グローバルスタンダード最前線
2027年ITU世界無線通信会議(WRC-27)に向けた最新動向
世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference)は、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)が主催する国際会議で、無線通信に関する国際的なルールである無線通信規則(RR:Radio Regulations)の改正を主たる目的としています。次回は2027年の開催予定ですが、すでに、ITU-R(ITU-Radiocommunication Sector)研究グループ、地域グループ、国、それぞれにおいて事前検討、合意形成に向けた議論が本格化しつつあります。RRの改正内容は国内の電波法令等にも反映されることから、携帯電話等の無線によるサービスを提供しているNTTグループにとって非常に重要な会議です。本稿では、WRC-27の主な議題、および検討状況について概説します。
加藤 康博(かとう やすひろ)†1/大槻 信也(おおつき しんや)†2
大野 峻宏(おおの たかひろ)†2/亀田 彩子(かめだ さいこ)†1
NTT技術企画部門†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†2
世界無線通信会議(WRC)および関連会合について
世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference)は通常4年ごとに開催され、各周波数帯における電波の利用方法、衛星軌道の利用方法、無線局の運用方法等の審議が行われます。決定事項は無線通信に関する国際的なルールである無線通信規則(RR:Radio Regulations)に反映されます。RRは国際法としての拘束力を持ち、各国の国内法に反映されるだけなく、将来の電波利用政策に対して極めて大きな影響を与えることから、各国政府機関に加えて、通信・放送事業者、装置ベンダ、電波天文等の研究機関等、電波分野にかかわるさまざまなステークホルダが参加します。
前回2023年にドバイにて開催されたWRC-23では、163カ国の加盟国から約3900人の参加があり、日本からも総務省、民間企業、関係団体等から約130名の代表団を構成し会議に臨みました。NTTグループからはNTTおよびNTTドコモが参加し、日本代表団として5G(第5世代移動通信システム)/6G(第6世代移動通信システム)用周波数として7025-7125MHzを特定する審議等で貢献しました(1) 。
WRC(World Radiocommunication Conference)では次回会合の議題も審議され、WRC-23にて次回WRC-27の議題が決定されています。それらの議題に対して次回WRCまで3~4年間かけて事前研究等、審議の準備を進めることになりますが、その作業を円滑に進めるため、WRC準備会合(CPM:Conference Preparatory Meeting)が設定されています。第1回はWRC直後に開催され、作業スケジュール、事前研究を行う各議題の責任ITU-R研究グループ等を決定し、第2回はWRCの約半年前に開催され、事前研究結果およびWRC審議の土台としてRRの見直しにかかわる選択肢を取りまとめた文書(CPMレポート)を完成させます。各国、各地域グループはそのCPMレポートを参照しつつ対応方針、提案内容を検討し、WRCにおいてはそれらの提案内容をベースに審議を行います。
現在は、第1回CPMで決定された所掌に従い、各ITU-R研究グループの作業部会(WP:Working Party)が検討を進めていますが、本稿の執筆時点(2025年12月)では、共用検討のための各無線業務・システムの技術運用パラメータの情報がそろい、その情報を基に共用検討(共用可能性の検討、共用可能な場合の条件の明確化)の研究が本格化している段階です。
そのITU-Rによる研究作業と並行して、世界6つの地域グループ単位で、合意形成を促進し、地域としての共同提案を作成することを目的とした準備会合が定期的に開催されます。日本はアジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia Pacific Telecommunity)に属しており、直近では2025年7月末に第2回のAPT WRC準備会合(APG-27:APT Preparatory Group)が開催されました。そこではAPT地域としての暫定的な見解を議論し、合意文書を取りまとめており、次回APG会合は2026年7月に札幌で開催する予定です。
国内においては、総務省がWRC関連機関連絡会を設置、運営しており、無線利用分野ごとにステークホルダとなる企業、業界団体の関係者が集まり、APG、WRC会合等に向け対応方針や寄与文書の審議を行っています。NTTからは、技術企画部門(電波室)とNTTアクセスサービスシステム研究所が参画しています(図1)。

WRC-27議題
WRC-23では地域グループ、各国等から30を超える提案文書が入力され、審議の結果、表に示す議題を定めています(2) 。近年の無線技術の進化・多様化や、陸海空から宇宙に至るまでさまざまな領域で新たな無線利用が広がっていることから、それらの動向を反映したものとなっています。各議題における周波数帯の多くはすでに稠密に利用されており、利害関係者も多いことから、共用対象とする無線業務や、具体的な周波数帯の選定等、議題の決定までに多くの審議時間が費やされています。
これらのWRC-27議題において、NTTグループ事業に関連する主な議題として下記が挙げられます。
(1)70/80GHz固定無線システムの保護(議題1.10)
71-76GHzおよび81-86GHz帯においても低軌道(LEO:Low Earth Orbit)衛星を用いた移動衛星サービスの導入が検討されていることを踏まえ、同帯域の固定・移動業務を保護するための検討を行う議題として設定されています。70/80GHz帯の固定無線システムは日本でもNTTグループ等でバックホール回線として利用していることから、確実に保護されるように対処する必要があります。
(2)6G/IOWNのミッドバンド利用(議題1.7)
携帯電話用周波数の拡大については、世界的に関心が高い状況が続いておりWRC-15以降毎回議題化されています。WRC-23では、5Gのさらなる発展、6Gの導入等を見据えてミッドバンド(7-15GHz)を中心に多くの提案がなされました。審議の結果として、7125-8400MHzおよび14.8-15.35GHz帯を対象とすることが合意され、日本において一部の帯域がすでに携帯電話用に利用されている4400-4800MHzも対象となっています。
(3)非静止衛星関連(議題1.5、1.13)
2020年代より、非静止衛星、特にスターリンクに代表されるLEO衛星コンステレーションによる通信サービスが世界的に普及しており、NTTグループもアマゾン社と2026年国内導入に向けて協業を進めています。一方、それらの非静止衛星サービスの未許可運用等が問題視されており、必要な規制措置の検討が議題となっています(議題1.5)。
また、国内では2025年4月よりLEO衛星とスマートフォン間の直接通信を行うサービスが開始されていますが、携帯電話用周波数にて、衛星とスマートフォンが直接通信する利用形態はRRでは想定されていません。そのため、日本、中国等の提案を元に議題化に向けた審議が行われました。審議の結果、694MHz-2.7GHzの携帯電話用周波数を対象に移動衛星業務への新規分配を議題とすることが合意され、隣国の無線業務を保護するための条件等について議論が行われます(議題1.13)。

