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グローバルスタンダード最前線

Broadband Forum(BBF)におけるアクセスシステム部品化技術の標準化動向

将来アクセスシステムにおける多様なサービスへの柔軟かつ迅速な対応に加え、システムのシンプルな運用をめざし、アクセスシステムに部品化技術を適用する研究開発が進展しています。ここでは、現在活発な審議が進められているBroadband Forum (BBF)におけるアクセスシステム部品化技術の標準化動向について、関連の深いオープンソースソフトウェア(OSS)開発団体ONF(Open Networking Foundation)の動向も含め報告します。

浅香 航太(あさか こうた)
NTTアクセスサービスシステム研究所

将来アクセスシステムの要件

近年、映像配信サービスの普及に加え、新型コロナウイルス感染拡大防止を目的としたリモートワークや遠隔教育などの利用拡大に伴い、FTTH(Fiber To The Home)などの固定系ブロードバンドサービスのトラフィックが急増しています(1)。これまでの光アクセスシステムは、このようなトラフィックの増加に対応すべく、伝送容量40 Gbit/s級または50 Gbit/s級のシステムとして標準化が行われてきました(2)、(3)。一方、今後のアクセスシステムにおいては、これまでの大容量化に加え、IoT(Internet of Things)やエッジコンピューティングなどシステム要件(伝送容量、遅延、信頼性など)の異なる多様なサービスを提供することが期待されています。このような背景の下、従来は専用ハードウェア装置と、ベンダ独自インタフェースを介して密結合したソフトウェアとにより実現していたアクセスシステムの機能を、サーバ・スイッチなどの汎用ハードウェア部品と、オープン仕様のインタフェースを介して疎結合したオープンソースソフトウェア(OSS)との組み合わせにより再構成する部品化(ディスアグリゲーション)技術の研究開発が進展しています(4)。アクセスシステムの部品化技術を確立するにあたり、アーキテクチャやインタフェースのオープンな仕様化に加え、それらの仕様に対応し、かつシステム要件に応じて柔軟かつ迅速に入れ替えが可能なOSSの開発が、相互接続性の確保および普及促進の観点から必要となります。

Broadband Forum(BBF)の概要

Broadband Forum(BBF)は、ブロードバンドサービスの普及促進、システム管理・制御プロトコル仕様および相互接続仕様策定を推進するグローバルな業界団体です(5)。BBFは世界各国のサービスプロバイダおよびシステム・チップベンダなどの150以上の企業・団体から構成されており、これまでに200以上のTechnical Report(TR)を策定してきました。BBFでは、サービスプロバイダがBBFとしての検討課題・方針策定を主導し、それらに基づき仕様策定に向けて技術委員会を構成する各ワークエリアにて技術検討を行います。近年は、SDN(Software Defined Network)・NFV(Network Function Virtualization)などの仮想化・部品化技術を導入したアクセスシステムの各種仕様策定に注力しており、アクセス系標準化および業界団体の中ではもっとも活発な活動を行っています。具体的には、各種アクセスシステム向けのNETCONF(Network Configuration Protocol)/YANG(Yet Another Next Generation)モデル*1の仕様化、Cloud CO(Central Office)*2のアーキテクチャやインタフェースなどの仕様化、光アクセスシステム向け部品化帯域制御割当機能の仕様化(6)、(7)、部品化BNG(Broadband Network Gateway)の仕様化など多岐にわたります。ここでは、2020年にTR化が完了した部品化BNG仕様と、Cloud COを構成するソフトウェア部品の1つで、OLT(Optical Line Terminal)などのハードウェア仕様のベンダ依存性を抽象化するBAA(Broadband Access Abstraction)仕様について、関連するOSS団体ONFの動向と併せて紹介します。

*1 NETCONF/YANG:NETCONFは、集中制御型コントローラからの遠隔制御に対応したネットワーク機器の管理プロトコル。ネットワーク機器の各種設定や構造を抽象化する共通的なデータモデル言語として定義されるYANGモデルと組み合わせ用いることで、さまざまなベンダ製ネットワーク機器とコントローラ間の相互接続性を確保。
*2 Cloud CO:仮想化・部品化・クラウド技術を導入した次世代局舎(通信事業者が保有する通信設備収容局)。

