2025年9月号
特集1
多様なAIが連携した「AIコンステレーション®」
- AIコンステレーション®
- 大規模言語モデル
- 次世代AI
NTTでは、AI(人工知能)どうしが相互に議論・訂正を行うことで、人が要因推測すら困難な問題に対して、多様な視点から解を創出する大規模AI連携技術「AIコンステレーション®」を2023年度より提唱し、取り組みを進めています。本稿では、AIの技術トレンドなど同構想に至る背景や詳細、獲得すべき能力やユースケースの類型、および将来のIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想との関連について紹介します。
寺本 純司(てらもと じゅんじ)
NTTコンピュータ&データサイエンス研究所
はじめに
NTTコンピュータ&データサイエンス研究所では、人や社会に有用な価値を創出することをめざして、これまで規模的な問題や複雑さから扱うことが困難であったデータを処理可能にする、先端的なAI(人工知能)アルゴリズムに関する研究開発を推進しています。
本稿では、先端AI研究における1つのアプローチとして、2023年度より提唱し取り組みを進めている大規模AI連携技術「AIコンステレーション®」について、背景やビジョンを紹介します。
生成AIのトレンドとAIコンステレーション®
AI分野においては、2022年末に登場したChatGPT以降、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)*1の台頭が著しく、大量のオープンデータから汎用的な知識を獲得したモデルが開発されてきています。これにより、テキストの要約や画像・動画生成から、翻訳、資料作成支援、チャットボットなど、多様なユースケースがAIにより実現・高度化され、事業においても活用され始めています。
一方で、AIモデルの規模が肥大化するにつれ、学習や推論に求められる計算機の処理能力や消費電力も大幅に増大し、非常に高いコストを要することや、環境負荷が高いことが問題になってきています。具体的には、GPUの能力向上が年率で 69%であるのに対し、AIモデルのサイズは年率180%、計算コストは年率 555%で増えているという試算もあり(1)、持続的なAI事業を推進することが非常に困難となっています。また、汎用的な巨大モデルはさまざまな問題に一般化した回答を提供しますが、事業活動では他社との差別化が重要であることから、誰もがアクセスできるようになった汎用モデルに対して、個性・特徴を見出すことが困難になるという問題もあります。このため、「何でも知っている巨大なLLM」だけでなく、特定ドメインや組織の「専門知識を持ったリーズナブルなコストで利用できるLLM」の実現へと事業トレンドが移ってきており、これにより将来は「1つのLLMで問題解決」するのではなく、「複数のLLMを連携して問題解決」することが求められるようになると考えられます。
そこでNTTでは、専門性や個性を持ったリーズナブルなLLMなど、多様なAIモデルの集合知により問題解決を図る、「AIコンステレーション®」を提唱しています(図1)。金融・製造・医療など業界特化のAIモデル、および法律・倫理など専門特化のAIモデルを連携させ、相互に議論・訂正させることで、複雑な問題に対しそれぞれの視点から多様な価値観を創出することをめざしています。また、専門性や将来価値から重要さを互いに議論することで、たとえ現時点では少数意見であっても、それら少数意見を尊重することで全体の議論を高度化することをめざしています。このように、AIどうしが星座(コンステレーション)のように連携して解を創出する様子から、本構想を「AIコンステレーション®」と名付けました(図2)。
*1 LLM:大量のテキストデータから学習された言語モデル。
AIコンステレーション®の能力とユースケース
AIコンステレーション®は、多様な能力(ケイパビリティ)を持つことが期待されます。人間の活動における「創造性」と「個性」を軸として考えたとき、創造性・個性がいずれも高く要求されない定型的業務があり、そこに創造性が加わることで持続的イノベーションが実現され、さらに個性が加わることで破壊的イノベーションにつながると整理できます。今のLLMの適応範囲は、創造性や個性がそこまで要求されない定型的業務であり、人の作業をAIに置き換えることにより、業務効率化や自動化などコスト削減をねらった多様なユースケースへの適用が期待されています。それに対してAIコンステレーション®は、多様なAIによって「個性」を獲得しつつ、AIどうしの議論によって「創造性」を実現することが期待され、人の「置き換え」ではなく人の高度な知的作業・創造的業務の「支援」が可能になると考えています(図3)。
AIコンステレーション®のユースケース(ユーザの要求や利用目的を明確に定義したもの)は大きく2つの類型(図4)があると考えており、1つが「個人の創造性・個性の拡大」です。事業計画の立案や作業手順の策定など、何か物事を計画し決めるときは、未来や起き得る結果を予測・想像したうえでその逆算から検討を深めますが、AIコンステレーション®のように多様な視点から情報を提供することができれば、ユーザの視野拡大に貢献できると期待できます。もう1つは、コミュニティの知識や議論レベルが深まると期待される、「コミュニティの議論高度化」です。現実世界では、人どうしで会議などさまざまな議論が広く一般に行われていますが、「議論する時間への制約」「会議参加者間での情動的な摩擦や互いへの配慮」「議論内容に対するステークホルダ(関係者)の不在」「議論を尽くすための情報の不足」など、さまざまな理由によって互いにコンセンサスを得ることは困難です。AIコンステレーション®のようなAIどうしの議論が人どうしの議論に介在することで、「長時間の議論シミュレートによる、あり得たかもしれない議論の遂行」や「個人性を理解した客観的なAIによる冷静な議論の支援」「存在しないステークホルダ(将来世代の関係者など)の代弁」「世界モデルや外部知識の取り込み」など、多様な観点や知識を交えた意見交換を実現し、人どうしだけでは得られない議論の広がりや深みを得られるのではないかと期待されます。
