グローバルスタンダード最前線
ISO/IEC JTC 1の最新動向
ISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission) JTC(Joint Technical Committee) 1は、ISOとIECが共同で設立した、情報技術分野の国際標準化を担う組織です。ここでは、ここ2~3年におけるJTC1直下の会議体の動向を中心に紹介します。
山本 英朗(やまもと ひであき)
NTT社会情報研究所
ISO/IEC JTC 1
ISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission)JTC(Joint Technical Committee)(1)は、ISO(2)とIEC(3)が共同で設立した、情報技術分野の国際標準化を担う組織です。従来、情報技術分野の国際標準化については、ISOにおいてはISO/TC(Technical Committee)97(1960年設立)が、また、IECにおいてはIEC/TC 53(1961年設立)が進めてきました(4)。このため、両組織間での技術分野の重複が問題となってきました。この問題を解消させるため、JTC 1が1987年に創設されました。JTC 1の事務局は、ANSI(American National Standards Institute)が務めています。2025年7月現在、JTC 1は、Pメンバ(積極的参加)が46カ国、Oメンバ(オブザーバ)が59カ国です。
JTC 1総会はJTC 1の最高意思決定会議体であり、主要議題は次のとおりです。
① JTC 1配下のSC(Sub Committee)・WG(Working Group)・AG(Advisory Group)等の創設・改廃
② SC国際議長の選任
③ 運用ルールの改定
④ SC等の活動状況の報告
JTC 1の組織構成
JTC 1の組織構成を図に示します。規格開発はJTC 1直下の4つのWGと1つのJWG(Joint Working Group)と24のSCが担います。将来の規格開発を視野に入れた課題の検討、および業務指針の見直しなどマネジメントに関する審議は、JTC 1直下のAG・AHG(Ad Hoc Group)・SCG(Strategic Coordination Group)が担います。
JTC 1は、JTC 1以外の組織ともリエゾンを構築しています。具体的には、IEC/TC 65(プロセス計測制御・オートメーション)、IEC/TC 100(AV・マルチメディア、システムおよび機器)、ISO/TC 215(保健医療情報)、ISO/TC 307(ブロックチェーンと電子分散台帳)、IEC/ISO JTC 3(量子技術)、ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)、Ecma International等です。
JTC 1直下に設置されていたWG 14(量子情報技術)の活動・成果物は、2024年に新設されたJTC 3に移管されました。また、JTC 1において、スマートシティに関するSCをJTC 1傘下に新設することが2023年5月のJTC 1パエストゥム総会にて決議されましたが、その後、ISO上層部およびIEC上層部の協議により、本年、ISO/IEC JTC 4(スマートで持続可能な都市とコミュニティ)が新設されました。今後、ISO/TC 268/SC 1(スマート都市インフラ)、IEC/SyC Smart Cities、JTC 1/WG 11など現在ISO・IEC・JTC 1傘下でスマートシティに関する審議を行っている会議体の活動・成果物は、順次JTC 4に移管されていく見込みです。
このような状況において、日本は主に次のようなかたちでJTC 1の運営に大きく貢献しています。
① 24すべてのSC およびJTC 1直下の4つのWGと1つのJWGにおいてPメンバとして参画
② SC 2(文字コード)、SC 23(デジタル記憶媒体)、SC 28(オフィス機器)の議長およびSC 2、SC 23、SC 28、SC 29(メディア符号化)、SC 34(文書の記述と処理の言語)のコミッティマネージャ
③ 延べ約80名のプロジェクトエディタ(2025年3月末時点)
④ JTC 1総会のホスト(計4回)
2019年からJTC 1総会は春・秋の年2回開催されています。本稿執筆時点で直近4回のJTC 1総会は、2023年11月にベルリン(ドイツ)で、2024年5月にダーウィン(オーストラリア)で、2024年11月にソウル(韓国)で、2025年5月にシンガポールで開催されました。これらのJTC 1総会において、日本は、計二十数件の寄書を通じた意見提起、起草委員会への参画等を通じて、JTC 1の運営に大きな役割を果たしました。
以下では、これら4つの総会でのJTC 1直下の組織の動向に焦点を当てて紹介します。
主な会議体の最新動向
■消費者プライバシーにかかるSCの活動開始
