特集
3GPP Release 17における5G無線の高度化技術概要
- 5G
- NR
- RAN
3GPPにおいて、5G向けに新たな無線アクセス技術であるNRの標準仕様がRelease 15(Rel-15)として策定された後、その拡張技術としてRel-16仕様が2020年6月に策定されました。さらなるRel-15/Rel-16仕様の拡張として、3GPP Rel-17の仕様検討が2019年12月より開始され、2022年6月に仕様策定が完了しました。本稿では、Rel-17仕様における5G無線の高度化技術について概説します。
原田 浩樹(はらだ ひろき)/熊谷 慎也(くまがい しんや)
小原 知也(おはら ともや)/谷口 眞人(たにぐち まさと)
下平 英和(しもだいら ひでかず)
NTTドコモ
はじめに
5G向けの新たな無線アクセス技術であるNR(New Radio)*1について、3GPPにおけるRelease 15(Rel-15)およびRel-16の仕様策定では、モバイルブロードバンドの高度化(eMBB:enhanced Mobile BroadBand)*2向けの無線技術やそのさらなる高度化、高信頼・低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communication)*3向けの高度化や、産業分野でのIoT(Internet of Things)を促進するIIoT(Industrial IoT)*4といった新規事業を創出するための拡張技術が規定されました。
Rel-17は、これまでのリリースで規定されたMIMO(Multiple Input Multiple Output)*5機能やURLLC向け機能などのさらなる拡張が行われたことに加え、さらなる伝送速度の高速化のための52.6〜71GHzまでの周波数帯のサポート、さらなるエリア拡大に向けた衛星を活用した非地上ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)*6のサポート、5Gユースケース拡張のための簡易NR端末カテゴリ(RedCap:Reduced Capability*7)の追加などにより、5Gが新たな価値を提供することへ貢献しています。Rel-17で仕様化した主な機能を図に示します。本稿では、これらのRel-17で仕様化された主な拡張技術と、その検討で考慮された背景を概説します。
*1 NR:5G向けに策定された無線方式規格。4Gと比較して高い周波数帯(例えば、6GHz帯以下や28GHz帯)などを活用した通信の高速化や、高度化されたIoTの実現を目的とした低遅延・高信頼な通信が可能。
*2 モバイルブロードバンドの高度化(eMBB):高速大容量を必要とする通信の総称。
*3 高信頼・低遅延通信(URLLC):低遅延かつ、高信頼性を必要とする通信の総称。
*4 IIoT:工場などにおける機器のネットワーク接続など、産業分野向けのIoT。
*5 MIMO:複数の送受信アンテナを用いて信号の伝送を行い、通信品質および周波数利用効率の向上を実現する信号伝送技術。
*6 非地上ネットワーク(NTN):衛星やHAPSなどの非陸上系媒体を利用して、通信エリアが地上に限定されず、空・海・宇宙などのあらゆる場所に通信エリアが拡張されたネットワーク。
*7 RedCap:Rel-17 NRにおいて導入された簡易端末カテゴリの名称で、通常のNR端末よりサポートする送受信アンテナ数や帯域幅を減らすことでデバイスの複雑さを低減。
Rel-17仕様における5G無線の高度化技術
■モバイルブロードバンド向け高度化技術
(1) DC(Dual Connectivity)およびCA(Carrier Aggregation)向け機能拡張
① DCにおける端末消費電力削減
Rel-16の仕様においては、PSCell(Primary SCell)にNRの高い周波数を用いる場合などにおいて消費電力の低減ができない課題がありました。
Rel-17では、PSCellも含めDCの副ノードのセル全体(SCG:Secondary Cell Group)を非アクティブ化するSCG deactivation機能が追加され、DCにおいても高い消費電力削減効果を得られるようになりました。
② DC・CAの処理遅延の低減
Rel-16では、DC時のPSCellどうしの切替遅延の削減や切替え時の通信の信頼性向上のため、あらかじめ切替え先のPSCell候補と切替えを実施するための電波品質の条件をUE(User Equipment)に通知しておくCPC(Conditional PSCell Change)と呼ばれる技術が盛り込まれました。Rel-16では、変更元・変更先のPSCellが同一の基地局に属している場合のみCPCに対応していましたが、Rel-17では異なる基地局のセル間でCPCを行うことが可能になりました。また、DCの開始をCPCと同様にあらかじめ決められた候補セル・条件で行うCPA(Conditional PSCell Addition)の機能がRel-17で盛り込まれ、DC開始の遅延低減が可能になりました。
