2026年11月号
特集2
相手や対話の状況をふまえて応え方を変える対話AIの実現へ――高EQ対話知性技術
- 対話AI
- EQ
- AIパーソナライゼーション
近年、生成AIは単なる情報提供ツールの域にとどまらず、悩みの相談や思考の整理などを行う日常的なパートナーとしても活用され始めています。本稿では、その瞬間の発話の内容だけではなく、対話を取り巻く状況をふまえてAI(人工知能)が対話することで、AIへの親しみやすさ、AIからの思いやりを生み出す対話を実現するための高EQ対話知性技術について紹介します。
横山 怜汰(よこやま りょうた)/濱 健太(はま けんた)
松尾 和哉(まつお かずや)/大塚 淳史(おおつか あつし)
永徳 真一郎(えいとく しんいちろう)
NTT人間情報研究所
一問一答的なツールからパートナーとしてのAIへ
生成AIが社会に浸透するに伴い、AIエージェントは「ユーザの質問に対して答えを提供する」単なる情報提供ツールの域にとどまらず、ユーザの状況や背景を理解し、相談相手となったり思考の整理を手伝ったりしながら継続的にユーザを支援する「パートナー」としての活用も広がっています。このような活用では、単にその時々の発話内容に応答するだけでなく、それまでの対話の流れやユーザの背景、AI(人工知能)に求められている役割など、対話を取り巻く状況をふまえて対話を進めることが重要となります。
人間どうしの対話では、発せられた言葉だけでなく、それまでにどのようなやり取りをしてきたか、相手がどのような状況に置かれているかといったこともふまえながら、その場に応じた内容や伝え方を考えています。AIがユーザの「パートナー」となるためにも、その瞬間の発話内容だけをとらえるのではなく、それまでの対話、ユーザについて得られた背景情報などから対話を取り巻く状況をとらえ、それを発話内容や表現に反映することが重要だと考えています。そのため私たちは図1に示すように、こうした情報をふまえてその場に応じた発話を考えることで、ユーザにとって親しみやすく話しやすい対話につなげ、継続的に良好な関係を築くことをめざしています。このような状況を認識し、それに応じて自身の行動を調整する能力に関する1つの概念として、感情的知能指数(EQ:Emotional Intelligence Quotient*1)が提唱されています。
NTTでは、AIを「パートナー」として活用するために、「EQ」の観点に基づき対話の状況や文脈を考慮したAIの発話生成、また、それらの効果を高める背景情報の保持や発話表現の方式に関する高EQ対話知性技術の検討を進めています。
*1 EQ:IQ(知能指数)が認知的知能の高さを表すのに対して、感情的知能(EI:Emotional Intelligence)の高さを表す用語として一般に使われています。

高EQ対話知性技術とは
高EQ対話知性技術では、AIを単なる便利なツールではなく、日々の生活のパートナーとしてAIがより深い支援を行えることを目標にしています。ユーザの発話が入力されてからシステムの発話を生成するまでの処理の流れを図2に示します。
高EQ対話において重要なことは、まずユーザの発話から対話の状況をより深く理解することです。本技術では、ユーザの発話において必ずしも明示されない対話の目的やゴール、発言によって伝えようとしている直近のニーズといった対話状況を過去の対話履歴等をふまえて推測します。この推測した対話状況に加え、蓄積したユーザの情報とシステムプロンプトを併せて大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)に入力し発話を生成します。
システムプロンプトとはAIの性格やキャラクタ付けを定義したテキストですが、私たちはこのシステムプロンプトに高いEQを持たせた発話をさせるための発話方針を定義しています。これにより高EQ対話知性技術のAIはユーザにとって単なる有益な情報提供や極端な正論の押し付けではなく、対話を取り巻く状況を考慮した温かみのある高EQ発話を生成します。
そして、高EQ対話知性技術の基盤となるのがユーザ情報の蓄積です。対話ログ(あるいはユーザの行動履歴)から抽出したユーザ情報を私たちは「ナラティブ」と呼ばれる形式で保存しています。「ナラティブ」とは物語を意味しており、ユーザ自身を主人公とした物語の形式でユーザ情報を記録します。ナラティブ形式にすることで、ユーザの情報を無機質な記録の羅列ではなく、ユーザから得られた背景情報と、ユーザがどのように行動し、結果どうなったかといった一連の情報をユーザの内面を含めてまとめることができます。
最後に、EQやナラティブを考慮した発話内容をどう表現するかについて説明します。一般的な汎用LLMの生成する発話は非常に丁寧ですが、状況によってはやや冗長になってしまうという特徴があります。人間の場合、信頼しているパートナーどうしの対話では、互いの共通認識の下、既知の情報についてはあえて省略し相手が好ましいと感じる情報量に落とした発話をします。このような情報が省略された発話は、聞き手にとっては自身を「分かってくれている」と感じさせる発話であり、これにより相手との信頼関係を深めていきます。
私たちの高EQ対話知性技術においてもこの仕組みを導入し、発話を生成した後、ユーザ情報と照らし合わせてユーザとAIとの間で共通認識となっている不要な情報を削除した短い発話にすることでより親密度を高めた発話に変換しています。私たちはこれをハイコンテクスト対話と呼んでいます。
高EQ対話知性技術ではこれら①高EQ発話生成、②ナラティブ、③ハイコンテクスト対話といった要素技術を組み合わせることでユーザを深く理解したパートナーとしての対話を実現しています。

