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特集2

新しい社会のインフラをつくり、次の時代につなぐ、ソーシャルインフラ・イノベーション

Smart Infra構想の社会実装を支えるプラットフォームと各種アプリケーション

NTTインフラネットは日本全国にあるインフラ設備の維持管理に関するDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現すべく「Smart Infra構想」を掲げています。本稿では背景にある課題、Smart Infra構想の概要、また構想実現に向けインフラDXを推進するうえで重要な役割を果たすSmart Infraプラットフォーム、各種アプリケーションについて紹介します。

増田 修士(ますだ しゅうじ)/高見 優(たかみ ゆう)
NTTインフラネット

社会インフラ分野が抱える課題の解決をめざすSmart Infra構想

NTTの通信インフラ設備の建設は、1960年代から1980年代前半がピークであり、建設から50年以上経過しているものは2020年3月時点で約30%でしたが、2030年には約70%、2040年には約90%になる見込みです。一方、通信インフラ設備を保守する人員は、今後急激な減少が見込まれ、人員不足という深刻な課題を抱えています。これまでの社会インフラ設備の構築・保守は、各インフラ事業者が自社の設備を構築・保守し、サービスを提供するビジネスモデルが一般的でした。しかしながら、このモデルは、環境汚染、運用維持コストの抑制、社会資本や資源の効率化等の観点で課題を持ちます。NTTインフラネットでは「Smart Infra構想」を掲げ、保守人員不足の課題対処も含めて、社会インフラ全般の維持・運用業務をICTの活用により高度化し効率化すること、またシェアリングエコノミー(共用化)の実現により限られたリソースでインフラ設備の維持を可能にすることを基本としています。インフラ産業におけるシェアリングエコノミーには次の3つが考えられます。

■マンパワーシェアリング

人手そのものをシェアするという考え方です。例えば、工事立会稼働の共用化です。工事により道路を掘削する際に関連するインフラ事業者各々が現場へ出向き、自社設備を損傷させないように確認していたものを、ウェアラブルカメラなどを活用して代表者のみが現場に出向く仕組み、もしくは工事実施者がすべての関係者に映像を共有して立会を行うことです。

■テクノロジシェアリング

新技術を業界横断的に展開することです。GNSS(Global Navigation Satellite System)・RTK(Real Time Kinematic)*1などの測量技術やICT建設機械の高度化などが代表例であり、業務の効率化につながると考えています。

*1 RTK:地上に設けた独自の基準局の補正位置情報を加味し、位置情報の精度を上げる技術。

■データシェアリング

各インフラ事業者が保持しているデータを事業者間で相互利用することにより効率化を図るという考え方です。インフラ設備情報を共用化し、デジタルツインとして活用することこそが、Smart Infra構想の基本的概念です。そのデータシェアリングの共通基盤が「Smart Infraプラットフォーム」(SI-PF)です。

Smart Infraプラットフォーム:高精度地図を基にした設備位置整合やデータベース連携が可能な情報流通基盤

SI-PFとは、各インフラ事業者間において、各事業者が保有する地下埋設設備の情報を高精度な3D 位置情報(高精度3D空間情報)と紐付けして管理し、「データ」の相互利用を可能とする新たなプラットフォームです(図1)。SI-PFは、2019年より開発に着手し、2020年12月に自社内にサービス提供を開始しました。現状では、データに関する統一的な規格がなく、また正確な設置位置に対して誤差がある状況で運用されており、相互利用に向けた障壁となっています。NTTインフラネットが整備する高精度3D空間情報は、高精度な位置精度を保有しており、道路境界および道路上のマンホール、地上・地下出入口の位置など他の情報が自身の正確な位置を出す際の基準として利用することで、正確な設置位置を導き出すことが可能です。各種データに正確な位置情報を付与して共有することが、インフラ業界のデータドリブン*2運営のために欠かせないと考えています。SI-PFの基本機能である高精度3D空間情報を共用化し、さまざまな業務アプリケーションや各分野のデータと連携させることにより、自社・他者業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現させることをめざしています。NTTインフラネットは、このプラットフォームと連携するアプリケーションをすでに複数提供しています。図2にそれらアプリケーションと社会インフラ設備の設計・構築・維持管理業務の関係を示しています。これ以降、各アプリケーションについて紹介します。

