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2026年11月号

特集2

AIと人が共創する未来を支えるNTTの研究開発

AI時代に向けたグリーンソフトウェア技術

生成AIをはじめとするAI(人工知能)の急速な普及により、データセンタの電力需要とそれに伴う環境負荷への関心が高まっています。今後はハードウェアの省電力化だけでなく、その上で動くソフトウェアについても、開発から運用までの環境負荷を把握し、継続的に削減することが重要です。本稿では、ソフトウェアのCO2排出量を測るための算定ルール、その実践を支える計測・算定技術、開発前の排出量見積り技術、さらにAI利用そのものの環境負荷を可視化する技術と標準化の動向について紹介します。

岩塚 卓弥(いわつか たくや)
NTTコンピュータ&データサイエンス研究所

AIの普及で高まるグリーンソフトウェアの重要性

生成AIの利用が急速に広がり、ICTを支える電力の問題が改めて注目されています。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンタの電力消費量が2025年の約485TWhから2030年には約950TWhへとほぼ倍増し、その中でもAI(人工知能)を中心とするデータセンタの電力消費は約3倍に増えると予測しています(1)。
これまでICT分野の環境負荷低減では、低消費電力なプロセッサやサーバ、データセンタの冷却効率向上、再生可能エネルギーの活用など、ハードウェアや設備を中心とした対策が先行してきました。一方、実際にハードウェアをどの程度稼働させるかは、その上で動作するソフトウェアの設計や処理方式にも左右されます。同じハードウェアを利用しても、ソフトウェアによって消費電力は変わるため、ICT全体の環境負荷を低減するにはソフトウェア側からの取り組みも欠かせません。
本稿では、ソフトウェアの開発・運用に伴う環境負荷を把握し、その低減につなげていく考え方を「グリーンソフトウェア」、それを実現するための技術や仕組みを「グリーンソフトウェア技術」と呼びます。グリーンソフトウェア技術にはさまざまなアプローチがありますが、本稿では特に、環境負荷を測定・算定し、将来の排出量を見積もり、改善につなげるための基盤技術と、その土台となる算定ルールの整備を中心に紹介します。

グリーンソフトウェアに対するNTTの取り組み

環境負荷を減らすためには、まず現状を測れるようにする必要があります。しかしソフトウェアには、材料の重量や製造ラインへの投入量といった分かりやすい物量がありません。例えば、開発者が利用するPCの消費電力のうち、あるソフトウェアの開発に起因する部分はどこまでか、複数プロジェクトで共用するサーバやオフィスの空調による電力消費を、個々のソフトウェアにどのように割り当てるか、といった問題があります。そのため、ソフトウェアのライフサイクルを踏まえてCO2排出量の算定対象範囲を定めるとともに、共用する機器や設備の環境負荷を個々のソフトウェアへどのように按分*1するかを定義する必要がありました。
NTTでは、まず実際のソフトウェア開発を対象にCO2排出量の計測・算定の実証を行いました。そこで具体化した計測対象、測定方法、算定手順を、開発現場で実践するためのガイドラインとして整理するとともに、得られた知見を一般化し、異なるソフトウェアや企業の間でも共通に利用できる算定ルールへ反映しています。さらに、ガイドラインと算定ルールに沿った計測・算定を効率的に実践するためのツールも開発しています。