高EQ対話知性技術を構成する要素技術
■ユーザとの対話状況の推測を基により良い対話を実践する高EQ発話生成技術
EQがどのような要素や能力から構成されるのかについてはさまざまな研究議論がなされてきていますが(1)、私たちは高EQ対話を実現するAIをめざして、大きく分けて「推測」と「実践」の2つの側面で研究開発を行っています(図3)。「推測」の側面では、個々の発話の中で必ずしも明示されるわけではない、対話状況(対話を進めるうえで必要な状況)を推測することに取り組んでいます。
近年、人間間のコミュニケーションにおいて他者の状況を推測する能力を参考に、AIについても、他者との対話のゴールや直近の発話時点におけるニーズといった対話状況を推測する能力を測る研究も増加しています。しかし、その多くは英語圏の研究やユーザごとの違いを考慮しない汎用的な状況推測能力を測る研究で、日本語話者や個々のユーザに応じて推測を適応させることの可否は十分明らかにされていません。NTTでは、独自のデータ作成をとおして、ユーザ1人ひとりの物事のとらえ方の違いも加味した、AIによるユーザとの対話状況推測能力の評価方法および対話状況の推測方法について検討を進めています。
一方、十分に対話状況が推測できたとしてもそれだけでEQの高い対話になるとは限りません。例えば、問題解決に特化するよう訓練されたAIとの対話では、ユーザが「単に話に共感してほしい」という直近発話時点におけるニーズを推測できても、共感ではなく問題解決に向けたアドバイスを優先してしまうことが考えられます。
そこで、「実践」の側面では、EQの高さにかかわるさまざまな能力を複数の先行研究から整理し、それぞれの観点について、ユーザがAIの発話に対してどの程度EQが高いと感じるかをユーザ主観で評価することに取り組んでいます。そして、その評価を基準とし、AIによって推測された状況を加味してEQがより高くなるようにAIの発話方針を調整することで高EQ対話を実現するシステムの研究開発も進めています。

■事実と解釈を物語として記憶するナラティブ型ユーザ情報保持技術
AIが対話を取り巻く状況の推測能力を高めるには、長期的な対話を通じて相手の情報を蓄積・更新し、理解を深めることが重要です。従来の長期対話研究では、人物や出来事を記憶し、検索して応答に活用する方式が研究されてきました。しかし、相手をより深く理解するには、相手の発話に含まれる事実だけでなく、相手本人による出来事の解釈や意味付けまでとらえる必要があります。
NTTでは、事実と解釈を結び付けたナラティブ情報(2)に着目したユーザ情報保持技術の開発に取り組んでいます。AIはユーザから得た既知情報を物語として記述し、人物との関係や出来事の背景など、物語を充実させるために必要でありながら明らかになっていない情報を特定するよう話を進めます。そして、追加で得られた情報をナラティブに反映し対話を重ねることで、さらにユーザの理解を深めていきます(3)。
また、ナラティブを活用したAIの応答生成技術の開発にも取り組んでいます。例えば、「今度転職する」という発話でも、転職の理由が積極的な状況なのか、消極的な状況なのかによって、適した応答の方向性は異なります(図4)。そのため、対話から得た事実情報に対して、前述のAIにより推定した対話状況も参照しつつ、ユーザ本人の出来事に対する解釈や意味付けを結び付け、ユーザを主役とする物語として推定・更新しながら、発話生成に活用する方法を検討しています。