(2) 分散MIMOによるスループットと信頼性向上
Rel-16 NRにおいて、同一セルの基地局の複数アンテナパネルあるいは送受信点を用いて、下りユーザデータを分散MIMO*8送信し、高次ランクの利用や、信頼性の向上を可能にする機能が規定されました。
Rel-17 NRにおいて、基地局の2つの異なるセルの送受信点を用いて、下りユーザデータを分散MIMO送信することが可能になりました。これにより、分散MIMOの適用可能なシナリオを拡大でき、実行スループットや信頼性の向上を実現できます。
(3) 端末消費電力削減
Rel-16では主にconnected-mode時の端末の消費電力削減が可能な機能が規定されました。Rel-17ではさらに、NR SA(Stand Alone)運用におけるidle/inactive-mode時の端末の消費電力削減、FR2(Frequency Range 2)運用におけるconnected-mode時の端末の消費電力削減、Rel-16 UE assistant情報*9の有効活用といった観点で、Rel-16における課題を解決するための技術拡張を行いました。
(4) カバレッジ拡張
ネットワークサービスを提供するうえで、カバレッジ特性はネットワーク品質や、CAPEX(CAPital EXpenditure)、OPEX(OPerating EXpense)などに影響を及ぼすため、重要な要素の1つとして挙げられます。NRはLTEと比べて高い周波数帯が使用されており、高い周波数ほど伝搬損失が増大するためカバレッジ特性の検証が重要となります。そこで、Rel-17ではカバレッジ特性の検証が実施されました。その結果、PUSCH(Physical Uplink Shared CHannel)*10、PUCCH(Physical Uplink Control CHannel)*11、およびMsg3 PUSCH*12が、カバレッジ特性の改善が必要なチャネルとして特定され、これらのチャネルのカバレッジ改善技術が導入されました。
(5) DL(DowmLink)用 1024QAM(Quadrature Amplitude Modulation)*13
データ変調はDL/ULともに256QAM*14がRel-16 NRまでに使用可能でした。これに対してRel-17 NRでは、さらなる高速化・周波数利用効率向上を目的として、かつLTEですでに仕様化済みの機能でありNRにおいてもサポートされるべきとして、DL向けに1024QAMが導入されました。1024QAMはSINR(Signal to Interference plus Noise power Ratio)が十分に大きく、端末移動が全くない、またはほぼない環境でのみ適用可能となるため、主にFWA(Fixed Wireless Access)などの静的なリンクを想定した機能です。1024QAM対応のために、CQI(Channel Quality Indicator)tableおよびMCS tableの追加や、新規MCS tableに対応するPT-RS(Phase-Tracking Reference Signal)の周波数・時間リソース内の密度決定方法の仕様化が行われました。
(6) 52.6〜71GHz帯への周波数拡張
Rel-16以前の3GPP仕様では、0.41〜7.125GHz帯(FR1*15)および24.25〜52.6GHz帯(FR2)が使用周波数として規定されています。Rel-17では、WRC(World Radiocommunication Conference)*16-19において66〜71GHz帯がIMT(International Mobile Telecommunications)向け周波数として合意されたこと、および57〜66GHz帯のアンライセンス帯域を用いるIEEE 802.11ad/ayの標準化が完了したことを受けて、新たに52.6〜71GHz帯を使用周波数として規定し、当該周波数帯域にてNRを動作させるために必要な機能をサポートしました。これにより、通信容量のさらなる拡大が可能となりました。
新たにサポートされた機能として、高いSCS(SubCarrier Spacing)や広いチャネル帯域幅の新規サポート、アンライセンス帯を使用する際に必要なチャネルアクセス手法のサポート、端末の制御チャネル・データチャネル送受信時の信号処理にかかる負荷の増大を回避する手法のサポートなどが挙げられます。
(7) マルチSIM(Subscriber Identity Module)端末向けの最適化
すべてのSIMで同時に通信を行うことができないマルチSIM端末においては、あるSIMで通信をしながら、時折別のSIMで別のネットワークの着信を待ち受けるなど、限られた送受信回路で複数のネットワークとの通信を行う必要があります。これまでは端末の実装によりこの課題を解決していましたが、端末の振舞いをネットワークの動作と協調させることでパフォーマンスを改善することを目的に、Rel-17ではマルチSIM端末向けの機能が標準化されました。
