPN)の認証方法の2つの点が拡張されました。
① SNPNではなく外部の企業体がUEを認証するメカニズムが仕様化されました。
② 最初はデフォルトの認証情報を使うことで、SNPNによってUEが適切な認証情報を取得できるようにするメカニズムが仕様化されました。

おわりに

本稿では、Rel-17で規定された5GCへの拡張について解説し、エッジコンピューティング、ネットワークスライシング、ネットワーク自動化、NPNについて紹介しました。NTTドコモは、今後も3GPPにおける5G-Advanced標準化に寄与し、移動通信のさらなる発展に貢献していきます。

* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30、No.3、2022年10月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) 3GPP TS23.548 V17.3.0:“5G System Enhancements for Edge Computing;Stage 2,” June 2022.
(2) 3GPP TS23.558 V17.4.0:“Architecture for enabling Edge Applications,” June 2022.

(上段左から)巳之口 淳/鈴木 悠司/Srisakul Thakolsri
(下段左から)Riccardo Guerzoni/Malla Reddy Sama/Tugce Erkilic Civelek

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