■ユーザにとって必要な情報だけを応答に載せて会話するハイコンテクスト対話技術
雑談のようなオープンドメイン対話*2では、LLMが生成する長く詳しい発話が、必ずしも自然で会話しやすいとは限りません(4)。一方、人間は、会話の目的に必要な情報を過不足なく伝えるとともに、相手に応じて表現や情報量を調整しています(5)(6)。また、同じ内容について話す場合でも、どの情報を必要と考えるか、どの程度詳しく伝えるかには個人差が存在する可能性があります。
例えば図5に示すように、ユーザAとBは置かれている状況が似ていますが、ユーザAは自分の背景に基づく共感や提案を含んだ発話を好むのに対し、ユーザBは非常にシンプルな発話を好む、といったことが起こり得ます。NTTでは、LLMで合成した対話データの各発話に対して、複数の作業者が各個人の判断基準で不要な部分を添削したデータセットを構築し、このデータセットの分析をとおして、好みの発話量の個人差の有無を明らかにしました(7)。
現在は、この知見を基に、ユーザとの継続的な会話およびナラティブからそのユーザが「不要」と感じる情報をとらえ、発話の情報量をユーザごとに調整可能な対話システムの研究開発を進めています。
*2 オープンドメイン対話:特定の用途や領域に限定されることのない会話。

今後の展望
AIを「パートナー」として人とのより良い関係や相乗効果を生み出すための高EQ対話知性技術の取り組み、その技術群として、①対話状況をふまえてより良い対話を実践する高EQ発話生成技術、②個人ごとの背景情報等をAIが整理・保持するためのナラティブ型ユーザ情報保持技術、③話し相手が好む情報量に調整した会話表現を行うハイコンテクスト対話技術、について紹介しました。
今後はこれらの技術を実際の利用環境に適用し、AIがパートナーとして人と長期的な関係を築くことの効果や課題を検証していきます。また、人間がAIに過度に依存したり、AIが人を過度にコントロールしたりすることなく、人とAIが互いに価値を生み出せる関係を実現するための研究開発を進めていきます。
こうした実証評価や研究開発を通じて技術を高度化するとともに、社会実装に向けた取り組みを進め、AIが人の生活や活動をより豊かにする社会の実現につなげていきます。
■参考文献
(1)J. D. Mayer and P. Salovey: “What is emotional intelligence?,” Emotional development and emotional intelligence: Educational implications, pp. 3–34, 1997.
(2)N. Bouizegarene, M. J. D. Ramstead, A. Constant, K. J. Friston, and L. J. Kirmayer: “Narrative as active inference: an integrative account of cognitive and social functions in adaptation,” Frontiers in Psychology, Vol. 15, 1345480, 2024.
(3)濱・大塚・松尾・永徳・野本:“オープンドメイン対話における物語注釈を用いた動的質問項目生成,”2026年度人工知能学会全国大会(第40回),2026.
(4)K. Samanta, F. T. Shohan, A. Trabelsi, and R. Khoury: “Simple Agents, Biased Judges: Efficient Multi-Party Dialogue Generation & The Evaluation Gap,” Proc. of the 64th Annual Meeting of the Association for Computational Linguistics, pp.43326-43345, 2026.
(5)P. Grice: “Logic and conversation,” Speech acts, pp.41-58, 1975.
(6)S. E. Brennan and H. H. Clark: “Conceptual pacts and lexical choice in conversation,” Journal of experimental psychology: Learning, memory, and cognition, Vol.22, No.6, pp.1482-1493, 1996.
(7)松尾・大塚・永徳・杉山・野本:“発話量の個人最適化が可能な対話システムの実現に向けた検討,”マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム(DICOMO),2026.

(上段左から)横山 怜汰/濱 健太/松尾 和哉
(下段左から)大塚 淳史/永徳 真一郎

人とAIが協調してより豊かな未来を実現するために、私たちはAIが人の真のパートナーとなり、人の可能性を広げていくために必要な技術の研究開発や社会実装を進めていきます。