*2 データドリブン:企業運営のために必要な意思決定をデータを基に判断し実行すること。

■立会受付Webシステム

(1) 埋設物の照会・受付を一元化し大幅に効率化
道路工事を行う際は埋設物の有無を確認するため、従来は掘削事業者が複数のインフラ事業者に営業時間内の電話またはFAX、メールなどで個別に連絡し、現地立会の要請および地下埋設物照会が実施されており、掘削事業者およびインフラ事業者の双方で稼働がかかっていました。こうした業務負担を軽減する目的で開発されたのが「立会受付Webシステム」です。Web受付により24時間、埋設物の照会申請が可能であり、インフラ事業者ごとにではなく一括での申請が可能です。申請された工事情報はリアルタイムにインフラ事業者へ通知されます。さらに紙の図面ではなくデジタルデータで工事情報や工事の位置情報を共有できるため大幅な業務効率の向上を実現できます。このシステムは2020年度からまずNTTグループ内で利用され、現在はグループ外を含む35のインフラ事業者の照会の受付に利用されています。各種施工事業者による照会の申請件数は毎月10万件にものぼります(図3)。
あってはいけないことですが、事前に照会を行わず安全性を確認しないまま施工してしまう「未照会工事」も存在します。照会業務が面倒であることが原因の1つと考えられます。NTT 東日本と東京ガスが立会受付Webシステムにより共同受付を開始したエリアでは、未照会工事が約2割減少しました。東京商工リサーチによる調査ではライフライン埋設物照会システム市場において、立会受付Webシステムは2022年度の売上および埋設物照会件数のシェアがNo.1でした。ガス、電力、上水、通信、その他の埋設設備を保有するインフラ事業者が共同で照会を受け付ける事例も増え、九州では4社共同による受付も開始されました。このような共同受付の輪が全国に拡大しています。さらなる効率化や利便性向上に役立つ追加のオプション機能も用意しています。
① 埋設物有無の自動判定:施工事業者から申請された工事範囲に埋設物があるかどうかを自動で判定します。埋設物がない場合には施工事業者に自動で返信も行われます。
② 立会業務管理:工事範囲における埋設物が確認されて以降、協議予定の確認、協議結果の記録、担当者の手配、立会現場からの直接報告投入、工事の結果確認など工事立会に関する業務を一元的に管理するシステムです。
(2) 機能拡充により立会受付Webシステムのさらなる提供拡大をめざす
2024年には立会受付Webシステムの追加オプションに新たな切り口での受付機能が2つ加わりました。
① 地上工事(近接施工協議):鉄道の線路近くで工事を行う際、足場が転倒し架線を切断するなどの事故が起きると鉄道の運行に影響が出てしまいます。そのため地下埋設物と同様に事前協議が欠かせません。業務内容が似通っていることから立会受付WebシステムによるDXが可能と判断し、鉄道会社による近接施工協議の受付業務への利用を想定したオプション機能を開発・追加しました。2024年6月にはJR西日本による提供を開始しており、今後JR系列企業や大手私鉄会社への展開を図っていく方針です。
② 不動産照会:宅地建物取引業法には買主・借主に対しどのようなガス、電気、上水、下水を利用できるか、といったことを宅地建物取引士が重要事項説明書に記載し説明することが義務として定められています。そのためインフラ事業者に問合せを行うという業務が頻繁に発生するのですが、この業務も従来はアナログなやり方で進められていました。そこで立会受付Webシステムの仕組みを活かし、不動産業界におけるインフラ設備の照会業務を効率化する機能を開発・追加しました。埋設物の照会とセットでインフラ事業者に提案しやすいことを活かし、ビジネス拡大につなげる方針です。

■道路工事調整システム

路面を頻繁に掘り返し埋め戻すのは資源有効活用の側面からも好ましくありません。そこで道路管理者と関係するインフラ事業者が年に数回ほど集まり、共同施工により掘り返す回数を減らすような調整を行います。自治体により詳細は異なるものの、この道路工事調整会議は道路管理者の義務として実施する工程となっています。道路工事調整会議の流れはまず道路管理者が関係するインフラ事業者すべてに工事計画の提出を依頼し、得られた回答を集約することから始まります。紙でのやり取りが発生するケースも珍しくないなど稼働の多い作業であり、道路管理者の負担は大きいです。年に1度しか行われないケースもある道路工事調整会議のタイミングでしか調整できないため、期中での柔軟な調整が難しいことも課題の1つです。
道路工事調整会議は従来アナログ的なやり方で進められていることが多いため、DX化により効率化を図ることを目的とし「道路工事調整システム」を開発・提供しています。システム側で地図データを持ち、その地図上に各インフラ事業者が工事情報を入力していくため、道路管理者が従来手作業で行っていた工事情報の集約作業の稼働を大幅に削減できます。また共同施工が可能な個所をシステム側でマッチングさせるため、その情報を基に調整が進めやすくなります。従来の道路工事調整会議の進め方では道路工事計画に変更があるとその情報を反映して調整し直すことは難しかったのですが、道路工事調整システムであれば計画変更の情報も即時に反映されるため随時工事調整を行えるというメリットもあります。
工事調整を行いやすいため共同施工も実現しやすく、インフラ事業者にとっても工事負担を減らせるというメリットがあります。本システムは2024年度、静岡市で利用中ですが、2022 年度より商用利用に向けたトライアルを実施いただいた結果、関係者を対象とするアンケート調査ではシステム導入効果があるという多くの回答を受けての導入決定でした。

