NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

Focus on the News

車いす利用者への道案内に必要なバリアフリー情報を市民参加により自動的・持続的に収集する技術 MaPiece®(まっぴーす)を開発 ――「ダイバシティ・ナビゲーション」の実現に向けた研究開発の推進

NTTでは、少子高齢化や訪日外国人の増加などが進展する社会に向けて、車いすやベビーカーで移動される方や高齢者、訪日外国人などの身近な移動を安心・便利にサポートする「ダイバシティ・ナビゲーション」をコンセプトとした研究開発を推進しています。
今回、オリンピック・パラリンピック等経済界協議会の活動(国土交通大臣賞受賞)に使用されている、車いすやベビーカーで移動される方などへの道案内(ナビゲーション)に必要なバリアフリー情報の収集技術「MaPiece®(まっぴーす)」に、新しく市民参加により収集する2つの技術「歩いてMaPiece」と「みんなでMaPiece」が加わりました。

開発した技術の概要

さまざまな人の移動のサポートに向けて、広範囲のバリアフリー情報を効率的に収集できることが必要です。そこで、NTT研究所が培ってきた機械学習や統計処理のノウハウを活かし、市民参加で情報収集する技術として、歩行者が携帯したり、ベビーカーに取り付けたりしたスマートフォンを活用して車いすなどが通れるルートを自動検出するクラウドセンシング技術「歩いてMaPiece」と、市民の投稿から正しいバリアフリー情報を抽出し、日常的にバリアフリー情報を収集・更新する技術「みんなでMaPiece」の2つの技術を開発しました(図)。
(1) 通れるルートを自動検出するクラウドセンシング技術「歩いてMaPiece」
歩行者が携帯したり、ベビーカーに取り付けたりしたスマートフォンを活用して車いすなどが通れるルートを自動検出するクラウドセンシング技術です。本技術では、利用者がツール等に情報を入力する必要がなく、各自のスマートフォンにアプリをインストールし所持して歩くだけで、路面情報の収集に協力できます。多くの協力者からのスマートフォンのセンサ情報がサーバに送られ、サーバで分析することにより自動で路面の状態を検出することが可能になります。
(2) 市民の投稿から正しいバリアフリー情報を抽出し、日常的にバリアフリー情報を収集・更新する技術「みんなでMaPiece」
普段の移動の際に、スマートフォン上のアプリで周辺のバリアフリー情報を確認でき、さらに、地図に投稿されていない段差や階段、トイレなどの情報を自ら投稿することで、より便利な地図をみんなで創るための技術です。
従来の調査によるバリアフリー情報収集に加え、市民が日常の中で利用しながら情報を追加・更新することで、これまでの更新のコストを大幅に減らし、情報の鮮度を維持することが可能です。さらに、投稿された情報を利用者どうしで評価する機能や、投稿された情報の信頼度判定技術を加えることで、管理者の情報チェックの労力を軽減しつつ、信頼性を確保した更新を行うことが可能となっています。
国土交通省では、ユニバーサル社会の構築に向けて、例えば、車いすの方が通行できる段差等のバリアのないルートを、スマートフォンを通じてナビゲーションする等、ICTを活用した歩行者移動支援サービスの普及のための取り組みが進められており、その中で「多様な主体の参画による新たなバリアフリーデータの収集・活用による既存サービスの高度化」の検討を目的として、2018年12月に千代田区協力のもと千代田区御茶ノ水周辺にて実証実験が行われ、本技術が活用されました。

図 新しく開発した「歩いてMaPiece」「みんなでMaPiece」の位置付け

問い合わせ先

NTT広報室
TEL 03-5205-5550
URL https://www.ntt.co.jp/news2018/1811/181122b.html

研究者紹介
歩くだけでバリアフリー情報を収集できる「歩いてMaPiece」
蔵内 雄貴

NTTサービスエボリューション研究所
研究主任

車椅子を使う方が通れる段差の大きさは、2cm以下とされています。健康な方であれば気付きもしない小さな段差で通れなくなってしまう、それが車椅子を使う方の現状です。時には頻繁に移動を妨げられる状況が、外出を減らす要因になってしまうこともあるそうです。今後ますます日本の高齢化が進んでいく中、これはとても大きな課題だと考えています。このような方たちに通れる道をご案内しようとすると、どこにどんなバリアがあるかを前もって集めておく必要があります。
しかし、2cmの段差などの詳細なバリアを見つけるのは実はとても大変です。もちろん地図には載っていませんし、測量しようにもコストがかかります。さらに、歩道の工事によってバリアに変化があるなど、常に最新に保つ必要もあります。そこでNTTサービスエボリューション研究所では、より広い範囲をより新しい情報で保っておくために、歩くだけでバリアフリー情報を収集できる仕組みを研究しています。人それぞれの歩き方の違いやスマートフォンを入れる場所の違いによらずに正しく判定するには? ベビーカーで判定するには? など、技術的にも奥深く、価値のある課題です。
通れる道が分からないのは高齢の方だけの問題ではありません。例えば、ベビーカーを使う方も同じ問題をかかえています。今後もバリアフリー情報を集める技術を磨くほか、さまざまな地図情報を集める技術を磨くことで、どんな方でもどんな場所でも行き方が分かり、皆が心から外出を楽しめる、そんな世界をめざして研究を進めています。