Rel-17で規定された機能として、それぞれのSIMと通信を行うネットワーク間のpagingの衝突回避、別ネットワークへの通信切替え(通信中であるネットワークとの通信の終了や、間欠的な通信休止)を補助する機能、UEがあるSIMで通信中に別のSIMへの音声着信に応答できるようpagingが音声着信か否かを通知する機能が挙げられます。
(8) NRにおけるQoE(Quality of Experience)測定
Rel-15 LTEにおいて、ビデオストリーミングなどのサービスのアプリケーションレイヤにおける品質(QoE)をUEが測定し、ネットワークに報告する機能が規定されています。Rel-17では、NRにもストリーミング・音声通話・VR(Virtual Reality)のアプリケーションレイヤにおけるQoEを測定する機能が盛り込まれました。Rel-17特有の機能として、ネットワークスライシング*17におけるスライスごとのQoE測定機能や、QoE測定結果をRAN(Radio Access Network)が参照可能なかたちで報告することで、RANの最適化を補助する機能なども追加されました。
(9) SON(Self-Organizing Network)*18/MDT(Minimization of Drive Test)*19機能拡張
Rel-16でNRにおいても基本的なSON/MDTの機能が盛り込まれましたが、Rel-17では、LTEに盛込み済みでNRでは未提供の機能への追従や、NR特有の機能を考慮したSON/MDTの機能拡張が行われました。
(10) HPUE(High Power UE)規定
一般的なHandheld UEの送信電力は、PC3(Power Class 3)として最大23dBmで規定されていますが、それよりも3 dB大きな電力で送信可能なPC2の規定もHPUE規定としてこれまでに導入されてきました。PC2は、Rel-16まではEN-DC(Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network New Radio Dual Connectivity)*20のみが対象となっていましたが、Rel-17において対象シナリオがNR-CA*21およびSUL(Supplementary UpLink)*22にも拡張され、対象についてもTDD(Time Division Duplex)のみではなくFDD(Frequency Division Duplex)バンドも含める拡張が行われました。また、PC2よりもさらに3 dB大きな電力で送信可能なPC1.5の規定もn77*23、n78およびn79を対象として導入されました。既存の電波防護指針を前提とした規定であるため、適切なDuty cycle*24を設けるなどの制限はあるものの、対象となるUEは、高い電力での送信が比較的容易なFWAのみではなくHandheld UEも含まれています。これら機能により、広いユースケースにおいてULカバレッジ拡大効果が期待されます。
(11) RF(Radio Frequency)性能規定高度化
FR1について、UEのRFのアーキテクチャの高度化に合わせて、限られたRF chainをより品質の良いCarrier/MIMOレイヤ数で利用するためのTx antenna switching*25の、Rel-16からのさらなる高度化が行われました。また、intra-band UL CA時のHPUE規定、およびUL MIMO適用ケースへの拡張がFR1を対象に行われました。具体的には、Rel-16のTx antenna switchingでは片方のCarrierで1Tx(片方のポートのみ使用可能)、もう片方のCarrierで2Tx(両方のポートが使用可能)のケースだったものを、Rel-17では両Carrierに対して2Tx利用できるケースへの拡張、また、送信電力増大のためのHPUEおよび送信MIMOレイヤ数向上のためのUL CA/UL MIMO併用時のRF規定*26の拡張を行うことで、RF性能としてULスループットの向上が期待されます。
FR2についてはRel-16で議論しきれなかった、近接する異なる周波数バンドを束ねるCAの性能等のRF性能向上に関する検討項目に対して、さらなる高速化に向けた性能規定が示されました。
(12) 無線リソースマネジメント(RRM:Radio Resource Management)高度化
RRMのさらなる高度化として、最適なUL送信アンテナ選択のためのSRS(Sounding Reference Signal)antenna port switchingのRRM規定、NR SAからEN-DCにHOする際に、最適なEN-DCセルの組合せをHO直後から利用できるようにするためのHO with PSCellのRRM規定、およびPUCCH SCell利用時におけるセル有効化時間などのRRM規定を策定することで、端末が最低限満たすべき性能が担保され、これらの機能の商用導入によるユーザエクスペリエンス体感向上が期待されます。