■BIM/CIM流通システム

BIM(Building Information Modeling)/CIM(Coherent Ising Machine)流通システムはインフラ設備の計画、調査、設計から維持管理の工程まで3次元モデルをベースとした情報共有を行うためのシステムです。PFI(Private Finance Initiative)事業スキームによる無電柱化の取り組みにおいて重要な役割を果たしています。道路管理者と電線管理者、施工会社、維持管理会社、占用者、建設コンサルタントなどすべての関係者が1つのシステムを利用してデータ共有や関連情報の一元的な管理を行えることが大きな特長となっており、共有するデータが2次元データのみのプロジェクトであっても本システムによる情報流通のメリットを享受できます。

■スマートメンテナンスツール

NTT設備の点検業務効率化を目的にNTTインフラネットが開発し自ら使用している「スマートメンテナンスツール」を他のインフラ設備に応用する取り組みを進めています。設備の情報や点検結果を地図データと関連付けて管理できるツールであり、現場でタブレット端末により点検対象となる設備の台帳データを参照できます。点検の際は写真を撮影し地図上で場所を指定してアップロードすることで、点検結果が位置情報と関連付けてデータベースに登録されます。劣化などの問題がある場合は写真にタグ付けすることでその内容も一緒に登録できます。下水道の現地点検をターゲットとし提案活動を進め、ある自治体での導入が決まっています。今後は登録された写真からAI(人工知能)が自動診断し問題を発見する、またAIが発見した問題は有スキル者が詳しく診断するといった活用も考えています。有スキル者が点検現場に赴く必要がなく、人的リソースの有効活用にもつながります。多くの分野で設備点検業務の負担に悩みを抱えていることを理解していますので、幅広い分野でご利用いただくことを視野に入れ提供拡大に取り組んでいます(図4)。

インフラメンテナンスの広域化・多目的化・複合化によりビジネスを拡大

今後は人口が集中する自治体と減少する自治体の2極化がさらに進むと予想されます。社会インフラを維持し続けるには人的にも予算的にも限られたリソースを最大限に有効活用することが重要との考えから、既存の行政区域に拘らず広域で複数の施設をシェアリングし、設備の維持管理業務も集約する取り組みが進んでいます。例えば埼玉県秩父地域において複数の市や町が推進する水道事業広域化の取り組みでは、施設の統廃合により119億円のコスト削減効果があると試算されています。NTTインフラネットはこのようなインフラメンテナンスの広域化に加え、複合化を進めていくべきと考えています。道路や公園、公共施設などの維持管理では、定期巡回、落下物処理、除草・剪定、補修・修繕といった、似たような業務が少なくないのです。現状ではそれぞれ別のインフラ事業者や人員が対応していますが、包括的な委託契約や業務代行により維持管理の対象を複合化し業務を集約することで、リソースを有効活用しようというねらいがあります。また単に業務を集約するのではなく、当社が得意とするICTによる効率化と組み合わせることで、より大きな効果が期待できます。すでに三重県明和町がこのようなインフラメンテナンスの包括的民間委託に取り組んでおり、NTTインフラネットが業務を受託しています。業務の複合化や代行の取り組みで重要であるのは業務をいかに助けるかです。ツールの提供を目的とするのではなくBPO(Business Process Outsourcing)として地域全体の手助けをするようなかたちでビジネスにしていきたいと考えています。

さらなるDXの追求による社会問題の解決・新たな価値の創造

Smart Infraプラットフォームを活用してさらなるDX化を進めていきます。SI-PFの骨格である高精度3D空間情報は、NTTグループが進めるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想における「デジタルツインコンピューティング(DTC)」を支える基盤である「4Dデジタル基盤」を構成するデータベースへの利用が期待されています。
4Dデジタル基盤では、既存の地図データのさらなる高精度化を図った「高度地理空間情報データベース」を保有し、そのうえでさまざまなセンシングデータなどを瞬時に収集し、AI技術による分析・未来予測することで、さまざまな社会問題の解決や、新たな価値創造ができる産業横断基盤の実現をめざしています(図5)。
NTTインフラネットは、NTTグループ全体の基盤設備に関するエコシステムの構築とデータドリブンな業務運営体制への変革をめざし、自社のDX化を推進しています。このような自社のDX化の成果は、Smart Infraプラットフォームの活用事例でも紹介したように、社会や他のインフラ事業者のDX化を図っていくことにもつながっていくと考えています。インフラ設備の点検や設備管理、修理業務のBPOなど、他の事業者様が抱える各種課題解決に向け、NTTグループの技術・ノウハウ・資産を活用したスマートインフラ事業をベースとし、他者のDX支援にも取り組んでいきます。

(左から)増田 修士/高見 優

Smart Infraプラットフォームなどの社会を支える仕組みやシステムを活用した、設備マネジメントおよび社会インフラDX化を推進し、地域社会の課題解決と価値創造に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTインフラネット
スマートインフラ推進本部 企画部
TEL 03-5829-5250
FAX 03-5823-6058
E-mail si_kikaku@nttinf.co.jp

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