図に示すように、現在、JTC 1にはSC 44(プライバシーバイデザインによる消費者保護)が設置されています。このSC 44の設立は、消費者プライバシーに関する国際標準(ISO31700、Privacy by design for consumer goods and services)の維持管理を行うため、この国際標準を扱っている会議体ISO PC(Project Committee) 317をTC(Technical Committee)に転換するよう、ISO/COPOLCO(消費者政策委員会)から提案されたのが契機です。この提案に対し、ISOの上層部は、ISO傘下に新たなTCを設置するのではなくJTC 1に移管することを決め、JTC 1に対し、この国際標準を扱うSCをJTC 1傘下に新設するよう勧告しました。この勧告を受け、2024年5月のJTC 1ダーウィン総会では、組織構成のあり方が議論されました。日本は、現行のSC 27/WG 5(アイデンティティ管理とプライバシー技術)がプライバシーを扱っている点、および、プライバシー全般に関する標準化活動のリソースが複数のSCに分かれる懸念から、SCを新設するのではなく現在のSC 27に消費者プライバシーの審議をアサインすべきとの意見を表明しました。しかし、総会中の表決では、SC新設を表明した国が大勢を占め、SCを新設する方向となりました。2024年11月のJTC 1ソウル総会にて、JTC 1傘下のアドホックグループ(AHG 9)にて検討された新SCの名称・スコープを含めてSC 44の新設が決議されました。その後、ISO・IECの上層部(ISO技術管理評議会、IEC標準管理評議会)による批准を経てSC 44が活動を開始し、2025年4月に第1回のSC 44総会が開催されました。SC 44の議長はJan Schallaböck氏(ドイツ)が務め、幹事国は英国です。
■OSDへのフィードバック
OSD(Online Standards Development)とは、オンライン上で規格開発を行うためのプラットフォームです。2025年1月より、OSDがISOおよびIECの規格開発のデフォルトのツールとなりました。OSDでは、ISO/IECの業務指針がツールに反映されているので、規格の中身の課題に集中できたり、メンバ間での共同作業ができるので、コンセンサス形成に役立ったりするなどのメリットがあります。その一方で、OSDに関する問題点が顕在化してきました。2025年5月のJTC 1シンガポール総会にて、OSDに関する問題点や運用の改善策に関して、JTC 1からISO/IECの中央事務局への提言を取りまとめる目的で、アドホック会議体(AHG 10)を設立することが決議されました。AHG 10の活動項目は表に示すとおりであり、主査はSal Francomacaro氏(米国)が務めています。
■国際SC傘下WGの健全な世代交代に向けて
現行のISO/IECの業務指針では、国際SC傘下WG主査の任期は1期3年と定められていますが、再任回数には上限がありません。国際SC傘下WGの健全な世代交代を促すため、2023年11月のJTC 1ベルリン総会にて、国際SC傘下WG主査の継承活動のあり方を検討するアドホック会議体(AHG 8)を設立し、継承活動のガイダンスを取りまとめる活動が決議されました。2025年5月のJTC 1シンガポール総会では、AHG 8から提出された成果物(Guidance document-ISO/IEC JTC 1 Succession Planning)が確認され、AHG 8は解散しました。各SCおよびJTC 1直下のWGへの指示として、今後このガイダンスを考慮した継承計画を実行し、毎年秋のJTC 1総会にて実行状況を、推奨された目次に沿って報告することが求められるようになりました。
日本の検討体制
JTC 1傘下のSCおよびSC傘下のWG等への対応は、一般社団法人情報処理学会情報規格調査会(ITSCJ)等*1が担っています(5)。JTC 1直下のWG 11・JWG 1、WG 12、WG 13、WG 15へは、それぞれに対応する小委員会がITSCJに設置され、審議状況の共有および国際投票への対応等を行っています。JTC 1直下のAG・AHGのうち、NB(National Body:各国代表団体)*2に参加が求められている会議体への対応を包括的に行う目的で、「JTC 1サブグループ対応小委員会」がITSCJに設置されています。この小委員会では、AG等での審議状況の共有とAG等への対処方法の協議を行っています。SC 43(ブレイン・コンピュータ・インタフェース)へは、この小委員会にて対応しています。本年新設されたSC 44へは、プライバシーの標準化活動にかかるリソースを分散させない観点で、SC 27専門委員会の傘下に「SC 44サブグループ対応小委員会」を設置し対応しています。なお、ISO/IECの業務指針については、当該小委員会メンバ以外の国内企業・団体の関心が高いため、ITSCJの技術委員会の配下に、上記小委員会とは別に「ディレクティブズ小委員会」を設けて対応しています。
*1 SC 17、SC 28、およびSC 35傘下の各WGへは、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会が対応し、SC 25傘下のWG 3(商用構内配線)、SC 31傘下の各WG、およびSC 39へは、一般社団法人電子情報技術産業協会が対応しています。
*2 NB:ISOではMB(Member Body)と呼び、IECではNC(National Committee)と呼びます。ISO/IEC JTC 1は両組織に共通であるため、NBと呼びます。
今後の予定
今後のJTC 1総会は、2025年11月に成都(中国)、2026年5月にサンパウロ(ブラジル)にて開催される予定です。
■参考文献
(1) https://jtc1info.org/
(2) https://www.iso.org/home.html
(3) https://www.iec.ch/homepage
(4) https://www.ipsj.or.jp/50anv/50nenshi/data/pdf/000050.pdf
(5) https://itscj.ipsj.or.jp/