また、MG(Measurement Gap)のさらなる柔軟な設定や無通信区間の削減を図るために、BWP(BandWidth Part)ごとに異なるMGを設定可能とするPre-configured MG pattern、用途の異なる複数のギャップを同時に効率良く用いるためのMultiple concurrent and independent MG patterns、必要最低限のギャップ区間だけを用いて無通信区間を極小化するNetwork Controlled Small Gapの3機能が新たに規定されました。これらの発展的な機能を用いることで無通信区間が削減されスループット向上が期待されます。
(13) 高速移動環境下での性能規定高度化
Rel-16では最大移動速度500km/h、最大周波数3.6GHzの環境までを想定したHST(High Speed Train)シナリオについて最低限満たすべき性能規定が議論されましたが、Rel-17ではさらなる通信速度高速化のためにCAの規定が新たに策定されました。また、Rel-16 HSTはFR1に対象が絞られていましたが、Rel-17ではFR2にも対象が拡張されました。FR2に対する規定は、基本的にはRel-16 FR1と同様ですが、最大移動速度が350km/hとなっています。また、適用可能な最大周波数は30GHzとなっています。この規定により高速移動環境において、FR2がシングルキャリアに限り利用可能となり、高速通信を享受可能なエリアの拡大が期待されます。
(14) 端末・基地局の信号復調規定高度化
Rel-15、Rel-16において策定しきれなかったUE demodulation規定がRel-17で策定され、これにより下り・上りともにさらなるスループットの向上が期待されます。
(15) NRレピータ*27
LTE以前に運用されていたRFレピータについて、Rel-17においてNRの性能規定も議論され策定されました。
*8 分散MIMO:複数の基地局から異なるMIMOストリームを1つのUEに送信してMIMO伝送を行う技術。
*9 UE assistant情報:基地局の適切なスケジューリングなどに活用するために伝達される端末の状態や端末からの要求に関する情報。
*10 PUSCH:上りリンクでデータを送受信するために用いる共有チャネル。
*11 PUCCH:上りリンクで制御信号を送受信するために用いる物理チャネル。
*12 Msg3 PUSCH:ランダムアクセス手順において、UEのPRACH送信に対してスケジューリングされる上りデータチャネル。
*13 1024QAM:変調方式の種類。1024QAMは振幅と位相が異なる1,024通りの信号点に情報ビットを変調します。1回の変調で10ビットの情報を伝送することができます。
*14 256QAM:変調方式の種類。256QAMは振幅と位相が異なる256通りの信号点に情報ビットを変調します。1回の変調で8ビットの情報を伝送することができます。
*15 FR1:3GPPにおいて規定されている周波数バンドについての分類。FR1:450~6,000MHz。
*16 WRC:各周波数帯の利用方法、衛星軌道の利用方法、無線局の運用に関する各種規定、技術基準などをはじめとする国際的な電波秩序を規律する無線通信規則の改正を行うための会議で、各国主管庁およびITUに登録している事業者などの関係団体が出席し、通常3~4年ごとに開催されます。
*17 ネットワークスライシング:5G時代の次世代ネットワークの実現形態の1つ。ユースケースやビジネスモデルなどのサービス単位で論理的に分割したネットワーク。
*18 SON:eNB設置時の自動設定やパラメータの自動最適化などを含む、無線ネットワーク自己最適化機能の通称。
*19 MDT:3GPPにて標準化されている、通信中の無線切断やHOの失敗など、端末からネットワークに対して事象の発生した位置情報やその原因などを通知し、QoEを収集する技術。
*20 EN-DC:NRノンスタンドアローン運用のためのアーキテクチャ。LTE無線でRRC connectionを行い、追加の無線リソースとして加えてNRを用います。
*21 NR-CA:複数のNRキャリアを用いて同時に送受信することにより後方互換性を保ちながら帯域拡大により高速伝送を実現する技術。
*22 SUL:通常用いられるアップリンクダウンリンクのペアとは別に上りカバレッジ確保のために補完的に用いられる別周波数帯のアップリンクのこと。通常用いられるアップリンクとの同時利用はできません。
*23 n77:NR向けに定義されたTDDの周波数帯域(3,300~4,200 MHz)。
*24 Duty cycle:ある一定期間内に占めるアップリンク送信期間のこと。
*25 Tx antenna switching:UEが信号送信に用いるアンテナを動的にスイッチングする技術であり、より品質の良い信号送信が可能なアンテナを選択することで品質の改善やスループットの向上が期待できます。
*26 RF規定:不要発射や受信感度など、無線部分に関する特性規定。
*27 レピータ:基地局からの下り受信信号を電力増幅して移動局への送信を行う物理層の中継機器。