AIコンステレーション®の研究課題
多様なAIモデルを相互に議論・訂正させることで、複雑な問題に解を見出すAIコンステレーション®の実現に向けて、図5のようにさまざまな研究課題に取り組みます。
■モデリング・エージェント連携
AIコンステレーション®では、議題に応じてそれぞれの立場でAIモデルどうしが互いに議論・訂正するため、それら議論するAIモデルの役割や個人性を適切かつ効率的にモデリングし、エンドユーザが容易に利用できる必要があります。
本テーマでは、さまざまなペルソナや一般的知識・ドメイン特化知識など、議題に応じて多様な外部知識を参照したり、あるいは議論で得られた知見を外部知識として蓄えたりする外部知識参照・獲得を実現することで、ペルソナ・個人性モデリングやその後の議論高度化に活かしていきます。また、このようなAIモデルが多数用意され、それらを議題に応じて組み合わせることから、自然言語に基づいたあいまいな要件によって、AIモデルを発見・連携するプロトコルを実現します。さらに、議論の結果を適切に取り扱うためには、単なる多数決ではなく、少数意見に配慮しつつ人と協調した合意形成の仕組みを実現していきます。
■AIモデル学習・運用の改善
AIコンステレーション®では、さまざまな用途に応じたAIモデルを多数用意して連携させる必要があるため、そのモデルサイズやモデル数が大規模化することが想定されます。このため、AIモデルの学習をはじめとした開発・運用コストの大幅な低減が求められます。
本テーマでは、NTTが提案する革新的な学習手法である学習転移*2(2)をはじめとして、異なるAIモデルを組み合わせるモデルマージ、連合学習を応用した高速・プライバシーに配慮した分散学習など、AI学習アルゴリズムの抜本的な改善に取り組みます。また、学習時と運用時の環境変化への適応など、多様なタスクや環境に対応した頑健な学習・推論アルゴリズムの実現を通じて、運用コストの大幅な低減にも取り組んでいきます。
*2 学習転移:過去の学習過程をAIモデル間で再利用する新たな仕組みとして、NTTが考案した学習手法。
■非メディアAI
AIコンステレーション®では、複雑な問題に対して多様な価値観から解を創出することをめざしていますが、LLMは自然言語やメディアデータを得意としている一方、非メディアデータとなる時系列データなど数値データの分析が苦手な傾向があり、実世界の問題をすべて取り扱うことはできません。また、LLMにはハルシネーション*3と呼ばれる事実に基づかない出力を行う性質があり、論理的に正しくない出力を行うことがあります。
本テーマでは、時系列データの分析高度化や外部知識を活用した論理的な推論の実現を通じて、多様な実データから得られた知見に基づくAIどうしの合理的・論理的な議論の提供に貢献します。
*3 ハルシネーション:AIが幻覚(Hallucination)のように事実に基づかない情報を出力すること。
今後の展開
これらAIアルゴリズムの研究開発を推進するとともに、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のネットワークおよびコンピューティング基盤を活用することで、AIコンステレーション®を社会基盤として提供することを考えています(図6)。IOWNの構成要素であるAPN(All-Photonics Network)(3)は、低消費電力・高速大容量・低遅延伝送の実現をめざして研究開発を推進していますが、これにより膨大なリアルデータを活用した多様かつ大規模なAIモデルどうしの知識共有が収容できると期待されます。また、APN上で実現されるDCI(Data Centric Infrastructure)(4)は、多様なプロセッサの活用や分散ストレージの実現をめざしており、大規模なAIモデルを適材適所に配置できると期待されます。APNとDCIを組み合わせたインフラにAIコンステレーション®を展開することにより、多様なAIモデルによるデータの地産地消とグローバルなAIどうしの知識交換を両立し、高い問題解決能力を提供できると考えています。
NTTでは、多様なAIモデルどうしが議論・訂正する「AIコンステレーション®」の実現を通じて、マーケティング分析や事業戦略策定、コミュニティのコンセンサス形成など、これまで人だけでは難しかった人の高度な知的作業や創造的業務を支援し、多様性と公平性が調和した社会実現に貢献していきます。
■参考文献
(1) P. Faraboschi, E. Giles, J. Hotard, K. Owczarek, and A. Wheeler: “Reducing the Barriers to Entry for Foundation Model Training,” arXiv preprint arXiv:2404.08811, 2024.
(2) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/05/07/240507b.html
(3) https://group.ntt/jp/group/iown/function/apn.html
(4) https://journal.ntt.co.jp/article/33807
寺本 純司

社会問題は複雑化・多様化しており、人間だけでは解決が困難になってきています。AIコンステレーション®の研究開発を推進することで、人と社会が調和した問題解決に貢献していきます。