部品化BNGの仕様化

BBFにおけるBNGの部品化は、TR-459 “Control and User Plane Separation for a Disaggregated BNG”として仕様化されました(8)。TR-459の情報を基に作成した、従来のBNGおよび部品化BNGの機能ブロックおよびインタフェースを図1、2に示します。BNGは、ブロードバンドサービスを利用するために加入者の宅内装置と接続するアクセスポイントです。BNGはアクセスネットワークからさまざまなトラフィックを集線するとともに、サービス種別などに応じて上位ネットワークへの方路を決定し転送します。このようなエッジルータとしての機能に加え、BNGは加入者セッションの認証、認可、課金(AAA)やIP(Internet Protocol)アドレス割当、優先度制御(QoS)などの制御管理も行い、ブロードバンドサービスを支える重要な役割を果たします。従来のBNGは、図1に示すように、アクセスノード(AN)とIP/MPLS(Multi-Protocol Label Switching)網との間にゲートウェイとして介在し、ANとBNG間はV-IF(インタフェース)として、IP/MPLSとBNG間はA10-IFとして定義されます。BNGの内部構成は、提供するサービスに依存して通信事業者ごとに異なりますが、図1に示した典型的な例として、加入者セッション管理、IPアドレス割当・管理、AAAクライアント、QoS制御、経路・転送制御、IPTVマルチキャストなどの機能から構成されます。これらの各機能は、BNG内の制御管理IFを介して接続されるポリシー定義点(PDP)およびAAAコントローラなどにより管理制御され、PDPとBNG間はR-IFとして、またAAAとBNG間はB-IFとして定義されています。このように、従来のBNGでは、BNGを構成する機能および外部IFが定義されましたが、BNGを構成するハードウェアおよびソフトウェアは、一体化した装置としてベンダごとに異なる実装仕様に基づき提供されてきました。そのため、BNG装置が設置された拠点単位での管理制御が必要なため、アクセスシステムの運用が煩雑になります。また、需要に応じたBNGの増設を装置単位で行う必要があるため、リソース利用効率が低くなることなどが、顕在的な課題となっていました。
そこでBBFでは上記課題解決に向けて、TR-459において部品化BNG(Disaggregated BNG:DBNG)として、図2に示すような機能分離した構成および各種IFを新たに定義しました。DBNGでは、BNGを構成する諸機能を、加入者セッション確立などに必要な制御信号処理を行うC-Plane機能群〔DBNG-Control Plane(CP)〕と、ユーザデータ信号の送受信処理を行うU-Plane機能群〔DBNG-User Plane(UP)〕とに分離し、それらが新たに定義したIF(DBNG CP-UP)を介して接続する構成で実現します。このようなC/U分離構成を採用することで、複数の拠点に設置されたDBNG-UPを、別拠点のDBNG-CPにより一括での遠隔管理制御が可能となるため、アクセスシステムの運用のシンプル化が期待されます。また、トラフィック増加に応じて、任意の拠点のDBNG-UPのみ増設することが可能になることや、別拠点のDBNG-UPに対してトラフィックを割り当てるトラフィックステアリング機能〔SF(オプション)〕により、リソース利用効率の高い運用も期待されています。さらに、DBNG CP-UPのIF仕様化により、異なるベンダによるDBNG-CPとDBNG-UPとの相互接続性の担保が図られています。
TR-459で定義されたDBNG CP-UPを構成する3つのIF、①Management IF(Mi)、②State control IF(SCi)、③Control packet redirection(CPR)IFの概念図を図3に示します。また、各IFの詳細を表に示します。①Miは、DBNG-CPからDBNG-UPに対して設定(ルーチングプロトコル設定など)を行うほか、相互に状態取得やアラーム通知を行うためのIFであり、プロトコルはNETCONF/YANGで規定されています。②SCiは、DBNG-CPからDBNG-UPに対してユーザデータ信号の転送規則を提供するほか、DBNG-UPからDBNG-CPへ転送規則の受領を応答するためのIFであり、プロトコルは3GPP(Third Generation Partnership Project)で定義され、これまで多くのモバイルシステムでの導入実績のあるPFCP(Packet Forwarding Control Protocol)(9)を拡張して規定しました。③CPR IFは、V-IF(またはA10-IF)からDBNG-UPを経てDBNG-CPまでの区間をトンネリングする制御信号(DHCP、PPPなど)に用いられるIFであり、C/U分離によりDBNG-UPからDBNG-CPまでの区間がマルチホップ接続される場合にトンネル機能を提供します。
BBFでは、今後TR-459の普及促進に向けたプロモーション活動や、セッションステアリング機能の詳細仕様化に向けた取り組みが行われる予定です。