主要議題の検討、議論状況
WRC-27議題に対するITU-R研究の締切は2026年10月に設定されており、執筆時点(2025年12月)においては、まだ研究途中の段階となります。ここでは、NTTグループ事業にかかわる主要議題について、ITU-R研究グループでの主な検討状況、APG会合での各国の議論状況について記載します。
(1)70/80GHz固定無線システムの保護(議題1.10)
本議題はITU-Rで主に固定無線の研究を所掌するSG5 WP 5Cが責任グループとして研究を進めています。今後の利用増加が見込まれる70/80GHz帯LEO衛星に対して、現在は送信電力を制限する規定がないため、固定無線システムを保護するための適切な制限値の検討が目的となります。
現在、必要となる衛星システムの技術情報を収集しつつ、作業文書の作成を進めています。2025年5月の会合では固定業務の短時間保護基準が合意され、2025年11月会合においても、適用する電波伝搬環境の選択、固定無線局のアンテナ仰角、アンテナ特性、考慮すべき衛星数、衛星地球局と固定無線局間の調整の必要性について検討が行われました。次回会合でも今回の議論に基づいて共用検討が行われる予定です。
APG27-2会合においては、まだITU-R研究が途中であることから、引き続きその研究を支持するという見解を合意し、ITU-R研究の動向を注視している状況です。なお、APGにて本議題の合意文書を取りまとめるドラフティンググループ議長は、NTTアクセスサービスシステム研究所 大槻信也氏が務めています(図2)。
(2)6G/IOWNのミッドバンド利用(議題1.7)
本議題はITU-Rで主に携帯電話の研究を所掌するSG5 WP 5D(議長:NTTドコモ 新博行氏)が責任グループとして研究を進めています。初期の検討作業として、携帯電話システムの周波数帯ごとの技術・運用特性の整理が行われ、現在は各周波数帯(4.4-4.8GHz、7.125-8.4GHz、14.8-15.35GHz)におけるほかの無線業務との共用可能性の検討が本格化しつつあります。いずれの帯域においても携帯利用を積極的に推進する立場と既存業務の保護を重視する立場に分かれており、それぞれの共用検討の結果を整理、比較検討する作業が継続されています。
APG27-2会合においては、日本、韓国等からは携帯電話利用に向けて積極的に検討する意見が入力されましたが、中国等から衛星等の既存業務保護を理由として反対の意見も挙げられ、引き続きITU-R研究を支持するという見解の合意にとどまりました。
7-8GHz帯については、ミッドバンドの中でも周波数が低く、隣接の6GHz帯と併せると広い帯域が割当可能となることから、ITU-R/APGと共に注目されており、国内でも国際動向も踏まえつつ検討が進められている状況です(図3)。
(3)非静止衛星関連(議題1.5、1.13)
議題1.5(非静止衛星の他国領域での未許可運用に関する規制措置の検討)については、主に固定衛星の研究を所掌するSG4 WP 4Aが責任グループとして研究を進めています。現状、規制のあり方に関する基本的な議論が継続されており、責任主管庁の特定方法や複数主管庁による責任分散の懸念等が課題として挙げられています。
APG-27会合では、未許可端末の停止の必要性については合意されましたが、実現方法として既存の枠組みで十分とする日本等と、運用停止の義務化を主張する国とで意見が分かれています。
議題1.13(衛星とスマートフォン間の直接通信)については、移動衛星の研究を所掌するWP 4Cが責任グループとして研究を進めています。初期検討として検討対象とする周波数帯域のリストが確定され、関係グループに通知されました。引き続き、移動衛星通信システムの機能や運用イメージ、技術的パラメータ、干渉管理、国境を越えた運用、認可問題などについてさらなる議論が必要とされています。携帯電話側のWP 5Dでも、衛星側からの干渉の定義や、他国領域の地上無線システムの保護方法について検討が行われています。
APG-27会合では、議題1.5と同様に未許可端末への対応や、複数システムからの干渉の計算方法等、多くの課題が指摘されており、引き続きITU-R研究を支持するという見解の合意にとどまりました(図4)。



今後の予定
NTTグループでは、WRC-27に向けて、ITU-Rやアジア・太平洋地域の関連会合、国内の関連会合等において引き続き積極的な貢献をしていく予定です。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/26201
(2) https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/inter/wrc/wrc27/kaitai.htm