*1 按分:共用するサーバや設備などの環境負荷を、利用時間や利用量など一定の基準で個々の製品・サービスに割り当てること。

開発現場の実情に合わせた算定ルール整備・ガイドライン策定への貢献

ソフトウェア開発におけるCO2排出量の算定ルールは、開発工程や利用する機器・設備など、開発現場の実態を踏まえて策定する必要があります。そこでNTTでは、まず実際のソフトウェア開発を模したプロジェクトを立ち上げ、開発者の端末や開発サーバなどの消費電力を計測するとともに、工程、作業種別、使用機器、勤務時間などの開発活動に関するデータを取得しました。これらを突き合わせ、どの開発活動がどの機器の電力消費に対応するかという観点で整理することで、ソフトウェア開発に伴うCO2排出量の算定方法を具体化しました。さらに、この実証で得た知見を、実際の開発現場でも利用できるよう、計測対象や測定方法、算定手順をガイドラインとして整理しました。
ガイドラインは個々の開発現場で計測・算定を実践するための手順を示すものです。一方、その結果を異なるソフトウェアや企業の間でも共通の考え方で評価するためには、算定対象や排出量の割当方法を統一した、業界で共有できる算定ルールが必要です。そこで、実証やガイドライン整備を通じて得た知見を基に、NTTグループ内外の企業と連携し、経済産業省・環境省の「カーボンフットプリント ガイドライン」*2(2)に整合したソフトウェア製品の算定ルールを策定しました。2024年に策定したルールでは、ソフトウェア開発特有のプロセスや排出源を体系化するとともに、開発者が利用する機器・設備の電力消費を個々のソフトウェア製品へ紐付ける方法を定めました。これにより、機器の利用方法を改善するなど、開発現場の削減努力を算定結果へ反映できるようになります。
2026年には対象範囲をさらに拡大し、調達・開発だけでなく、運用、廃棄までを含めたソフトウェアのライフサイクル全体を対象とする算定ルールを策定しています。これにより、開発時だけでなく、ソフトウェアを利用し続ける間の環境負荷まで一貫して評価できる枠組みへと発展しています。
こうして整備された算定ルールは、実際の業務への適用も始まっています。NTTデータグループ、NTTデータ、リクルートが2026年に公表したシステムエンジニアリングサービス契約のカーボンフットプリント算定(3)では、この算定ルールに沿って、開発機器の消費電力、空調・照明、通信など実際の活動量を用いた積み上げ算定*3が実施されました。この事例では、同一の契約について、金額を基準とする従来方式による推計値と比べて算定値が約95%低くなりました。これは、実際の活動に基づいて排出量をとらえることで、金額を代理指標とする方法よりも業務の実態に即した算定につながることを示しています。

*2 カーボンフットプリント:製品やサービスのライフサイクルを通じて発生する温室効果ガス排出量を、CO2換算で表したもの。またはその手法。
*3 積み上げ算定:消費電力や設備利用など、個々の活動量を把握し、それぞれの排出量を積み上げて全体のCO2排出量を求める方法。

開発現場での計測からレポートまでを支えるツール

算定ルールやガイドラインを定めても、それだけで現場のCO2排出量を把握できるわけではありません。精緻な算定には、開発者の端末、サーバなどの消費電力に加え、どの工程で、どのような活動を、どの程度行ったのかという活動量のデータが必要です。これらをプロジェクトごとに人手で記録し、表計算ソフトなどを使って集計・算定するのでは、開発現場に大きな負担が生じます。
そこでNTTでは、ガイドラインや算定ルールの整備と並行して、算定に必要となるデータの収集からCO2排出量のレポート作成までを支援するツールを開発し、提供しています。
このツールでは、開発者が利用する端末の消費電力を取得するとともに、開発工程や作業内容など算定に必要な各種の活動データを収集します。それらをプロジェクト単位で集約し、定められた算定方法に従ってCO2排出量へ変換することで、開発活動による排出量やその内訳をレポートとして確認できます。
この仕組みの重要な点は、単に最終的なCO2排出量の数値を出すだけではなく、その値がどのような活動から発生したのかを追跡できることです。例えば、端末利用、開発環境の利用、各工程での活動などに分解して把握できれば、排出量の大きい部分を特定し、改善策を検討できます。さらに、改善後の開発を再び測定することで、「測定、分析、改善、再測定」という改善のサイクルを継続的に回すことも可能になります。このように、共通の「ものさし」となる算定ルール、その具体的な使い方を示すガイドライン、そして現場での実践を支えるツールを一体として整備することで、グリーンソフトウェア技術を日常のソフトウェア開発へ取り込むための環境が整いつつあります。

実績データを活かして開発前に排出量を見積もる

これまで述べてきた算定ルールやガイドライン、計測・算定ツールの整備によって、ソフトウェア開発に伴うCO2排出量を共通の考え方で把握し、その実績データを蓄積できるようになってきました。一方、環境負荷を考慮したソフトウェアを設計・調達するためには、開発が終わった後に排出量を把握するだけでは十分ではありません。開発を始める前に「この条件で開発すると、どの程度のCO2排出量になるのか」を予測し、複数の選択肢を比較できることが望まれます。
そこで重要になるのが、実測・算定によって蓄積した実績データを、開発前の見積もりにも活用することです。NTTでは、新たなプロジェクトの条件から、排出量の特性や傾向が類似する過去の開発実績を特定し、その実績を基にCO2排出量を見積もる技術を開発しました。どの過去案件を根拠として見積もったのかを示すことができるため、見積もりの再現性や説明性を高められるほか、実績データの蓄積に伴って精度を向上させていくことも期待できます。
将来、環境性能がシステム調達時の評価項目として一般化すれば、価格、納期、品質とともにCO2排出量を開発前に比較し、開発方式やアーキテクチャを選択することも考えられます。算定は環境負荷を「後から報告するための作業」から、「より良い設計を選択するための情報」へと位置付けが変わっていくことになります。