BAAの仕様化

BAAは、TR-384“Cloud Central Office Reference Architectural Framework”およびTR-413“SDN Management and Control Interfaces for Cloud CO Network Functions”において、仕様化されました(10)、(11)。 TR-413の情報を基に作成したBAAの概念図を図4に示します。従来のFTTH向け光アクセスシステム(PON:Passive Optical Network)においては、OLTなどのアクセス装置と上位コントローラが密結合して実装されていたため、異種ベンダ間での相互接続ができず、運用が煩雑なことが課題となっていました。そこで、Cloud COにおけるBAAではベンダごとに異なるハードウェア仕様を有するアクセス装置を、論理スイッチとして抽象化することで、SDNコントローラからは共通コマンドにより管理制御することが可能となりました。BAAは、図4に示すように、プロトコルエージェントとして機能するNB(Northbound)層、PON抽象化機能を有するBAAコア層、およびプロトコルライブラリとして機能するSB(Southbound)層により構成され、NB層とBAAコア層間はNB抽象化IFにより、またBAAコア層とSB層はSB抽象化IFを介して接続されます。また、BAAは、SDNコントローラとはM-IFを、またOLT装置などのU-Planeとはデバイス独自IFを介して接続されます。このような構成により、SDNコントローラからの制御管理信号(コマンド)を、PON抽象化機能により論理スイッチを管理制御するコマンドに変換するとともに、プロトコルライブラリのドライバによるデバイス独自コマンドへの変換を経て、OLT装置へ送信することが可能となります。そのため、SDNコントローラからは、U-Planeのフロー設定やFCAPS(障害・設定・課金・性能・セキュリティ各機能管理)の制御を、OLT装置などのハードウェア仕様のベンダ依存性を気にすることなく実行することが可能となり、また、異種ベンダ間の相互接続性も担保されるため、アクセスシステムの運用のシンプル化が期待できます。
BBFでは、BAA仕様化に加えて、BAAのOSS開発や展示会でのデモンストレーションにも取り組むことで今後の普及促進に注力しています(12)。関連動向として、OSS開発団体であるONF(Open Networking Foundation)によるアクセス仮想化プロジェクトSEBA(SDN Enabled Broadband Access)では、BAAより先行してアクセス機能抽象化技術VOLTHA(Virtual OLT Hardware Abstraction)を提唱しOSS開発を行ってきました(13)。VOLTHAは、BAAとほぼ同様の機能を有しますが、OpenFlowプロトコル、ホワイトボックスOLTおよびIEEE仕様のPONシステムへの対応が可能な点が主な差分となります(14)、(15)。また、VOLTHAについては、2019年にトルコテレコムが、2020年にはドイツテレコムが商用導入を行っており、現在も機能拡張に向けたOSS開発が行われています。

今後の展望

将来アクセスシステムの最新トピックスとして、BBFにおけるアクセスシステム部品化技術の標準化動向について、ONFにおけるOSS開発動向と併せて紹介しました。今後は、BBFおよびONFにおける今後の審議やすでに商用導入した通信事業者からのフィードバックを反映して、関連する標準仕様およびOSSのさらなる完成度の向上や機能拡張などが期待されます。NTTでは、BBFやONFでのアクセスシステム部品化技術の審議に参画し、通信事業者としての要件の提示などを通じて国際標準化活動およびOSS開発に貢献していきます。

■参考文献
(1) https://www.soumu.go.jp/main_content/000699741.pdf
(2) https://www.itu.int/rec/T-REC-G.989.1/en
(3) https://standards.ieee.org/standard/802_3ca-2020.html
(4) J. Kani,J.Terada,T.Hatano,S.Y.Kim,K.Asaka,and T.Yamada:“Future Optical Access Network Enabled by Modularization and Softwarization of Access and Transmission Functions,”OSA Journal of Optical Communications and Networking, Vol. 12, No.9, pp.D48-D56, 2020.
(5) 浅香・氏川:“Broadband Forum(BBF)におけるアクセス系仮想化技術の標準化動向,”NTT技術ジャーナル, Vol.30, No.5, pp.51-54, 2018.
(6) https://www.broadband-forum.org/download/TR-402.pdf
(7) https://www.broadband-forum.org/download/TR-403.pdf
(8) https://www.broadband-forum.org/download/TR-459.pdf
(9) https://portal.3gpp.org/desktopmodules/Specifications/SpecificationDetails.aspx?specificationId=3111
(10) https://www.broadband-forum.org/download/TR-384.pdf
(11) https://www.broadband-forum.org/download/TR-413.pdf
(12) https://github.com/BroadbandForum/obbaa
(13) https://opennetworking.org/voltha/
(14) https://www.broadband-forum.org/2019-10-14-broadband-forum-and-onf-ease-the-path-to-automated-and-open-virtualized-access-networks
(15) https://github.com/opencord/voltha-eponolt-adapter