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グローバルスタンダード最前線

Broadband Forum(BBF)におけるアクセスシステムの自動化インテリジェント管理技術の標準化動向

将来アクセスシステムにおける運用コスト削減に向けて、通信オペレータが担うネットワークの管理・制御を自動化する研究開発が進展しています。本稿では、現在活発な審議が進められているBroadband Forum(BBF)におけるアクセスシステムの自動化インテリジェント管理技術の標準化動向について、これまで標準化された内容と今後の展望を紹介します。

王 寛(おう ひろし)
NTTアクセスサービスシステム研究所

将来アクセスシステムの要件

ネットワークの規模の拡大に比例して、OPEX(Operating Expense:運用コスト)は増加し、通信オペレータにとって、このOPEXを削減することが重要になってきています。特に、ブロードバンドサービスにおいては、ネットワークトラブルの問題はお客さまからの申告から対応を始めることがほとんどであり、その対応稼働を減じるネットワークの保守・運用効率化が課題となっています。さらに、ネットワークの管理・制御は個人の経験とスキルに大きく依存するという課題も存在します。今後、IoT(Internet of Things)といった多数のネットワークデバイスを保守することも想定されており、通信オペレータの稼働を抜本的に減らしていく工夫が必要です。
ホームネットワークとアクセスネットワークの保守・管理にかかる稼働は、E2E(End to End)サービス全体の保守・管理にかかる稼働の多くを占めています。したがって、将来のアクセスシステムにおいては、ネットワークの保守・運用効率を高め、OPEXを削減するために、ホームネットワークとアクセスネットワークの管理・制御を自動化することが期待されています。

BBFの概要

Broadband Forum(BBF)は、ブロードバンドサービスの普及促進、システム管理・制御プロトコル仕様および相互接続仕様策定を推進するグローバルな業界団体です(1)。BBFは世界各国のサービスプロバイダおよびシステム・チップベンダなどの150以上の企業・団体から構成されており、これまでに200以上のTechnical Report(TR)を策定してきました。図1に、BBFの組織構成を示します。図1に示すSPAC(Service Provider Action Council:サービスプロバイダ実行審議会)では、サービスプロバイダがBBFとしての検討課題・方針を議論・策定します。それらに基づき仕様策定に向けて技術委員会を構成する各ワークエリアにて技術検討を行います。近年は、SDN(Software Defined Network)/NFV(Network Function Virtualization)などの仮想化・部品化技術を導入したアクセスシステムやそれらを管理制御するための各種仕様策定に注力しており、アクセス系国際標準化団体および業界団体の中ではもっとも活発な活動を行っています。具体的には、各種アクセスシステム向けのNETCONF(Network Configuration Protocol)*1/YANG(Yet Another Next Generation)モデル*2の仕様化、Cloud CO(Central Office)*3の仮想化アーキテクチャやインタフェースなどの仕様化、仮想化ONU(Optical Network Unit)管理制御用インタフェースvOMCI(virtual ONU Management Control Interface)の仕様化、管理・制御を自動化するAIM(Automated Intelligent Management:自動化インテリジェント管理技術)の仕様化など多岐にわたります。本稿では、2023年にTR化が完了したAIMの仕様化について紹介します。

*1 NETCONF:集中制御型コントローラからの遠隔制御に対応したネットワーク機器の管理プロトコル。YANGデータモデルと組み合わせて用いることで、さまざまなベンダ製ネットワーク機器とコントローラ間の相互接続性を確保。
*2 YANG:ネットワーク機器の各種設定や構造を抽象化する共通的なデータモデリング言語、またその言語を用いて記述されたデータモデル。
*3 Cloud CO:仮想化・クラウド技術を導入した次世代局舎(通信事業者が保有する通信設備収容局)。