■産業創出・ソリューション協創向け高度化技術
(1) IIoTおよびURLLC向け機能拡張
Rel-16では、工場の機器制御などのために基地局とUEとの間で時刻を同期する機能が盛り込まれましたが、基地局・端末間の電波の伝搬遅延が大きい場合に誤差が生じる問題がありました。Rel-17では、伝搬遅延誤差を補償する機能が盛り込まれ、より広いエリアにおいても時刻同期が適用可能となりました。
また、Rel-16では、NRをアンライセンスバンド*28でeMBB向けに運用可能になりましたが、Rel-17ではアンライセンスバンドで、かつ他システムからの干渉の頻度が低い環境でURLLC通信を実施するための機能拡張がなされました。
(2) IoTサービス向け簡易NR端末
LTE-IoTにより提供されるローエンドIoTと、NRにより提供されるURLLCやIIoTといったハイエンドIoTとの間のミドルレンジIoTサービスをターゲットとしたRedCapの仕様が、Rel-17において策定されました。
(3) NRにおける位置測位
RAT(Radio Access Technology)信号でUE位置を推定する機能はLTEからサポートされていますが、NRではRel-16で初めてサポートされました。Rel-16 NRでは、E-CID(Enhanced Cell-ID)、DL-TDOA(Time Difference of Arrival)、UL-TDOA、Multi-RTT(Multiple-Round Trip Time)、UL-AoA(Angle of Arrival)、DL-AoD(Angle of Departure)の測位方式がサポートされたことにより、NRにおいてもRATベース測位が可能となりました。
Rel-17 NRでは一般ユースケースに加え、工場など産業利用を想定した機能拡張が議論され、サブメートルレベルの測位精度や物理レイヤでの測位処理遅延10ms未満をターゲットとした拡張機能が仕様化されました。
(4) NTN
Rel-16までのLTE/NR仕様は地上ネットワークを対象としていましたが、Rel-17ではさらなる5Gのエリア拡大などを目的として、衛星や飛行体を介して通信を行うNTN向けの無線技術の仕様化が行われました。
(5) ネットワークスライシング向け機能拡張
① スライスを考慮した待受けセル選択
Rel-17ではUEが利用したいスライスを提供するセルを優先した待受けを行うことで、ネットワークからの移動指示を待たずに所望のスライスを利用することが可能となりました。
② スライスを考慮したRACH(Random Access CHannel)の優先制御
Rel-17ではスライスに応じたRACHの分離や、優先制御の機能が仕様化されました。本機能追加により、通信開始時にもスライスによるリソース制御を適用することが可能となりました。
(6) 小容量データ送信の効率化
小容量・低頻度通信における端末消費電力低減・信号オーバヘッド削減のために、RRC_INACTIVE*29状態においても簡易な手順によりデータ送信を行う機能が追加されました。
(7) リレー端末経由の通信(Sidelink relay)
端末(リモート端末)が別端末(リレー端末)を介してネットワークと通信を行うUE-to-network relayが仕様化されました。本技術により、通信を行うセルと別のセル配下やネットワークの圏外にリモート端末が位置する場合においても通信が可能になり、サービスの提供エリアを拡張する効果が見込まれます。
*28 アンライセンスバンド:行政による免許割当てが不要で、特定の通信事業者に限定されずに使用可能な周波数帯。
*29 RRC_INACTIVE:端末のRRC状態の1つであり、端末は基地局内のセルレベルの識別をもたず、基地局およびコアネットワークにおいて端末のコンテキストが保持されています。
おわりに
本稿では、3GPP Rel-17仕様で策定された5G無線の高度化技術を概説しました。3GPPでは、2021年12月から、5G Advancedの最初の仕様としてRel-18仕様の作成を開始しています(1)。NTTドコモは、3GPPにおける5G標準化推進に寄与しており、今後も5G標準化のさらなる発展に貢献していきます。
* 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.30、No.3、2022年10月)に掲載された内容を編集したものです。
■参考文献
(1) 原田・永田・巳之口・竹田・ウメシュ:“5Gおよび5G-Advanced標準化動向,” NTT技術ジャーナル,Vol.34,No.11,pp.26-30,2022.
(上段左から)原田 浩樹/熊谷 慎也/小原 知也
(下段左から)谷口 眞人/下平 英和
問い合わせ先
NTTドコモ
R&D戦略部
E-mail dtj@nttdocomo.com
ドコモは、今後も3GPPにおける5G標準化のさらなる発展に貢献し、地球のあらゆるところで、いつでも、誰もがつながることのできる世界を実現します。