AI利用に伴う環境負荷と標準化の動き

今後のグリーンソフトウェアにおいて特に重要になるのがAI(人工知能)です。AIはデータセンタの電力需要を押し上げる一方、ソフトウェア開発でも要求分析、設計、コーディング、テスト、運用など幅広い場面で活用され始めています。このため、AIを利用することで開発を効率化するだけでなく、そのAIを利用するためにどの程度の資源を消費したのかも考える必要があります。
ソフトウェアの環境負荷を評価する国際的な仕組みも整備されつつあります。Green Software Foundationが策定したSoftware Carbon Intensity(SCI)(4)は、ソフトウェア利用時の電力消費量、電力の炭素強度*4、ハードウェア利用に伴う排出量などからソフトウェアの炭素排出強度を評価する指標で、2024年にISO/IEC 21031として国際規格化されました。
さらに現在はAIに対象を広げた「SCI for AI」の標準化も進んでいます。AIでは通常のアプリケーションとは異なり、データ準備やモデル学習、デプロイ、推論などを含めて環境負荷をとらえる必要があります。SCI for AI(5)は2026年に公開され、ISOへの提案に向けた活動が進められています。
AIの環境負荷については、トークン数や応答時間などからエネルギー消費を推定するさまざまな手法が提案されています。また、AIを支えるデータセンタでは冷却などに水も使用するため、評価対象を炭素排出だけでなく水利用まで広げようとする動きもあります。AI利用が拡大する中、こうした資源利用を測定可能にし、比較・改善できるようにすることが重要になります。

*4 炭素強度:電力などを一定量利用したときに、どの程度のCO2が排出されるかを示す値。発電方法などによって異なります。

「追加作業」ではなく開発・運用に組み込まれた技術へ

これまでのグリーンソフトウェア技術は、従来のソフトウェア開発・運用にCO2排出量の計測や算定という新しい作業を追加するところから始まりました。一方、生成AIの急速な普及により、グリーンソフトウェアが対象とする領域も広がっています。AIの学習や推論には大規模な計算資源が利用されるため、従来のソフトウェアに加えて、AI利用そのものについても、どの程度の資源を消費し、どのような環境負荷につながっているのかを把握し、効率化していくことが重要になります。
開発者が特別な作業をしなくても、開発ツールや実行基盤が利用した計算資源や電力を記録し、開発工程の情報と対応付けて環境負荷が算定される。生成AIを利用してコードや文書を生成した場合にも、その処理に利用された資源がトレース可能なかたちで記録される。そして、性能、品質、コストと同じように環境負荷を最適化の対象とする――そのように、グリーンソフトウェア技術が開発・運用環境の中へあらかじめ組み込まれることが理想です。
AIによる計算需要が増大する時代だからこそ、限られた計算資源や電力を効率良く利用することには大きな意味があります。それは環境負荷を低減するだけでなく、必要な計算資源やクラウド利用量を抑え、システムのコストを低減することにもつながります。
グリーンソフトウェア技術は、環境対策のためだけに付け加える特別な技術ではありません。これからのソフトウェアに求められる品質の1つとして、開発・運用の中に自然に組み込まれていくものです。AIをより広く、持続的に活用していくためにも、「何ができるか」だけでなく、「どれだけの資源でその価値を実現したか」を測り、継続的に改善できるグリーンソフトウェア技術の重要性は、今後さらに高まっていきます。

■参考文献
(1)https://iea.blob.core.windows.net/assets/dd7c2387-2f60-4b60-8c5f-6563b6aa1e4c/EnergyandAI.pdf
(2)https://www.env.go.jp/content/000124385.pdf
(3)https://leo-cd01.nttdata.com/global/ja/news/topics/2026/042400/
(4)ISO/IEC: ISO/IEC 21031:2024: “Information technology — Software Carbon Intensity (SCI) specification,” 2024.
(5)Green Software Foundation: “SCI for AI — Software Carbon Intensity for Artificial Intelligence,” Software Standards Working Group, 2026.

岩塚 卓弥

グリーンソフトウェア技術は、ルール整備や標準化と歩調を合わせ、実用段階に達しています。AI時代には、AIを単に便利に使うだけでなく、限られた資源で効率良く活用することが重要です。今後、その実現を支える技術へと発展させていきます。

NTT コンピュータ&データサイエンス研究所
革新的コンピューティングアーキテクチャ研究プロジェクト

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