自動化インテリジェント管理技術の仕様化

BBFにおけるAIMは、TR-436“Access & Home Network O&M Automation/Intelligence”(2)およびTR-486“Interfaces for AIM”(3)として仕様化されました。TR-436はAIMを実現するアーキテクチャ要件を、TR-486はアーキテクチャを構成する機能ブロック間のインタフェース要件を仕様化した文書です。本技術をホーム・アクセスネットワークの管理制御に適用することにより、例えば通信障害時の原因特定から復旧対処まで従来オペレータが実施していた工程の全自動化や、異なる無線LAN間の与干渉を削減することによる通信品質の最適化の全自動化が期待できます。さらに、本技術が標準仕様となることで、全自動化の機能全体を効率良く実現し、世の中に広く利用されることが期待されます。
(1) AIMアーキテクチャ
図2に、TR-436の情報を基に作成した、AIMの参照アーキテクチャを示します。AIMでは、管理制御対象のノードの状態・情報を収集し、その変化に基づきあらかじめ決められたポリシーに従って適した設定を分析し、管理制御対象を自動制御します。AIMを実現するための主要構成機能は以下のとおりです。
① 収集・分析部:状態・情報の収集およびポリシーに基づく分析を行う
② E2E AIMオーケストレータ、ドメインAIMオーケストレータ:オペレータにより指定される分析用ポリシーを収集・分析部に設定する
収集・分析部による分析結果(新たな設定)はSDNコントローラを介して管理制御対象に投入されます。管理制御対象から情報収集してから制御を行うまでの一連の処理は、AIMではパイプラインと呼ばれます。E2E AIMオーケストレータやドメインAIMオーケストレータは、パイプラインを作成・管理する役割を担います。なお、「ドメイン」とは1つのAIMパイプラインが管理制御する領域を表しますが、AIMアーキテクチャを広範に適用できるように、仕様文書では抽象的に定義しています。一例としてアクセスネットワークやエッジネットワーク、トランスポートネットワークなどをそれぞれドメインと定義することが可能ですが、これに限定されません。また、ドメイン内の自動管理制御のみでなく、複数のドメインをまたいだ自動管理制御を実現するためのドメイン間連携方式(Domain Federation)についても規定されています。
次に、収集・分析部の詳細について解説します。収集・分析部は、収集機能(CF:Collection Function)、事前処理機能(PPF:Pre-Processing Function)、分析機能(MF:Model Function)と呼ばれる副機能の組合せにより構成されます。収集機能は、管理制御対象から状態・情報の収集を行う機能です。事前処理機能は、分析を実施する前にフィルタリングや統計処理といった収集データの一次処理を行う機能です。分析機能は、一次処理された収集データに対して分析を行う機能です。分析を行う方法としては、あらかじめ定められたロジックに基づき判断するルールベースと、深層学習に代表されるような機械学習ベースとが挙げられます。事前処理機能や分析機能の実施内容は実現したい自動管理制御に依存するものであるため、本仕様文書では具体的な規定は行わず、自由度の高い実装が可能となっています。図3に、収集・分析部の実装例を示します。同図に示すように、各副機能は柔軟に組み合わせることや、複数の収集・分析部を連結することも可能であり、こちらも柔軟な実装が許容されています。なお、これら副機能は、図2に示されるNFVI(Network Function Virtualization Infrastructure:仮想化リソース)上に実装されます。
(2) AIMインタフェース
表に、TR-486の情報を基に作成した、AIMのインタフェースを示します。各インタフェースが用いられる区間は、図2をご参照ください。AIMのインタフェースは、AIMパイプラインを生成・管理・監視するための管理用インタフェースと、AIMパイプラインの一部として用いられるパイプライン用インタフェースに大別されます。
以下のインタフェースは、管理用インタフェースに該当します。
・Cm-Ma-e2e-aimo
・Oe2e-aimo-Ma-d-aimo
・Od-aimo-De
一方で、以下のインタフェースは、パイプライン用インタフェースに該当します。
・De-Nf-sdn
・De-Me
・De-Mb
表に記載されたとおり、管理制御用インタフェースはプログラマブルAPIとして一般的になっているREST(RESTful API)*4やそれを基にしたRESTCONF*5がプロトコルとして採用されています。一方で、パイプライン用インタフェースはNETCONFや、効率的な装置間通信を実現するために作成されたgRPC(google Remote Procedure Call)がプロトコルとして採用されています。TR-486では、プロトコルやデータモデリング言語の仕様化はされましたが、具体的なYANGデータモデルまでは仕様化に至っていません。今後の改版にて拡充されることが期待されます。

*4 RESTful API:Webシステムを実現するためのアーキテクチャ原則の1つであるREST(REpresentational State Transfer)に従い設計されるAPI。
*5 RESTCONF:RESTをベースにネットワーク機器の設定を取得・更新するためのプロトコル。YANGで定義されたデータにアクセスするために設計されたものであり、NETCONFと共存することも可能。

今後の展望

本稿では、将来アクセスシステムの最新トピックスとして、BBFにおける自動化インテリジェント管理技術の標準化内容について紹介しました。現在、BBFでは本技術の高度化に向けた仕様改版議論が進められています。具体的には、ドメイン間連携機能に関する完成度の向上や自動管理制御の高速化に向けた機能拡張に加え、セキュリティ観点や省電力観点での機能拡充などが議論されています。NTTは、BBFでの本取り組みに参画し、通信事業者としての要件の提示などを通じて国際標準化活動に貢献していきます。

■参考文献
(1)浅香・氏川:“Broadband Forum(BBF)におけるアクセス系仮想化技術の標準化動向,” NTT技術ジャーナル, Vol.30, No.5, pp.51-54, 2018.
(2)https://www.broadband-forum.org/pdfs/tr-436-1-0-0.pdf
(3)https://www.broadband-forum.org/pdfs/tr-486-1-0-0.pdf
(4)https://www.tmforum.org/oda/open-apis/directory
(5)https://www.broadband-forum.org/pdfs/tr-411-1-0-0.pdf